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続.雪豹くんと魔王さま
2-2.新たな始まり②
臙脂色の重厚な絨毯が敷かれた魔王の執務室。
アークの腕を引っ張って来たスノウを出迎えたのは、いつもと変わらない表情のロウエンだ。
白い肌に赤い目。吸血鬼族特有の見た目を怖がる人は多いようだけれど、スノウは結構好きだ。特に純粋な赤の瞳は、紅玉のようで美しい。
「おはようございます、陛下、スノウ様」
「ロウエンさんもおはよう」
「ああ。何か問題は起きていないな?」
いい子に挨拶したスノウとは違い、アークが頷きだけを返すので、ロウエンは少し呆れた顔になる。
「アーク、挨拶はちゃんとしないといけないんだよ」
「ロウエンはそんなことを気にする性格ではないぞ?」
「礼儀の問題なの。親しい間柄だからって、おざなりにしていいってわけじゃないと思う。これから先、僕たちの子どもが生まれた時に、子どもたちがアークの真似をしたせいで、『礼儀がなってなーい!』って怒られたら可哀想でしょ?」
執務椅子に座ったアークの前に、書類を並べながら真剣に注意する。
スノウはこの城に来てからたくさんの魔族に甘やかされて育ったけれど、礼儀の面で陰口を叩く者がいたのを知っている。だから、一生懸命に学んだ。
これから生まれてくる子どもにも、きちんと礼儀を守った振る舞いをしてもらいたいと思っている。眉を顰められるより、好かれる方がいいに決まっているから。
「こ、こども……」
「おやおや。陛下を固まらせることができるのは、スノウ様だけですねぇ」
僅かに頬を赤くしたアークを横目に眺め、ロウエンがフォッフォッフォと特有の笑い声を上げる。
スノウはきょとんと目を丸くして、首を傾げた。
「どうしてお顔が赤くなっているの? 僕、子どもがほしいって、何度も言っているよね?」
「そうですな。ただ、スノウ様の言葉に現実味を感じて、妄想を羽ばたかせてしまっただけでしょう」
「妄想……アークも、子どもほしいってことだね? じゃあ、がんばろうよ!」
これまで言質を得られていなかったので、ここぞとばかりにねだってみる。
スノウが抱きついて顔を覗き込むと、アークは「あー……」と声をこぼしながら、目を逸らした。
「――もう少し、二人の時間を楽しんでもいいんじゃ」
「やーだ! 子どもができた後でも、二人の時間は持てるよ。僕は雪豹の子をいい子いい子って可愛がりたい! あ、竜族の子でも可愛いがるよ? 母様が僕にしてくれたみたいに、いっぱい愛情を注ぐんだ」
アークのいつもの言葉を遮って、さらに一押し。
スノウとアークの子どもは、雪豹族か竜族か、どちらかの性質を受け継ぐことになる。雪豹の血族の多くを失ったスノウは、当然自分で雪豹族を増やしたい。
でも、子どもがアークと同じ竜族であっても、同じくらい可愛がれる自信があった。どんな種族であっても、スノウの子であることに間違いはないのだから。
「いっぱい愛情……だから、嫌なんだが……」
アークが顔を顰める。その理由が分からなくて、スノウはアークの眉間の皺を指先で伸ばしながら首を傾げた。
「子どもに冷たいのは、親としてダメじゃない?」
「竜族なら普通だ。でも、雪豹族は子に対しての愛情が大きすぎる。番が俺以外を愛している姿なんて見たくない……」
つまりは、アークは子に嫉妬しているということだ。まだ生まれてきてもいないのに、気が早いことである。
「……アークが一番好きだもん」
「子どもは二番目?」
「……同率で一番」
「嫌だ」
ものすごく端的な言葉で拒否されてしまった。アークは不機嫌そうな顔だ。これでは、子どもを作ることに同意をもらえない。
スノウは困ってしまって、アークを宥めるように頬にキスをした。
「ねーえ。僕、子どもほしいよ~。きっと可愛いよ~? アークを愛してるから、子どもがほしいんだよ?」
「雪豹を増やしたいからじゃないのか?」
「それもある。……あ」
反射的に頷いてしまった。アークが「ほら、やっぱり。スノウは絶対、子どもが生まれたら俺のことなんて放って、子どもばかり可愛がる」と拗ねてそっぽを向いた。
ここから説得するのは難しそうだ。場を仕切り直した方がいいかもしれない。
「子育ての経験がないのですから、お二人の話は想像ばかりでしょう。ここは、経験者に話を聞きに行ってみては?」
不意にロウエンが口を開いた。黙々と書類を片付けていたようだったけれど、スノウたちの会話を聞いていたらしい。同じ部屋にいるのだから、聞こうとしなくても耳に入ってくるだろうけれど。
「経験者って誰のこと?」
「……白狼の里に行けというのか」
スノウとアークが同時に呟く。スノウはアークをパッと振り向いて、笑みを浮かべた。
「おばあ様のところ! 行く! 行きたい! おばあ様にお話聞こうよ」
「ぐっ……」
首元に抱きつくと、力が強すぎて少し締めてしまったようだ。慌てて力を抜きながら、精一杯アークに甘える。
「ねぇ、行こう? 前に、行くって約束してくれたもん。行くよね?」
「だが……」
「陛下、約束を破る男は誠意に欠けますよ。スノウ様に嫌われても、私はフォローしませんからね」
渋るアークに、ロウエンがトドメを刺した。
アークは「スノウに、嫌われる……嫌われる……嫌われる……」と生気を失った声で繰り返す。
「……連れて行ってくれるなら、僕、アークのこと嫌わないよ?」
「よし、行こう。今すぐ行こう」
パッと表情を変えて、断言したアークに、スノウは笑ってしまった。
言葉の威力がすごい。その効果は分かっていても、スノウがそれを利用することはほとんどないけれど。だって、アークがショックを受けている姿はあまり見たくないから。
「ついでに、スノウ様の里帰りもして来られたらどうです?」
「え?」
ロウエンから放たれた提案に、スノウは目を丸くした。
アークの腕を引っ張って来たスノウを出迎えたのは、いつもと変わらない表情のロウエンだ。
白い肌に赤い目。吸血鬼族特有の見た目を怖がる人は多いようだけれど、スノウは結構好きだ。特に純粋な赤の瞳は、紅玉のようで美しい。
「おはようございます、陛下、スノウ様」
「ロウエンさんもおはよう」
「ああ。何か問題は起きていないな?」
いい子に挨拶したスノウとは違い、アークが頷きだけを返すので、ロウエンは少し呆れた顔になる。
「アーク、挨拶はちゃんとしないといけないんだよ」
「ロウエンはそんなことを気にする性格ではないぞ?」
「礼儀の問題なの。親しい間柄だからって、おざなりにしていいってわけじゃないと思う。これから先、僕たちの子どもが生まれた時に、子どもたちがアークの真似をしたせいで、『礼儀がなってなーい!』って怒られたら可哀想でしょ?」
執務椅子に座ったアークの前に、書類を並べながら真剣に注意する。
スノウはこの城に来てからたくさんの魔族に甘やかされて育ったけれど、礼儀の面で陰口を叩く者がいたのを知っている。だから、一生懸命に学んだ。
これから生まれてくる子どもにも、きちんと礼儀を守った振る舞いをしてもらいたいと思っている。眉を顰められるより、好かれる方がいいに決まっているから。
「こ、こども……」
「おやおや。陛下を固まらせることができるのは、スノウ様だけですねぇ」
僅かに頬を赤くしたアークを横目に眺め、ロウエンがフォッフォッフォと特有の笑い声を上げる。
スノウはきょとんと目を丸くして、首を傾げた。
「どうしてお顔が赤くなっているの? 僕、子どもがほしいって、何度も言っているよね?」
「そうですな。ただ、スノウ様の言葉に現実味を感じて、妄想を羽ばたかせてしまっただけでしょう」
「妄想……アークも、子どもほしいってことだね? じゃあ、がんばろうよ!」
これまで言質を得られていなかったので、ここぞとばかりにねだってみる。
スノウが抱きついて顔を覗き込むと、アークは「あー……」と声をこぼしながら、目を逸らした。
「――もう少し、二人の時間を楽しんでもいいんじゃ」
「やーだ! 子どもができた後でも、二人の時間は持てるよ。僕は雪豹の子をいい子いい子って可愛がりたい! あ、竜族の子でも可愛いがるよ? 母様が僕にしてくれたみたいに、いっぱい愛情を注ぐんだ」
アークのいつもの言葉を遮って、さらに一押し。
スノウとアークの子どもは、雪豹族か竜族か、どちらかの性質を受け継ぐことになる。雪豹の血族の多くを失ったスノウは、当然自分で雪豹族を増やしたい。
でも、子どもがアークと同じ竜族であっても、同じくらい可愛がれる自信があった。どんな種族であっても、スノウの子であることに間違いはないのだから。
「いっぱい愛情……だから、嫌なんだが……」
アークが顔を顰める。その理由が分からなくて、スノウはアークの眉間の皺を指先で伸ばしながら首を傾げた。
「子どもに冷たいのは、親としてダメじゃない?」
「竜族なら普通だ。でも、雪豹族は子に対しての愛情が大きすぎる。番が俺以外を愛している姿なんて見たくない……」
つまりは、アークは子に嫉妬しているということだ。まだ生まれてきてもいないのに、気が早いことである。
「……アークが一番好きだもん」
「子どもは二番目?」
「……同率で一番」
「嫌だ」
ものすごく端的な言葉で拒否されてしまった。アークは不機嫌そうな顔だ。これでは、子どもを作ることに同意をもらえない。
スノウは困ってしまって、アークを宥めるように頬にキスをした。
「ねーえ。僕、子どもほしいよ~。きっと可愛いよ~? アークを愛してるから、子どもがほしいんだよ?」
「雪豹を増やしたいからじゃないのか?」
「それもある。……あ」
反射的に頷いてしまった。アークが「ほら、やっぱり。スノウは絶対、子どもが生まれたら俺のことなんて放って、子どもばかり可愛がる」と拗ねてそっぽを向いた。
ここから説得するのは難しそうだ。場を仕切り直した方がいいかもしれない。
「子育ての経験がないのですから、お二人の話は想像ばかりでしょう。ここは、経験者に話を聞きに行ってみては?」
不意にロウエンが口を開いた。黙々と書類を片付けていたようだったけれど、スノウたちの会話を聞いていたらしい。同じ部屋にいるのだから、聞こうとしなくても耳に入ってくるだろうけれど。
「経験者って誰のこと?」
「……白狼の里に行けというのか」
スノウとアークが同時に呟く。スノウはアークをパッと振り向いて、笑みを浮かべた。
「おばあ様のところ! 行く! 行きたい! おばあ様にお話聞こうよ」
「ぐっ……」
首元に抱きつくと、力が強すぎて少し締めてしまったようだ。慌てて力を抜きながら、精一杯アークに甘える。
「ねぇ、行こう? 前に、行くって約束してくれたもん。行くよね?」
「だが……」
「陛下、約束を破る男は誠意に欠けますよ。スノウ様に嫌われても、私はフォローしませんからね」
渋るアークに、ロウエンがトドメを刺した。
アークは「スノウに、嫌われる……嫌われる……嫌われる……」と生気を失った声で繰り返す。
「……連れて行ってくれるなら、僕、アークのこと嫌わないよ?」
「よし、行こう。今すぐ行こう」
パッと表情を変えて、断言したアークに、スノウは笑ってしまった。
言葉の威力がすごい。その効果は分かっていても、スノウがそれを利用することはほとんどないけれど。だって、アークがショックを受けている姿はあまり見たくないから。
「ついでに、スノウ様の里帰りもして来られたらどうです?」
「え?」
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