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三章.雪豹の青年
78.魔王と尋問(アーク視点)
軟禁用の部屋に入った瞬間に目にしたのは、腕を組んでそっぽを向いているリリアンと、尋問の担当官の疲れ切った後ろ姿だった。
リリアンには魔法禁止と行動阻害の魔法をかけているから、暴れているというわけではないだろう。アークは、この様子の理由をすぐに察した。十中八九、リリアンが傲慢さを発揮しているのだ。
「――アーク様!」
扉の開く音に視線を向けたリリアンが、嬉々とした表情を浮かべた。
アークに拘束されたことを忘れたのだろうかと思いたくなるくらい、リリアンは純粋に喜んでいる様だった。あまりに違和感がある。
「陛下……申し訳ございません。尋問は、まだ何も成果が――」
「構わん、控えていろ」
謝罪する尋問官に手を振る。仕事に割り込んだのはアークの方なのだから、気にする必要はないのだ。
「やはり、わたくしへの仕打ちを、後悔なさったのですわね! 早くこんな拘束から解放してくださいませ。同族に対して、あんまりな対応ですわ」
甘えるような、わざとらしい拗ねた表情になるリリアンに、アークは眉を顰めた。
壁際に下がっていた尋問官が、肩を落してため息をついている。尋問の間、リリアンはずっとこの調子だったのだろう。
罪を罪として認識できていない様子は異様だ。以前のリリアンを知っているからこそ、やはりこの件には裏があると確信する。
「落ち着け。俺はお前を解放するつもりはない。少なくとも真実を明らかにして、罪を償わせてからでないとな」
「罪……? 不思議なことをおっしゃいますわね。わたくしのしたことが、どれほどの罪になるとおっしゃるの? いずれ奥宮の主となる者が、あの場にいることが、そんなにいけないことかしら。それとも、あの獣を――っ!?」
ガンッ!
アークは我慢ならずにテーブルを蹴り飛ばした。壁にぶつかって破壊されたが、今はそれを気にする余裕がない。
愛する番。アークの唯一の運命を、この女は獣なんて蔑んだ口調で呼んだのだ。これで怒らずにいられるほど、アークは情が薄くない。
「未来永劫、俺の番について口にするのを禁ずる。……よいな」
力を込めて言葉を放った瞬間、リリアンに光の鎖が巻き付く。一瞬で視界から消えても、それはリリアンを一生縛るものだ。少なくとも、アークが許しを与えない限りは。
これは、竜族の中でも限られた者しか使えない言霊の能力であり、アークが魔族の王になった理由の一つだった。
それをよく知るリリアンは、顔を青ざめさせてアークを見上げた。
ようやく、アークの怒り具合を実感したらしい。言霊はあまりに大きすぎる効果の危険性から、多用すべきでないとされる能力だから、それも当然か。
「……なぜ、それほどまで、お怒りに……?」
これまでの威勢のよさがすっかり削がれ、リリアンがアークの機嫌を窺うように尋ねてくる。これでようやく尋問が進められそうだ。
「先ほども言ったはずだが、お前は奥宮の主になることはないのだから、立ち入りは許されないことだった。俺の番を攻撃しようとしたこともだ。……番相手でなくとも、王城内で攻撃魔法を放ったこと自体が重罪だが」
「……わたくしは、竜族で」
「それは理由にならんと言っただろう。一つ覚えのようにその言葉を繰り返しているが、お前自身、本当にそれで納得されると思っているのか?」
「ですが……わたくしは……竜族で……アーク様の、こんやくしゃで……?」
次第に虚ろな目になっていくリリアンを、アークは冷静に観察した。
洗脳や魅了などの魔法にかけられた者特有の反応に見える。やはりそうなのか、と胸中で嘆息しながら、アークはリリアンに手を伸ばした。
リリアンの額に人差し指を当て、軽く魔力を流す。
「……お前に、そう思い込ませたのは、誰だ?」
「わたくし、に……?」
パチリと目を瞬かせたリリアンが、記憶を辿るように途切れつつも呟く。アークがリリアンに掛けたのは、自白剤のような効果を持つ魔法だ。
「――わたくしは、誇り高き、竜族。魔王の番に、相応しい姫。誰もが、そう言っていて、わたくしも、それを当然だと、思っているわ……」
「そうか。それで?」
アークは眉を顰めて、苛立ちを抑えながら、話の続きを促した。
「でも、アーク様に……ができたと、聞いたの。みな、わたくしを、憐れんだわ。なんて、なんて、屈辱的な……!」
不意に、リリアンの目に憤りが浮かぶ。声にも力が籠っていた。
途中、空白となった言葉は『番』だろう。スノウについて語るのを、言霊で禁じた結果だ。
リリアンは、アークに番ができたことを悲しむより、周囲に憐れまれたことへの怒りが先だったのか。
そこから、リリアンのアークへの愛情の程度を察するが、今は指摘を控える。所詮、リリアンは魔王の番という名誉欲に取り憑かれていただけなのだ。
「――唯一、侍女がわたくしに寄り添ってくれた。わたくしを慰めるために、旅行にも連れ出してくれて」
「旅行? どこに行ったんだ」
「ジーオンよ。人間の国との貿易が盛んな場所で。とても素敵なものがあって楽しかったわ。魔力濃度が薄いのは辟易したけれど」
報告にあった竜族は、やはりリリアンで間違いなさそうだ。
「そこで人間と話したな? 何を言われた?」
「何を……? あぁ……とても、素敵な人に出会ったの。魔王の番になるための、方法を教えてくれたのよ――」
リリアンが陶酔した様子で語る。その後に続いた言葉に、アークは目を見開いて、拳を握りしめた。
リリアンには魔法禁止と行動阻害の魔法をかけているから、暴れているというわけではないだろう。アークは、この様子の理由をすぐに察した。十中八九、リリアンが傲慢さを発揮しているのだ。
「――アーク様!」
扉の開く音に視線を向けたリリアンが、嬉々とした表情を浮かべた。
アークに拘束されたことを忘れたのだろうかと思いたくなるくらい、リリアンは純粋に喜んでいる様だった。あまりに違和感がある。
「陛下……申し訳ございません。尋問は、まだ何も成果が――」
「構わん、控えていろ」
謝罪する尋問官に手を振る。仕事に割り込んだのはアークの方なのだから、気にする必要はないのだ。
「やはり、わたくしへの仕打ちを、後悔なさったのですわね! 早くこんな拘束から解放してくださいませ。同族に対して、あんまりな対応ですわ」
甘えるような、わざとらしい拗ねた表情になるリリアンに、アークは眉を顰めた。
壁際に下がっていた尋問官が、肩を落してため息をついている。尋問の間、リリアンはずっとこの調子だったのだろう。
罪を罪として認識できていない様子は異様だ。以前のリリアンを知っているからこそ、やはりこの件には裏があると確信する。
「落ち着け。俺はお前を解放するつもりはない。少なくとも真実を明らかにして、罪を償わせてからでないとな」
「罪……? 不思議なことをおっしゃいますわね。わたくしのしたことが、どれほどの罪になるとおっしゃるの? いずれ奥宮の主となる者が、あの場にいることが、そんなにいけないことかしら。それとも、あの獣を――っ!?」
ガンッ!
アークは我慢ならずにテーブルを蹴り飛ばした。壁にぶつかって破壊されたが、今はそれを気にする余裕がない。
愛する番。アークの唯一の運命を、この女は獣なんて蔑んだ口調で呼んだのだ。これで怒らずにいられるほど、アークは情が薄くない。
「未来永劫、俺の番について口にするのを禁ずる。……よいな」
力を込めて言葉を放った瞬間、リリアンに光の鎖が巻き付く。一瞬で視界から消えても、それはリリアンを一生縛るものだ。少なくとも、アークが許しを与えない限りは。
これは、竜族の中でも限られた者しか使えない言霊の能力であり、アークが魔族の王になった理由の一つだった。
それをよく知るリリアンは、顔を青ざめさせてアークを見上げた。
ようやく、アークの怒り具合を実感したらしい。言霊はあまりに大きすぎる効果の危険性から、多用すべきでないとされる能力だから、それも当然か。
「……なぜ、それほどまで、お怒りに……?」
これまでの威勢のよさがすっかり削がれ、リリアンがアークの機嫌を窺うように尋ねてくる。これでようやく尋問が進められそうだ。
「先ほども言ったはずだが、お前は奥宮の主になることはないのだから、立ち入りは許されないことだった。俺の番を攻撃しようとしたこともだ。……番相手でなくとも、王城内で攻撃魔法を放ったこと自体が重罪だが」
「……わたくしは、竜族で」
「それは理由にならんと言っただろう。一つ覚えのようにその言葉を繰り返しているが、お前自身、本当にそれで納得されると思っているのか?」
「ですが……わたくしは……竜族で……アーク様の、こんやくしゃで……?」
次第に虚ろな目になっていくリリアンを、アークは冷静に観察した。
洗脳や魅了などの魔法にかけられた者特有の反応に見える。やはりそうなのか、と胸中で嘆息しながら、アークはリリアンに手を伸ばした。
リリアンの額に人差し指を当て、軽く魔力を流す。
「……お前に、そう思い込ませたのは、誰だ?」
「わたくし、に……?」
パチリと目を瞬かせたリリアンが、記憶を辿るように途切れつつも呟く。アークがリリアンに掛けたのは、自白剤のような効果を持つ魔法だ。
「――わたくしは、誇り高き、竜族。魔王の番に、相応しい姫。誰もが、そう言っていて、わたくしも、それを当然だと、思っているわ……」
「そうか。それで?」
アークは眉を顰めて、苛立ちを抑えながら、話の続きを促した。
「でも、アーク様に……ができたと、聞いたの。みな、わたくしを、憐れんだわ。なんて、なんて、屈辱的な……!」
不意に、リリアンの目に憤りが浮かぶ。声にも力が籠っていた。
途中、空白となった言葉は『番』だろう。スノウについて語るのを、言霊で禁じた結果だ。
リリアンは、アークに番ができたことを悲しむより、周囲に憐れまれたことへの怒りが先だったのか。
そこから、リリアンのアークへの愛情の程度を察するが、今は指摘を控える。所詮、リリアンは魔王の番という名誉欲に取り憑かれていただけなのだ。
「――唯一、侍女がわたくしに寄り添ってくれた。わたくしを慰めるために、旅行にも連れ出してくれて」
「旅行? どこに行ったんだ」
「ジーオンよ。人間の国との貿易が盛んな場所で。とても素敵なものがあって楽しかったわ。魔力濃度が薄いのは辟易したけれど」
報告にあった竜族は、やはりリリアンで間違いなさそうだ。
「そこで人間と話したな? 何を言われた?」
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