雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-1.準備は万端?

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 本格的な冬支度を終えた私室で、スノウはクッションの山に埋もれるように寝転んでいた。

「う~ん……?」

 今日の秘書としての仕事はおしまい。
 旅に出ている間に溜まった執務は、あとはアークの確認を残すばかり。それが大変なのは、連日夜遅くまで執務をしているアークの姿を見ているから、スノウも十分わかっている。

 とはいえ、スノウができる仕事は少なくて、こうして部屋でダラダラと過ごしているのだ。

 ラトたちが居てくれたら良かったのだけれど、二人は準備を指示したらすぐに白狼の里に帰ってしまった。寂しい。
 白狼の里は人間の策で被害を受けていたから、ゆっくりしていられないのは分かるけれど。

「あー……うん? ここが、こうで……」
「スノウ様、何を見ていらっしゃるのですか?」

 ぐい、と首を伸ばすようにして、ルイスがスノウの手元を覗き込んできた。

「――月日帳? 陛下の予定の確認、というわけではなさそうですが」
「うん。僕の日記代わりの手帳だよ」

 マス目が書かれた紙には日付と一言コメントが書かれている。
 スノウは一日の終わりに、これに日記を書き残しているのだ。忘れていることもあるから、毎日というわけではないのだけれど。

「なるほど。ですが、そのわりに、なにかお悩みのご様子ですね?」
「そうなの。僕の前の発情期、いつだったかなぁって思って」
「……あぁ、そういうことですか」
「僕が日記を書いていないこのあたりの頃だったと思うんだけどね」

 手帳で示したのは、三ヶ月前のページだ。一週間ほど何も書かれていない。
 ただ、こうして書いていない期間はしばしばあるので、正確とはいえないのだ。

「そこで合っていますよ」
「あ、そうなの?」
「はい。私も記録を取っていますからね」

 そう言いながら、ルイスが手帳を取り出す。
 ペラペラとめくり、「やっぱり合ってます」と太鼓判を押した。

「……ルイス、僕の発情期の記録を取ってるの?」
「ええ。もちろん、行為の詳細ではありませんよ? 日付と体調だけです。お付きの者として、絶対に把握していなければならないことですからね」
「そうなんだ……?」

 胸を張って言うルイスに、スノウは曖昧に返事をする。
 どうしてルイスがスノウの発情期を把握していなければならないのか、いまいち理解できなかった。

「スノウ様がお外で発情期を迎えることにならないよう、私が注意しなければなりませんからね。……まぁ、いち早く陛下がお気づきになるでしょうが」
「ん……そっか。発情期になると、自分のこともよく分からなくなるもんね。お外にいて怪我しちゃったら大変だ」

 ふらふらとして階段から落ちたり、薔薇の生け垣に激突したり、外は様々な危険に満ちている。

 スノウは頷いて、「ルイス、僕のこと気遣ってくれてありがとう」と伝えた。ルイスはなぜだか、なんとも言い難い表情をしていたけれど。

「……そういうのもありますが、それより他人に発情している番を見られた陛下のお怒りが――」
「あ、そうだ! ここが前の発情期なら、もう一週間もしないうちに、次の発情期がくるよね?」

 手帳を見て月日を数えたスノウは、ガバッと身体を起こしてルイスを見つめた。
 その勢いに驚いたのか、ルイスはピタリと口を閉ざして目を白黒させる。

 なにか言っていた気がしたけれど、言葉を続けないということは大した話ではなかったのだろう。

「……次の発情期……ええ、一週間ほどですね。周期通りにピッタリと来るとは限りませんが。あ、寝具の新調とか、なにかご要望がございますか?」

 ルイスがいそいそと別の手帳を取り出した。それはスノウの購入予定品リストだ。

 魔王の番であるスノウには毎月番手当というものが支給されている。そのやりくりをするのはルイスの役目だ。
 といっても、毎月多額を持ち越していて、「そろそろ屋敷が買えそうですが、別邸なんていりますか?」なんて遠い目をしていることがある。

「寝具はいらないけど、卵をいれる籠とかふわふわした毛皮とかはほしいかも」
「……卵の配達でもするんですか? 防寒には毛皮もいいですね」
「どうして僕の卵を配達するの? ベッドの傍に置くんだよ」
「え?」
「うん?」

 なぜかルイスと見つめ合う。
 ルイスは次第に目を見開いて唇を震わせ始めた。

「――ま、まさか、もう妊娠していらっしゃる!?」
「違うけど」
「ですよね」

 すぐ落ち着いた。ルイスのテンションの乱高下に、スノウはたまについていけなくなる。

「――ということは、これからの準備のために?」
「もちろん。次の発情期でできるか分からないけど、アークが結構前向きになってくれたから」

 自然と頬が緩む。
 旅先の白狼の里で、スノウはアークからようやく了解をもらった。ラトが亡くなる前に子作りを、という微妙な前向きさだったけれど、期待くらいはしてもいいだろう。

「そうですか。あれだけ押されれば、陛下といえども、押し負けますよねぇ。陛下だからこそとも言えますが」
「僕、頑張った!」

 スノウはにこりと笑う。ルイスも楽しそうな笑みを浮かべた。
 頑張ったのは間違いない。言い過ぎて、アークが嫌気が差すことがなくて良かった。

「そうした準備はラト様が整えてくださっておりますから、スノウ様が気にされなくても大丈夫ですよ?」
「あ、そうなの? どういうもの?」

 ラトがいろいろと手はずを整えてくれたという報告はあった。でも、秘書としての仕事が忙しかったので、スノウはきちんと確認できていない。

 スノウが問いかけると、ルイスは別の手帳を取り出した。
 どうでもいいけれど、いくつ持ち歩いているのだろう。
 本体がスライムのルイスは、体内にも様々なものを収納できるらしいので、見た目にそぐわない量の荷物を常に持ち運んでいるようだ。

「卵の揺りかご。包む布。産卵時に必要な道具も一揃いありますね。卵から孵った後の揺りかごやベッドは、都度スノウ様たちのご要望を聞きながら用意する予定です」
「本当に揃ってる。ありがたいなぁ……」

 ラトの姿を思い出す。
 次の発情期で子どもができるようなら、思いがけないくらい早く再会できるかもしれない。

「……今必要なのは、陛下が次の発情期をゆっくり過ごすために執務を片付けられるよう祈ることでしょうね」
「それは確かに」

 アークの執務机に積み上がった書類を思い出して、スノウは思わず真顔になった。
 あの量、一週間で片付くのかな。

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