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第1章 はじまりの街 編

027 [山の洞窟]1層探索終了 <04/03(水)PM 01:46>

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 はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン[山の洞窟]1層で、最初に罠が発見されたため、後回しにしていた『右ルート』の探索に取りかかった俺達は、木製のドアのある部屋の前に辿り着いた。
 広間の時とは違い、中の様子が全くわからないため、『ユウコさんが〈通常状態〉のままドアを蹴り開けて、中の敵が勝てそうに無いなら逃げ出しちゃえ』作戦をたて、ユウコさんが勢い良くドアを蹴り開けたのだったが……


 ドアを蹴り開けた後、気が抜けた様なユウコさんの後ろから、みんなで部屋の中を覗くと、そこには『ヒキ蝙蝠コウモリ』が3体、地上で ぼ~っとしていて、2体が天井にぶら下がっていた。

「あ、あははは…… まぁ? 最初の洞窟の~? 1層だし~?」
「そ、そうだよね…」
「えぇ…そうですよね」
「……」
「ご主人さま~?」
 緊迫した状態だった俺達の、気の抜けた様な変化にミケネコが首を傾げている。少しアゴの下をコショコショしてやる。

「あぁ、この部屋は≪俺達が思ったほど≫危なくなかったようだ」
 しかしこれも結果論だろう。『ヒキ蝙蝠』LV4が5体いたという事は、『山ゾック(斧)』LV6が5体いた可能性だってあるはずなのだ……あるはずだっ! 恥ずかしくないっ。

「えっと、あそこに宝箱がありますけど、…とりあえずヒキ蝙蝠から倒しましょうか」
 ユウコさんが指差した部屋の奥の方を見ると、確かに『宝箱』が見えた。

「ん~、そうだね~爆発したりして? 巻き込んだヒキ蝙蝠達に~襲われるかもだし~」
「……とどめさす」
「そうですね。安全を確保してから、でいいと思います。」
 広間の時は右隅のピットの向こうで、3体とも離れた天井にぶら下がっていたので、最初は無視していたのだが、今回は宝箱に近すぎる。
 それに現在、「ユウコさんがFA〔※1〕取った後、再度攻撃してから、シノブさんがFB〔※1〕を取る」…という『1層一掃作戦(改)』の作戦中で、『ヒキ蝙蝠』の『激レア』ドロップである『BADもーびる』を狙っている最中でもある。

「それじゃ、あっちの端っこの、ヒキ蝙蝠から倒していくよ」
 ユウコさんが右端の方で少し離れて、1体だけでぼ~っと立っているヒキ蝙蝠を指差した。
「おっけ~」
「・・・ぜんぶとどめさす」
「了解です」





 そんなわけで、『1層一掃作戦(改)』により、≪何の危なげも無く≫部屋内の『ヒキ蝙蝠』達の討伐は行われた。シノブさんによって5体にトドメがさされ、部屋には俺達と宝箱だけとなった。
 ちなみにドロップは…「さすがマズいモンスター」とだけ言っておこう。ツカサさんは、また「あははは……」と笑いながら、それらをササッと収納していた。

「シノちゃん、お願いね」
「……うん」

「……分析:罠[トラップアナライズ]」
 シノブさんが宝箱の前に行き、術を使用すると宝箱の上面部から下底部に向けて、『光る板状のモノ』がス~っと降りていく。ミケネコさんはその様子を尊敬の眼差しで見ている。すっかり斥候のシノブさんのファンのようだ。

「……罠は仕込み刃。罠LVは…19」
 罠LV19? シノブさんは『みならい斥候』LV6だ。仮に全てDEXに振っていたとしてDEX5、職ボーナス、職補正がかかっておそらくDEX7、8になる。『罠LV19』…という事は半減して9。全てDEXに振っていたとしても、かなり微妙なところだ。

「え? …19!?」
「ヤバくな~い? シノちゃんLV6だしね~」
「ん~ちょっと高いですよね」
「えっと、仕込み刃って、どんなんだっけ?」
「確か『仕込み刃』は……『単体への切断属性攻撃』で、識別せずに、開けるか解除失敗すると、開いた隙間から 高速でなぎ払われる刃によって、『不意打ち補正でクリティカルヒット』する……でしたか?」
 ようするに、『居合いの達人』…の様なトラップなのである。

 「………」単体切断で≪一見たいした事の無い罠≫のように思えるが、仮に『識別していない場合』は『罠LVが半減されていない』ので、何もせず開けたりすると、『LV19のクリティカル攻撃を食らう』のだ。ユウコさんでも耐えられないだろう。
 つまり解除するとなると、≪罠LVを半減させているシノブさん≫のDEX次第なのであるが、「多めに振っているのだろう」…とは思うが、俺は正確な振り分けを知らないので意見が出せない。

「ん~、これ諦めよっか~ ヤバそうだよ~?」
「そうだね。こんな事でシノちゃん死んじゃったら嫌だよ」
「……むずかしそう」
「そうですね。中身は期待できそうですが、しょせんは最初の洞窟ですしね」
 みんなの意見が一致した。TJOは挑戦チャレンジを求めている。だが無謀は求めていないのだ。そこをはき違えてはならない。自分の実力とリスクとリターンを照らし合わせ、「出来ない事は出来ない、無理そうな物は無理」…それでいいのだ。


「……よし、この宝箱は諦めましょう」
「さんせ~」
「……むねん」
「安全第一ですね」
 まぁ「安全策をとって2層を諦めた」…のに、こんな所で死亡しては『本末転倒』である。

「ご主人さま~、たからばこあけないの?」
 ミケネコが首を傾げて俺を見上げながら質問してきた。

「あぁ、ものすごく≪危ない宝箱≫なんだ」
「せっこうのしのぶさんでも、あけられないの?」
「それが『ダンジョン宝箱』って奴なんだ」
「だんじょんたからばこ、あぶない~」
「そうだなぁ」
 納得した様なミケネコの背中を数回サラ~っと撫でる。


 さて、こうして部屋の中の事が落ち着いた所で、オートマッピング(自動で通過した所のMAPを作成してくれる)によるMAPを確認したところ、どうやら「この部屋を囲むように丸く通路がある」…様だ。
 丁度『時計の6時』の辺りから、杖の倒れた『左に曲がって』回ってきて、『ドアがあったのが10時』の辺りで、この『部屋の中は時計の中心』…みたいな感じだ。

「このまま進んで行くと、最初の分かれ道まで続いてそうですね」
「そうだね~ やっぱどっちから行っても同じだったっぽい?」
「まぁ多分あまり複雑じゃ無いですよね」
「……」
 シノブさんは宝箱を諦めたので、少し落ち込んでいる様だ。

「シノちゃん、気にしな~い」
「そうだよ、無理しても良い事無いよ」
「罠LVが高くても、絶対に『良い物』とも限りませんしね」
 罠LVなどは、しょせんは≪ある程度の目安≫に過ぎない。まぁおそらく『鋼シリーズ』の何か…だったのだろうとは思うが、それとて序盤の≪ちょっと良いアイテム≫に過ぎないのだ。復活出来るのか? わからない現状で、命を賭けるほどでは無い。
 そうしてシノブさんを励ましつつ、俺達は『宝箱を放置』して部屋を後にした。


 部屋から出ると、またユウコさんを先頭に右に緩やかに曲がる通路を進んで行く。丁度12時のあたりと、1時と2時の間ぐらいで『山ゾック(斧)』に1体ずつ遭遇し倒した。かなり慣れてきたため、1体ずつだともう何の問題も無い感じだ。なお俺は(略

「ん~? あれ、左に通路~?」
 ツカサさんが指差した方を見ると、ぐる~っと円の様にまわって来て、3時の辺りで左に通路が分かれている。MAPを見る限りこのまま進むと、杖を倒した場所につながるだろう。

「とりあえず先の様子を見てくるよ」
 ユウコさんが1人で左の壁沿いに静かに左の通路に近寄っていき、そっと様子をうかがう。するとユウコさんが手招きしたので、俺達も近寄って先を伺う。

「え~、また~?」
「またですね」
「ん~、とりあえずシノちゃんに罠を調べてもらおっか」
「……うん」
 俺達は通路の先に、また木製のドアがあるのを見て、うんざりといった声を上げる。先ほど≪肩すかし≫を食らったので、一層そういう雰囲気になってしまう。しかし、だからといって警戒をしない訳にもいかないので、先ほどと同様に最善を尽くす。

「あ……罠はある」
 スキルを使おうと、静かにドアに近寄ろうとしていたシノブさんが声を発した。どうやらスキルを使用する前に、パッシブ常時発動スキルの、警報:罠[トラップアラート]が、半径5m範囲の罠の存在を察知したようだ。ドアの前に近寄ってから、シノブさんはあらためてスキルを使用する。

「……探知:罠[トラップディテクション]」
 スキルを使用して調べた後シノブさんが戻ってきた。

「……ドアの後ろに『爆発物LV16』がある。…外からは解除できない」
「ね~、やらしすぎない~?」
「そうですよねぇ…」
「さっきと同じ事は出来ないねぇ」
 先ほどの様に不用意にドアを蹴り飛ばせば、後ろの『爆発物LV16』にヒットして大爆発であろう。かと言って『罠LVを半減させたシノブさん』が開けて、中に『山ゾック(斧)』LV6が何体か居れば、仮ヘイトを集めてしまって大変な事になる。
 爆発物もLV16とやはり高めで、ゆっくりドアをあけても、戦闘になってしまって誤爆したりすると、それなりの範囲に かなりの威力の爆風での影響がありそうだ。

「ん~…… なんか ぱっとしないけど、ここまでにしちゃおっか?」
「そうだね~。そんな無理するほどのダンジョンじゃないし~」
「……うん」
「いいと思います」
 ほんと「無理するほどのダンジョンじゃない」…この一言に尽きるだろう。
 『鋼シリーズ』の何百倍も価値があるアイテムなど、今後いくらでも出てくるのだ。
(入手できるかは置いといて)

「それじゃ、戻って元の通路をそのまま進んで脱出でいい?」
「おっけ~」
「……いい」
「了解です」
 方針が決まったのでユウコさんを先頭に、また元の円周ルート? に戻り進んで行った。途中4時と5時の間ぐらいで2体の『ヒキ蝙蝠』に遭遇し、順番に戦ってどちらもシノブさんがトドメをさした。ドロップについては、「残念ながら…」と言っておこう。

 円周ルートはやはり最初の『杖を倒した地点』に繋がっていた。
 大きく円を描く様な通路で、左上に内側に向かって切り込み(最初のドアと部屋)があり、右に通路が延びている(2番目のドアの先は、開けていないので不明なままだが)様なMAPだったらしい。

 そのまま俺達は、オートマッピングされたMAPにしたがって[山の洞窟]1層から、『フィールドへ続く出口』へ戻って脱出し、『1層一掃作戦(改)』も終了となった。
 こうして色々と諦めたりもしたけれど、俺達の『はじめてのダンジョン探索』は、全員無事に終了したのである。


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LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧


〔※1〕TJOにおいて、
 『最初の攻撃』を、『ファーストアタック』(略されてFAと呼ばれている)という。そして『トドメの一撃』を、『フィニッシングブロウ』(略されてFBと呼ばれている)という。これらはどちらも討伐時に『経験値ボーナス』が加算され獲得できる。
 戦国時代などにおいての『一番槍』や、『首級をあげる、首を取る、討ち取る』といった行為に相当する…と考えていただくとイメージしやすいかと思われる。

分析:罠[トラップアナライズ] 宝箱等に仕掛けられた罠の種類と罠LVを識別し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)
補足:ミミックの場合はそのミミックのLVも識別する、ただしミミックのLVは半減出来ない。

探知:罠[トラップディテクション] 半径15m範囲の罠の存在、形状、名称を探知し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)


「ご主人さま~、だんじょんたからばこ、どれだけあぶないの~?」
「まず『シノブさん以外』だと、『LV19のクリティカル攻撃』になるから、誰でも即死だ」
「しのぶさんいがい~?」

「シノブさんだけは『識別した』ので『罠LVが半減する』から…LV9の、しかも『通常攻撃』になるんだが…」
「はんぶん~?」
「あぁ…だがHPの多いユウコさんと俺が≪大ダメージを食らった≫『山ゾック(斧)』はLV6。防御力もHPも低いシノブさんが、LV9の攻撃を食らうと…やはり即死だろうな」
「だんじょんたからばこ、こわい~」
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