悪役令息になる前に自由に生きることにしました

asagi

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2.サクサク行動!

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 僕は現在十五歳らしい。日記の日付から分かった。
 そして、父上が寄越した家庭教師が到着するのが一か月後なことや、ここの屋敷の使用人とはほとんど交流がなかったことも知った。みんな、当主から冷遇されている息子に愛想よく接するつもりがなかったらしい。

「なんだかなぁ……。七歳当時の僕がこの状況に置かれていたら、それはひねくれるし、異母弟を憎むのかも。悪いのは父上だけど、僕は恨みきれない気がするし」

 トモヤが残した【BLゲーム】の内容に少し納得する。
 でも、今の僕は憎しみに満ちた感情を抱いていない。父上に愛されたいと思っていないし、王都から離されたこともどうでもいい。
 むしろ、領地がどんなところか気になる。七歳までの僕は、領地を訪れた記憶がなかったから。

「トモヤは可哀想だけど、僕は今からこの状況になんとか適応しなきゃいけない。トモヤを気にしていられないんだ、ごめんね」

 悲しみに沈んだトモヤを労るように胸を撫で、椅子から立ち上がった。
 まずは情報収集だ。この屋敷の使用人たちを調査しよう。


◇◇◇


 屋敷をまとめる執事カーター。たぶん父上に僕のことを報告してる人。
 物陰からカーターを観察して分かったのは、凄く嫌な奴だということ。

 カーターは少ない使用人に指示を出し、自分は悠々自適な生活をしている。書類を調べると、僕のための予算を横領しているのが分かった。

「……父上、部下を見る目がなさすぎじゃない?」

 思わず呆れに満ちた声が漏れる。
 他の使用人もカーターと似たような者たちばかりで、まともに仕事をしている人がいなかった。

 どおりでリネン類は薄汚くて、屋敷全体が埃っぽいわけだ。父上が領地に来ることがないから、報告書だけちゃんとしていればいいと気を抜いているのだろう。

 この分だと、トモヤは自分で部屋を掃除していた可能性がある。後で掃除用具がないか探してみよう。不思議と、考えた途端に掃除や洗濯、炊事の仕方が分かった気がした。
 少し荒れている指先を眺め、ため息をつく。

「――早いとこ、ちゃんとした使用人を見つけよう」

 トモヤやカーターたちは気づいていなかったようだけれど、僕はトンプソン伯爵家の直系嫡子で、現在はこの屋敷の人事権も持っているのだ。

 入婿である父上よりも、正統な後継者である僕の方が、本来権限は大きい。未成年だから、父上が後見人として立って、当主のように振る舞っているだけで。貴族法で考えると、父上は僕が爵位を継ぐまでの繋ぎでしかない。

「よし。当面の目標は、家庭教師が来るまでに、生活環境を改善すること! 頑張るぞ」

 屋敷の見回りを終え、部屋に帰ってきて、決意を固めると同時に、今後の予定を立てた。


◇◇◇


 この屋敷の予算の管理はどうなっているかというと、僕の名で押印された書類で、王都の銀行口座から領地にある銀行口座に送金されるようになっていた。月々の限度額はあるものの、カーターはそれを勝手に使い込んでいるらしい。

 幸い、今月分はまだ請求していないようなので、早々に印鑑と銀行口座通帳を手に入れておく。カーターが盗まれたと騒いだとしても、正当な持ち主は僕なので、全く問題はない。

 ついでに使用人の契約書の控えを確認すると、解雇条件などもない穴だらけの文言が並んでいた。呆れるけれど、これならいつ使用人をクビにしても、違法にはならない。

 仕事をしない使用人たちへの解雇通知書を書き、カーターが執務室にしている部屋の机に置いておく。一週間以内に屋敷から退去しなければ、不法滞在として拘束するという文言も載せたけれど、彼らはちゃんと従うだろうか。

 通帳を見ると、まだ少しお金が残っていたので下ろしに行くことにした。元手がなければできることが少なすぎる。家政ギルドで人も雇いたいし、面白そうな本があったら購入したい。
 なによりも――。

「領地ってどんなところかなぁ……!」

 ウキウキと弾む心をなんとか抑えて、こっそりと屋敷を抜け出した。


◇◇◇


 初めての場所に緊張しながら向かった銀行では凄く驚かれた。突然次期伯爵が来たのだからそれも当然だろう。
 それでも無事にお金を引き出せて、今月分の送金依頼もできた。

 次に訪れた家政ギルドで新たな使用人を雇う。給料は王都の銀行口座からの引き落としで対応できるらしい。手元にはあまりお金がないから助かった。

 新たな執事と料理人、メイドと契約する。みんないい人そうで満足。雇い主は僕なのだから、カーターたちのように、僕を冷遇するなんてしないだろう。
 彼らは一週間後から来てくれることになる。

 その後は衛兵詰所に向かって、屋敷に衛兵を派遣してもらうようにした。そもそも屋敷に衛兵が一人もいないのがおかしい。

 街の中心に置かれた役所で領地の管理を行っているようだけれど、彼らの業務に屋敷の管理はなかったらしい。次期伯爵が住む屋敷を気にかけないなんて、襲ってくれと言っているようなものだ。

 街は栄えているから、その辺の仕事はちゃんとこなしているのだろう。おそらく父上の意向で、僕は放置されていた。

 なんとか無事に衛兵の手配も済み、食べ物なども購入した。街は和気あいあいとしていていいね。

 僕が次期伯爵だと気づいていない店の人は、「別嬪さんだねぇ!」なんて言って、おまけをたくさんくれた。これまでの人生で、母上以外から初めて好意を感じた気がする。

「楽しいなぁ……!」

 たくさんの本や美味しいお菓子。自由に歩き回る解放感。目新しい街並み。
 全てが新鮮で興味深くて、探索する足取りが軽い。

 街の人たちはみんな優しいし、正直王都に戻りたくなんかない。学園への入学も興味がないし、わざわざ冷たい視線を浴びるために父上と再会したくないから。

「なんとか回避できないかな……。息苦しいところになんて行きたくないよ……」

 一か月後には家庭教師が来るらしい。なんとか味方にして、この地に居続けられないか。
 考えてみる価値はありそうだ。


◇◇◇


 僕が行動を起こしてからは、順調にことが進んだ。

 突然の解雇宣告に逆上したカーターや使用人たちは、僕に暴力を振るおうとした罪で、派遣されてきた衛兵に拘束された。
 カーターについては、横領の罪で告訴もしておいたけれど、どうなることやら。

 がらんとした屋敷で、僕は一人で乾杯をしてジュースを飲んだ。一人ぼっちだけれど、寂しくはない。これは僕が望んだ結果だ。

 一週間もすれば新たな使用人が働きだし、一気に快適な生活になった。美味しいご飯に清潔な屋敷。
 使用人たちとは少しずつ仲良くなっていて、楽しい毎日だ。

 一度、役所から所長が来た。顔を窺ってくる所長に、しばらくは領地管理を任せることや僕の安全を確保するよう伝えておいたら、ちゃんと働いてくれたらしい。
 ようやく、父上よりも僕の権限の方が大きいという現実に気づいたようだ。

 十五歳になった今なら、父上を後見人から外す手続きもできるだろう。でも、それはまだしない。お金も今まで通り父上の自由に使えるようにしておく。

 父上の権限をあからさまに小さくしたら、なにをやらかすか分かったものじゃない。父上が僕を積極的に殺めようとしなかったのは、後見人という立場を守るためだろうから。
 母上には従兄弟がいる。僕がいなければ、父上よりも、トンプソン伯爵家の血をひく従兄弟の方が、爵位を継ぐ可能性が高いのだ。
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