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Ⅱ−ⅳ.あなたと過ごす故郷
2−40.家族の本心
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領内は騒がしいようなので、今日はジル様を連れて散策するのはやめにした。
晩餐の時間までのんびりと過ごした後、服を着替えてダイニングルームに向かう。
「大兄様?」
ダイニングルームの前で呆然と立ち尽くしている大兄様の姿を見て、きょとんと首を傾げた。
「っ、フラン、と……ジルヴァント王弟殿下。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。わたくし、ボワージア家長子ラシオスと申します」
振り返った大兄様が、ジル様の姿に気づいてなんとか貴族らしさを取り繕った挨拶をした。
その慌てように、クスクスと笑いそうになるのを、軽い咳払いでごまかす。
大兄様はいつも自信満々な感じだったのに、ジル様の前じゃすっかり借りてきた猫のようだなぁ。
「ああ。フランの番のジルヴァントだ。しばらくここで世話になる」
「はっ、何かございましたら、ご遠慮なくお申し付けください」
頭を下げた大兄様の後ろから「まず中にお通ししましょうよ」という柔らかな声が掛かった。
「あ、小兄様!」
ジル様の腕を軽く引っ張り、大兄様の隣を通ってダイニングルームに入る。
そこでは、優雅に礼をとった小兄様が立っていた。
「お初にお目にかかります。フランの兄、ボワージア家次子のフレデリックと申します」
「ほぅ……フランと似ているな」
父様に似た大兄様と違い、小兄様は母様似。つまり僕とも似てるんだ。
ジル様はそのことに驚き混じりの感心をしてる。
「小兄様はとても優しい人なんです」
「俺は違うって?」
後ろからボソッと大兄様が文句を言う。
ほら、そういうところだよ。大兄様は子爵家を継ぐ立場なのに、ちょっと粗野なんだよねぇ……。
「良い兄君なんだな」
ジル様は大兄様の言葉が聞こえなかったフリをしてくれた。
穏やかなジル様の笑みに頷き、小兄様に視線を戻す。
なぜか、小兄様は少し驚いた顔で僕を見た後、ホッと安堵した様子で顔を緩めていた。
「……仲がよろしいようでなによりです」
「心配をさせたようだな。それも当然か。むしろ、お義父君とラシオスが何も言わなかった方が不思議だ」
大きなテーブルの上座についたジル様が、小兄様と大兄様、そして傍に控えていた父様を順に眺める。
「……殿下が素晴らしい方だというのは、当家に余るほどのご配慮をいただいた頃から分かっておりましたので」
父様が笑うのを失敗したような表情で言う。
「内心は違いそうだな」
「ジル様、あまり父様をいじめないでください」
父様の様子から察したことをズバッと言い切るジル様を、ちょっと咎めてみる。父様は「ウッ」と小声で呻いて目を逸らしていた。
「突然愛する子が連れ去られた親としては当然の心情だと、ご理解いただけますとありがたいです」
大兄様は父様をフォローすると見せかけて喧嘩腰な気がする。最低限の慇懃さを保ちつつも、目はじとりとジル様を見据えていた。
「大兄様……僕もジル様に賛成して――」
「事情は聞いている。ジルヴァント王弟殿下が当家に過分なほどのご配慮をくださったのも事実。……ただそれだけで心の底から納得できるほど、俺たち家族の愛は小さくないんだぞ」
大兄様の態度を諌めようとしたら、反対に僕の方が咎められてしまった。随分と愛情に満ちた説教で、むしろ僕は頬を緩めてしまったけど。
「兄上、猫が逃げ出すのが早すぎますよ」
「おっと、しまった。失敬」
「……兄上」
小兄様が呆れた表情で額を押さえる。
猫とはなんだろう。うちに猫はいなかったはずだけど、飼い始めたのだろうか。そういえば、ジル様と猫を飼う話をしたことがあったけど、未だにいないなぁ。
晩餐の時間までのんびりと過ごした後、服を着替えてダイニングルームに向かう。
「大兄様?」
ダイニングルームの前で呆然と立ち尽くしている大兄様の姿を見て、きょとんと首を傾げた。
「っ、フラン、と……ジルヴァント王弟殿下。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。わたくし、ボワージア家長子ラシオスと申します」
振り返った大兄様が、ジル様の姿に気づいてなんとか貴族らしさを取り繕った挨拶をした。
その慌てように、クスクスと笑いそうになるのを、軽い咳払いでごまかす。
大兄様はいつも自信満々な感じだったのに、ジル様の前じゃすっかり借りてきた猫のようだなぁ。
「ああ。フランの番のジルヴァントだ。しばらくここで世話になる」
「はっ、何かございましたら、ご遠慮なくお申し付けください」
頭を下げた大兄様の後ろから「まず中にお通ししましょうよ」という柔らかな声が掛かった。
「あ、小兄様!」
ジル様の腕を軽く引っ張り、大兄様の隣を通ってダイニングルームに入る。
そこでは、優雅に礼をとった小兄様が立っていた。
「お初にお目にかかります。フランの兄、ボワージア家次子のフレデリックと申します」
「ほぅ……フランと似ているな」
父様に似た大兄様と違い、小兄様は母様似。つまり僕とも似てるんだ。
ジル様はそのことに驚き混じりの感心をしてる。
「小兄様はとても優しい人なんです」
「俺は違うって?」
後ろからボソッと大兄様が文句を言う。
ほら、そういうところだよ。大兄様は子爵家を継ぐ立場なのに、ちょっと粗野なんだよねぇ……。
「良い兄君なんだな」
ジル様は大兄様の言葉が聞こえなかったフリをしてくれた。
穏やかなジル様の笑みに頷き、小兄様に視線を戻す。
なぜか、小兄様は少し驚いた顔で僕を見た後、ホッと安堵した様子で顔を緩めていた。
「……仲がよろしいようでなによりです」
「心配をさせたようだな。それも当然か。むしろ、お義父君とラシオスが何も言わなかった方が不思議だ」
大きなテーブルの上座についたジル様が、小兄様と大兄様、そして傍に控えていた父様を順に眺める。
「……殿下が素晴らしい方だというのは、当家に余るほどのご配慮をいただいた頃から分かっておりましたので」
父様が笑うのを失敗したような表情で言う。
「内心は違いそうだな」
「ジル様、あまり父様をいじめないでください」
父様の様子から察したことをズバッと言い切るジル様を、ちょっと咎めてみる。父様は「ウッ」と小声で呻いて目を逸らしていた。
「突然愛する子が連れ去られた親としては当然の心情だと、ご理解いただけますとありがたいです」
大兄様は父様をフォローすると見せかけて喧嘩腰な気がする。最低限の慇懃さを保ちつつも、目はじとりとジル様を見据えていた。
「大兄様……僕もジル様に賛成して――」
「事情は聞いている。ジルヴァント王弟殿下が当家に過分なほどのご配慮をくださったのも事実。……ただそれだけで心の底から納得できるほど、俺たち家族の愛は小さくないんだぞ」
大兄様の態度を諌めようとしたら、反対に僕の方が咎められてしまった。随分と愛情に満ちた説教で、むしろ僕は頬を緩めてしまったけど。
「兄上、猫が逃げ出すのが早すぎますよ」
「おっと、しまった。失敬」
「……兄上」
小兄様が呆れた表情で額を押さえる。
猫とはなんだろう。うちに猫はいなかったはずだけど、飼い始めたのだろうか。そういえば、ジル様と猫を飼う話をしたことがあったけど、未だにいないなぁ。
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