サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

文字の大きさ
26 / 95
第1章 はじまりの街 編

024 情報交換 <04/03(水)AM 11:58>

しおりを挟む


 はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、2度目の『山ゾック(斧)』LV6 との戦闘を終え、少し会話をしていた。
 〈通常状態〉でHP/MPが微回復するTJOにおいては、こういった時間は”戦闘で消費したMP”を回復させるのに効果的であるので、戦闘後はその場でしばし留まる事がある。

 ちなみに以前に話した様に、『フィールドPOP宝箱』は「プレイヤーの周囲100m範囲にはPOP(出現)しない」という条件なのだが、『モンスター』は「プレイヤーの周囲20m範囲にはPOPしない」という条件である。
 この『20m範囲』とは、簡単に言ってしまえば、TJOゲーム時代の『おおよそゲーム画面の範囲』である。ようするに、ゲーム画面内に突然モンスターがわき出してくると不自然であり、また戦闘中に突然わき出して乱入される…という事になると事故死が多発してしまう。
 以上の理由により、画面内(20m範囲)で『モンスターがPOPしない』様になっているので、周囲のモンスター討伐後などは、≪比較的安全に≫回復、アイテム分配、休憩などが行えるのである。
 つまり『フィールドPOP宝箱』は、ゲーム時代の感覚で言うと、≪約5画面分≫移動すればPOPしている可能性がある…という事だ。現在ではリアルな感じになってしまい、遠方まで見る事が可能となったので、その内20m向こうで『モンスターがPOPする瞬間』を目撃したりするようになるのだろう。リアルなんだか何なんだか…


「そろそろお昼ですし、このまま休憩がてら、少しお話しませんか?」
「あ、そうですね」
「あ~お昼だね~」
「……」
 俺の提案に特に反対は無いようだ。そしてシノブさんはミケネコしか見えていない。

「みなさん何か食料は?」
「ん~? 別にお腹すいたりしないし~、買うの≪もったいない≫じゃん。そりゃ料理人が作ったのなら? しばらくパワーアップするけど~」
「私も特に買ってないですね」
「……ない」

 「………」うん、まぁそうなんだよな。やはり「しあわせになる」だけなのだろう。しかし俺は、どうにも不安がぬぐいきれない。「ゲーム時代の感覚でいると足元をすくわれる」…そんな≪強迫観念めいたもの≫が頭から離れない。

 俺はその場に座りインベントリから『干し肉』を4切れ取り出すと、3人に1切れずつ渡す。

「俺1人で食べるのもアレなので、どうぞ」
「え、あの」
「ん~? なに~?」
「……」
「『鉄の斧』いただいちゃったので、お釣りという事で…」

「…はい、じゃぁ」
「まぁ? そんじゃあ」
「……ん」
 3人も受け取った後で、座って干し肉を食べはじめた。それを見てミケネコは、あぐらをかいた俺の足の上に乗って丸くなる。干し肉をかじりながらサラーッと背中を撫でる。

「それで話というのはですね、その事もあるんですよ。昨日は朝、昼としっかり食べて、夕方に干し肉1切れ食べて、それで晩は『特に食べないで寝た』のですが…朝起きても『お腹は空いて無かった』んですよね」

「えぇ、お腹とか空きませんよね」
「まぁゲームだからじゃな~い?」
「……べんり」

「でも疲労感? というか朝起きた時に、かなり≪しんどかった≫んですよね」

「……言われてみれば、朝起きた時かなり…つらかった様な」
「え~、ユウちゃんも~?」
「……つらかった」
「マドちゃん達も…だったんだ」
「でも、何かしらないけど、≪無理が出来て≫しまいませんか?」
「……」「……」「……」

「それで、そういう食欲とか生理的な現象? とかって、鈍感になってるだけで、身体にはダメージが残ってて、蓄積されてる様な気がしたので、食事も水分も意識して、しっかり取ろうかと思ってるんですよ」
「あ~そう言えば~? 洞窟に入る前も~水? 飲んでたね~」
「飲んでましたね」
「えぇ…まぁ慣れない世界? で、気疲れとかかもしれない…とも考えたのですが、ここ一番で注意力が散漫になったり、身体がいう事を効かなくなったら困るので」
 時折ミケネコの背中をサラ~っと撫でる。ミケネコは丸くなったまま、完全に目を閉じてくつろいでいる。

「……とまぁ、それは一旦置いておいて、こちらが話したい事の本題なのですが。どなたか復活された人をご存知無いですか?」
「『復活』ですか?」
「クリスタル前に~? 降ってきた人って事~?」
「えぇ、確実に「復活した」と断言できる人です」

「えっと、まだ見てないですね」
「ん~、誰も見てないかな~」
「……しらない」

「実は私も『ブラックネーム』の人を見かけたので、急いで戻って『クリスタル前』をずっと見ていたんですが、15分過ぎても復活しなかったんですよ」
「……」
「え~? でも~」
「もちろん、『戻っている間にすでに復活して、どこかに行った後だった』とか、『実は次の街のクリスタルに触っていたから、向こうのクリスタル前で復活した』…という可能性もあるのですが、それから彼等が街を歩いていたり、誰でもいいからクリスタル前に、降ってくるのを見かけたり、…という事が無いんですよね」
「……」「……」「……」
「まぁそれで嫌な感じがしたので、『VITに全振りした』…と、そういう事なのですが」

「復活……出来ないかもしれないって事ですよね?」
「えぇ」
「…それじゃ……」
「……マドちゃん」
 ツカサさんは先ほどの事を思い出したのか、心無しか顔色が悪くなった様に見えた。

「いえもちろん、≪たまたま見かけて無いだけ≫かもしれません。ただ「この世界でも復活できる」…という確たる証拠が得られない内は、色々と慎重になった方が良いかもしれないなぁ、…と」
「そうですね」
「そ、だね……」
「……うん」

「これからは三食は、ちゃんと食べよっか?」
「ん、そ~だねぇ」
「……たべる」
 俺は『干し肉』を先に食べ終わってしまったので、『インベントリ』から『バリ好きー』を取り出し、袋から掌に小盛り分取り出して、ミケネコの前に差し出した。
 ミケネコが袋のガサガサという音に反応して、耳をピクピクさせながら目を開ける。

「ほら、ミケネコも食べておけ」
「やった♪」
 カリカリポリポリ、カリカリポリポリ……ミケネコが『バリ好きー』を噛み砕いていく。
 食べている間は背中を撫でるのをやめる。落ち着いて食事をさせてやるべきだろう。”しあわせ” になっている最中だしな。

「それで『復活した人』を見つけたら、見かけた時にでも教えてもらえると助かります」
「はい、そちらでも見かけたらお願いします」
「えぇ」

「え~それで……≪それらを踏まえて≫、2層の事です」
「あっ、『山ゾック(銃)』ですか?」
「あ~、山ゾック(銃)だね~ ヤバいかな~?」
「……」
 シノブさんは、ミケネコがバリ好きーを”しあわせ”そうに噛み砕く姿をじっと見ている。

 「………」『山ゾック(銃)』LV7、[山の洞窟]2層を、通常は『単体』で見回りしている。
 かつて銃を使っていた『斥候』のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだ…という設定で、何故か『山ゾック(斧)』LV6と同様に『緑の一つ目模様の兜』を着用している。

 名前と由来の通り、ハンドガンを使って攻撃をしてくるのだが、その射程は5m程度と、それほど飛距離は無い。しかし直撃すると かなりの威力で、『壁役』などは耐えられるが、低LV者や防御力、HPの低い者などは≪簡単に即死≫してしまう。
 その代わり本来は威嚇いかく用なのか、銃の品質が良くないので、勝手に暴発をおこして自滅する事も多い。TJOにおける銃の威力とその欠点、デメリットを教えるために、存在している…とも言われている。
 デスペナルティがあるとはいえ、いくらでも復活出来るゲーム時代であれば、殺される確率は高いが、この近辺ではLVが高い割に、頻繁に勝手に暴発をおこして自滅してくれる…という≪良いカモ≫でもあったのだが…(実際にゲーム時代は、デスペナルティ対策で所持金をほぼ持たずに、2層に特攻してドロップや宝箱を狙うプレイヤーは多かった)


「ん~、やめといた方がいっかな~ アタシとシノちゃんは即死じゃないかなぁ」
「うん。復活できるか? わからないなら…『山ゾック(銃)』は危ないよね」
「……安全第一」
「ですよねぇ」

 「………」まぁこれで「いやぁ大丈夫だって~、行こ行こ」などと言われたら、俺は「(居ない)フレに呼ばれた(気がした)ので~」と言うつもりだった。
 食らえば物凄いダメージ、しかしたまに勝手に自滅する。経験値もドロップも良い。(自爆前に与えたダメージ分しか経験値にならないが、FAボーナスは入るし、LVが高いので、それでも美味しい)博打ばくちも博打。それが『山ゾック(銃)』LV7というモンスターだった。

 ちなみに2層の奥の部屋には、このスパデズ[山の洞窟]の≪ボス格≫である『ドス山ゾック』LV9… というモンスターが居て、常に『山ゾック(銃)』を2体従えている。
 かつてナイフを使っていた『ナイフ使い』のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだ…という設定で、当然?他の『山ゾック』と同じで、何故か『緑の一つ目模様の兜』を着用している。
 元ナイフ使いだからか、ドス(短刀)を使うため『ドス山ゾック』と呼ばれる。某怪物狩猟のボス格モンスターとは関係無い。良い子は、「あ~これ亜種の、『海ゾック』出てくるわ~。『ドス海ゾック』出てくるわ~」とか言わない(※出てきます)


「それじゃどうしよっか? この通路の先を調べてから、最初の罠があった右の通路も行ってみる?」
「ん~、そんなとこかな~ 1層全部まわって~それで終わり…でいいんじゃな~い?」
「……うん」
「いいと思います」
 そっと視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 00:12>と表示されていた。


-------------------------------------------------------------------------
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧


「今更だが、やっぱりミケネコは『猫』…なんだなぁ」
「ねこだよ~?」
「最初は『空気読んでる』のかと思ったが、≪借りてきた猫≫って感じだ」
「ご主人さまに ≪かって≫もらった~」
「猫は元来、臆病で人見知りだもんな。いきなり『知らない人間』達と、『妙な洞窟』に来ちゃったからなぁ」
「ん~、こしょこしょ~」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...