雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続.雪豹くんと魔王さま

2-33.襲い来るもの③

 無限に湧いてくるように見えた泥人形にも終わりがあったらしい。
 吸血鬼族が後方を一掃すると、泥まみれになった森が広がっていた。動くものの気配はない。

「――最後は俺だー!」

 近寄ってきていた一体を白狼が倒す。
 いつの間にか雨もやみ、静寂が訪れた。

「追加は来そうにないな。……そいつの治療をしよう」

 アークが肩をすくめ、脇に寄せられていた白狼に向き合う。
 結局、戦いを終えて負傷者となったのは、最初の一人だけだった。他の場所でも被害は特にないようだという報告がきている。

「……い、らね、ぇっ!」
「ほう? では、自己治癒でなんとかする、と?」

 白狼が呻くように言った。その顔は青ざめ、呼吸が浅い。見るからにつらそうだ。
 それなのに、なぜアークの手を拒もうとするのか。

(そこまで、体面を重視するの? 僕たちがよそ者だから?)

 スノウはムスッとしながら口を固く閉ざした。緩めば文句が飛び出してしまいそうだ。そんなことになれば、この白狼はさらに意固地になり、治療を拒むだろう。

「……リダ。いい加減、勝手はやめたらどうだ。お前は族長の息子といっても、俺たちと同じく若い白狼でしかないんだぞ。族長は魔王陛下に助力を願うと決断した。お前が陛下に反抗しようとする行動は、白狼族の総意に反する」

 セイローが苦々しい口調で言った。周りの白狼たちも、同意するように頷く。
 先程の戦闘を通して、彼らの中でアークへの仲間意識が芽生えたように見える。戦闘種族だからこその、絆の育み方だろうか。

 こうした変化が明確だからこそ、リダと呼ばれた白狼の意固地さが際立って見えた。

「セイロー……貴様、俺が、ただの白狼だと……!?」
「当然のことしか言っていない。族長は世襲ではないのだ。信頼できない者に一族を任せるほど、俺たちが暗愚だとでも思っているのか?」

 セイローが心底不思議そうに尋ねる。
 その言動がリダを煽っているように見えて、スノウはハラハラした。
 プライドが高い相手にそんなことを言ったらどうなるか、結果は深く考えるまでもなく目に見えている。

「っ……俺が、この一族を、率いるんだっ! 邪魔するなっ」

 リダがギロッとアークを睨んだ。
 そこでなぜセイローではなくアークに宣言するのか、スノウはまったく理解できない。八つ当たりのように思えて、不快感がこみ上げてくる。

(この人、勝手なことばっかり。アークは何も悪いことしてないもん……)

 不意に背中がポンと軽く叩かれた。軽く腰を抱かれて、温もりに寄り添う。
 アークの顔は泰然としていて、リダの反抗なんてまったく気に留めていないのが伝わってきた。

「俺は誰が白狼の族長になるかなんて興味はないが。――治療を受けないと言うならば、好きにするといい。無理強いするつもりはない」

 そう言うと、リダへの関心をなくしたように、アークが視線を逸らす。

「陛下……申し訳――」
「謝罪はいらない。白狼族の総意はすでに受け取っている。それに背くものへの対処は、そちらに一任する。俺は現在起きている問題に対処するだけだ」

 セイローに告げると、アークは里の外に眺めた。
 時刻は昼を過ぎている。でも、雨雲が空を覆い、まるで夕刻のような薄暗さだ。

「陛下、再度、森に調査に行きましょうか」
「いや。すでにこの襲撃のからくりは分かった。人間を探そうとしてもこの近くにはいないだろう。……ここから一番近い街はどこだ」
「サイハリです。混合種の街で、時に人間との交易も行われています。人間の足では、ここから四日はかかる距離ですが」
「そうか。では、そこに調査を出せ。おそらく、仕掛けを用意した者がいるはずだ。人間は一人残らず荷物を確かめ、不審な物がないか探せ」
「承知いたしました。すぐに」

 スノウを含め、多くの白狼族がきょとんとしながらその会話を見守る。
 からくりが分かったとはどういうことだろう。

 他の場所から戻ってきていた吸血鬼族たちと共に話し合い、二人が空へ飛んでいく。近くの街を調査するのだろう。

「ねぇ、アーク、からくりってなぁに? 人間が襲ってくることはないってこと?」
「当面はそうだろうな」

 アークの腕を掴んで揺すり、答えをねだる。
 そのスノウの仕草が子どもっぽく見えたのか、アークが微笑ましげに目を細めながらスノウの頭を撫でた。

「……僕、子どもじゃないんだよ」
「そうだな。だが、俺の愛しい番だ」

 額にキスされて、スノウはプイッと顔を背けた。
 頬が熱い。たくさんの白狼たちが生温かい目で見ているのを感じて、なんだか恥ずかしくていたたまれない気持ちになる。

「――さて、とりあえず、同じような襲撃がないようにしておこうか」

 アークが表情を改めて、森に向き直った。
 前方を薙ぐように手を動かす。ふわりと清浄な空気が一帯に広がったように感じた。

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