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続々.雪豹くんと新しい家族
3-32.雪に重ねる
翌日。
スノウは計画通り、マルモの手を引いて廊下を歩いていた。
「スノウ様、今日はどちらへ?」
「ふふ、着いてからのお楽しみ! マルモの職場の人には、ちゃんと了承をもらっているから気にしないでね」
不思議そうに目を瞬かせるマルモの姿はあどけない。スノウより年上のはずなのだけれど。
「――マルモって、いくつ?」
「年齢ですか? 今年二十六になります」
獣人としては結婚適齢期ということか。
そういえば、ロウエンは何歳なのだろう。竜族のアークと同じく、吸血鬼族は長命のはずだ。戦争も経験していると言うし、アークより歳上な印象がある。
「ロウエンさんがいくつか知ってる?」
「宰相様……多分三百は超えていると思いますが……」
「さんびゃく……」
なるほど、とっても年上。
アークとスノウも年の差はあるし、種族の違う番なら、これくらいは問題ない……はず。
うんうん、と頷くスノウを、マルモは首を傾げて見守っていた。
考え込んでいるのを邪魔しないのは、とても謙虚で気遣い上手だ。スノウはやっぱりマルモのことが好きだと思う。ロウエンと上手くいってほしい。
「スノウ様、通り過ぎてしまいますよ」
「あっ、と……ルイス、教えてくれてありがとう」
こそっと囁かれて、方向転換。
庭へと続く扉を開く。てくてくと歩くと、生け垣が前方を遮っていた。スノウは気にせず、生け垣の途中にある戸に手を伸ばす。
「スノウ様、この先は陛下のお許しがなければ、入ってはならない場所ですよ」
クイッと微かな力で手が引かれた。マルモの足が止まっている。その顔は少し緊張で強張っていた。
魔王のプライベート空間に足を踏み入れるのは、ただの城務めには精神的に厳しいらしい。
「大丈夫だよ。許可もらってるからね」
「ですが……」
渋るマルモを宥めすかし、なんとか戸をくぐる。
第一関門突破! まさかここで止まってしまうとは思っていなかったのだけれど。
子どもの頃からアークの傍で育ってきたスノウでは気づけなかった障害だった。
アークの庭をロウエンとの出会いの場に選んだのは、邪魔されないようにするため。
ロウエンはアークと同じくらい注目を浴びている人だから、マルモと話しているところを誰かに見られたら、大きな騒ぎになりかねない。それがマルモに危険を及ぼす可能性を考えると、必要な配慮だ。
「今はね、椿っていうお花が咲いているんだよ。一緒に見よう」
この情報をスノウにもたらしたのはルイスだ。
運命的な出会いを彩るのに、美しい花々は欠かせないらしい。ルイスの愛読書である恋愛小説から学んだことだとか。
「椿、ですか。雪の中でのお花見も風情がありますね」
緊張しながらもマルモが微笑む。
咲いているのは椿だけではないのだけれど、それは見てのお楽しみ。
「うん。雪は積もっているけど、今日は日差しがあって暖かいね。お花見日和だ」
「そうですね。スノウ様はとても雪がお似合いになります。でも、春のような温かさも感じて、なんだかホッとします」
振り返ると、マルモが眩しそうに目を細めていた。
スノウはなんだか照れくさくなって、頬を擦る。
「マルモも、雪が似合うよ。儚い感じがするけど」
「儚い……。そうですね。私もいずれ、雪のように溶けて消えるのでしょう。それが誰かの心に残るなら本望ですが」
マルモが遠くを眺める。
諦念と寂しさが滲む言葉が悲しくて、スノウは唇を噛んだ。スノウがどんな言葉を掛けても、マルモには届かない気がする。
「……消えちゃ、嫌だよ」
小さく呟いた言葉に、マルモが微笑む。
大好きなマルモだけれど、その儚げな笑みは嫌いだ。マルモにはもっと幸せな笑みが似合う。
(ロウエンさんなら、マルモを幸せにできるかな)
マルモだけでなく、ロウエンも複雑な事情を背負っている。彼らの関係が一筋縄ではいかないことを、スノウは理解していた。
でも、望まずにはいられない。
(二人がつつがなく上手くいきますように――)
前を向くスノウの視界に、赤い花が映る。
その近くでは、濃いピンクの花が密やかな香りを放っていた。
スノウは計画通り、マルモの手を引いて廊下を歩いていた。
「スノウ様、今日はどちらへ?」
「ふふ、着いてからのお楽しみ! マルモの職場の人には、ちゃんと了承をもらっているから気にしないでね」
不思議そうに目を瞬かせるマルモの姿はあどけない。スノウより年上のはずなのだけれど。
「――マルモって、いくつ?」
「年齢ですか? 今年二十六になります」
獣人としては結婚適齢期ということか。
そういえば、ロウエンは何歳なのだろう。竜族のアークと同じく、吸血鬼族は長命のはずだ。戦争も経験していると言うし、アークより歳上な印象がある。
「ロウエンさんがいくつか知ってる?」
「宰相様……多分三百は超えていると思いますが……」
「さんびゃく……」
なるほど、とっても年上。
アークとスノウも年の差はあるし、種族の違う番なら、これくらいは問題ない……はず。
うんうん、と頷くスノウを、マルモは首を傾げて見守っていた。
考え込んでいるのを邪魔しないのは、とても謙虚で気遣い上手だ。スノウはやっぱりマルモのことが好きだと思う。ロウエンと上手くいってほしい。
「スノウ様、通り過ぎてしまいますよ」
「あっ、と……ルイス、教えてくれてありがとう」
こそっと囁かれて、方向転換。
庭へと続く扉を開く。てくてくと歩くと、生け垣が前方を遮っていた。スノウは気にせず、生け垣の途中にある戸に手を伸ばす。
「スノウ様、この先は陛下のお許しがなければ、入ってはならない場所ですよ」
クイッと微かな力で手が引かれた。マルモの足が止まっている。その顔は少し緊張で強張っていた。
魔王のプライベート空間に足を踏み入れるのは、ただの城務めには精神的に厳しいらしい。
「大丈夫だよ。許可もらってるからね」
「ですが……」
渋るマルモを宥めすかし、なんとか戸をくぐる。
第一関門突破! まさかここで止まってしまうとは思っていなかったのだけれど。
子どもの頃からアークの傍で育ってきたスノウでは気づけなかった障害だった。
アークの庭をロウエンとの出会いの場に選んだのは、邪魔されないようにするため。
ロウエンはアークと同じくらい注目を浴びている人だから、マルモと話しているところを誰かに見られたら、大きな騒ぎになりかねない。それがマルモに危険を及ぼす可能性を考えると、必要な配慮だ。
「今はね、椿っていうお花が咲いているんだよ。一緒に見よう」
この情報をスノウにもたらしたのはルイスだ。
運命的な出会いを彩るのに、美しい花々は欠かせないらしい。ルイスの愛読書である恋愛小説から学んだことだとか。
「椿、ですか。雪の中でのお花見も風情がありますね」
緊張しながらもマルモが微笑む。
咲いているのは椿だけではないのだけれど、それは見てのお楽しみ。
「うん。雪は積もっているけど、今日は日差しがあって暖かいね。お花見日和だ」
「そうですね。スノウ様はとても雪がお似合いになります。でも、春のような温かさも感じて、なんだかホッとします」
振り返ると、マルモが眩しそうに目を細めていた。
スノウはなんだか照れくさくなって、頬を擦る。
「マルモも、雪が似合うよ。儚い感じがするけど」
「儚い……。そうですね。私もいずれ、雪のように溶けて消えるのでしょう。それが誰かの心に残るなら本望ですが」
マルモが遠くを眺める。
諦念と寂しさが滲む言葉が悲しくて、スノウは唇を噛んだ。スノウがどんな言葉を掛けても、マルモには届かない気がする。
「……消えちゃ、嫌だよ」
小さく呟いた言葉に、マルモが微笑む。
大好きなマルモだけれど、その儚げな笑みは嫌いだ。マルモにはもっと幸せな笑みが似合う。
(ロウエンさんなら、マルモを幸せにできるかな)
マルモだけでなく、ロウエンも複雑な事情を背負っている。彼らの関係が一筋縄ではいかないことを、スノウは理解していた。
でも、望まずにはいられない。
(二人がつつがなく上手くいきますように――)
前を向くスノウの視界に、赤い花が映る。
その近くでは、濃いピンクの花が密やかな香りを放っていた。
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