雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

文字の大きさ
61 / 224
三章.雪豹の青年

88.雪豹の青年とエピローグ

しおりを挟む
 ロウエンに教えてもらいながら、慣れない仕事をこなす。スノウに任されたのは、まだアークのスケジュール管理と書類の分別くらいだけれど、数が多いから大変だ。

「スノウ、休憩にしよう?」
「まだ終わってないの……」

 スノウを膝上に乗せようと、手を伸ばしてくるアークを躱す。
 未分別の書類がまだ一山残っていた。任されたからには、ちゃんと終わらせてから休憩に入りたい。それにそうしないと、分別の後に書類を確認するアークの仕事も遅れることになる。

「……もっと仲良く過ごせると思ったのに。スノウは真面目すぎる」
「イチャイチャするのは、時と場合を考えないとダメって、ロウエンが言ってたよ。アーク、もうちょっと待っていてね」
「……しっかりしすぎるのも問題だな」

 ムッと顔を顰めるアークの言葉を聞いて、スノウは書類の陰で笑みを噛み殺した。

 共に仕事をするようになって、アークに抱いていた印象が少し変わった。
 カッコいいのは変わらないけれど、ちょっとわがままで、子どもっぽいところもあるのだと分かったのだ。

 これはスノウが大人になったからそう感じるのかもしれないし、関係性が子どもの頃とは変わったことが影響している可能性もある。
 やはり発情期を共に過ごしたことは、番の関係として大きな出来事だった。

「んっ!? ちょっ、アーク、ダメだってば――!」

 不意に腰に巻きついた腕に、力強く引き寄せられた。アークの胸に手をついて身体を支えながら、噛みつくように口付けてくるアークに必死に抗議する。
 困ったことに、真面目に仕事をしているスノウに、アークが我慢ならなくなることは度々あった。

「んんっ……ぁ、ふぁ……アーク、まだ、ダメ!」

 なんとか顔を反らしてキスから逃れ、アークの唇に手のひらを押しつけて塞ぐと、不満そうな目がスノウを見下ろした。

「……スノウは、仕事と俺、どっちが大切なんだ」
「なに、それ……ふふっ。アークのことが大切に決まってるでしょ」

 まさかの質問に、スノウは吹き出すように笑ってしまう。

 アークは嫉妬深い。番なら当然だと言われたけれど、スノウより断然独占欲が強いと思う。
 スノウがたくさんの人に見られるのを嫌がるし、城の外に出すのも基本的に拒む。たまに出掛けるのは、アークとデートをするときだけ。

 その嫉妬深さは嫌いではないし、愛情の強さゆえだと分かっているから嬉しいくらいだけれど。仕事にまで嫉妬するとは思わなかった。
 本来なら、そんな思いを抱くのは、スノウの方だと思うけれど。

(仕方ないなぁ――)

 大好きで、カッコ良くて、頼りになって、強くて、自慢になる、スノウの愛しい番。唯一の運命。これから先、死す時まで共に過ごすはずの人。
 最近、アークのことがひどく可愛らしく感じられて、心が温かくなる。頭をなでなでして、望むこと全部を叶えてあげたくなる。
 アークの方が、スノウよりうんと年上なのは分かっているのに、甘やかしたいのだ。

「アーク」
「なんだ?」

 スノウに笑われて、ちょっと不機嫌そうなアークの頬を撫でる。

「アークがお仕事ちゃんと頑張ったら、夜は僕が頑張るね!」
「っ! ……言ったな?」

 アークは驚いて目を丸くした後、ニヤッと笑った。目に喜色が浮かんでいる。分かりやすく上機嫌だ。

 スノウは忍び笑って、『やっぱり可愛いなぁ』と思う。
 アークは番なのだから、スノウを好きにしたって誰も文句は言わないだろうに、いつだってスノウの意思を優先してくれる。その上で、ベッドで睦み合うことを、なによりも喜んでくれるのだ。

 スノウもアークとベッドで仲良く過ごすのが好きだ。恥ずかしいし疲れるけれど、アークの愛情をこれでもかと感じるから。
 ただ一つ問題なのは、アークの体力がありすぎること。スノウの体力では、アークが満足しきる前に疲れ果ててしまうことが多い。

(体力つけたいなぁ)

 最近の悩みについて考えていたところで、ロウエンが執務室に入ってきた。寄り添うスノウたちを見て、呆れた顔をしている。
 こんな場面を見られるのは、これで何回目だろうか。そんな風に思うくらい、アークがスノウに悪戯してくることが多いのだ。

「またですか。時と場合を考えてくださいと、言いましたよね?」
「分かった分かった」

 睨まれたアークが適当に返しながら、スノウの頬にキスを落とす。

「スノウ、愛してる。夜が楽しみだ」
「……うん、僕も愛してる。でも、夜はほどほどにしてね?」
「さて? スノウが頑張ってくれると言ったからなぁ」

 惚けたように言いながら離れていくアークを見て、スノウは再び笑う。

 たくさん一緒に過ごせて、愛情をいっぱい感じて、スノウは幸せだ。幼い頃、母と別れたばかりの頃には、考えたこともなかった生活だけれど。もう、アークがいない人生なんて考えられない。

(本当に、僕は幸せ者だ。……愛しい番。一生、アークの傍にいたい――)

 アークと共にいることが、スノウの唯一にして絶対の望み。アークがいなければ、スノウは今ここにいないのだから。
 既に幸せで満ち足りているけれど、一つだけさらに望むとするなら――。



「……アーク、僕、そろそろ赤ちゃんほしいな」
「ングッ、ゴホッ……突然、何を……」
「おやまぁ……」

 顔を僅かに赤くして、スノウを見つめてくるアークに微笑む。ロウエンが揶揄混じりの目を向けてきていることは気にならなかった。

「アークとたくさんの家族を作りたいんだよ!」

 スノウのアークとの幸せはまだ始まったばかり。きっとこれからも、泣きたくなるくらい幸せな日々が、スノウたちを待っているのだ。



――――――

これにて、本編完結とさせていただきます!
後日談や続編などを書くかもしれません。お気づきの際は、再びお付き合いいただけましたら幸いです……(*´ω`*)

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。