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続々.雪豹くんと新しい家族
3-36.つつがなく
マルモの口調からたどたどしさが薄れてきた頃。お茶会はそろそろお開きになりそうだ。ロウエンの時間を拘束する限界が来たとも言える。
「ロウエン様――」
「――あぁ、分かった」
魔王の庭に条件付きで踏み込める権利を持つ騎士が、ロウエンと何事か話している。緊急の用事ができたと考えて間違いない。
もう少し交流できるはずだったのだけれど、とスノウは少し残念な気分でロウエンと騎士が話している姿を眺めた。
「……まるで、夢のような、時間でした」
ぽつりと囁くような声。マルモがぼんやりとロウエンを見つめていた。
誰に聞かせるつもりもなかったのだろう。声の主であるマルモは、スノウの視線に気づき、ハッと口元を手で隠す。
「マルモが楽しんでくれたなら良かった」
スノウはマルモの眼差しに滲む甘い気配に気づかないふりをして、にこりと微笑んだ。
ロウエンとマルモの出会いを手助けしたけれど、彼らの今後に過度な干渉をするのは駄目だと思うから。彼らはスノウより大人で、彼らなりに考えることがあるはずだ。
もちろん、どちらかから何か相談されるなら、いくらでも手を出す気はあるけれど。
「スノウ様、申し訳ありませんが、中座させていただきます」
「うん、僕もそろそろアークのところに戻らないといけないから、お茶会はここまでにする。マルモの時間をこれ以上拘束するのもダメだしね」
騎士との話をやめたロウエンに断りを入れられて、微笑んで受け入れる。でも、見つめ返す目でマルモへの声がけを促すのは忘れない。
ロウエンはわずかに苦笑した気配で、マルモに視線を移した。
「マルモ、楽しい時間だった。ありがとう」
「っ、いえ、あの、わ、私の方こそ……!」
白磁の頬を薄紅に染め、マルモが軽く俯く。でも、その視線は一秒たりとも見逃すまいとするように、ロウエンを捉えて離さなかった。
これは運命の番の吸引力なのだろうか。
傍にいれば、視界に入れずにはいられない。そんな感覚はスノウにも覚えがある。
(あぁ……僕も、アークに早く会いたくなってきちゃった)
ふふ、と微笑みながら、スノウはマルモとロウエンのやり取りを見守った。
どうやらこの二人、また後日話す約束を交わしたようだ。マルモがロウエンに、約束を強引に取り付けられているとも言い換えられる。
どうなることかと思っていたけれど、終わってみればなかなか良い雰囲気で進んだような。
今後の展開に期待しても良さそうだ。
「で、では、私はお先に……っ」
ロウエンの圧さえ感じそうな微笑みに、マルモがたじろぎながら頭を下げて、ぴゃっと身を翻す。
マルモがロウエンとの時間を楽しんだのは間違いないけれど、それはそれとして、緊張感やドキドキに限界を感じていたらしい。スノウの許可が出た途端の、電光石火のごとく勢いだった。
「……ふ、ふふっ……まるで、肉食獣に出会ったうさぎみたい!」
スノウはマルモの姿が生け垣の奥に消えたのを見送り、思わず笑みを零した。
マルモが可愛らしくてたまらない。スノウより年上なのに。
「マルモはたぬきでしょう」
「種族はね。……ああ、でも、吸血鬼族のロウエンさんにとっては、大して変わらない?」
「そうですね。頑是ないものです。フォッフォッフォッ」
久しぶりに不思議な笑い声を聞いた。随分とロウエンに余裕が出てきたらしい。
スノウは楽しそうに笑むロウエンの顔を覗き込む。その瞳に複雑な感情は窺えるものの、心は凪いでいるように見えた。
「ロウエンさん、あまりマルモをいじめないでね」
「気をつけましょう、スノウ様のご友人ですから」
うん、と頷きロウエンと共に歩く。
アークのところまで帰ったら、スノウは医師のところに行くつもりだ。きちんと診断は受けておかないと。たぶんアークも一緒に行きがるだろう。
庭を抜け、城内を歩いて暫く。
他愛もない会話を続けるロウエンを、ふと振り仰いだ。
「そういえば、急ぎの用があったんじゃないの?」
ロウエンはスノウに見下ろし、「あぁ、それは――」と言いながら肩をすくめた。
「陛下のお気遣いですよ」
「アークの?」
言葉の意味が分からない。
パチリと目を瞬かせるスノウに対し、ロウエンは先程までいた庭の方へと視線を流した。
「ええ。……あの方は、あなたと共にあるようになってから、他人の心の機微に敏感になられたようです。そのくせそれに本人が慣れていないようだから、私まで振り回される。まったく面倒な方だ……」
愚痴るような、そのくせ喜んでいるような、よく分からない口調だった。
でも、なんとなくアークを慕っている気配は感じられたので、スノウはそれで良しとする。
マルモとロウエンの仲だけでなく、アークとロウエンの仲も、つつがなくあってほしいとスノウは願ってやまないのだ。
「ロウエン様――」
「――あぁ、分かった」
魔王の庭に条件付きで踏み込める権利を持つ騎士が、ロウエンと何事か話している。緊急の用事ができたと考えて間違いない。
もう少し交流できるはずだったのだけれど、とスノウは少し残念な気分でロウエンと騎士が話している姿を眺めた。
「……まるで、夢のような、時間でした」
ぽつりと囁くような声。マルモがぼんやりとロウエンを見つめていた。
誰に聞かせるつもりもなかったのだろう。声の主であるマルモは、スノウの視線に気づき、ハッと口元を手で隠す。
「マルモが楽しんでくれたなら良かった」
スノウはマルモの眼差しに滲む甘い気配に気づかないふりをして、にこりと微笑んだ。
ロウエンとマルモの出会いを手助けしたけれど、彼らの今後に過度な干渉をするのは駄目だと思うから。彼らはスノウより大人で、彼らなりに考えることがあるはずだ。
もちろん、どちらかから何か相談されるなら、いくらでも手を出す気はあるけれど。
「スノウ様、申し訳ありませんが、中座させていただきます」
「うん、僕もそろそろアークのところに戻らないといけないから、お茶会はここまでにする。マルモの時間をこれ以上拘束するのもダメだしね」
騎士との話をやめたロウエンに断りを入れられて、微笑んで受け入れる。でも、見つめ返す目でマルモへの声がけを促すのは忘れない。
ロウエンはわずかに苦笑した気配で、マルモに視線を移した。
「マルモ、楽しい時間だった。ありがとう」
「っ、いえ、あの、わ、私の方こそ……!」
白磁の頬を薄紅に染め、マルモが軽く俯く。でも、その視線は一秒たりとも見逃すまいとするように、ロウエンを捉えて離さなかった。
これは運命の番の吸引力なのだろうか。
傍にいれば、視界に入れずにはいられない。そんな感覚はスノウにも覚えがある。
(あぁ……僕も、アークに早く会いたくなってきちゃった)
ふふ、と微笑みながら、スノウはマルモとロウエンのやり取りを見守った。
どうやらこの二人、また後日話す約束を交わしたようだ。マルモがロウエンに、約束を強引に取り付けられているとも言い換えられる。
どうなることかと思っていたけれど、終わってみればなかなか良い雰囲気で進んだような。
今後の展開に期待しても良さそうだ。
「で、では、私はお先に……っ」
ロウエンの圧さえ感じそうな微笑みに、マルモがたじろぎながら頭を下げて、ぴゃっと身を翻す。
マルモがロウエンとの時間を楽しんだのは間違いないけれど、それはそれとして、緊張感やドキドキに限界を感じていたらしい。スノウの許可が出た途端の、電光石火のごとく勢いだった。
「……ふ、ふふっ……まるで、肉食獣に出会ったうさぎみたい!」
スノウはマルモの姿が生け垣の奥に消えたのを見送り、思わず笑みを零した。
マルモが可愛らしくてたまらない。スノウより年上なのに。
「マルモはたぬきでしょう」
「種族はね。……ああ、でも、吸血鬼族のロウエンさんにとっては、大して変わらない?」
「そうですね。頑是ないものです。フォッフォッフォッ」
久しぶりに不思議な笑い声を聞いた。随分とロウエンに余裕が出てきたらしい。
スノウは楽しそうに笑むロウエンの顔を覗き込む。その瞳に複雑な感情は窺えるものの、心は凪いでいるように見えた。
「ロウエンさん、あまりマルモをいじめないでね」
「気をつけましょう、スノウ様のご友人ですから」
うん、と頷きロウエンと共に歩く。
アークのところまで帰ったら、スノウは医師のところに行くつもりだ。きちんと診断は受けておかないと。たぶんアークも一緒に行きがるだろう。
庭を抜け、城内を歩いて暫く。
他愛もない会話を続けるロウエンを、ふと振り仰いだ。
「そういえば、急ぎの用があったんじゃないの?」
ロウエンはスノウに見下ろし、「あぁ、それは――」と言いながら肩をすくめた。
「陛下のお気遣いですよ」
「アークの?」
言葉の意味が分からない。
パチリと目を瞬かせるスノウに対し、ロウエンは先程までいた庭の方へと視線を流した。
「ええ。……あの方は、あなたと共にあるようになってから、他人の心の機微に敏感になられたようです。そのくせそれに本人が慣れていないようだから、私まで振り回される。まったく面倒な方だ……」
愚痴るような、そのくせ喜んでいるような、よく分からない口調だった。
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