サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

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第1章 はじまりの街 編

033 それはそれ! これはこれ! <04/04(木)AM 08:45>

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 日暮れ以降より、『イルカモネ山猫』LV5とたわむれ続け、「治癒での経験値稼ぎ」と、「治癒回数稼ぎ」を行っていた俺は、はじまりの街[スパデズ]での目標であった『LV9へのLVUP』と、『僧侶への昇格』を果たした。
 しかしほぼ徹夜となってしまったため、『24時間睡眠を取らなかったペナルティ』を回避しておくべく、『睡眠条件(睡眠可能場所で1時間以上眠る)』クリアのため、宿屋に戻り短時間ではあるが睡眠を取ったのだった。


 「………」ぐああぁぁ、気分が悪い。苛立ちと倦怠けんたい感と、身体の節々の痛みが、ごちゃ混ぜになった様な…こめかみのあたりもズキズキ、脳内?もガンガンしていて、頭痛持ちの人に少し優しくなれそうな…最低最悪な目覚めだ。
 クッソ、ヤマコウがああぁぁぁ…

「ご主人さま~、ね~、だいじょうぶ~?」
「あぁ…… 大丈夫だ、問題ないぃ」
「だいじょうぶそうに見えないけど……」
 枕元でミケネコが首を傾げ、不安そうにヒゲをピクピク動かした。

 視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)AM 08:52>と表示されていた。
 まずいな。宿屋は大体『AM9:00~翌日AM9:00で1泊2日』の計算だったはずだから、おそらく9時には出ないといけないはず。そうすると客では無くなってしまうので、井戸で水を汲んでいいのか? が微妙になってしまう。

「よし、とにかく急いで裏の井戸で水を補充だ」
「は~い」
 ベッドから飛び起きると、先ほどまでの不快感、気持ち悪さが急速に消えていく。
…これは便利だけど怖いな、確実に身体には悪そうだ。無理は≪ほどほど≫にしよう(しないとは言っていない)。ともかく今は好都合なので、さっさと宿屋の受付に向かい、量産型おばちゃんに鍵を渡す。

 一応「井戸借ります」と許可を得てから、そのまま井戸に向かい、『インベントリ』から『樽(中)』を取り出して、汲み上げたバケツの水を入れる。
 まぁ残り90%だったのだが、タダなら補充しておくべきだろう…タダなのだ、素晴らしい。『インベントリ』に放り込むと、再び≪何か≫が100%になっていた。
 ……フフフ『何』かは教えられないな。
 さて当然汲み上げたバケツには、まだたくさん水が残ってるので、時間を気にしながら手早く洗顔等を行い、さっぱりとして三日間世話になった宿屋を後にした。


 さて、なんとなくクリスタル前にやって来たものの、これといって用事は無い。
 ゲーム時代、宿屋から追い出されるからか AM09:00 ぐらいから、どこの街でもクリスタル前での、取り引きや売買が盛んだったから、暇があれば適当にチェックする癖がついている、という感じだ… まぁ はじまりの街[スパデズ]で、それほど気になる売買募集も無いのだが、みな貧乏だろうしな。
 周囲には同じ様な感じで、クリスタルが見える範囲で、何をするでも無く立っているプレイヤーがちらほら居る。この中には以前に俺が言っていた様に、『他人の職チェック』をしているプレイヤーも居るのかもしれない。また、ただ立っているだけの様に見えても”ささやき”や、パーティチャット等をしている事もある。

 …ん? 売買募集の『看板型の吹き出し』に1件、気になる内容の物が目についた。

 「………」TJOには、通常の会話チャットの他に、『吹き出し』というシステムがある。
 丁度『漫画とかの吹き出し』の様な形で、そこに書いた文は『本人が消すまでは表示されたまま』…になる。
 プレイヤー表示の上側(↑)に、貼り付けられた付箋ふせんの様な感じだろうか。

 大きな利点として『チャットログに残らない、流れない』というのがある。
 この『吹き出し』があるお陰で、短時間に何度も同じ内容を発言しては、≪チャットログを流しまくる≫…という迷惑プレイヤーが少ないのだ。
 また、この『吹き出し』は移動してもずっとついてくるので、ゲーム時代には「クランメンバー募集中!」…などと表示したままで、狩りや探索をしているプレイヤーなども居た。

 この『吹き出し』の種類の中に『看板型の吹き出し』もあり…これは吹き出しとはいうものの、右手に看板を持った姿『某ドッキリさせて大成功!』みたいな見た目で表示される。
 このタイプの吹き出しは、TJOゲーム時代は『暗黙の了解』、『ローカルルール』で、主に『売買目的』で使用されていた。
 「看板を持った姿が売買っぽい」…というのもあったのだが、一番の理由は、この『看板型吹き出し』を表示したままだと、戦闘中には『≪3本目の手で≫看板を持っていて、まぬけ、シュールだったから』…である。

 ユウコさんで例えると……、
 『青銅の盾』を左手で構え、右手で『一緒に探索しましょう (≧∇≦)ノ彡 』…と書かれた『看板をかかげた』まま、≪もう1本の右手≫の『鉄の長剣+1』で斬りつけている。
 …まぁそんな感じである。緊迫感も何もあったもんじゃない。


 ……話がそれたが、前方の男性プレイヤーが掲げる『看板型吹き出し』には、

「求)青銅の長剣 出)鉄のナイフor9k」
 …と書かれている。これは、

「私は『青銅の長剣』が欲しいです。こちらの『鉄のナイフ』と交換か、9kで売って下さい」
 …といった意味だ。

 以前に言った様に『鉄のナイフ』も『青銅の長剣』も、価値の逆転現象で同じ『12,000G』である。おそらく「『青銅』よりは『鉄』の方が強いはず」…と買ってみたものの、刀身が短くて思いのほか使い辛かった…とかだろう。
 しかし『鉄の長剣』は、ご存知の通り20,000Gもするし、『鉄のナイフ』代も もったいない。「同じ値段だし交換してくれないか?」…といったところか、そこまではわかる。

 しかし、9kとは足元を見過ぎでは無いか?
 普通、こういった場合、TJOでは『約1割引き』で売買する。つまり12,000Gの『青銅の長剣』の、妥当なプレイヤー売買価格は、10,800Gとなる。しかし安物なのと、面倒なので10,000G程度におまけする…感じだ。9kとは9,000Gである。妥当な価格より1,800Gも安い、ブタスキノコ様が1つ 1,240Gだというのに。

 だが…俺は昼前には 出会いの街[ヘアルツ]へ向かう予定だ。あちらでは『青銅の長剣』を買いたいという、初級プレイヤーはあまり居ないだろう。
 そうなるとNPCに売るしか無くなる。その場合は2,400Gにしかならず、9,000Gで売れるこのチャンスは魅力的だ。しかし道中のデスペナルティのリスクが…
 え~と? 俺の所持金が765G。白ネームだからデスペナルティで所持金の1/100を落とす。(小数点以下切り捨て)

 つまり今死ぬと、7G落とす。サクランボ(5G)が1つ買える、もったいない。
 今『青銅の長剣』を売ると計9,765Gになるから、死ぬと…97G落とす。

 く、道具屋で処分品とかサービス品(100G均一)が、約1つ買えるでは無いか! もったいない。もったいないが、やはり売ってしまっておいた方が得ではある。しかしこういう≪利己的な売買≫が、『転売屋』を のさばらせる事につながるので…

「ご主人さま~?」
「あぁ、助かる」
 ぬ、≪彼のせい≫で長考に入ってしまっていた… おのれタカシめ。
お礼にミケネコさんのアゴの下をしばしコショコショする。

 だがまぁ、20,000Gあれば『鉄の長剣』、12,000Gあれば『青銅の長剣』を購入したいのだろう。単純に、≪なんとか出せる≫のが9,000Gなのかも知れない。
 うんうん、みだりに人を疑うのは良くない。ここは人助けといこう。

 ……別に? …目の前のGに、目がくらんだわけじゃないですよ? なんというか、燃えるグラサンの人の、ありがたい教えがですね……
 ゴホンッ、え~、やはり9,000Gというのは安いと感じるのか、誰も反応していない。
まぁまだ それほど人通りも無いからな。

 さて… 彼にささやきながら近寄っていく。

(タカシへささやき)「『青銅の長剣』、9,000Gでお売りしますよ」
(タカシからのささやき)「助かります。ありがとうございます」
 彼が右手に持っていた『看板型吹き出し』が消える。そのまま表示していると、さらに他の人が反応するかもしれないからだ。早めに消すのがマナーである。

《タカシ がアイテムの交換を持ちかけてきました。受けますか? yes / [no] 》
 問題無いのですぐに「yes」と念じる。

《タカシ の:9,000G 》
《マサヨシ の:(なし)》
《以上の条件で交換を行います、よろしいですか?(よく確認して下さい) yes / [no] 》
 俺は『インベントリ』の『青銅の長剣』を、『交換に出す』様に念じる。

《 -交換条件が変更されました- 》
《タカシ の:9,000G 》
《マサヨシ の:青銅の長剣 》
《以上の条件で交換を行います、よろしいですか?(よく確認して下さい) yes / [no] 》
 よく確認し、問題は無いので「yes」と念じる。

《タカシ の:9,000G と、マサヨシ の:青銅の長剣 の交換が成立しました》

(タカシからのささやき)「ありがとうございました~」
(タカシへささやき)「いえいえ~」
 彼はトレードが終わると一言お礼を言って、すぐに北口に向かっていった。

 「………」ちなみに『手に持って』から交換をすると、交換したアイテムは『相手の手元』に現れ、『インベントリから直接、交換アイテムを指定する』と、相手のインベントリに送られる。(インベントリが満タンの時は手に現れる)
 『G』を指定した場合は、常に『対象の財布』に直接送られる。
(1,000,000,000Gとか、手の上に出現させられても困るしな)

 つまり『先ほどの取り引き』は、他のプレイヤーには、ただ俺達が近寄って行き、しばらくして彼(タカシ)が去っていった…様にしか見えない。

 ふむ、ふところが暖かくなった事だし、少し『ペットショップ』を覗いてみるか。
ふと思いついた事があったので、俺もその場を離れペットショップに向かう事にした。


-------------------------------------------------------------------------
LV:9(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:9,765G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×4、バリ好きー(お得用)60%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ


「ご主人さま~、だいじょうぶ~?」
「あぁ、やはり≪無理をする≫と、起きた時に≪地獄を見る≫ようだ」
「ぜんぜん、おきなかったよ~」
「う~ん、本当に寝起きは良い方なんだが……」
「えぇ~、よくないよ~?」
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