雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続×3.雪豹くんとにぎやかな家族

4-41.同じ経験

 街の外れまで馬車に乗り、そこから歩くことにする。
 スノウはルミシャンスをしっかり抱きしめ、周囲を眺めた。街に来るのは久しぶりだ。アークが最近は忙しかったし、なにより子どもたちがいたから。

「こうして外を歩けるようになったのも、二人が成長したからだね」
「ルミ、おっきくなった! ひとりで歩けるよ」
「人が多いから邪魔になっちゃうし、だめー」
「にー……」

 きらきらとした目で主張されたけれど、にこりと笑って却下する。
 一番の理由は、迷子にならないようにするためというのは言葉にしないでおいた。ルミシャンスが拗ねてしまったら宥めるのが大変だ。

 しょんぼりと項垂れて、身体から力を抜いたルミシャンスはなかなか重い。でも、可愛いから離せない。

「代わる?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、ブレスラウ。それより、何かほしいものがあったら遠慮なく言ってね!」

 気遣ってくれたお礼を言いながら、笑顔で念を押した。

 今回の街散策は、ブレスラウの大人記念のようなものでもあるのだ。ぜひ記念になりそうなものを選んでほしい。
 スノウとルミシャンス以外には関心が薄いブレスラウが、少しでも好ましいと思えるものが見つかればいいなと思う。

「……分かった」

 気のない返事だけれど、ブレスラウだから仕方ない。
 スノウは苦笑しつつ、ワクワクした雰囲気を隠しきれないルミシャンスを抱きしめる腕に力を入れた。今にも飛び出していってしまいそうだったのだ。

「ママ、いいにおい!」
「なんだろうね?」

 屋台が立ち並ぶ区域に入った途端、ルミシャンスの尻尾がご機嫌そうに揺れる。ピクピクと動く耳は、周りの環境全てに好奇心がくすぐられているのを示していた。

「……騎士みんなにご飯おごる?」
「そこまで気遣いしてくれるの、感激する……」

 ちょうどお昼どき。お腹が空いているのはスノウたちだけではないだろう。
 ブレスラウが周囲に散る騎士たちを見て提案してくるので、スノウは目を丸くしながらも微笑んだ。

 名前に込めた願い通り、いたわりの心を育んでくれているようで嬉しい。他者に関心がなくとも、ブレスラウは自身の立場を考えてしっかり行動できるまでに成長しているのだ。

「大げさ」
「ルミ、あれがいいと思う!」

 照れたように僅かに眉を寄せるブレスラウの言葉にかぶせるように、ルミシャンスが手を伸ばす。
 しきりににおいを嗅いでいたと思ったら、どれが一番美味しそうか吟味していたらしい。

「……クラーケン焼き」

 屋台で焼いている串焼きを見て、スノウは懐かしくなった。
 スノウがアークと初めてこの街に来たときも、クラーケン焼きを食べたのだ。雪豹族が惹かれるにおいなのだろうか。

「ルミは食べられるのか?」
「どうかな」

 屋台へと近づいていくブレスラウの背を追いながら、スノウは首を傾げる。

 歯はしっかり生えているし、離乳食も終わりかけだけれど、いきなりクラーケン焼きを食べるのは、難しい気がする。でも、本人は食べる気満々なので、挑戦させてもいいかもしれない。

「——少しだけならいいかな」

 屋台の前まで来たところで、店主がにこりと微笑みかけてきた。その顔に見覚えがある。

「おや、まぁ。陛下の番様に二度も来ていただけるとは、ありがたいですな」
「あ、やっぱり、アークと一緒に来た屋台ってここだよね?」
「ええ。ご贔屓ありがとうございます」

 店主が羽をぱさりと動かす。遠く離れた海からクラーケンをここまで運べるのは、店主が鳥族だからだ。

「父者とここに来た?」
「うん。初めて街に来たときにね」

 ブレスラウに教えながら、クラーケン焼きを購入する。近くにいた騎士に「食べる?」と聞いてみたけれど、彼らは職務中に食べられないという規則があるらしい。

 そのやり取りを静かに眺めていたブレスラウが「規則。覚えた」と呟く。こんな何気ないことも、ブレスラウの成長の一助になっているのだ。

「ルミ、大きいの!」
「お子様ですか。可愛いですね」

 ねだられた店主が眦を下げながら、「一番大きいのをご用意しますよ」と朗らかに答えてくれた。
 おそらく食べきれないだろうけれど、残ればスノウが食べればいい。ブレスラウも気にいるかもしれないし。

「ありがとう。ここの美味しいんだよねぇ」
「嬉しいお言葉ですね」

 にこやかに渡された串焼きの数は三本。
 その後、店主が思い出したように紙を取り出すので、スノウは『そういえば、昔もこんなことあったな』と思いながら子どもたちの様子を眺めた。どんな反応を示すかワクワクする。

「——これはクラーケン焼きというのですが、クラーケンとはどんな魔物なのかご存じですか?」
「ルミ、しらない」
「名前は知ってる」

 口々に答える子どもたちに、店主がぱっと紙を広げた。

「こちらがクラーケンです」
「にっ!?」
「……へぇ」

 たくさんの触腕のある魔物の絵を見た途端、ルミシャンスが毛を逆立てて固まった。ご機嫌に揺れていた尻尾さえ動きを止め、口元に運んでいる様子から、相当動揺したのが見て取れる。

 予想通りの反応に、スノウは笑いを堪えきれなかった。昔はスノウも同じような反応を示したものである。

 ブレスラウが大して驚いていないのも、彼らしく感じて微笑ましかった。竜族の子どもからすると、クラーケンは恐れるに値しないのだろう。

「ふふ、じゃあ、食べよっか」
「……たべるの?」

 一番乗り気だったのに、尻込みしているルミシャンスの様子に、スノウだけでなく周囲の人々も自然と微笑んでいた。

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