サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

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第2章 出会いの街 編

083 5日目の朝 <04/06(土)AM 05:02>

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 出会いの街[ヘアルツ]での2日目は、『謎のイベントラッシュ』で大変だった。
 そのため恒例の『宝箱と素材収集、夜の部』を終えた俺は、晩飯を済ませ”バリ好きータイム”が終了した後、主に精神的に疲れていたので、『夜間の苦行』を中止し、少し早めに眠りについたのだった。






ごめんね ××××、ごめん…

 …謝り続ける少女。その全身は暗闇の中で赤・橙・黄・緑・青・藍・紫… と、刻々と色を変化させながらほのかに輝いている。

「でもあれは…」

わかってる、でももう無理なの

 少女は力無く首を振って、しかしはっきりと拒絶を示す。

「……そうか、また立ち直ったらいつでも…」

ごめん…


 ……さ…………ご…………

「………いつか俺が…」

ありがとう××××、だけど本当にもういいの


 …しゅじんさ…………

ごめんね…

「…………××××……」


「ご主人さま~、ご~じ~だ~よ~」
 「………」……××××…プニプニして…俺が…いつか…ぷに……

「ね~、ご主人さま~、ごじだよ~」
 「………」…猫? ……三毛猫が…ぷにぷに……

「はっ!? …ミケネ…!! ぐっ、うぐぐぐ… があああぁああ」
 「………」うっがぁぁぁぁ、頭があぁぁ、そして気持ち悪いぃ~~。前の様に、身体の節々の痛み? は感じられないが、ムカムカ、イライラ、ガンガンして、不快ってレベルじゃねぇえええ~~~。うぅ、この吐きそうで吐けない…悪酔いした時の絶望感のような。いっそ吐ければ楽になるのに(多分)


「ね~ご主人さま~、だいじょうぶ~?」
「あぁ…大丈夫だ、問題な…ぐううぅぅ」
 「………」これはキツイ……

「そうか!」
 顔をぷにぷにし続けていたミケネコを抱えたままベッドから急いで降りる。すると急速に頭痛や不快感が治まっていく。

「ふぅ――。この地獄仕様は、どうにかならんのか?」
「じごくしよ~」
 抱えたままのミケネコさんは、何故だか嬉しそうだ。地獄したくない。
 例によって、どう考えても身体には良く無さそうだ。激しい喜びの朝はいらないから、植物的な平穏な目覚めが欲しい。

 「………」しかしこれは…アレか? 昨日は肉体的にはあまりダメージが無かったが、精神的に大ダメージだったから? とか? …≪実害が無い≫からって、精神的なダメージも軽視出来ないな。
 ただでさえTJOは普通のゲームに比べて難易度高いゲーム性だったのに、”匂い”や”痛み”に加えて”不快感”やら”畏怖”みたいな精神攻撃? にまで気を付けないといけないとか……
 ―――そして短時間に精神的に大きく揺さぶられたおかげで、過去のトラウマまで呼び起こされた…ってところだろうな…クソッ。


 まぁいい、抱えていたミケネコを足元に降ろす。すぅ~~~、はぁ~~~~と、2~3回大きく息を吐いて吸うと幾分か落ち着いた。

「よしっ、ともかく朝飯前に、昨晩と同じルートで南口1、南口2方面を大きく時計回りに見てまわって、宝箱チェックと素材収集をする」
「こんどは”たからばこ”みつけて、しあわせになる~」
「そうだな、出会いの街[ヘアルツ]に来てから、まだフィールド宝箱はゼロだから、頑張って探してしあわせになろう」

 予定を確認しミケネコに伝えてから、部屋を出て鍵を閉め宿屋の受付に向かう。


「おはよう兄ちゃん、早いね。宿泊予定は今日までだよ」
 残念ながら いつもの量産型おばちゃんだ。そうか、もう2泊したか。

「おはよう、また同じ部屋を2泊3日で頼む」
「あいよ、2,000Gだよ」
 しばらくは出会いの街[ヘアルツ]で活動する事になるので、迷わず連コイン…宿泊の延長を決め、受付のカウンターの上の小皿に2,000Gを置いて、量産型おばちゃんに持ってきた『部屋の鍵』も渡す。

 「………」この時に一応、”別の部屋”に変更する事も出来るのだが基本的に何も変わらないし、部屋を間違えたりすると面倒なので、俺は大体”同じ部屋”を使う。

 また普通に考えれば一週間とか一ヶ月宿泊とかのプランもありそうなのだが、TJOのこのNPC宿屋? には『1泊2日1,200G』、『2泊3日2,000G』の2通りしか無い。
 そのため長期宿泊する場合は面倒なのだが、こうやって延長を繰り返すのだ。

 主な理由としては【料金完全先払い制】である事が挙げられる。
 何度か出てきたのだが、TJOには善行悪行値ぜんこうあくぎょうちという要素があり、そのネームカラーによってNPCの対応が変わってくるのだ。


▼▼▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼▼▼

善行悪行値ぜんこうあくぎょうちによる、NPCショップ、施設の恩恵、ペナルティについて

 TJOには善行悪行値ぜんこうあくぎょうちがありネームカラーで区別される。
青ネーム、ブルーネーム、(聖人)善良プレイヤー
白ネーム、ホワイトネーム(一般人)一般プレイヤー
黄ネーム、イエローネーム(軽犯罪者)軽犯罪プレイヤー、前科者プレイヤー
赤ネーム、レッドネーム(賞金首)重犯罪プレイヤー、指名手配

 そしてそのネームカラーにより様々な『恩恵』、『ペナルティ』がある。
 その一つがNPCショップ、施設等の価格変動だ。それぞれの『ネームカラー』により以下の様に変動する。

青ネームは、ショップ、施設の価格は0.90倍に、売却価格は1.10倍になる。
白ネームは、ショップ、施設の価格は1.00倍に、売却価格は1.00倍になる。
黄ネームは、ショップ、施設の価格が1.50倍に、売却価格は0.75倍になる。
赤ネームは、ショップ、施設の価格は2.00倍に、売却価格は0.50倍になる。

 これらの恩恵、ペナルティは、基準となる NPC販売価格(ノーマルアイテム価格基準)に対して、最初にこれらの恩恵、ペナルティを加算、減算してから行われる。

 一例として、『仮の剣』(0)、ノーマルアイテム、白アイテムが、NPC販売価格 100,000G=100k=10万G…だと仮定した場合の価格変動。

・NPCから100,000Gの『仮の剣(0)』を購入する場合
青ネーム(聖人)は    90,000Gで購入できる。
白ネーム(一般人)は  100,000Gで購入できる。
黄ネーム(軽犯罪者)は 150,000Gで購入できる。
赤ネーム(賞金首)は  200,000Gで購入できる。

・NPCに100,000Gの『仮の剣(0)』を売却する場合
(TJOでは、アイテムの売却額はNPC販売価格の20%、1/5)
青ネーム(聖人)は   22,000Gで売れる。
白ネーム(一般人)は  20,000Gで売れる。
黄ネーム(軽犯罪者)は 15,000Gで売れる。
赤ネーム(賞金首)は  10,000Gで売れる。

 ※青、黄ネームには色の濃淡があるが、≪濃淡による変動は無い≫。


 無論、これらの恩恵、ペナルティはNPCの場合であるので、相手がプレイヤーの場合には生じない。しかしプレイヤーの場合には、そもそも『取り引き自体をしてもらえない』場合がある。
 特に騙されたりPKをされた経験等があるプレイヤーには、レッドどころか薄イエローネームであっても「取り引きや会話自体したく無い」という者も少なくない。してもらえてもNPC以上のペナルティ価格にされる事もある。


 以上の様に損得の話だけでもTJOにおいては、考え無しに「悪人の俺カッコイイ」等と軽々しく犯罪行為に及ぶのはおすすめ出来ない。
 現実であっても、銭湯などではイレズミの方お断りや、違法改造車は修理お断り、不審者の入店禁止、前科のある方お断り、不祥事により内定取り消し…等々が当たり前の様に行われている。

 何をしても自由かもしれないが、相手にも悪人に関わらない自由、善人を贔屓ひいきし、悪人を冷遇する自由がある。ゲームだから悪事を働いてもペナルティが無い、軽いと決まっているわけでは無い。ことに悪人に厳しいヤマコウによってデザインされたTJOの世界では、それが顕著なのである。

 「もしTJOにおいて【悪人のロールプレイ】をするなら、相応の覚悟と信念を持って『カッコ良く』行ってほしい。そして君が悪事をはたらく姿が『君の思い描く理想のダークヒーロー像であるのか?』自身に常に問うてほしい。
 その時に君の理想からかけ離れた、弱者を襲い、騙し、強者から逃げ回る、そのような『卑小なチンピラじみた姿』になっていない事を願う」というのがヤマコウの言葉だ。

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 まぁそんなヤマコウ〔※1〕の言葉も、悪意を持って意訳すれば、
「お前らのほとんどが、ただ盗んだり、弱者をPKして小銭稼ぎたいだけじゃねぇかwwwだっさwwww、ダwwークwwwwヒーwwwローwww(笑)wwww」
 という感じだろうか。

 「………」ヤマコウ不正や悪事が大嫌いだからなぁ。
 大体どのゲームでも、出来ない様にすりゃいいのに、出来る様にしておいて、≪シャレにならない罰則を与える≫んだよな。しかも一見『大した事が無い罰』に見えるから性質たちが悪い。嫌がらせみたいなのも目に余れば容赦無くBANするし。
 でもヤマコウのゲームに慣れてしまうと、不正や悪事が野放しなゲームやると、運営への不満が募って長続きしないんだよな。
 ≪TJOと違って≫BANされても、すぐ帰ってきたりするし。

 …ともかく『ネームカラーによって、施設の価格が変動する』ので、一ヶ月の宿泊料を先払いしてから、黄赤ネームになると、本来ペナルティで増額するはずの宿泊料分、NPCが損してしまう。(また青ネームになると、プレイヤーが損してしまう)
 そのため「NPC宿屋には一泊か二泊の短期しか無い」という事になっている。


 当然これらはプレイヤーが経営する宿屋には当てはまらないので、長期宿泊出来るプレイヤー宿屋もあった〔※〕のだが、基本的に「赤ネームでNPC宿屋に宿泊するより高額」なので、宿泊料的にはあまり意味が無い。
〔※〕俺はゲーム時代もNPC宿屋一筋だったので詳しく無いのだが、週、月から半年、一年の長期宿泊や、豪華な内装や食事付き等、様々なプランやサービスの宿屋があったらしい。

 このあたりも例によって、あえて? 『NPC宿屋』を安価ではあるが、不便で質素に止めておく事で、プレイヤーが介入、改良する余地を残し、「プレイヤー同士が積極的に交流をはかれるように」…という思惑もあるのだろう。
(これがNPC宿屋は、「1年336日宿泊で336Gポッキリ、豪華3LDK、3食おやつ付き…」とかだと、みんなNPC宿屋しか利用せず、プレイヤーが宿屋を開業しようとしても客が来る未来が見えない)



「も~ ご主人さま~」
 見るとミケネコはいつもの様に、さっさと『宿屋の裏の井戸』の方へ向かっていたらしく、ふと振り返って俺がやって来ていないのに気付いて、不機嫌そうに尻尾を地面にピシピシ叩き付けていた。

「すまんすまん」
 朝の目覚めも最悪だったし、しっかり顔を洗ってさっぱりしてから、早朝の宝箱チェックに向かうとしよう。
 (今日は昨日の様にゲームマスターが荒ぶってないといいのだが…)
 視界の右下の方へ意識を向けると<04/06(土)AM 05:13>と表示されていた。


-------------------------------------------------------------------------
LV:16(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:46,561G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 干し肉×21、バリ好きー(お得用)80%、樽(中)90%、コップ(木)、初心者用道具セット(小)、鋼のナイフ、鉄の斧、サクランボ×1、鬼王丸×2


〔※1〕TJO総合統括プロデューサー 山岡 光一 ヤマコウ(通称)(CV:小山力也)
 長所短所、メリットデメリット、リスクリターンといった事を重要視する。
 挑戦者魂チャレンジスピリット開拓精神フロンティアスピリットを評価し、停滞、安定、マンネリを嫌う。TJOの理念に大きく影響を与える人物。

 彼の理念により、ただ得する、ただ損する、何のリスクも無いのに強力、苦労したのに儲けが無い…などといった『理不尽さ』が、ほぼ存在しないゲーム性となっている。強力な攻撃、効果には必ずなんらかのリスク、代償を伴う。
 またゲーム内、ゲーム外を問わず、悪事、犯罪行為には厳しい。過去作でも迷惑行為、RMTチートbotなど、容赦なくBANしてきた実績を持つ。


「ご主人さま~【悪人のロールプレイ】ってなに~?」
「ロール(役割)+プレイ(演じる)、つまり『悪役を演じる』事だな。
普通の『RPG』は、主人公の勇者(という役割)…を演じる(プレイ)…ゲーム…が多いから、あえて悪役をやる感じだ」
「ふ~ん?」

「ただ得てして【悪人のロールプレイ】と言いつつ、ただの【ゲーム内不適合者】である事が多い」
「ん~?」
「”演じてる”んじゃなくて、”素”だって事だ。しかも悪の幹部みたいな大物じゃなく、[山の洞窟]に出てきた『山ゾック(斧)』LV6 みたいな下っ端だ」
「したっぱ~」
(※個人の感想です。立派?な悪人のロールプレイヤーの方も居るのかも知れません)
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