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続.雪豹くんと魔王さま
2-28.白狼の里の光⑤
時々降る雨に邪魔されながら、なんとか日が沈む前に氷の屋根が出来上がった。
里の上空を覆う一面の氷は壮観な眺めだ。冬の間は気温が低いから、雨に溶かされることなく里を守ってくれるだろう。溶けてきたらラトが補修することになっているし。
「うぅ……」
里を守る屋根を作る立役者になったスノウは、白狼たちが賑やかに宴会をしている声をよそに、宿泊場所となった一軒の家の中で呻きながら寝転がっていた。
恐ろしい雨からようやく解放された白狼たちが、楽しく酒を飲みご飯を食べられているのは喜ばしい。寝込んでいた者たちもアークによって回復し、宴会に参加できているというのは、スノウも嬉しいことだ。
完全に問題が解決されたわけではないにしろ、ずっと緊張状態が続けば、思わぬミスもしかねないから、本当に喜ぶべきことだ。
それなのに、スノウはベッドに臥している。宴会に参加することができない。
「……スノウ、無理をしたな」
温かい手がスノウの頬を撫でた。
瞼をこじ開けると、心配そうな顔をしたアークが顔を覗き込んでいる。
「ちょっと、自分の力を見誤っちゃった……」
てへへ、と小さく笑いながら茶化してみるけれど、アークの表情は和らがない。アークの方こそつらそうな顔に見えた。
スノウが寝込んでいるのは、魔力の過剰使用によるものだ。
普段、スノウが連続して大量の魔法を使うことはない。アークに付き添ってもらいながら狩りをする際でも、必要最低限の魔法を使ったら即城に帰還という流れになるからだ。
今回初めて大量に魔力を使ったことで、産生量より使用量の方が大幅に上回ってしまった。
枯渇したわけではないけれど、魔力産生機能に大幅に負荷がかかり、魔力の回復に障害が生じている。
つまりは、スノウは現在魔力減少で寝込んでいるのだ。
原因は違うけれど、白狼たちが寝込んでいたのと似たような症状である。
「白狼さんたちが、宴会できるようになってよかった……」
話を逸らして呟くと、アークの目が僅かに細められる。
頬に添えられた手から、少しずつ魔力が流れ込んでくるのが心地よい。
急激な魔力量の変動は身体に負担をかけるから、口移しで水を与えるようにゆっくりと魔力を注いでくれているのだ。
「あいつらは、スノウが寝込んでいると知って、宴を取りやめようとしていたがな」
「え、それは駄目だよ! 久しぶりの宴会だって言ってたのに」
「スノウが無理をするからだぞ」
コツンと額が指先で叩かれる。
優しい咎め方に、スノウは緩みそうになる口元を必死に引き締めた。
「――偵察に出た白狼たちも、無事吸血鬼族が回収してきた。治療は済ませてあるし、誰も欠けていない」
「そう……それは良かった」
スノウは瞼の重さに逆らえず、目を瞑った。
誰も欠けず、明日を迎えられるなら、それ以上に喜ばしいことはない。
いつ襲われるかも知れない状況で、日常の喜びを噛みしめることは、白狼たちが生きていくための大きな糧となるだろう。宴会はその一つである。
「族長も正式に俺に協力を願うことを決めた。ほとんどの白狼がその決定に従う」
「あ、そうなんだ……それじゃあ、同族同士で争うことにはならないんだね……」
頬が緩む。そうなることを願っていたので、ホッと安堵した。
「ナイトが手を貸してくれたようだ。彼は白狼族の中でも人望が篤い。補佐とナイトを敵に回すのは上策ではないと、早々に悟ったらしいぞ」
「おじい様が……。元気になったみたいで良かった」
「その代わりのようにスノウが寝込んでいるから、少し怒っていたけどな」
再び咎められてしまった。心配ゆえだと分かっているけれど、こうも何度も言われてしまうとスノウも少し不満になってしまう。
「……僕、がんばったのに……」
「そうだな。でも、頑張りすぎたんだろう。連れ帰ってきた吸血鬼族が青い顔をしていたぞ。俺も血の気が引いたが」
スノウは作業が終わる頃に迎えに来た吸血鬼族の顔を思い出す。アークが言う通りの顔をしていた。
すぐさま抱え上げられてこの家に寝かされたけれど、その慌てように少し申し訳なさを感じる。
「悪いこと、しちゃったなぁ……。アークも、心配かけて、ごめんね……」
重い腕を動かして、スノウの頬に添えられているアークの手を撫でる。
話しながらも絶えず魔力を注ぎ込んでくれているアークは、ぐったりとしているスノウを見てどれほど恐怖を覚えただろうか。
スノウは自分に置き換えて考えて、心から反省した。
「……今後は、こういうのはなしだぞ」
「うん、気をつける……」
ため息混じりに許してもらって、スノウは小さく頷いた。
もうこんな心配をかけたくない。だって、同じ失敗を繰り返してしまったら、信頼を損なってしまう気がするから。
アークはスノウを守ってくれる。それと同じくらいの強さで、スノウもアークを守りたいと思っている。
信頼が損なわれたら、そんな関係性すら失われてしまいかねない。
「――アーク、キスして……」
ふと恋しさを覚えて、無意識で言葉がこぼれ落ちていた。
少し息を飲むような気配の後、唇に温かなものが触れる。その優しく慰撫するような感触が嬉しくて、スノウは口元を綻ばせた。
里の上空を覆う一面の氷は壮観な眺めだ。冬の間は気温が低いから、雨に溶かされることなく里を守ってくれるだろう。溶けてきたらラトが補修することになっているし。
「うぅ……」
里を守る屋根を作る立役者になったスノウは、白狼たちが賑やかに宴会をしている声をよそに、宿泊場所となった一軒の家の中で呻きながら寝転がっていた。
恐ろしい雨からようやく解放された白狼たちが、楽しく酒を飲みご飯を食べられているのは喜ばしい。寝込んでいた者たちもアークによって回復し、宴会に参加できているというのは、スノウも嬉しいことだ。
完全に問題が解決されたわけではないにしろ、ずっと緊張状態が続けば、思わぬミスもしかねないから、本当に喜ぶべきことだ。
それなのに、スノウはベッドに臥している。宴会に参加することができない。
「……スノウ、無理をしたな」
温かい手がスノウの頬を撫でた。
瞼をこじ開けると、心配そうな顔をしたアークが顔を覗き込んでいる。
「ちょっと、自分の力を見誤っちゃった……」
てへへ、と小さく笑いながら茶化してみるけれど、アークの表情は和らがない。アークの方こそつらそうな顔に見えた。
スノウが寝込んでいるのは、魔力の過剰使用によるものだ。
普段、スノウが連続して大量の魔法を使うことはない。アークに付き添ってもらいながら狩りをする際でも、必要最低限の魔法を使ったら即城に帰還という流れになるからだ。
今回初めて大量に魔力を使ったことで、産生量より使用量の方が大幅に上回ってしまった。
枯渇したわけではないけれど、魔力産生機能に大幅に負荷がかかり、魔力の回復に障害が生じている。
つまりは、スノウは現在魔力減少で寝込んでいるのだ。
原因は違うけれど、白狼たちが寝込んでいたのと似たような症状である。
「白狼さんたちが、宴会できるようになってよかった……」
話を逸らして呟くと、アークの目が僅かに細められる。
頬に添えられた手から、少しずつ魔力が流れ込んでくるのが心地よい。
急激な魔力量の変動は身体に負担をかけるから、口移しで水を与えるようにゆっくりと魔力を注いでくれているのだ。
「あいつらは、スノウが寝込んでいると知って、宴を取りやめようとしていたがな」
「え、それは駄目だよ! 久しぶりの宴会だって言ってたのに」
「スノウが無理をするからだぞ」
コツンと額が指先で叩かれる。
優しい咎め方に、スノウは緩みそうになる口元を必死に引き締めた。
「――偵察に出た白狼たちも、無事吸血鬼族が回収してきた。治療は済ませてあるし、誰も欠けていない」
「そう……それは良かった」
スノウは瞼の重さに逆らえず、目を瞑った。
誰も欠けず、明日を迎えられるなら、それ以上に喜ばしいことはない。
いつ襲われるかも知れない状況で、日常の喜びを噛みしめることは、白狼たちが生きていくための大きな糧となるだろう。宴会はその一つである。
「族長も正式に俺に協力を願うことを決めた。ほとんどの白狼がその決定に従う」
「あ、そうなんだ……それじゃあ、同族同士で争うことにはならないんだね……」
頬が緩む。そうなることを願っていたので、ホッと安堵した。
「ナイトが手を貸してくれたようだ。彼は白狼族の中でも人望が篤い。補佐とナイトを敵に回すのは上策ではないと、早々に悟ったらしいぞ」
「おじい様が……。元気になったみたいで良かった」
「その代わりのようにスノウが寝込んでいるから、少し怒っていたけどな」
再び咎められてしまった。心配ゆえだと分かっているけれど、こうも何度も言われてしまうとスノウも少し不満になってしまう。
「……僕、がんばったのに……」
「そうだな。でも、頑張りすぎたんだろう。連れ帰ってきた吸血鬼族が青い顔をしていたぞ。俺も血の気が引いたが」
スノウは作業が終わる頃に迎えに来た吸血鬼族の顔を思い出す。アークが言う通りの顔をしていた。
すぐさま抱え上げられてこの家に寝かされたけれど、その慌てように少し申し訳なさを感じる。
「悪いこと、しちゃったなぁ……。アークも、心配かけて、ごめんね……」
重い腕を動かして、スノウの頬に添えられているアークの手を撫でる。
話しながらも絶えず魔力を注ぎ込んでくれているアークは、ぐったりとしているスノウを見てどれほど恐怖を覚えただろうか。
スノウは自分に置き換えて考えて、心から反省した。
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「うん、気をつける……」
ため息混じりに許してもらって、スノウは小さく頷いた。
もうこんな心配をかけたくない。だって、同じ失敗を繰り返してしまったら、信頼を損なってしまう気がするから。
アークはスノウを守ってくれる。それと同じくらいの強さで、スノウもアークを守りたいと思っている。
信頼が損なわれたら、そんな関係性すら失われてしまいかねない。
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