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続.雪豹くんと魔王さま
2-14.白狼の里へ⑤
荒れた天気は一晩続いた。
スノウはアークの腕に包まれていたから健やかな眠りだったけれど、それを守る立場の吸血鬼族たちは気が気ではなかっただろう。
「今日の出発はどうだ?」
「白狼の里に着くまでは小康状態を保ってくれるものと思われます」
「この嵐が何者かに引き起こされた形跡はあったか?」
「いえ。おそらく季節外れの大荒れにあたってしまっただけかと」
離れたところで吸血鬼族の一人から報告を受けていたアークの表情が僅かに和らぐ。
スノウはもぐもぐとポテトサラダを頬張りながら、その顔をじっと見つめた。
小声で交される会話を聞くと、アークたちは今回の嵐が何者かに引き起こされた可能性を危惧していたらしい。おそらくそのような可能性が思い浮かぶような事前情報があったのだろう。
(僕、全然聞いてない……。秘密にしなくたっていいのに)
耳が僅かに垂れる。
アークに大切にされているからこそ、仲間はずれにされているのだと分かっている。でも、信頼し合う番なのだから、心配事があるならば情報の共有をしてほしい。
「そうか。では、今日はこのまま白狼の里に向かう。昼頃には着けるようにしたい。里の周辺では特に警戒を怠るな」
「かしこまりました。お任せください」
頭を下げて吸血鬼族が立ち去る。早速出発の準備に向かったようだ。
スノウは隣に戻ってきたアークに抱きついた。
「アーク。白狼の里の周りで何かあるの?」
「っ、聞こえていたか……」
「雪豹はね、結構耳がいいんだよ」
驚くアークに、スノウは自分の耳を指し示した。
中まで毛で覆われているように見えるが、雪豹は獲物が雪を踏む僅かな音も聞き逃さないほど耳がいいのだ。少し離れた程度の距離ならば、会話を聞き逃すことはない。だいぶ集中力に依存しているけれど。
「ふわふわで可愛い耳は、高性能だったんだな」
にこりと笑ったアークが、ぱくりとスノウの耳を唇で挟む。
「みっ!? や、だめ……むずむずしちゃう……!」
耳はスノウの弱点でもあった。
食まれたところから刺激が走り、スノウは思わず身体を揺らして抵抗する。離れようとしても、あっさりと手を捕まえられて抱き込まれてしまってどうしようもない。
「スノウの甘い声は耳心地がいい」
耳に注ぎ込むようにアークの低い声が囁きかける。
その声の方が甘くて、スノウの理性がとろとろと蕩けてしまいそうだ。でも、これからすぐに出発するのだから、アークの誘惑に負けるわけにはいかない。
「やぁだ。めっ! というか、僕の質問を誤魔化してない?」
なんとか耳を逃がして、アークを軽く睨む。スノウの質問に答えたくないからこそ、戯れてはぐらかしているように思えてならなかった。
アークはスノウの不満を察してか、眉尻を下げて困った顔をする。チラリとルイスの方に視線を走らせているけれど、ルイスがアークを助太刀することはなかった。
「……誤魔化したわけではないが。知ったら、スノウは心配してしまうのではないかと思ってな」
「心配? 白狼の里に、何か危険なことが起こっているの?」
アークの予想通り、それを示唆されただけでスノウの心に不安が襲ってくる。
苦笑したアークがスノウを安心させるように頬を撫でた。
「白狼の里が襲われたという話はない。ただ不審な者が周囲をうろついているらしいと報告があったんだ」
「アークでも感知できない相手ってこと?」
最悪の想像が頭を過っていたから、それはないと知り安堵した。でも、アークの能力を知っているスノウとしては疑問も残る。
不可解だと言葉だけでなく表情でも示したスノウに、アークが肩をすくめた。
「そうだな。俺は直接情報を得てはいない。だから、不審な者だと考えているんだ」
「そっか……。もしかして、この旅の予定がすぐに決まったのは、それをアークが直接確かめるためでもあるの?」
「ああ。白狼の里ではスノウにも協力してもらいたいんだが、頼めるか?」
「僕が?」
唐突な頼みに、スノウは目を丸くした。
アークがこのようにスノウを頼ってきたのは初めてであるような気がする。じわじわと心が浮足立つような嬉しさが湧き上がってきた。
支え合う番として、スノウがアークのために何かできるというのが嬉しい。
特に今回は、スノウが知る唯一の同族が住む白狼の里に関わる話だ。幼少期に同族のために何もできずに生き残ったスノウとしては、なおさら気合いが入る。
「――もちろん! なんでも言ってよ。僕、すっごく頑張るから!」
耳がピンと立ち、尻尾が揺れる。
戦闘意欲を示すようなその姿を、アークが微笑んで見つめた。
「なんでも、とは強気な発言だな?」
「それくらいやる気があるってことだよ」
「夜のことでも?」
予想もしない言葉にスノウは一瞬きょとんとした。でも、すぐにその意味に気づき、怒るよりも呆れる。
「……アーク、最近そういうことばっかり言ってるよ。僕は、白狼の里の問題について頑張るの」
「残念。まだ番ってそう日が経っていないんだから、もっと甘々なふれあいを望んだって呆れられることではないんだがな」
「それはそれで頑張るけど――それより今は本題! 僕は何を協力すればいいの?」
スノウは首を傾げながら尋ねる。
そんなスノウのキラキラと輝いた瞳を見下ろしたアークは、肩をすくめて口を開く。真面目に話す気になったようだ。
「排他的な白狼の里内での情報集めだな。スノウの祖父母のラトやナイトを介してならできるはずだ」
「……それだけ?」
「ああ。……言っておくが、本当に白狼族は排他的なんだぞ? ナイトはあまりそんな感じがしなかったかもしれないが」
「そうなんだ……」
幼い頃に会った祖母のラトと祖父のナイトの姿を思い浮かべる。
同じ雪豹族のラトと同じくらい、白狼族のナイトもスノウを可愛がってくれた記憶しかない。
排他的というのがどんな感じなのかいまいち想像できないけれど、答える言葉は最初から決まっている。
「――分かった! 僕、お話聞くの頑張るね」
スノウはアークの腕に包まれていたから健やかな眠りだったけれど、それを守る立場の吸血鬼族たちは気が気ではなかっただろう。
「今日の出発はどうだ?」
「白狼の里に着くまでは小康状態を保ってくれるものと思われます」
「この嵐が何者かに引き起こされた形跡はあったか?」
「いえ。おそらく季節外れの大荒れにあたってしまっただけかと」
離れたところで吸血鬼族の一人から報告を受けていたアークの表情が僅かに和らぐ。
スノウはもぐもぐとポテトサラダを頬張りながら、その顔をじっと見つめた。
小声で交される会話を聞くと、アークたちは今回の嵐が何者かに引き起こされた可能性を危惧していたらしい。おそらくそのような可能性が思い浮かぶような事前情報があったのだろう。
(僕、全然聞いてない……。秘密にしなくたっていいのに)
耳が僅かに垂れる。
アークに大切にされているからこそ、仲間はずれにされているのだと分かっている。でも、信頼し合う番なのだから、心配事があるならば情報の共有をしてほしい。
「そうか。では、今日はこのまま白狼の里に向かう。昼頃には着けるようにしたい。里の周辺では特に警戒を怠るな」
「かしこまりました。お任せください」
頭を下げて吸血鬼族が立ち去る。早速出発の準備に向かったようだ。
スノウは隣に戻ってきたアークに抱きついた。
「アーク。白狼の里の周りで何かあるの?」
「っ、聞こえていたか……」
「雪豹はね、結構耳がいいんだよ」
驚くアークに、スノウは自分の耳を指し示した。
中まで毛で覆われているように見えるが、雪豹は獲物が雪を踏む僅かな音も聞き逃さないほど耳がいいのだ。少し離れた程度の距離ならば、会話を聞き逃すことはない。だいぶ集中力に依存しているけれど。
「ふわふわで可愛い耳は、高性能だったんだな」
にこりと笑ったアークが、ぱくりとスノウの耳を唇で挟む。
「みっ!? や、だめ……むずむずしちゃう……!」
耳はスノウの弱点でもあった。
食まれたところから刺激が走り、スノウは思わず身体を揺らして抵抗する。離れようとしても、あっさりと手を捕まえられて抱き込まれてしまってどうしようもない。
「スノウの甘い声は耳心地がいい」
耳に注ぎ込むようにアークの低い声が囁きかける。
その声の方が甘くて、スノウの理性がとろとろと蕩けてしまいそうだ。でも、これからすぐに出発するのだから、アークの誘惑に負けるわけにはいかない。
「やぁだ。めっ! というか、僕の質問を誤魔化してない?」
なんとか耳を逃がして、アークを軽く睨む。スノウの質問に答えたくないからこそ、戯れてはぐらかしているように思えてならなかった。
アークはスノウの不満を察してか、眉尻を下げて困った顔をする。チラリとルイスの方に視線を走らせているけれど、ルイスがアークを助太刀することはなかった。
「……誤魔化したわけではないが。知ったら、スノウは心配してしまうのではないかと思ってな」
「心配? 白狼の里に、何か危険なことが起こっているの?」
アークの予想通り、それを示唆されただけでスノウの心に不安が襲ってくる。
苦笑したアークがスノウを安心させるように頬を撫でた。
「白狼の里が襲われたという話はない。ただ不審な者が周囲をうろついているらしいと報告があったんだ」
「アークでも感知できない相手ってこと?」
最悪の想像が頭を過っていたから、それはないと知り安堵した。でも、アークの能力を知っているスノウとしては疑問も残る。
不可解だと言葉だけでなく表情でも示したスノウに、アークが肩をすくめた。
「そうだな。俺は直接情報を得てはいない。だから、不審な者だと考えているんだ」
「そっか……。もしかして、この旅の予定がすぐに決まったのは、それをアークが直接確かめるためでもあるの?」
「ああ。白狼の里ではスノウにも協力してもらいたいんだが、頼めるか?」
「僕が?」
唐突な頼みに、スノウは目を丸くした。
アークがこのようにスノウを頼ってきたのは初めてであるような気がする。じわじわと心が浮足立つような嬉しさが湧き上がってきた。
支え合う番として、スノウがアークのために何かできるというのが嬉しい。
特に今回は、スノウが知る唯一の同族が住む白狼の里に関わる話だ。幼少期に同族のために何もできずに生き残ったスノウとしては、なおさら気合いが入る。
「――もちろん! なんでも言ってよ。僕、すっごく頑張るから!」
耳がピンと立ち、尻尾が揺れる。
戦闘意欲を示すようなその姿を、アークが微笑んで見つめた。
「なんでも、とは強気な発言だな?」
「それくらいやる気があるってことだよ」
「夜のことでも?」
予想もしない言葉にスノウは一瞬きょとんとした。でも、すぐにその意味に気づき、怒るよりも呆れる。
「……アーク、最近そういうことばっかり言ってるよ。僕は、白狼の里の問題について頑張るの」
「残念。まだ番ってそう日が経っていないんだから、もっと甘々なふれあいを望んだって呆れられることではないんだがな」
「それはそれで頑張るけど――それより今は本題! 僕は何を協力すればいいの?」
スノウは首を傾げながら尋ねる。
そんなスノウのキラキラと輝いた瞳を見下ろしたアークは、肩をすくめて口を開く。真面目に話す気になったようだ。
「排他的な白狼の里内での情報集めだな。スノウの祖父母のラトやナイトを介してならできるはずだ」
「……それだけ?」
「ああ。……言っておくが、本当に白狼族は排他的なんだぞ? ナイトはあまりそんな感じがしなかったかもしれないが」
「そうなんだ……」
幼い頃に会った祖母のラトと祖父のナイトの姿を思い浮かべる。
同じ雪豹族のラトと同じくらい、白狼族のナイトもスノウを可愛がってくれた記憶しかない。
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