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一章
帝都
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「いやはや、助かりました。まさか、今さっき亡くなった方達まで死霊化するとは……」
血を拭いながら、年老いた男性は深々と頭を下げた。
茶色のズボンに古臭いポロシャツを着た老人、リューベル=バルハは南西にある王都へ向かっている途中に襲われたらしい。
だが、話を聞くと些か引っ掛かる部分もあり、聞き流せなかった辰巳は、警備員で培った気さくさを用いて訪ねた。
「ですが、死霊が活発化するのは黄昏時から早朝にかけてなんですよね?こんな真昼間に、魂が乗移るとかあるんでしょうか」
言葉が通じるのは、どうやらこの世界で再構築された為に言語はこちらのものになっているようだ。
バルハは、素朴な疑問に対して一度視線を伏せてから口を開いた。
「うーん。分からないねぇ……そればかりは。知識が豊富な人々が集まるギルド本部なら……あるいわ」
少し伸びた白髪の顎鬚を撫で付け手、悩む仕草を浮かべる。
「ギルドですか。なるほど」と、情報を取り入れたのは今から約六時間ほど前の話だ。
「着いた、みたいだな」
「はい。マスターが、容赦ないのでいたる所が痛いです」
「なあ、シシリ」
「なんですか、マスター」
「何故だろうか。お前が発言すると、普通の言葉だったとしても卑猥に思えるんだが」
「──なるほど。つまり、マスターは私に欲情してるのですね。今晩も、寝かせない気なのですね。弄り倒すつもりなのですね」
「おい、いい加減にしろよ。今晩もってなんだ、今晩もって。引っぱたくぞ」
もはや、波を立てることもなく別段感情を込めることも無く平然と対処をする辰巳。と言うのも、ここに来るまでの六時間の間に色々とあったものだ。どれもこれもが、掛け替えのない宝物とまでは行かない。が、それでもいくつかは役にたった事もある。その一つがバルハに言われた一言『ギルドに加入しても魔法は使うべきじゃない』という事。
これは、馬に治癒術を施した時に怖い表情を作りながら言っていたので辰巳にとっては色濃く記憶として残っている。
「でも、事実」
もう一つは、適当に反応してもシシリの対応が変わることが無い。
「いや、まあ確かだけどさ。スマホは寝ずに使ったりとかあったけどさ」
云々言いながら、溜息を吐いて眩い光に目を細め立ち止まる。
二人は今、帝都・アルヴァアロンの入口に立っているのだ。
日が暮れ始め、影を伸ばす大地に聳え立つ建物はどれもが触れたこともない建造物。近代的とは程遠い歴史の一部を切り取ったかのような雰囲気は中世を漂わせている。
閉鎖的なのか魔物から街を守るためか、この場合は後者が正解に限りなく近いだろうが、壁が一箇所の鉄格子を除いて外と内を隔てているようだ。
顔を仰げば、万里の壁の上で何人もの警備兵らしき人物が往来している。正に、要塞だろう。
「体を清めて待ってます」
「清めなくていいから早く寝てくれ。バルハさんから頂いた、この聖金貨《せいきんか》五枚あれば宿に食事、ギルドへの加入も十分できるらしいしな」
この世界に来て初めの街。辿り着くまでは感じることもなかった謎のプレッシャーが足を前に運ばせない。
「──よし。行こう」
ポケットに入れた、聖金貨を力強く握り勇気を振り絞って前に進んだ。
「はい、マスター」
シシリは、何を考えているのか。この時ばかりは羨ましくもあった。
フルプレイトを装備した門兵二人は、辰巳とシシリの存在に気がついたのか顔をじっと見つめている。物凄い威圧感に視線を落として、
「お、お疲れ様でぇーす」
(ぁあ、やっべ。まじ、怖ーよ。殺されるかと思ったわ。もう少し歓迎する雰囲気漂わせてよ、犯罪者になった気分だったじゃんか。ここは監獄かよ)
「マスター」
「な、なんだよ」
「もっと大きな声で言わなきゃ相手は聞こえてないです」
痛い所を突いてくるシシリから逃れるように建物へと意識を向けた。
「うるせ。つか、お前はこの神秘的な建物を見て何も思わないのか?」
「神秘? 神秘とは──人知では推し測れないような(神や天地の)秘密。普通の理論的認識を越えたとしか言い様のない事柄です。
この建造物は人々が作ったものですよね。このような風景は私、何度も見たことがありますデータとして。なので、マスターのような感情は分かりません」
論理的な発言に、辰巳は言葉を濁す。
人の感性としては欠落をしていると思わざるを得ない。しかし、シシリは人であって人ではない。元々は、データの集合体みたいなものだろう。
結果、仕方が無いと思い至った時に辰巳が感じた感情は可哀想と言う同情だった。
「そうか。そうだよな、人が作ったものは人が作れるものだ凄くはないもんな」
「はい、マスター。それよりも私の体は空腹を迎えたようです」
シシリは、無表情でお腹を押さえている。
「そうかよ。じゃあ、出店も並んでるし適当に食べるか」
辰巳は、シシリの柔らかい髪を撫でてから陳列する出店を見渡した。
賑わいを見せる街中は、陽気な雰囲気が立ち込めている。装備をした人達が、カウンターで酒を酌み交わし、出店の店員も笑顔と大きい声で客寄せをしている。
日本では、祭りの時によく見る光景だがアルヴァアロンでは日常茶飯事なのかと思えば気持ちは踊り始めるというものだ。
いつしか、歩きながら首を何度も左右を行き来する。
「やべぇ、むっちゃ美味そうじゃんか!! おい、シシリ何食べたい?」
「分かりません。何が宜しいのでしょうか?」
「んー、やっぱ野菜より肉だよな!? 肉、肉!」
香ばしい香りや、美味しそうな焼ける音、甘そうな果実に食べごたえがありそうな串料理。
シシリの為に探してる筈の食料だったのに辰巳の口の中は唾液が止まることを知らずに分泌され続ける。
六時間歩いた疲れも忘れ二人の影は人混みへと消えてゆく。
「これから、俺達の異世界生活が始まるんだ。シシリ、今日は豪勢にいこうな!! な!?」
血を拭いながら、年老いた男性は深々と頭を下げた。
茶色のズボンに古臭いポロシャツを着た老人、リューベル=バルハは南西にある王都へ向かっている途中に襲われたらしい。
だが、話を聞くと些か引っ掛かる部分もあり、聞き流せなかった辰巳は、警備員で培った気さくさを用いて訪ねた。
「ですが、死霊が活発化するのは黄昏時から早朝にかけてなんですよね?こんな真昼間に、魂が乗移るとかあるんでしょうか」
言葉が通じるのは、どうやらこの世界で再構築された為に言語はこちらのものになっているようだ。
バルハは、素朴な疑問に対して一度視線を伏せてから口を開いた。
「うーん。分からないねぇ……そればかりは。知識が豊富な人々が集まるギルド本部なら……あるいわ」
少し伸びた白髪の顎鬚を撫で付け手、悩む仕草を浮かべる。
「ギルドですか。なるほど」と、情報を取り入れたのは今から約六時間ほど前の話だ。
「着いた、みたいだな」
「はい。マスターが、容赦ないのでいたる所が痛いです」
「なあ、シシリ」
「なんですか、マスター」
「何故だろうか。お前が発言すると、普通の言葉だったとしても卑猥に思えるんだが」
「──なるほど。つまり、マスターは私に欲情してるのですね。今晩も、寝かせない気なのですね。弄り倒すつもりなのですね」
「おい、いい加減にしろよ。今晩もってなんだ、今晩もって。引っぱたくぞ」
もはや、波を立てることもなく別段感情を込めることも無く平然と対処をする辰巳。と言うのも、ここに来るまでの六時間の間に色々とあったものだ。どれもこれもが、掛け替えのない宝物とまでは行かない。が、それでもいくつかは役にたった事もある。その一つがバルハに言われた一言『ギルドに加入しても魔法は使うべきじゃない』という事。
これは、馬に治癒術を施した時に怖い表情を作りながら言っていたので辰巳にとっては色濃く記憶として残っている。
「でも、事実」
もう一つは、適当に反応してもシシリの対応が変わることが無い。
「いや、まあ確かだけどさ。スマホは寝ずに使ったりとかあったけどさ」
云々言いながら、溜息を吐いて眩い光に目を細め立ち止まる。
二人は今、帝都・アルヴァアロンの入口に立っているのだ。
日が暮れ始め、影を伸ばす大地に聳え立つ建物はどれもが触れたこともない建造物。近代的とは程遠い歴史の一部を切り取ったかのような雰囲気は中世を漂わせている。
閉鎖的なのか魔物から街を守るためか、この場合は後者が正解に限りなく近いだろうが、壁が一箇所の鉄格子を除いて外と内を隔てているようだ。
顔を仰げば、万里の壁の上で何人もの警備兵らしき人物が往来している。正に、要塞だろう。
「体を清めて待ってます」
「清めなくていいから早く寝てくれ。バルハさんから頂いた、この聖金貨《せいきんか》五枚あれば宿に食事、ギルドへの加入も十分できるらしいしな」
この世界に来て初めの街。辿り着くまでは感じることもなかった謎のプレッシャーが足を前に運ばせない。
「──よし。行こう」
ポケットに入れた、聖金貨を力強く握り勇気を振り絞って前に進んだ。
「はい、マスター」
シシリは、何を考えているのか。この時ばかりは羨ましくもあった。
フルプレイトを装備した門兵二人は、辰巳とシシリの存在に気がついたのか顔をじっと見つめている。物凄い威圧感に視線を落として、
「お、お疲れ様でぇーす」
(ぁあ、やっべ。まじ、怖ーよ。殺されるかと思ったわ。もう少し歓迎する雰囲気漂わせてよ、犯罪者になった気分だったじゃんか。ここは監獄かよ)
「マスター」
「な、なんだよ」
「もっと大きな声で言わなきゃ相手は聞こえてないです」
痛い所を突いてくるシシリから逃れるように建物へと意識を向けた。
「うるせ。つか、お前はこの神秘的な建物を見て何も思わないのか?」
「神秘? 神秘とは──人知では推し測れないような(神や天地の)秘密。普通の理論的認識を越えたとしか言い様のない事柄です。
この建造物は人々が作ったものですよね。このような風景は私、何度も見たことがありますデータとして。なので、マスターのような感情は分かりません」
論理的な発言に、辰巳は言葉を濁す。
人の感性としては欠落をしていると思わざるを得ない。しかし、シシリは人であって人ではない。元々は、データの集合体みたいなものだろう。
結果、仕方が無いと思い至った時に辰巳が感じた感情は可哀想と言う同情だった。
「そうか。そうだよな、人が作ったものは人が作れるものだ凄くはないもんな」
「はい、マスター。それよりも私の体は空腹を迎えたようです」
シシリは、無表情でお腹を押さえている。
「そうかよ。じゃあ、出店も並んでるし適当に食べるか」
辰巳は、シシリの柔らかい髪を撫でてから陳列する出店を見渡した。
賑わいを見せる街中は、陽気な雰囲気が立ち込めている。装備をした人達が、カウンターで酒を酌み交わし、出店の店員も笑顔と大きい声で客寄せをしている。
日本では、祭りの時によく見る光景だがアルヴァアロンでは日常茶飯事なのかと思えば気持ちは踊り始めるというものだ。
いつしか、歩きながら首を何度も左右を行き来する。
「やべぇ、むっちゃ美味そうじゃんか!! おい、シシリ何食べたい?」
「分かりません。何が宜しいのでしょうか?」
「んー、やっぱ野菜より肉だよな!? 肉、肉!」
香ばしい香りや、美味しそうな焼ける音、甘そうな果実に食べごたえがありそうな串料理。
シシリの為に探してる筈の食料だったのに辰巳の口の中は唾液が止まることを知らずに分泌され続ける。
六時間歩いた疲れも忘れ二人の影は人混みへと消えてゆく。
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