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続々.雪豹くんと新しい家族
3-53.可愛がりたい親心
ラトがやって来て、卵の出産に向けた準備が整った。なんだか魔王城中が、期待に満ちた雰囲気のように感じられる。
(卵が生まれても、まだ君たちの顔は見られないのにね?)
はっきりと分かるようになったお腹の膨らみを撫でながら、スノウはふわりと微笑んだ。
城のみんなが楽しみにしてくれていることは、とても嬉しい。きっと生まれてきたら、たくさんの人がこの子たちを愛してくれるのだろう。スノウが、この城で、たくさんの愛を受けて育ったように。
(だから、いつ生まれてきてもいいんだよ)
その時が近づいていることを、スノウは本能で察していた。
そして、それに気づいているのはスノウだけではない。
「んー……いい感じに育ってますね」
近頃は毎日診察に訪れるドリーは、今日も太鼓判を押してくれた。毎回付き添うアークは、少し表情を和らげてスノウを腕の中に包み込む。
「いつ頃になりそうだ?」
「正直、今日明日でも不思議ではありません。たぶん陛下や番様が魔力を与えすぎたからでしょう。資料で読むよりも、早い……」
ドリーのジト目をアークが受け流す。
スノウはんん、と喉を鳴らして目を逸らした。
散々やらかした身だから、何も言えない。でも、アークと夜の営みは結局今まで一度もしていないのだから、最低限自制していると思うのだけれど。
「そうだね。私も随分と急いで来たけど。こんなにすぐだとは思っていなかった」
卵を産み落とした経験者であるラトにも苦笑されてしまった。やはり異例らしい。
そして、異例というのは問題も孕むもので——。
「いいですか」
ドリーが真剣な目で口を開くので、スノウは少し姿勢を正した。アークは泰然としていて、変わりないのが羨ましい。ドリー曰く『厚顔』なのだそうだけれど。
「——卵は十分に出産に耐えられる状態です。中の発育もそうでしょう。ですが、生まれた後は、普通の速度で魔力を与えなければなりません。なぜだか分かりますか?」
問われて、少し考え込んでから、思い当たった言葉を口に出す。
「……溺れちゃったら、ダメだから?」
「そうです!」
力強く肯定されて、スノウは耳を伏せた。
反省しているからあまり何度も注意しないでほしい。アークに言う分にはいくらでもいいのだけれど。だって、きっと全然気にしていないから。
「僕の中にいる時と違うの?」
「違います。あの時は、少なからず番様が仲介にいました。無意識に過剰な魔力から卵を守るように、自身に負担を移していたはずです」
「なんだと!?」
声を強めたのはアークだ。スノウはなんとなく分かっていたから口を噤む。今それをドリーが言うとは思っていなかったのだけれど。
「陛下もお気づきにならない程度の負担ですよ。ですが、それが卵に直接生じれば、どうなるかお分かりになりますよね? 番様より、卵は繊細でか弱いんです」
スノウは無言で頷く。
この子たちはスノウが守るべき存在だ。その弱さも既に感じ取っている。
「スノウより……か弱い……?」
アークが呆然と呟いているのは何故なのだろう。
首を傾げながら見上げると、見開かれた目と目が合った。
「どう考えても、か弱いでしょ。僕の子どもの頃を思い出してよ。あの状態より幼くて弱いんだよ」
「っ……それは、弱い……生きていけるのか……?」
今更ながらに、子どもの弱さを実感したらしい。驚きの事実だ。やけに卵に対してきついことがあるように思えたけれど、こういうわけだったのか。
「まぁ、陛下の場合は仕方ない部分もあるんですよね……」
何故か、ドリーが遠い目をして呟いた。
「どういうこと?」
「竜族は生まれて数日経たない内に親離れするんですよ。そのくらい、生まれた時から強靭なんです。体も心も」
「……それは、赤ちゃんの時期がないってこと?」
竜族が親兄弟とのつながりの意識が薄いことは知っていた。でも、これほどだったとは。
そして、赤ちゃんの時期がないのなら、スノウの子どももその可能性があるということではないか。
「体はそれなりに小さいですよ。獣人族より遥かに早く大きくなる上に、可愛げはないですけど。人型をとれるようになっても、竜族は大人になるまでは竜体のままで過ごします。そちらの方が体が強いので、見下されないようにするためですね」
雪豹族とはまるで違う感性だ。
「……なるほど。竜族って、生まれたときから、強さに重きを置いている感じなんだね?」
「はい。甘えを捨て去るどころか、そもそも持って生まれてこないのかもしれません」
しみじみと頷くドリーは、アークを指さし首を傾げた。
「陛下に可愛げが生まれたのは、番様に出会ってからですよ」
「お前に可愛げなんて言われると、虫唾が走る」
「言い方が酷すぎる」
口を尖らせるドリーを見ても、アークはフンッと鼻を鳴らすだけだ。よほど嫌だったらしい。
「そっかぁ。竜族の赤ちゃん、可愛がれないのかもしれないのかぁ」
なんとなく知ってはいたけれど。それでもよしよし撫でて甘やかすつもりだったのに。拒否されるのは悲しい。
スノウは思わずしょんぼりと眉を下げてしまった。
(卵が生まれても、まだ君たちの顔は見られないのにね?)
はっきりと分かるようになったお腹の膨らみを撫でながら、スノウはふわりと微笑んだ。
城のみんなが楽しみにしてくれていることは、とても嬉しい。きっと生まれてきたら、たくさんの人がこの子たちを愛してくれるのだろう。スノウが、この城で、たくさんの愛を受けて育ったように。
(だから、いつ生まれてきてもいいんだよ)
その時が近づいていることを、スノウは本能で察していた。
そして、それに気づいているのはスノウだけではない。
「んー……いい感じに育ってますね」
近頃は毎日診察に訪れるドリーは、今日も太鼓判を押してくれた。毎回付き添うアークは、少し表情を和らげてスノウを腕の中に包み込む。
「いつ頃になりそうだ?」
「正直、今日明日でも不思議ではありません。たぶん陛下や番様が魔力を与えすぎたからでしょう。資料で読むよりも、早い……」
ドリーのジト目をアークが受け流す。
スノウはんん、と喉を鳴らして目を逸らした。
散々やらかした身だから、何も言えない。でも、アークと夜の営みは結局今まで一度もしていないのだから、最低限自制していると思うのだけれど。
「そうだね。私も随分と急いで来たけど。こんなにすぐだとは思っていなかった」
卵を産み落とした経験者であるラトにも苦笑されてしまった。やはり異例らしい。
そして、異例というのは問題も孕むもので——。
「いいですか」
ドリーが真剣な目で口を開くので、スノウは少し姿勢を正した。アークは泰然としていて、変わりないのが羨ましい。ドリー曰く『厚顔』なのだそうだけれど。
「——卵は十分に出産に耐えられる状態です。中の発育もそうでしょう。ですが、生まれた後は、普通の速度で魔力を与えなければなりません。なぜだか分かりますか?」
問われて、少し考え込んでから、思い当たった言葉を口に出す。
「……溺れちゃったら、ダメだから?」
「そうです!」
力強く肯定されて、スノウは耳を伏せた。
反省しているからあまり何度も注意しないでほしい。アークに言う分にはいくらでもいいのだけれど。だって、きっと全然気にしていないから。
「僕の中にいる時と違うの?」
「違います。あの時は、少なからず番様が仲介にいました。無意識に過剰な魔力から卵を守るように、自身に負担を移していたはずです」
「なんだと!?」
声を強めたのはアークだ。スノウはなんとなく分かっていたから口を噤む。今それをドリーが言うとは思っていなかったのだけれど。
「陛下もお気づきにならない程度の負担ですよ。ですが、それが卵に直接生じれば、どうなるかお分かりになりますよね? 番様より、卵は繊細でか弱いんです」
スノウは無言で頷く。
この子たちはスノウが守るべき存在だ。その弱さも既に感じ取っている。
「スノウより……か弱い……?」
アークが呆然と呟いているのは何故なのだろう。
首を傾げながら見上げると、見開かれた目と目が合った。
「どう考えても、か弱いでしょ。僕の子どもの頃を思い出してよ。あの状態より幼くて弱いんだよ」
「っ……それは、弱い……生きていけるのか……?」
今更ながらに、子どもの弱さを実感したらしい。驚きの事実だ。やけに卵に対してきついことがあるように思えたけれど、こういうわけだったのか。
「まぁ、陛下の場合は仕方ない部分もあるんですよね……」
何故か、ドリーが遠い目をして呟いた。
「どういうこと?」
「竜族は生まれて数日経たない内に親離れするんですよ。そのくらい、生まれた時から強靭なんです。体も心も」
「……それは、赤ちゃんの時期がないってこと?」
竜族が親兄弟とのつながりの意識が薄いことは知っていた。でも、これほどだったとは。
そして、赤ちゃんの時期がないのなら、スノウの子どももその可能性があるということではないか。
「体はそれなりに小さいですよ。獣人族より遥かに早く大きくなる上に、可愛げはないですけど。人型をとれるようになっても、竜族は大人になるまでは竜体のままで過ごします。そちらの方が体が強いので、見下されないようにするためですね」
雪豹族とはまるで違う感性だ。
「……なるほど。竜族って、生まれたときから、強さに重きを置いている感じなんだね?」
「はい。甘えを捨て去るどころか、そもそも持って生まれてこないのかもしれません」
しみじみと頷くドリーは、アークを指さし首を傾げた。
「陛下に可愛げが生まれたのは、番様に出会ってからですよ」
「お前に可愛げなんて言われると、虫唾が走る」
「言い方が酷すぎる」
口を尖らせるドリーを見ても、アークはフンッと鼻を鳴らすだけだ。よほど嫌だったらしい。
「そっかぁ。竜族の赤ちゃん、可愛がれないのかもしれないのかぁ」
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