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続々.雪豹くんと新しい家族
3-45.一心の愛
妊娠するって、思っていた以上に大変みたい。
スノウは、ルイスに淹れてもらったハーブティーを飲みながら、ほぅ……と息を漏らす。
これほどまでに、自分の心がままならないなんて、きっと初めてだ。毎日どころか、一分一秒ごとにころころ変わる。
その移り変わりに疲労感さえ覚えてしまうのだから、症状は重くなるばかりで。精神状態の不調に気づいてから、たった二日しか経っていないというのに、スノウは随分と悄気げてしまっていた。
たまにこうして安らげる時間が、涙が出そうなくらい貴重に感じる。
「アークも、ルイスも、ドリーも、振り回しちゃってる……」
「お気になさらず。私、お世話のしがいがあって、すごく楽しんでいますから!」
満面の笑みで放たれた言葉に、スノウはきょとりと目を丸くした後、思わず吹き出すようにして笑った。
ルイスの変わらない茶目っ気が、どれほどスノウを支えてくれていることか。
「陛下も、心配はしていますが、わがままを言われて甘えられるのを、密かに楽しんでおられますよ」
「……本当に?」
そうだろうか、と胸に呟きを落としながら、首を傾げた。
スノウに振り回されても、アークは微笑みを浮かべ、すべてを受け入れてくれる。無理して明るく振る舞う必要はない、と言いながら、ソファでうずくまるスノウを静かに撫でて過ごしてくれる。
その寄り添う優しさが心にしみて、スノウをたまらない気持ちにさせているのを、アークは気づいているだろうか。
あまりにもたくさんのものを与えられている。それに、どれほどのものを返せているのかな。
「愛しい番に甘えられて、喜ばない男なんていませんよ!」
「それは、経験談?」
「読書経験も、それにいれていいですか?」
「駄目だと思う」
真顔で言われて、思わず呆れたけれど、次第に面白くなってきた。
答えなんて分かりきっているくせに、スノウを笑わせようとしてくるルイスの剽軽さが、本当に頼りになる。
「——ルイスはさぁ……番、作らないの?」
じぃと見つめてみる。ルイスの目が丸くなるのが分かった。
「私が、番を?」
「そう。なんかスライム族は特殊みたいだけど、作れないわけじゃないんだよね?」
前に確か話を聞いたはずだ。フェロモンが薄くて、運命の番と出会うことなんて無理に近いとか、なんとか。
でも、それなら恋愛感情がありさえすれば、番を作ることは可能なはずで。
スノウは俄に、この兄のようなお世話係の恋話に、興味を覚えてしまった。
たぶん、ルイスにとってはこの上なく迷惑なことだろうと分かっていたけれど。
「……スノウ様。ものすごく嫌なところ突いてきますね!」
「ふふっ。怒らないルイス、大好き」
「私もスノウ様のこと大好きです!」
予想を少しも外れず与えられる愛情に、幼子のように包まれている自覚がある。
だいぶ大人になったと思ったのに、スノウはまだまだ甘えたのようだ。
「番かぁ……考えたことありませんでしたねぇ。スライム族でそういう概念、ありませんし。そもそも思考能力がほとんどないんですけども」
「でも、ルイスはこんなにいっぱい考えられる。ということは、なくもないでしょ?」
「限りなく無に等しいと思いますけどねぇ」
ふふ、と笑ったルイスが、そっと手を伸ばしてきたので、スノウはきょとんと瞳を瞬かせた。
壊れ物を触るように、優しい仕草で頭を撫でられて、思わずうっとりと目を細める。
「——私の中にある愛しさという感情は、今はすべてスノウ様のものなんです。他の存在なんて、入り込む余地が微塵もありません。私はスノウ様のために存在し、あなたを愛して生きていたい」
なんとも熱烈な愛の言葉だと思った。
アークに与えられるものとはまったく違い、親が子に向けるような、見返りを求めない一心の愛情だ。
「……そっか、分かった。じゃあ、もう聞かない。ルイスは全部、僕のものでいてね。……でも、好きな人ができるまででいいよ」
「まだ言いますか」
ははっと楽しそうに笑ったルイスに、スノウもふふっと笑い返した。
だって、ルイスがスノウを愛してくれるように、スノウだってルイスのことが好きなのだ。どんな時だって、幸せでいてほしいと思って当然だろう。
スノウを愛するのがルイスの幸せなら、それを喜んで享受する。でも、誰かに愛情を向けたくなった時には、全力で応援させてもらいたい。
「——スノウ様は、恋の仲介をするのが楽しくなっちゃったんですかね?」
「お節介だと思う?」
マルモとロウエンの姿を思い出しながら、ぽつりと問いかけた。
ハラハラしたり、ドキドキしたり、思い悩んだり。傍から眺める恋模様は、スノウの心を忙しなくさせる。
でも、いつか幸せになってくれるだろうと思えば、そんな心の移ろいさえも愛しくなってしまうのだ。
スノウはいつだって、大好きな人たちの幸せを望んでいるのだから。
「いいえ。……ロウエン様も、おそらくマルモ様も。きっと喜んでくださるでしょう。だって、それが、スノウ様の愛でしょう? 愛する方に思われて、嫌な気分になる人なんていませんよ」
ルイスはスノウの思いをいつだって丸ごと理解してくれる。
少しホッとして、口元に笑みが浮かんだ。
スノウは、ルイスに淹れてもらったハーブティーを飲みながら、ほぅ……と息を漏らす。
これほどまでに、自分の心がままならないなんて、きっと初めてだ。毎日どころか、一分一秒ごとにころころ変わる。
その移り変わりに疲労感さえ覚えてしまうのだから、症状は重くなるばかりで。精神状態の不調に気づいてから、たった二日しか経っていないというのに、スノウは随分と悄気げてしまっていた。
たまにこうして安らげる時間が、涙が出そうなくらい貴重に感じる。
「アークも、ルイスも、ドリーも、振り回しちゃってる……」
「お気になさらず。私、お世話のしがいがあって、すごく楽しんでいますから!」
満面の笑みで放たれた言葉に、スノウはきょとりと目を丸くした後、思わず吹き出すようにして笑った。
ルイスの変わらない茶目っ気が、どれほどスノウを支えてくれていることか。
「陛下も、心配はしていますが、わがままを言われて甘えられるのを、密かに楽しんでおられますよ」
「……本当に?」
そうだろうか、と胸に呟きを落としながら、首を傾げた。
スノウに振り回されても、アークは微笑みを浮かべ、すべてを受け入れてくれる。無理して明るく振る舞う必要はない、と言いながら、ソファでうずくまるスノウを静かに撫でて過ごしてくれる。
その寄り添う優しさが心にしみて、スノウをたまらない気持ちにさせているのを、アークは気づいているだろうか。
あまりにもたくさんのものを与えられている。それに、どれほどのものを返せているのかな。
「愛しい番に甘えられて、喜ばない男なんていませんよ!」
「それは、経験談?」
「読書経験も、それにいれていいですか?」
「駄目だと思う」
真顔で言われて、思わず呆れたけれど、次第に面白くなってきた。
答えなんて分かりきっているくせに、スノウを笑わせようとしてくるルイスの剽軽さが、本当に頼りになる。
「——ルイスはさぁ……番、作らないの?」
じぃと見つめてみる。ルイスの目が丸くなるのが分かった。
「私が、番を?」
「そう。なんかスライム族は特殊みたいだけど、作れないわけじゃないんだよね?」
前に確か話を聞いたはずだ。フェロモンが薄くて、運命の番と出会うことなんて無理に近いとか、なんとか。
でも、それなら恋愛感情がありさえすれば、番を作ることは可能なはずで。
スノウは俄に、この兄のようなお世話係の恋話に、興味を覚えてしまった。
たぶん、ルイスにとってはこの上なく迷惑なことだろうと分かっていたけれど。
「……スノウ様。ものすごく嫌なところ突いてきますね!」
「ふふっ。怒らないルイス、大好き」
「私もスノウ様のこと大好きです!」
予想を少しも外れず与えられる愛情に、幼子のように包まれている自覚がある。
だいぶ大人になったと思ったのに、スノウはまだまだ甘えたのようだ。
「番かぁ……考えたことありませんでしたねぇ。スライム族でそういう概念、ありませんし。そもそも思考能力がほとんどないんですけども」
「でも、ルイスはこんなにいっぱい考えられる。ということは、なくもないでしょ?」
「限りなく無に等しいと思いますけどねぇ」
ふふ、と笑ったルイスが、そっと手を伸ばしてきたので、スノウはきょとんと瞳を瞬かせた。
壊れ物を触るように、優しい仕草で頭を撫でられて、思わずうっとりと目を細める。
「——私の中にある愛しさという感情は、今はすべてスノウ様のものなんです。他の存在なんて、入り込む余地が微塵もありません。私はスノウ様のために存在し、あなたを愛して生きていたい」
なんとも熱烈な愛の言葉だと思った。
アークに与えられるものとはまったく違い、親が子に向けるような、見返りを求めない一心の愛情だ。
「……そっか、分かった。じゃあ、もう聞かない。ルイスは全部、僕のものでいてね。……でも、好きな人ができるまででいいよ」
「まだ言いますか」
ははっと楽しそうに笑ったルイスに、スノウもふふっと笑い返した。
だって、ルイスがスノウを愛してくれるように、スノウだってルイスのことが好きなのだ。どんな時だって、幸せでいてほしいと思って当然だろう。
スノウを愛するのがルイスの幸せなら、それを喜んで享受する。でも、誰かに愛情を向けたくなった時には、全力で応援させてもらいたい。
「——スノウ様は、恋の仲介をするのが楽しくなっちゃったんですかね?」
「お節介だと思う?」
マルモとロウエンの姿を思い出しながら、ぽつりと問いかけた。
ハラハラしたり、ドキドキしたり、思い悩んだり。傍から眺める恋模様は、スノウの心を忙しなくさせる。
でも、いつか幸せになってくれるだろうと思えば、そんな心の移ろいさえも愛しくなってしまうのだ。
スノウはいつだって、大好きな人たちの幸せを望んでいるのだから。
「いいえ。……ロウエン様も、おそらくマルモ様も。きっと喜んでくださるでしょう。だって、それが、スノウ様の愛でしょう? 愛する方に思われて、嫌な気分になる人なんていませんよ」
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少しホッとして、口元に笑みが浮かんだ。
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