雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

文字の大きさ
51 / 224
三章.雪豹の青年

78.魔王と尋問(アーク視点)

 軟禁用の部屋に入った瞬間に目にしたのは、腕を組んでそっぽを向いているリリアンと、尋問の担当官の疲れ切った後ろ姿だった。

 リリアンには魔法禁止と行動阻害の魔法をかけているから、暴れているというわけではないだろう。アークは、この様子の理由をすぐに察した。十中八九、リリアンが傲慢さを発揮しているのだ。

「――アーク様!」

 扉の開く音に視線を向けたリリアンが、嬉々とした表情を浮かべた。
 アークに拘束されたことを忘れたのだろうかと思いたくなるくらい、リリアンは純粋に喜んでいる様だった。あまりに違和感がある。

「陛下……申し訳ございません。尋問は、まだ何も成果が――」
「構わん、控えていろ」

 謝罪する尋問官に手を振る。仕事に割り込んだのはアークの方なのだから、気にする必要はないのだ。

「やはり、わたくしへの仕打ちを、後悔なさったのですわね! 早くこんな拘束から解放してくださいませ。同族に対して、あんまりな対応ですわ」

 甘えるような、わざとらしい拗ねた表情になるリリアンに、アークは眉を顰めた。
 壁際に下がっていた尋問官が、肩を落してため息をついている。尋問の間、リリアンはずっとこの調子だったのだろう。

 罪を罪として認識できていない様子は異様だ。以前のリリアンを知っているからこそ、やはりこの件には裏があると確信する。

「落ち着け。俺はお前を解放するつもりはない。少なくとも真実を明らかにして、罪を償わせてからでないとな」
「罪……? 不思議なことをおっしゃいますわね。わたくしのしたことが、どれほどの罪になるとおっしゃるの? いずれ奥宮の主となる者が、あの場にいることが、そんなにいけないことかしら。それとも、あの獣を――っ!?」

 ガンッ!

 アークは我慢ならずにテーブルを蹴り飛ばした。壁にぶつかって破壊されたが、今はそれを気にする余裕がない。

 愛する番。アークの唯一の運命を、この女は獣なんて蔑んだ口調で呼んだのだ。これで怒らずにいられるほど、アークは情が薄くない。

「未来永劫、俺の番について口にするのを禁ずる。……よいな」

 力を込めて言葉を放った瞬間、リリアンに光の鎖が巻き付く。一瞬で視界から消えても、それはリリアンを一生縛るものだ。少なくとも、アークが許しを与えない限りは。

 これは、竜族の中でも限られた者しか使えない言霊の能力であり、アークが魔族の王になった理由の一つだった。

 それをよく知るリリアンは、顔を青ざめさせてアークを見上げた。
 ようやく、アークの怒り具合を実感したらしい。言霊はあまりに大きすぎる効果の危険性から、多用すべきでないとされる能力だから、それも当然か。

「……なぜ、それほどまで、お怒りに……?」

 これまでの威勢のよさがすっかり削がれ、リリアンがアークの機嫌を窺うように尋ねてくる。これでようやく尋問が進められそうだ。

「先ほども言ったはずだが、お前は奥宮の主になることはないのだから、立ち入りは許されないことだった。俺の番を攻撃しようとしたこともだ。……番相手でなくとも、王城内で攻撃魔法を放ったこと自体が重罪だが」
「……わたくしは、竜族で」
「それは理由にならんと言っただろう。一つ覚えのようにその言葉を繰り返しているが、お前自身、本当にそれで納得されると思っているのか?」
「ですが……わたくしは……竜族で……アーク様の、こんやくしゃで……?」

 次第に虚ろな目になっていくリリアンを、アークは冷静に観察した。
 洗脳や魅了などの魔法にかけられた者特有の反応に見える。やはりそうなのか、と胸中で嘆息しながら、アークはリリアンに手を伸ばした。
 リリアンの額に人差し指を当て、軽く魔力を流す。

「……お前に、そう思い込ませたのは、誰だ?」
「わたくし、に……?」

 パチリと目を瞬かせたリリアンが、記憶を辿るように途切れつつも呟く。アークがリリアンに掛けたのは、自白剤のような効果を持つ魔法だ。

「――わたくしは、誇り高き、竜族。魔王の番に、相応しい姫。誰もが、そう言っていて、わたくしも、それを当然だと、思っているわ……」
「そうか。それで?」

 アークは眉を顰めて、苛立ちを抑えながら、話の続きを促した。

「でも、アーク様に……ができたと、聞いたの。みな、わたくしを、憐れんだわ。なんて、なんて、屈辱的な……!」

 不意に、リリアンの目に憤りが浮かぶ。声にも力が籠っていた。
 途中、空白となった言葉は『番』だろう。スノウについて語るのを、言霊で禁じた結果だ。

 リリアンは、アークに番ができたことを悲しむより、周囲に憐れまれたことへの怒りが先だったのか。
 そこから、リリアンのアークへの愛情の程度を察するが、今は指摘を控える。所詮、リリアンは魔王の番という名誉欲に取り憑かれていただけなのだ。

「――唯一、侍女がわたくしに寄り添ってくれた。わたくしを慰めるために、旅行にも連れ出してくれて」
「旅行? どこに行ったんだ」
「ジーオンよ。人間の国との貿易が盛んな場所で。とても素敵なものがあって楽しかったわ。魔力濃度が薄いのは辟易したけれど」

 報告にあった竜族は、やはりリリアンで間違いなさそうだ。

「そこで人間と話したな? 何を言われた?」
「何を……? あぁ……とても、素敵な人に出会ったの。魔王の番になるための、方法を教えてくれたのよ――」

 リリアンが陶酔した様子で語る。その後に続いた言葉に、アークは目を見開いて、拳を握りしめた。

感想 55

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。