内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

文字の大きさ
10 / 277

10.違う見方

 暫く静かな時間が流れる。ノアは講義室で必死に考えた話題もどこかに忘れ、ただ猫を見つめてサミュエルの反応を待っていた。
 それだけでも、面倒な奴だと思われないか不安になる。

「ノアはさ――」

 不意に聞こえた呼び掛けに、ノアはハッと顔を上げた。穏やかに微笑むサミュエルを見て、ようやく少しだけ肩の力が抜ける。
 どうやらノアの態度に不快さは感じていないようだ。

「見た目通りの繊細さんなんだね。それはノアの良いところだと思うよ」
「え……?」

 予想もしない言葉だった。思わず目を見張って凝視するノアに、サミュエルが気まずそうに頬を掻く。

「ちゃんと話すようになって二度目の私が言うことでもないんだろうけどね。ノアの繊細さはとにかく相手を不快にさせないように、って気遣いから生まれてるんだろう? それは良いことだと思うんだ。私も、ノアと過ごすのは凄く気が休まるしね」
「……そうで、しょうか。サミュエル様がご不快でないなら安心しましたが」

 なんとか滑らかに言葉が出た。それにホッとしながら、サミュエルの言葉を消化する。
 ノアが人と話せないのは、単に内気で自分に自信がないからだと思っていた。今でもその思いは強いけれど、サミュエルの言うように考えても良いのだろうか。人を気遣う故なのだと。

「全く不快に思ったことはないよ。誰しも苦手なことはあるものだからね。ノアが人と話すのを苦手に思っていても、それは咎められることじゃない。……まあ、貴族という立場上、どうにかしなければならない部分もあるけど、無理をする必要はないと思うんだ」
「でも、社交ができないと、貴族としての務めが――」

 無意識に心の内の葛藤を声に出していた。こんなことをサミュエルに言っても仕方ないのに。ノアのことを理解したように、優しい言葉をかけてくれるから、甘えてしまっているのか。

「社交? そんなの得意な人に任せてしまってもいいんだよ。大切なことだけ、忘れないでいたらね」
「大切なこと、ですか?」
「そう――」

 サミュエルの自信に溢れた瞳が、ノアを捉えて柔らかく細められた。思わずノアが見惚れるほど、サミュエルはかっこ良くて魅力的な男性だ。

「貴族は生まれながらに義務を持つ。それは領民の命と生活を守り、国を健全に保つことだ。その他の務めは、その義務を果たすための手段の一つでしかない」
「義務と、手段……」
「社交をしなければ、領民を守れないだろうか? 国は傾くだろうか? ……そんなことはない。領民や国を守る術は、他にいくらでもあるんだから」

 サミュエルの言葉一つ一つに頷く。
 確かに社交は一つの手段でしかない。貴族なら誰もが当たり前にこなしていることだから、ノアもできなければならないと自分を追い詰めていた。周りに合わせる必要はないのに。ノアは自分なりのやり方で、領民と国のことを考えて義務を全うすればいいのだ。両親もそう言っていたではないか。
 そのことに気づいた瞬間、心を占めていた不安が、フッと軽くなったように感じた。

「……ありがとうございます。サミュエル様にそう仰っていただいて、少し安心しました。僕は、僕のままでいてもいいんですね」

 感情そのままに微笑みが溢れていた。いつもの取り繕った曖昧な笑みとは違うだろう。でも、サミュエルにはノアらしさを見せても拒否されない気がする。

「っ……ああ、そのままの君が、素敵だと思うよ」

 なんだかノアの言葉とは少しズレた返事に思えたけれど、憧れの人に『素敵』と言ってもらえたことは素直に嬉しくて。暫く微笑みは止められそうになかった。

感想 141

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。