貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

asagi

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Ⅱ−ⅳ.あなたと過ごす故郷

2−41.ジル様と家族

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 ちょっと別のことに思考が逸れていたら、ジル様がクツクツと喉で笑う声が聞こえてきた。

「ジル様、どうなさいました?」
「いや……フランが家族に愛されているのは知っていたが、こうして実際に見て、嬉しくなっただけだ」
「どうしてジル様が嬉しくなるんですか?」

 僅かながらも反感を向けられたのに、ジル様がそれを気にする様子はなかった。そればかりか、大兄様の態度も鷹揚に受け止め、納得しているように見える。

 口を噤んでジル様を見つめる家族の様子が気になったけど、僕はジル様に家族を受け入れてもらえたことが嬉しくて、つい微笑んでいた。

「番を健やかに育んでくれた家族に、感謝しないわけがないだろう? フランが愛情を注がれて育ったことを知れて、嬉しいんだ」

 目を愛しそうに細めたジル様に見つめられながら、ゆっくりと頬を撫でられる。
 家族の前でジル様に触れられるのは少し恥ずかしい。でも、それ以上に、ジル様が僕のことを家族ごと愛してくれているのが伝わってきて、喜びのあまりゆるゆると頬が緩んだ。

「……とても大切な、愛する家族です。ようやくジル様に紹介することができて、僕も嬉しいです」

 照れ混じりににこりと微笑み、ジル様の手に頬を擦り寄せる。
 慣れた仕草だったから何気なくしたことだったけど、不意に小兄様から「本当に仲が良いようで私も安心したよ」という呟きが聞こえてきて、ハッとして離れた。

 そっと家族に視線を向けると、父様から温かな眼差し――でも、ちょっと苦々しい雰囲気の表情――を向けられていた。
 大兄様は少し呆れた感じだったけど、先ほどまでのトゲがなくなった気がする。

「小兄様、本当に嬉しそうですね?」

 今までにないくらい穏やかに嬉しそうに微笑んでいる小兄様を見て、思わず目を見張ってしまった。

「当然だろう? 可愛い弟の将来がどうなることかと心配していた中で、こんなに素晴らしい方と出会えて、幸せそうにしているところを見ることができたんだから」
「心配?」

 首を傾げる僕に対し、父様と大兄様は「あぁ……」と遠くを見るような眼差しになる。
 ジル様は一拍遅れて心配の意味を察した様子で、少し眉を寄せ「苦労していたようだな」と呟いた。

「――どういう意味ですか?」

 一人だけのけ者にされた気分で、思わず頬を膨らませて拗ねてしまった。
 少し驚いた様子になったジル様が、不意にフッと笑いながら、僕の頬にキスを落とす。

「やはり、フランはいつもより可愛らしいな」
「なっ……ちょっと、ジル様……」

 ジル様の突然のキスにわたわたとしながら咎めてみる。でも、ジル様だけでなく、家族にも微笑ましそうに見つめられて、咄嗟にジル様に抱きついて顔を隠した。

 頬が熱い。こんな顔をジル様はともかく家族に見られたくない。

 そんな思いでした行動は、むしろ微笑ましいものとして家族に受け取られたらしい。

「ふふっ、フランも大人になったと思ったのに、まだ甘えただね」
「やることやってるはずなんだけどな」
「兄上」
「……さーせん」

 小兄様の静かな圧力を感じる声音に、大兄様が早々に白旗を上げるのは、昔から変わらない。

「親としては複雑な気分だ……」
「父上はそろそろ子離れなさった方がよろしいですよ」
「フレデリック……簡単にそう言うがな……」

 父様と小兄様がささやかに言い争っている声を聞きながら、そっとジル様の顔を見上げる。

「……それで、心配というのは、何なんですか?」
「まだ気になるのか。ははっ」

 笑ったジル様を、少し拗ねながら見つめると、愛しそうに額にキスされた。

「――フランを娶ろうと、周囲をうろついていた者たちのことだ」
「あぁ……そんなこともありましたね?」

 言われてみれば納得である。

 ボワージア家の資金面を支える代わりにと、僕との縁談を取り付けようとしていた商人たちは、一人二人ではない。

 その対応に家族がどれほど苦労していたか、生じていただろう心痛とあわせて思い出せば、なんとなく家族が安堵する気持ちが理解できた気がする。

 お金で僕を買おうとしていた人と比ぶべくもなく、ジル様が素晴らしいのは明確な事実だ。

「――家族を安心させることができたのは、ジル様と出会えてから起きた良いことの中の一つですね」
「お義父君らにもそう思ってもらえたなら嬉しい限りだ」

 ジル様と微笑み合った僕は、「甘いなぁ」と苦笑していた小兄様に「大切な番ですからね」と改めてジル様を紹介した。
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