雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-50.本能と愛

 ロウエンとマルモの二度目の対面は、魔王城の一室になった。マルモの体調のことを話し合う可能性もあるため、ドリーに隣の部屋に控えてもらっている。

 スノウは今回も立ち会うけれど、無理をしないようにと、アークに言い含められていた。
 心配性な番だ。でも、その気遣いがスノウの心を温かくして、体調の安定にも繋がっている実感がある。



「今日は、君に聞いてもらいたい話がある——」

 珍しく緊張した面持ちで躊躇った後、ロウエンはマルモにすべてを語った。
 お互いが運命の番であること。
 過去に番がいたものの、既に亡くし、これまでずっと亡くした番を愛し続けてきたこと。
 マルモが運命の番だと知っても、申し出るかを悩み躊躇っていたこと。

「……すまない。君の事情は知っている。それでも、私はなかなか一歩が踏み出せなかった」

 語り終えたロウエンに対し、マルモはぎゅっと目を瞑ったまま固まっていた。

「マルモ……大丈夫?」

 スノウはそっと寄り添い、その背を撫でる。
 触れたところから、荒れ狂うマルモの感情が伝わってくるようで、抱きしめたくなった。
 でも、それをしてはいけない。ルイスに目で制されて、小さく頷く。

 マルモはロウエンの運命の番なのだ。その事実をロウエンは本能で知っている。
 たとえ、現状で思いが通い合っていなくても、運命の番に触れる他者へ、反射的に攻撃的な態度を取りかねないことは、十分考えられた。

「……スノウ様、ありがとうございます」

 マルモが震える声で囁いた。その口元には淡い笑みが浮かぶ。スノウに向けられた目は悲しみが滲んでいたけれど、驚くほど強く凛とした光があった。

「——宰相様」
「できれば、ロウエン、と」

 呼び名から距離を縮めよう、と改めて願ったロウエンに、マルモが躊躇いがちに頷く。

「ロウエン様。……私は、あなたが……運命の番であることに、気づいて、いました」
「え?」

 思わずこぼれ落ちた声が誰のものであったのか。判然としないままに、一瞬空気が固まった。
 でも、マルモがふっと息を吐いた気配に、その空気が揺らぐ。

「……どうして、気づかないで、いられるで、しょうか。こ、んなにも、愛しさが、つのるのに……っ」

 ほろり、と頬を雫が伝い落ちる。
 微笑みながらも震える唇が、恋しさを溢れさせた言葉を紡いだ。

「——あなたが、気づかない、ふりをするのなら、っ、私は、それで、良かった……。死ぬまでに、少しでも、お傍に、いられた、なら……それで」
「っ、マルモ……」

 ロウエンが言葉を失い、見開いた目でマルモを見つめる。
 マルモは視線を膝に落とし、両手で顔を覆った。

「これは、本能、です。本当の、愛では、ありません……」
「そんなことはっ」
「あるのですっ。……生存本能と、同じ。私は、生きたいと思って、あなたとの、繋がりに、縋ろうと、していただけ」

 胸が苦しい。
 スノウはマルモに伸ばしかけた手を、胸の前でぎゅっと握り合わせた。今はスノウが割り込んでいい状況ではない。
 マルモの告白と、その結末を見守るのだ。

「——でも、言い出せなかったのは……あなたの目に浮かぶ、葛藤に、気づいたから。あなたの過去は、知られています。私は、あなたを、苦しめたく、なかった。……私は、本能に、勝ちました。勝ったのだと、思っていました」

 顔を上げたマルモが涙をこぼしながら、ふわりと微笑む。
 生存本能を無視して、ロウエンの心を優先した。それはもう、本能ではなく愛と呼んでいいのではないか。
 スノウはそう言いたくなるのをグッとこらえ、口を引き結んだ。

「マルモ、ありがとう。君の献身に、心から感謝する。本当に……なんと言っていいのか、分からない。情けなくて、申し訳ない」

 ロウエンが見たこともないほど、たどたどしい言葉で語りかけ、マルモに震える手を伸ばす。
 肩を掴もうとも抱き寄せることはできず、固まるロウエンをマルモが見上げた。

「ロウエン様。あなたの言葉で、聞けて良かったです。私は命を落としてもいい。でも、あなたのことが、心配です。どうか、あなたは、生き続けて、ください、ますか?」

 それはロウエンとの関係を諦めた言葉だ。
 スノウは叫びたくなる口を手で塞ぎながら、小さく頭を振った。
 これはダメだ。なんと言っていいか分からないけれど、こんな決意をマルモにさせたくない。

「諦めないでくれ!」

 ロウエンが叫ぶように言う。マルモの目が丸まり、瞬きさえ止まった。
 そんなマルモの姿が、ロウエンの腕の中に包まれ隠される。

「——生きるのを、諦めないで、くれ。……番に、死なれるのは、つらく、悲しいことなんだ。……置いていかれるのは、もう、うんざりだ、っ」

 深い嘆き。震える声に、マルモの背が揺れる。
 ほっそりとした白い手が、ロウエンの服の裾を掴んだ。

「……わたしを、番と、呼んで、くださるの、ですか」
「今日、話すことを決める前から、そのつもりだった」
「ほん、とうに、っ?」
「ああ。だが、君に悲しい思いを、させるかもしれない。私がかつての番を、忘れられないでいるのは、本当なんだ」

 正直に吐露される心の内を、マルモはどう受け止めたのだろうか。
 ゆっくりと伸ばされた白い手が、震えるロウエンの背を撫でた。

「……素敵、ですね。あなたに愛される番様は、きっと、素晴らしい、方だったのでしょう。その方への思いを、忘れるなんて、あまりに、もったいないです」
「忘れなくていい、と……?」
「だって、大切な思い出、なのでしょう。ずっと、ずっと、大切に、してさしあげて、くださいませ」

 緩められた腕からマルモの顔が覗く。
 ロウエンを見上げた瞳は柔らかく笑みを形取り、愛おしそうに瞬いていた。

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