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続.雪豹くんと魔王さま
2-48.雪豹の里④
温かい家の中。
ルイスが用意してくれたホットココアを両手で包み込む。優しい甘さと温もりが心地よい。
「――母様に抱きしめられたら、アークの声が聞こえたの。振り返ったら、母様いなくなっちゃった」
夢みたいな時間のことを話し終える。
静かに耳を傾けていたアークは「そうか」と呟いて、目を細めて考え込んだ。
「良い時間が過ごせたみたいですねー。私は心臓が飛び出る思いでしたけど。――あ、私、心臓ないんでした」
ルイスがスノウがいなくなったことを知った後のことを、臨場感満載で語り始める。
どうやら慌てすぎて家を飛び出そうとしたらしい。アークに止められて、家の中で待機することになったようだけれど。
心配をかけたのは申し訳なかったな、と思うと同時に、ルイスの言葉が頭に引っかかった。
「ルイス、心臓ないの?」
「あ、気にするの、そこですか? ないですよ。私、スライムですから。輪切りにして、体内見てみます?」
「やだ」
なんということを言うのか。
ルイスの人型が形を真似ただけに過ぎないことは知っているけれど、中身なんてみたくない。たとえスライムに分裂機能があって、輪切り程度はまったく問題がないのだとしても。
「ルイス。俺のスノウに汚いものを見せるな」
「お言葉ですが、私を輪切りにしたところで中にあるのはスライム体ですよ? 汚くないです!」
「存在がけがらわしい」
「ひどくないですか!?」
アークの言葉に、ルイスがわざとらしく衝撃を受けた様子で「よよよ……」と泣き崩れる真似をした。
アークは一切気にしていないようだけれど、スノウはちょっと可哀想になる。
「大丈夫だよ。ルイス、ぷるぷるで透き通ってるよ。水みたいだよ」
「……ありがとうございます? あんまり褒められた気はしないですけど、スノウ様の優しさが身にしみました……」
どうして? 頑張って褒めたのに。
首を傾げるスノウの横で、アークが「うるさい、黙れ」と呟いた。今日のアークはルイスに冷たい。
「――そこのおしゃべりはともかく」
「はーい、おしゃべりでーす! むぐっ!?」
アークが指を振ったら、ルイスの口が縫い付けられたように閉ざされた。何かもごもごと言いたげにしているけれど、どうしようもない。
スノウはルイスを苦笑して眺めた。
ルイスはもう少しアークの機嫌のことを考えたら良かったのに。騒がしさで感傷した気分も霧散して、ちょうどよかったのかもしれないけれど。
「……スノウを連れて行ったのは、おそらく祈りの魔法の効果だな」
「祈りの魔法? って、なに……?」
きょとんと瞬きをする。
スノウは雪豹として水や氷を操る魔法に長けている。でも、それ以外の魔法に関しての知識は無に等しい。
「失われた魔法の一つだ。昨今では観測されていないとも言い換えられるが」
アークが苦い口調で言う。
スノウは眉間に寄ったシワに指先で触れた。
アークがどうして苦しそうな、悲しい顔をしているのか分からない。でも、そんな顔をしてほしくないと思った。
「――祈りの魔法は、命を対価にした守護の魔法だと言われているんだ」
スノウの指先を手で包み込み、アークがポツリと呟く。
苦しそうだけれど、慈しみのある目で見つめられて、スノウは息を呑んだ。その言葉の意味がようやく少し理解できた。
「命を、対価……。つまり、母様たちが、死ぬ前に、自分たちの命を対価に、何かを守ろうとしたっていうこと……?」
途切れがちに言葉を紡ぐ。
何か、と言ったけれど、その正体はスノウが一番よく分かっていた。
きゅ、と胸を締めつけられるような心地がする。
たくさんの愛情が自分を包みこんでくれていたことを自覚した。
「雪豹の里が襲われた時、このあたり一帯は魔力が消失している状態だった。だから、祈りの魔法が効果を発揮したのは、魔力が戻ってきてから」
「……みんなの魔法が、僕を守ってくれていたの?」
一人ぼっちで隠れていたとき。スノウが人間に見つからなかったのは、みんなの魔法のおかげなのだろうか。もしかして、スノウはずっと一人ではなかったのだろうか。
スン、と鼻が鳴る。目頭が熱くて、ぎゅっと目を瞑った。
たくさんの顔が脳裏に浮かぶ。みんな笑顔で、スノウを優しく見守ってくれていた。
「……どうだろう。そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。だが、一つ確実なことがある」
「なぁに……?」
震える声で尋ねる。
アークにそっと抱き寄せられて、胸元に頬をすりつけた。優しくて力強い腕がスノウを温めてくれる。
「実は吸血鬼族からある報告が上がっていた。雪豹の里に不審なものが現れる、と」
「さっき、言っていたやつだね」
「ああ。隠していて悪かった。何も分からない内から、スノウを不安にさせたり傷つけたりするのは嫌だったんだ」
「……んーん。これから教えてくれるなら許すよ」
「ふ、ありがとう」
アークにぎゅっと抱きついて呟く。
スノウの少し不満な気持ちが伝わったのか、アークが抱きしめ返してなだめるように身体を揺らした。ゆりかごみたいだ。
「――その不審なものの正体は、おそらく彷徨っていた雪豹たちの思いが具現化したものだったんだろう。魔法の力が行き場を失っていたとも言えるな」
「んん? ……よく分かんない」
アークの話は難しい。
顔をしかめるスノウに、アークは再び微笑んで、言葉を探すように視線を彷徨わせた。
ルイスが用意してくれたホットココアを両手で包み込む。優しい甘さと温もりが心地よい。
「――母様に抱きしめられたら、アークの声が聞こえたの。振り返ったら、母様いなくなっちゃった」
夢みたいな時間のことを話し終える。
静かに耳を傾けていたアークは「そうか」と呟いて、目を細めて考え込んだ。
「良い時間が過ごせたみたいですねー。私は心臓が飛び出る思いでしたけど。――あ、私、心臓ないんでした」
ルイスがスノウがいなくなったことを知った後のことを、臨場感満載で語り始める。
どうやら慌てすぎて家を飛び出そうとしたらしい。アークに止められて、家の中で待機することになったようだけれど。
心配をかけたのは申し訳なかったな、と思うと同時に、ルイスの言葉が頭に引っかかった。
「ルイス、心臓ないの?」
「あ、気にするの、そこですか? ないですよ。私、スライムですから。輪切りにして、体内見てみます?」
「やだ」
なんということを言うのか。
ルイスの人型が形を真似ただけに過ぎないことは知っているけれど、中身なんてみたくない。たとえスライムに分裂機能があって、輪切り程度はまったく問題がないのだとしても。
「ルイス。俺のスノウに汚いものを見せるな」
「お言葉ですが、私を輪切りにしたところで中にあるのはスライム体ですよ? 汚くないです!」
「存在がけがらわしい」
「ひどくないですか!?」
アークの言葉に、ルイスがわざとらしく衝撃を受けた様子で「よよよ……」と泣き崩れる真似をした。
アークは一切気にしていないようだけれど、スノウはちょっと可哀想になる。
「大丈夫だよ。ルイス、ぷるぷるで透き通ってるよ。水みたいだよ」
「……ありがとうございます? あんまり褒められた気はしないですけど、スノウ様の優しさが身にしみました……」
どうして? 頑張って褒めたのに。
首を傾げるスノウの横で、アークが「うるさい、黙れ」と呟いた。今日のアークはルイスに冷たい。
「――そこのおしゃべりはともかく」
「はーい、おしゃべりでーす! むぐっ!?」
アークが指を振ったら、ルイスの口が縫い付けられたように閉ざされた。何かもごもごと言いたげにしているけれど、どうしようもない。
スノウはルイスを苦笑して眺めた。
ルイスはもう少しアークの機嫌のことを考えたら良かったのに。騒がしさで感傷した気分も霧散して、ちょうどよかったのかもしれないけれど。
「……スノウを連れて行ったのは、おそらく祈りの魔法の効果だな」
「祈りの魔法? って、なに……?」
きょとんと瞬きをする。
スノウは雪豹として水や氷を操る魔法に長けている。でも、それ以外の魔法に関しての知識は無に等しい。
「失われた魔法の一つだ。昨今では観測されていないとも言い換えられるが」
アークが苦い口調で言う。
スノウは眉間に寄ったシワに指先で触れた。
アークがどうして苦しそうな、悲しい顔をしているのか分からない。でも、そんな顔をしてほしくないと思った。
「――祈りの魔法は、命を対価にした守護の魔法だと言われているんだ」
スノウの指先を手で包み込み、アークがポツリと呟く。
苦しそうだけれど、慈しみのある目で見つめられて、スノウは息を呑んだ。その言葉の意味がようやく少し理解できた。
「命を、対価……。つまり、母様たちが、死ぬ前に、自分たちの命を対価に、何かを守ろうとしたっていうこと……?」
途切れがちに言葉を紡ぐ。
何か、と言ったけれど、その正体はスノウが一番よく分かっていた。
きゅ、と胸を締めつけられるような心地がする。
たくさんの愛情が自分を包みこんでくれていたことを自覚した。
「雪豹の里が襲われた時、このあたり一帯は魔力が消失している状態だった。だから、祈りの魔法が効果を発揮したのは、魔力が戻ってきてから」
「……みんなの魔法が、僕を守ってくれていたの?」
一人ぼっちで隠れていたとき。スノウが人間に見つからなかったのは、みんなの魔法のおかげなのだろうか。もしかして、スノウはずっと一人ではなかったのだろうか。
スン、と鼻が鳴る。目頭が熱くて、ぎゅっと目を瞑った。
たくさんの顔が脳裏に浮かぶ。みんな笑顔で、スノウを優しく見守ってくれていた。
「……どうだろう。そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。だが、一つ確実なことがある」
「なぁに……?」
震える声で尋ねる。
アークにそっと抱き寄せられて、胸元に頬をすりつけた。優しくて力強い腕がスノウを温めてくれる。
「実は吸血鬼族からある報告が上がっていた。雪豹の里に不審なものが現れる、と」
「さっき、言っていたやつだね」
「ああ。隠していて悪かった。何も分からない内から、スノウを不安にさせたり傷つけたりするのは嫌だったんだ」
「……んーん。これから教えてくれるなら許すよ」
「ふ、ありがとう」
アークにぎゅっと抱きついて呟く。
スノウの少し不満な気持ちが伝わったのか、アークが抱きしめ返してなだめるように身体を揺らした。ゆりかごみたいだ。
「――その不審なものの正体は、おそらく彷徨っていた雪豹たちの思いが具現化したものだったんだろう。魔法の力が行き場を失っていたとも言えるな」
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