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Ⅴ.この想い、天まで届け
49.交される誓約
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夜明け前に湯浴みをして、悠里の部屋の夜具に二人で包まる。慣れない体勢で普段使わない筋肉を酷使した体は、じんわりと疲労感を訴えているが、狼泉の愛を全身で感じて心は安らいでいた。
「ねぇ、狼泉」
「ん、なんだ?」
悠里を抱きしめ、優しく髪を梳いている狼泉の胸に、顔を押しつけて抱きつく。
もう数刻すれば狼泉は出立する予定だ。麓までは白珠が送ってくれることになっているようだけれど、少しでも寝て身体を休めてもらった方がいいのは間違いない。
そう分かっているのに、共に過ごす時間が減ってしまうような気がして、悠里は目を瞑ることも睡眠を促すこともできないでいる。相手をしてもらいたいという欲が勝ってしまうのだ。
「……離れても、僕のこと、忘れないでね」
「当たり前だろう。忘れられるはずがない。忘れたいとも思わない」
軽く髪を引かれて顔を上げる。明かりを落とした部屋の中でも、狼泉の青い瞳が輝いて見えた。
軽く目を伏せると唇が重なる。欲を煽るのではなく、優しい愛を伝えてくる口づけが心地いい。
「どれくらいで、帰ってこられるのかなぁ」
「分からないが……できる限り早く悠里の元に帰る」
「本当に?」
「ああ。誓うよ」
鼻をすり合わせ、時折口づけを交わしながら囁く。結んだ約束が、悠里たちが今後別々で生きる間の糧となるだろう。そう思うと、誓いの証を目に見える形で残したい気がした。
「あっ、そういえば……」
「どうした?」
ごそごそと動いて狼泉の腕の中から抜け出す。途端に寒さが襲ってきた気がして、身震いした。狼泉も心なしか寂しそうな顔で手を伸ばしてくる。
「ちょっと、待っててね」
悠里は捕まえようしてくる狼泉の手に軽くキスをしてから、ベッドを下りて箪笥の上の籠に手を伸ばした。取り出したのは黄色い花のかんむりだ。闇兎と遊びに行った時に、狼泉にあげようと思って作ったものだが、いろいろあって渡しそびれていた。
「それは……」
「狼泉、これ、誓いの証に、持って行って。びっくりすることに、この花は全然枯れないんだよ」
一週間前に作ったのに、花は美しさを保っている。どういう原理なのかは分からないが、闇兎がそれを一切不思議に思っていない様子だから、そういうものなのだと納得することにしていた。
悠里が花かんむりを差し出すと、狼泉は神妙な面持ちでベッドを抜け出し、悠里の足元に跪く。そして、きょとんと目を瞬かせる悠里を見上げ、微笑んだ。
「必ず悠里の元に戻ってくると誓う。俺の身も心も、悠里に捧げる。離れていても、俺の愛は変わらない」
心臓を撃ち抜かれるような衝撃があった。なぜそれほどまでに心が震えるのか分からない。だが、この誓いが悠里と狼泉にとって大きな意味を持つのだと直感する。
「……僕も、離れていても、狼泉を愛し続けるよ。ずっと、ここで帰りを待っているから……絶対に、帰ってきてね」
頷く狼泉を見て、喜びが湧き上がる。悠里は微笑み、狼泉の頭にそっと花かんむりを載せた。
まるで物語に描かれる王と騎士の戴冠式の一場面のようだ。着ているのは乱れた夜着だし、見届ける人もいないが、どこか神聖な雰囲気を感じる。
「悠里……」
「狼泉……」
狼泉と目が合った瞬間に、ピンッと二人の間を繋ぐ糸が見えた気がした。思わず目を疑い、瞬いた後には見えなくなっていたから、見間違いの可能性はある。だが、狼泉も少し驚いた顔をしているので、同じものを見たのかもしれない。
それを不思議に思う気持ちはあるものの、立ち上がった狼泉に熱い口づけを贈られて、すぐに頭の片隅に追いやってしまう。今は、狼泉の温もりをしっかりと身体に刻みつけたかった。
「ん……ふ、ぁ……」
「悠里、愛してる」
「僕も……」
視線が絡み、口づけが深まる。互いを激しく求め、再びベッドに身を沈めた。愛を確かめ合うために――。
早朝。
朝靄が立ち込める山の中を、白珠に騎乗した狼泉が進んで行く。見送るのは悠里と闇兎だ。
狼泉は一度も悠里を振り返らなかった。未練を断ち切るような後ろ姿だ。一日でも早く悠里の元に戻るために、今は突き進む覚悟を決めたのだろう。
それを見つめて、悠里は目に涙を浮かべる。既に寂しさで心が悲鳴を上げていた。
「ねぇ、狼泉」
「ん、なんだ?」
悠里を抱きしめ、優しく髪を梳いている狼泉の胸に、顔を押しつけて抱きつく。
もう数刻すれば狼泉は出立する予定だ。麓までは白珠が送ってくれることになっているようだけれど、少しでも寝て身体を休めてもらった方がいいのは間違いない。
そう分かっているのに、共に過ごす時間が減ってしまうような気がして、悠里は目を瞑ることも睡眠を促すこともできないでいる。相手をしてもらいたいという欲が勝ってしまうのだ。
「……離れても、僕のこと、忘れないでね」
「当たり前だろう。忘れられるはずがない。忘れたいとも思わない」
軽く髪を引かれて顔を上げる。明かりを落とした部屋の中でも、狼泉の青い瞳が輝いて見えた。
軽く目を伏せると唇が重なる。欲を煽るのではなく、優しい愛を伝えてくる口づけが心地いい。
「どれくらいで、帰ってこられるのかなぁ」
「分からないが……できる限り早く悠里の元に帰る」
「本当に?」
「ああ。誓うよ」
鼻をすり合わせ、時折口づけを交わしながら囁く。結んだ約束が、悠里たちが今後別々で生きる間の糧となるだろう。そう思うと、誓いの証を目に見える形で残したい気がした。
「あっ、そういえば……」
「どうした?」
ごそごそと動いて狼泉の腕の中から抜け出す。途端に寒さが襲ってきた気がして、身震いした。狼泉も心なしか寂しそうな顔で手を伸ばしてくる。
「ちょっと、待っててね」
悠里は捕まえようしてくる狼泉の手に軽くキスをしてから、ベッドを下りて箪笥の上の籠に手を伸ばした。取り出したのは黄色い花のかんむりだ。闇兎と遊びに行った時に、狼泉にあげようと思って作ったものだが、いろいろあって渡しそびれていた。
「それは……」
「狼泉、これ、誓いの証に、持って行って。びっくりすることに、この花は全然枯れないんだよ」
一週間前に作ったのに、花は美しさを保っている。どういう原理なのかは分からないが、闇兎がそれを一切不思議に思っていない様子だから、そういうものなのだと納得することにしていた。
悠里が花かんむりを差し出すと、狼泉は神妙な面持ちでベッドを抜け出し、悠里の足元に跪く。そして、きょとんと目を瞬かせる悠里を見上げ、微笑んだ。
「必ず悠里の元に戻ってくると誓う。俺の身も心も、悠里に捧げる。離れていても、俺の愛は変わらない」
心臓を撃ち抜かれるような衝撃があった。なぜそれほどまでに心が震えるのか分からない。だが、この誓いが悠里と狼泉にとって大きな意味を持つのだと直感する。
「……僕も、離れていても、狼泉を愛し続けるよ。ずっと、ここで帰りを待っているから……絶対に、帰ってきてね」
頷く狼泉を見て、喜びが湧き上がる。悠里は微笑み、狼泉の頭にそっと花かんむりを載せた。
まるで物語に描かれる王と騎士の戴冠式の一場面のようだ。着ているのは乱れた夜着だし、見届ける人もいないが、どこか神聖な雰囲気を感じる。
「悠里……」
「狼泉……」
狼泉と目が合った瞬間に、ピンッと二人の間を繋ぐ糸が見えた気がした。思わず目を疑い、瞬いた後には見えなくなっていたから、見間違いの可能性はある。だが、狼泉も少し驚いた顔をしているので、同じものを見たのかもしれない。
それを不思議に思う気持ちはあるものの、立ち上がった狼泉に熱い口づけを贈られて、すぐに頭の片隅に追いやってしまう。今は、狼泉の温もりをしっかりと身体に刻みつけたかった。
「ん……ふ、ぁ……」
「悠里、愛してる」
「僕も……」
視線が絡み、口づけが深まる。互いを激しく求め、再びベッドに身を沈めた。愛を確かめ合うために――。
早朝。
朝靄が立ち込める山の中を、白珠に騎乗した狼泉が進んで行く。見送るのは悠里と闇兎だ。
狼泉は一度も悠里を振り返らなかった。未練を断ち切るような後ろ姿だ。一日でも早く悠里の元に戻るために、今は突き進む覚悟を決めたのだろう。
それを見つめて、悠里は目に涙を浮かべる。既に寂しさで心が悲鳴を上げていた。
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