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続.雪豹くんと魔王さま
2-52.安心する場所
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パタパタと絨毯を蹴る。
魔王城に帰り着き、ラトたちを客間に通した後、スノウはアークを引きずるようにして進んだ。
「スノウ。そんな急がなくたって、あいつは逃げないぞ」
「久しぶりなんだから、早く会いたいんだよ」
「……あいつに嬉々として会いたがるのはスノウくらいだろうな」
アークは少し嫌そうな顔をしていた。
その手を引きながら、スノウは「おかえりなさいませ」と声を掛けてくるみんなに笑顔を振りまく。廊下で出会う者たちは皆、スノウたちの帰りを心から喜んでくれているようだ。
心がふわふわと温かくて、口元が緩むのはどうしようもない。
スノウは見慣れた扉が見えてきて、足を早めた。
「――ロウエン! ただいま!」
「……おかえりなさいませ、スノウ様。……ついでに陛下」
開かれた扉の先で、ロウエンが目を瞬かせた後に微笑んだ。
ついで扱いされたアークは、「ほら、俺は歓迎されてない」とぼそりと呟く。
「おや、歓迎されたかったのですか? それでしたら、最大限にお喜び申し上げましょう。――執務が陛下を今か今かとお待ちでしたよ」
「言うと思った。だから、来たくなかったんだ……」
嘘っぽいほどに完璧な笑みを浮かべたロウエンが示すのは、執務机の上の大量の書類だ。スノウがいまだかつて見たことがないほどの高い山が形成されている。
アークは聞こえないふりをするように、そっぽを向いた。
気乗りしない様子だった理由が分かって、スノウは苦笑するしかない。
「スノウ様には感謝いたします。まさかお帰りになってすぐに執務にとりかかっていただけるとは、思っていませんでした」
「そういうつもりではなかったんだけど……」
スノウが想像していた出迎え方と違う。でも、これがロウエンらしいのかもしれないと思えば、笑いがこみ上げてきた。
「――ふふ……やっぱり、アークがいないと執務が溜まっちゃうね。魔王様ってすごいよ」
「ただ単に、ロウエンがさぼっていただけだと思うが」
書類をめくったアークが僅かに目を細めた。そのまま、『差し戻し』と書かれたボックスに放り投げているところを見るに、よほど検討に値しない内容だったようだ。
「私だって忙しかったのですよ。人間の国への対処を指揮しなければなりませんでしたし。……雪豹の里の方は平穏に済んだようで良かったですね」
「……ああ」
執務椅子に腰掛けたアークに抱き寄せられて、スノウは膝の上に座る。まだ執務を開始するわけではないようだから、この体勢でもいいのかな。
アークの肩に頭を預け、手遊び代わりに書類をめくった。
(……あ、これ、計算間違い。こっちは届け先間違ってる)
気になったら手が止まらない。次々に書類を仕分け始めた。
そんなスノウを横目に、アークとロウエンの会話は続く。
「人間の方はどうなった?」
「まだ現地に辿り着いてもいませんよ。一ヶ月もしないうちに、実行犯の国は崩壊させますが」
「帝国は?」
「そちらも準備を行っています」
アークとロウエンが視線を交わす。
スノウはそのやりとりをちらりと見て、すぐに忘れることにした。
この会話はスノウが関わることではない。
「……アーク、仕分け終わったよ!」
「ありがとう。スノウは優秀だな」
「えへへ……これくらい、もう慣れたものだもの」
頭を撫でられて頬が緩む。ついでにじわじわと安堵感が身体に満ちた。
気づいていなかったけれど、スノウはだいぶ気を張り詰めていたみたいだ。慣れた場所でアークに寄り添っていたら、眠気が押し寄せてくる。
「……いろいろあったし、疲れも溜まっただろう。暫くゆっくり休もう」
「でも――」
「大丈夫だ。……ここは安全だから」
「……そうだね」
額に口づけられて、スノウは大人しく目を伏せた。
たくさんの学びがあった旅。
楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、全てこれからの糧にする。
旅に出る前よりも、一回り成長できたんじゃないかな。
「……おやすみ、スノウ。俺の愛しい番」
「ん……おやすみ、アーク。僕の大好きな番……」
ここで寝たら邪魔になると分かっていたけれど、一度眠気に襲われたらもう駄目だった。
くてり、とアークに身を預け、スノウはうとうとと微睡む。
魔王城に帰ってきて、ここがスノウの帰る場所なのだと改めて分かった。
スノウは雪豹だけれど、雪豹の里で暮らさない。
愛する番のいるここで、優しい番や仲間たちに慈しまれながら、自分らしく生きていくのだ。
「……また、明日から、お仕事がんばるからね……」
寝言のように呟いた言葉には、二つの小さな笑い声と「ありがとう」「頼りにしておりますよ」という言葉が返ってきた。
――――――
『続.雪豹くんと魔王さま』はここまで。
次回からは新しい家族編になります!
糖度マシマシになると思いますが、よろしければ引き続きお付き合いくださいませ……(人 •͈ᴗ•͈)
魔王城に帰り着き、ラトたちを客間に通した後、スノウはアークを引きずるようにして進んだ。
「スノウ。そんな急がなくたって、あいつは逃げないぞ」
「久しぶりなんだから、早く会いたいんだよ」
「……あいつに嬉々として会いたがるのはスノウくらいだろうな」
アークは少し嫌そうな顔をしていた。
その手を引きながら、スノウは「おかえりなさいませ」と声を掛けてくるみんなに笑顔を振りまく。廊下で出会う者たちは皆、スノウたちの帰りを心から喜んでくれているようだ。
心がふわふわと温かくて、口元が緩むのはどうしようもない。
スノウは見慣れた扉が見えてきて、足を早めた。
「――ロウエン! ただいま!」
「……おかえりなさいませ、スノウ様。……ついでに陛下」
開かれた扉の先で、ロウエンが目を瞬かせた後に微笑んだ。
ついで扱いされたアークは、「ほら、俺は歓迎されてない」とぼそりと呟く。
「おや、歓迎されたかったのですか? それでしたら、最大限にお喜び申し上げましょう。――執務が陛下を今か今かとお待ちでしたよ」
「言うと思った。だから、来たくなかったんだ……」
嘘っぽいほどに完璧な笑みを浮かべたロウエンが示すのは、執務机の上の大量の書類だ。スノウがいまだかつて見たことがないほどの高い山が形成されている。
アークは聞こえないふりをするように、そっぽを向いた。
気乗りしない様子だった理由が分かって、スノウは苦笑するしかない。
「スノウ様には感謝いたします。まさかお帰りになってすぐに執務にとりかかっていただけるとは、思っていませんでした」
「そういうつもりではなかったんだけど……」
スノウが想像していた出迎え方と違う。でも、これがロウエンらしいのかもしれないと思えば、笑いがこみ上げてきた。
「――ふふ……やっぱり、アークがいないと執務が溜まっちゃうね。魔王様ってすごいよ」
「ただ単に、ロウエンがさぼっていただけだと思うが」
書類をめくったアークが僅かに目を細めた。そのまま、『差し戻し』と書かれたボックスに放り投げているところを見るに、よほど検討に値しない内容だったようだ。
「私だって忙しかったのですよ。人間の国への対処を指揮しなければなりませんでしたし。……雪豹の里の方は平穏に済んだようで良かったですね」
「……ああ」
執務椅子に腰掛けたアークに抱き寄せられて、スノウは膝の上に座る。まだ執務を開始するわけではないようだから、この体勢でもいいのかな。
アークの肩に頭を預け、手遊び代わりに書類をめくった。
(……あ、これ、計算間違い。こっちは届け先間違ってる)
気になったら手が止まらない。次々に書類を仕分け始めた。
そんなスノウを横目に、アークとロウエンの会話は続く。
「人間の方はどうなった?」
「まだ現地に辿り着いてもいませんよ。一ヶ月もしないうちに、実行犯の国は崩壊させますが」
「帝国は?」
「そちらも準備を行っています」
アークとロウエンが視線を交わす。
スノウはそのやりとりをちらりと見て、すぐに忘れることにした。
この会話はスノウが関わることではない。
「……アーク、仕分け終わったよ!」
「ありがとう。スノウは優秀だな」
「えへへ……これくらい、もう慣れたものだもの」
頭を撫でられて頬が緩む。ついでにじわじわと安堵感が身体に満ちた。
気づいていなかったけれど、スノウはだいぶ気を張り詰めていたみたいだ。慣れた場所でアークに寄り添っていたら、眠気が押し寄せてくる。
「……いろいろあったし、疲れも溜まっただろう。暫くゆっくり休もう」
「でも――」
「大丈夫だ。……ここは安全だから」
「……そうだね」
額に口づけられて、スノウは大人しく目を伏せた。
たくさんの学びがあった旅。
楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、全てこれからの糧にする。
旅に出る前よりも、一回り成長できたんじゃないかな。
「……おやすみ、スノウ。俺の愛しい番」
「ん……おやすみ、アーク。僕の大好きな番……」
ここで寝たら邪魔になると分かっていたけれど、一度眠気に襲われたらもう駄目だった。
くてり、とアークに身を預け、スノウはうとうとと微睡む。
魔王城に帰ってきて、ここがスノウの帰る場所なのだと改めて分かった。
スノウは雪豹だけれど、雪豹の里で暮らさない。
愛する番のいるここで、優しい番や仲間たちに慈しまれながら、自分らしく生きていくのだ。
「……また、明日から、お仕事がんばるからね……」
寝言のように呟いた言葉には、二つの小さな笑い声と「ありがとう」「頼りにしておりますよ」という言葉が返ってきた。
――――――
『続.雪豹くんと魔王さま』はここまで。
次回からは新しい家族編になります!
糖度マシマシになると思いますが、よろしければ引き続きお付き合いくださいませ……(人 •͈ᴗ•͈)
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