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一章
明晰夢の中で
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「──で、あるからして。君にはそれを頼みたいんだよね」
「────」
これは、夢だ。そう、紛うことなき夢の中。
なぜ、夢の中でも覚醒し意識がしっかりあるのかと言えば明晰夢を見る事が出来るからだ。
本来ならば、第三者視点として見ている夢を本人として見ることがかできる。時と場合によっちゃ痛みすら感じたりする事もある訳だ。
よって、これは夢である。しかし、俺は今面白い夢を見ているのやもしれない。
早まった心拍数がそれを物語っている。溢れ出そうな興奮を生唾を飲み込み抑え込みつつ口を開いた。
「貴方は、本当に神様なんですかね? 僕は、神様という奴を信じていないんですよ」
眼前には、さながら魂のような白く小さい球体が儚げな光を放ちながら揺蕩っている。
小さい球体から、嗄れた声が響いた。
「いやいや、君は何を満足気に頷いているんだい? と、言うか今ワシさらっと神否定されたんだけど」
──一種のホラーだよこれ。火の玉だと言っても過言じゃあないよ。ああ、女の子に抱きつかれたい、by神門辰巳《みかどたつみ》。
だが、残念ながら彼はどうやらおばけでは無く神様らしい。
信じないといったものの、仮に居たとしたならもっと貫禄ある老人とかだと俺は思っていた。
先入観ってのは誰にでもあるものだな。
「ふーん?」
「な、なんだね。その冷めた反応わ」
──あれ、これは面白い。自称神様と論じ合えるだなんて……。堪らん、これだ、これなのだ。濡れるッ!!って、男でしたそーでした。
軽く咳払いをして「神様を否定。と言うかですね? 神様とは、元々人が作り上げた空想の人物だと思うんですよ」
「……と、言うと?」
心做しか神と名乗る人物の声が覇気をなくした感じがするが、まあいい。
「こんな話があります。『人は、死と言う概念に縛られている』つまり目に見えるものは、触れるものは、自分達で変えてゆける。だから、結果論として起こってしまった過去を振り返り学ぶんですよ」
「ふ、ふむ」
「けれど、死や未来と言った目に見えないモノには恐怖を覚える。なので、予言や予知と言ったものに縋るんです。そして、死もまた同じ事。目に見えないからこそ恐れ救いを求めた。死んだ後に」
「それが、神、だと?」
相槌をうち、暗闇で光る一点を見つめながら会話を続けた。
「そうです。ですから、神様は創造主では無く想像種だと僕は思う訳なんですよ。よって──」
「よ、よって?」
「貴方は、神様でもなんでもありま──」
「グアバッ」
え、何、この吐血しそうな勢いの声。世紀末で良く聞いた声だぞ。
やはり、この夢は素晴らしい。
「そ、そこまで言わなくてもいいではないか。ワシだって心があるんですよ……」
「心?」
「そ、そうだよ。当たり前じゃないか」
「心で、思い出しましたが。こんな話もあります、神様が居たとします。ただ、住まう次元は地球の時の流れすら超越し」
「分かった分かった。もう、信じなくてもいい。とりあえずワシは、隠身《カクリミ》神界から来ている」
「ああ。物凄い意思が強く、姿を持たない莫大な霊力を持った神様達が居る場所だって言う?」
なるほど、ならば白い球体と言うのも納得がいく。まあ、信じてないけどさ。でも夢だし現実じゃないし。
「すいません、試すような事を言ってしまって」
「試す?」
「はい。ですが、もう分かりました。貴方は紛うことなき神様です」
「お、そ、そーかそーか!! 信じてくれたか? なら良かった。うむ、本当に良かった!!」
──え、何この神様、チョロすぎ。つか、全く荘厳たるなんらかを感じねぇんだけど。本当に草生えるわー。
「む?どうした?」
「えっ?あ、いやいや。気にしないでください。それで、なぜ僕に世界を救ってほしいと?」
ラノベなら一度は聞いた事あるフレーズでもある。『異世界を救ってほしい』なんて、見慣れた言葉だ。例に習って、寝る前に読んでいた小説だってそうだった。
しかし、俺はこれに疑問を抱くことを禁じ得ない。何故、主人公は都合よく死んで異世界に行けるのだろうか。
なら、この世界で死んだやつは皆、異世界に行くはずだろう。神というのは皆を平等に愛しているはずだが、こればかりは贔屓と言っても過言じゃない。
「まあ、別に君じゃなくても構わないんだ。が、唯一見つけたのがたまたま君だったんだよ」
「見つけた?」
てっきり、『選ばれし者よ』だとか言ってくるもんばかりだと思っていたが予想外の変化球にボールを取り損ねてしまった。
比喩的な表現をしてみたが、つまり不意をつかれて返答に困った。
言葉を繰り返すしか出来なかった俺に『うむ』と、相槌を打つと光が少し強く暖かく光る。
「異世界に行く。とは、簡単に言ったものの今ある次元から別次元に行くのは、物理的な器を持っている以上、不可能なんだよ」
「平行世界……みたいなものですか?物理的干渉が出来ない世界線」
「平行世界とは、少し違う。君は『多元宇宙』と言う言葉を聞いた事があるかな?」
神妙な声に、いつの間にか惹き込まれている自分が居た。
「ええ。宇宙がいくつも存在しているだとか、ブラックホールの先にはまた違う宇宙に繋がっているだとかの話しですよね」
「そうだよ。いやはや、話が早くて助かるよ。故に、器がある状態じゃあ不可能。しかし、輪廻転生だとかはあるが前世の記憶を引き継ぐ確率は数パーセント。転移をしたとて、重圧に存在そのものが消え去ってしまう。『もしかしたら』だとか、もうそんな奇跡に頼る時間もない」
確かに、転生をした所で使命を忘れて新たな人生を歩んでいたのなら話にならないだろう。それに、この人の言い方からするに一応は試したことがあるのやもしれない。
だが、となれば俺が異世界転移出来る確率は零に等しい筈だ。
まあ、夢だから支離滅裂でもいいのか。
「で、それで何故僕なんですかね?」
「ふむ。では、本題に入ろう。ワシらは天界規定により人と直接的なな干渉はできないんだよ」
「だから、夢、って事ですか?」
「うむ。じゃが、夢で話しても朝になれば記憶を忘れてしまう。数人試みたが、やはり転移先で使命を忘れてしまっていた。しかし──」
ああ、なるほど、だから俺なのか。
明晰夢を見れる俺ならば記憶を失うことは無い。まるで現実に起こったかのように目覚めても覚えているからな。
「故に僕なんですね? まあ、仮に行くとして本当に行けるんですかね」
「それは問題ない。魂魄乖離を行うからの。けれど一つ問題がある」
魂魄の乖離。魂と肉体の分離、か。
流石、神を名乗るだけあるな。だけれど、それならば話は分かる。物質である肉体と魂が離れれば次元の移動も可能と言いたいのだろう。それはなるほど。納得せざるを得ない話だ。
「でも、問題とはなんですか?」
尋ねると、暫しの沈黙が生まれた。正直、表情を見れたのならコチラも色々と表現の仕方があるのだろうが、何せ相手は光の玉。きっと俺の今している表情は無表情だろう。
「それは、今ある世界からの消失。いや、失念かな?」
失念。つまり、俺って存在、概念が地球そのものから居なくなる忘れられるって事か。
いよいよそれは、ファンタジーだ。
「だが、安心してほしい。新しい器は、その体で新しい世界に構成される。それに、だ、君が好きな願いを一つ叶えてあげよう! さあ、どーだね」
「はい、じゃあお願いします」
「ん? え? あれ?」
「なんです?」
「いや、幾ら何でも即答すぎない?」
まあ、これは夢だし話に乗るぐらいいいじゃんな。
「ん、まあ別にこの世界に未練ある訳もないしね」
親は、あのクソ女と再婚し高校もロクに行かなかった俺を勘当した。奴の弟と天秤に掛けたのさ。小学、中学生だってそうだ。この世界は個々を然程必要としてはいない。
だが、バレないように世間体は良い顔をし、世間も従い偽りの優しさで包み込む。
「外観は酷い偽りであるかもしれない。世間はいつも虚飾に欺かれている……か」
「ふむ?なんだねそれは」
「シェイクスピアの言葉を引用させてもらっただけですよ」
「なるほど。中々良い言葉だ。とまあ、君には感謝しよう。さあ、ワシに触れたまえ」
暖かい光が近寄り、同時にいつの日に行ったかすら分からない公園やアミューズメントなどが脳裏に過ぎる。
俺の手を引っ張る、細くて温もりに溢れた手。まるで、白い光の先にその答えがある気がして手を伸ばした。
「──ただいま……」
「────」
これは、夢だ。そう、紛うことなき夢の中。
なぜ、夢の中でも覚醒し意識がしっかりあるのかと言えば明晰夢を見る事が出来るからだ。
本来ならば、第三者視点として見ている夢を本人として見ることがかできる。時と場合によっちゃ痛みすら感じたりする事もある訳だ。
よって、これは夢である。しかし、俺は今面白い夢を見ているのやもしれない。
早まった心拍数がそれを物語っている。溢れ出そうな興奮を生唾を飲み込み抑え込みつつ口を開いた。
「貴方は、本当に神様なんですかね? 僕は、神様という奴を信じていないんですよ」
眼前には、さながら魂のような白く小さい球体が儚げな光を放ちながら揺蕩っている。
小さい球体から、嗄れた声が響いた。
「いやいや、君は何を満足気に頷いているんだい? と、言うか今ワシさらっと神否定されたんだけど」
──一種のホラーだよこれ。火の玉だと言っても過言じゃあないよ。ああ、女の子に抱きつかれたい、by神門辰巳《みかどたつみ》。
だが、残念ながら彼はどうやらおばけでは無く神様らしい。
信じないといったものの、仮に居たとしたならもっと貫禄ある老人とかだと俺は思っていた。
先入観ってのは誰にでもあるものだな。
「ふーん?」
「な、なんだね。その冷めた反応わ」
──あれ、これは面白い。自称神様と論じ合えるだなんて……。堪らん、これだ、これなのだ。濡れるッ!!って、男でしたそーでした。
軽く咳払いをして「神様を否定。と言うかですね? 神様とは、元々人が作り上げた空想の人物だと思うんですよ」
「……と、言うと?」
心做しか神と名乗る人物の声が覇気をなくした感じがするが、まあいい。
「こんな話があります。『人は、死と言う概念に縛られている』つまり目に見えるものは、触れるものは、自分達で変えてゆける。だから、結果論として起こってしまった過去を振り返り学ぶんですよ」
「ふ、ふむ」
「けれど、死や未来と言った目に見えないモノには恐怖を覚える。なので、予言や予知と言ったものに縋るんです。そして、死もまた同じ事。目に見えないからこそ恐れ救いを求めた。死んだ後に」
「それが、神、だと?」
相槌をうち、暗闇で光る一点を見つめながら会話を続けた。
「そうです。ですから、神様は創造主では無く想像種だと僕は思う訳なんですよ。よって──」
「よ、よって?」
「貴方は、神様でもなんでもありま──」
「グアバッ」
え、何、この吐血しそうな勢いの声。世紀末で良く聞いた声だぞ。
やはり、この夢は素晴らしい。
「そ、そこまで言わなくてもいいではないか。ワシだって心があるんですよ……」
「心?」
「そ、そうだよ。当たり前じゃないか」
「心で、思い出しましたが。こんな話もあります、神様が居たとします。ただ、住まう次元は地球の時の流れすら超越し」
「分かった分かった。もう、信じなくてもいい。とりあえずワシは、隠身《カクリミ》神界から来ている」
「ああ。物凄い意思が強く、姿を持たない莫大な霊力を持った神様達が居る場所だって言う?」
なるほど、ならば白い球体と言うのも納得がいく。まあ、信じてないけどさ。でも夢だし現実じゃないし。
「すいません、試すような事を言ってしまって」
「試す?」
「はい。ですが、もう分かりました。貴方は紛うことなき神様です」
「お、そ、そーかそーか!! 信じてくれたか? なら良かった。うむ、本当に良かった!!」
──え、何この神様、チョロすぎ。つか、全く荘厳たるなんらかを感じねぇんだけど。本当に草生えるわー。
「む?どうした?」
「えっ?あ、いやいや。気にしないでください。それで、なぜ僕に世界を救ってほしいと?」
ラノベなら一度は聞いた事あるフレーズでもある。『異世界を救ってほしい』なんて、見慣れた言葉だ。例に習って、寝る前に読んでいた小説だってそうだった。
しかし、俺はこれに疑問を抱くことを禁じ得ない。何故、主人公は都合よく死んで異世界に行けるのだろうか。
なら、この世界で死んだやつは皆、異世界に行くはずだろう。神というのは皆を平等に愛しているはずだが、こればかりは贔屓と言っても過言じゃない。
「まあ、別に君じゃなくても構わないんだ。が、唯一見つけたのがたまたま君だったんだよ」
「見つけた?」
てっきり、『選ばれし者よ』だとか言ってくるもんばかりだと思っていたが予想外の変化球にボールを取り損ねてしまった。
比喩的な表現をしてみたが、つまり不意をつかれて返答に困った。
言葉を繰り返すしか出来なかった俺に『うむ』と、相槌を打つと光が少し強く暖かく光る。
「異世界に行く。とは、簡単に言ったものの今ある次元から別次元に行くのは、物理的な器を持っている以上、不可能なんだよ」
「平行世界……みたいなものですか?物理的干渉が出来ない世界線」
「平行世界とは、少し違う。君は『多元宇宙』と言う言葉を聞いた事があるかな?」
神妙な声に、いつの間にか惹き込まれている自分が居た。
「ええ。宇宙がいくつも存在しているだとか、ブラックホールの先にはまた違う宇宙に繋がっているだとかの話しですよね」
「そうだよ。いやはや、話が早くて助かるよ。故に、器がある状態じゃあ不可能。しかし、輪廻転生だとかはあるが前世の記憶を引き継ぐ確率は数パーセント。転移をしたとて、重圧に存在そのものが消え去ってしまう。『もしかしたら』だとか、もうそんな奇跡に頼る時間もない」
確かに、転生をした所で使命を忘れて新たな人生を歩んでいたのなら話にならないだろう。それに、この人の言い方からするに一応は試したことがあるのやもしれない。
だが、となれば俺が異世界転移出来る確率は零に等しい筈だ。
まあ、夢だから支離滅裂でもいいのか。
「で、それで何故僕なんですかね?」
「ふむ。では、本題に入ろう。ワシらは天界規定により人と直接的なな干渉はできないんだよ」
「だから、夢、って事ですか?」
「うむ。じゃが、夢で話しても朝になれば記憶を忘れてしまう。数人試みたが、やはり転移先で使命を忘れてしまっていた。しかし──」
ああ、なるほど、だから俺なのか。
明晰夢を見れる俺ならば記憶を失うことは無い。まるで現実に起こったかのように目覚めても覚えているからな。
「故に僕なんですね? まあ、仮に行くとして本当に行けるんですかね」
「それは問題ない。魂魄乖離を行うからの。けれど一つ問題がある」
魂魄の乖離。魂と肉体の分離、か。
流石、神を名乗るだけあるな。だけれど、それならば話は分かる。物質である肉体と魂が離れれば次元の移動も可能と言いたいのだろう。それはなるほど。納得せざるを得ない話だ。
「でも、問題とはなんですか?」
尋ねると、暫しの沈黙が生まれた。正直、表情を見れたのならコチラも色々と表現の仕方があるのだろうが、何せ相手は光の玉。きっと俺の今している表情は無表情だろう。
「それは、今ある世界からの消失。いや、失念かな?」
失念。つまり、俺って存在、概念が地球そのものから居なくなる忘れられるって事か。
いよいよそれは、ファンタジーだ。
「だが、安心してほしい。新しい器は、その体で新しい世界に構成される。それに、だ、君が好きな願いを一つ叶えてあげよう! さあ、どーだね」
「はい、じゃあお願いします」
「ん? え? あれ?」
「なんです?」
「いや、幾ら何でも即答すぎない?」
まあ、これは夢だし話に乗るぐらいいいじゃんな。
「ん、まあ別にこの世界に未練ある訳もないしね」
親は、あのクソ女と再婚し高校もロクに行かなかった俺を勘当した。奴の弟と天秤に掛けたのさ。小学、中学生だってそうだ。この世界は個々を然程必要としてはいない。
だが、バレないように世間体は良い顔をし、世間も従い偽りの優しさで包み込む。
「外観は酷い偽りであるかもしれない。世間はいつも虚飾に欺かれている……か」
「ふむ?なんだねそれは」
「シェイクスピアの言葉を引用させてもらっただけですよ」
「なるほど。中々良い言葉だ。とまあ、君には感謝しよう。さあ、ワシに触れたまえ」
暖かい光が近寄り、同時にいつの日に行ったかすら分からない公園やアミューズメントなどが脳裏に過ぎる。
俺の手を引っ張る、細くて温もりに溢れた手。まるで、白い光の先にその答えがある気がして手を伸ばした。
「──ただいま……」
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