異世界転移したら、スマホが超優秀美少女に~ギルド本部にも追放されたので孤高の英雄を目指します~

流転

文字の大きさ
4 / 41
一章

弾道

しおりを挟む
「こっちからだよな? 声のした方角は」

 腰を屈め、成る可く目立たぬ様に心掛けながら二人は悲鳴の方角へ向かう。
 この選択が、正しいかどうかは分からない。騎士団の様にいきり立ち鬨の声を上げながら走り突進するのが正しかったのかも知れないが、何せ、辰巳にとっては初めての経験。
 死霊《アンデッド》だって、ゲームやアニメでしか見たことは無い。当然、触れた事も無いのだから対処の仕方すら分からない。

「はい、マスター。ですが、一つ良いでしょうか?」

 少し後ろから尋ねるシシリの声に耳を傾け、前方をみつつも小さい声で答えた。

「なんだ?」

「索敵関連の、呪文等は無いのですか? 私は効力までは使わない限り分からないので」

「……あ」

 そよ風の様に小さく零れ吐息にも似た声を、辰巳は少し開いた口から漏らした。
 確かに、色々なソシャゲをダウンロードしていた為に様々な呪文がスマホ内にはデータとして入っている。
 シシリの問に答えを導かれた辰巳は、少し立ち止まり覚えていたであろう呪文の中で探査に適した技を思い出す。
 眉頭を顰め、対戦シーンをさながら走馬灯の如く脳内で走らせてから、二分ぐらいが過ぎて辰巳は瞼を開いた。

「あったぞ! 確か、導く一本の真実フォルトゥーナ!! シシリ、使えるか?」

「はい、マスター。検索します」と、シシリは目を瞑り屈んだまま両手を前で編みながら瞑想をしている様子。
 何も出来ない辰巳は、他に何の技があり、呪文があるか。次に似たよう場面に出くわした時に考える時間は無駄だと本能的に察知した。

「──検索完了。では発動します、導く一本の真実フォルトゥーナ

 そうこうしているうちに数秒足らずでシシリは呪文を発動した。
 どうやら、詠唱をする必要が無いのと有るのがあるらしい。

 シシリの目が青白く輝くと、一瞬ではあるが甲高い音が超音波のように響いた気がした。それが、数回に渡り鼓膜を刺激した後に、小さい唇が開く。

「探査完了。ターゲット発見──此処から南西に徒歩、百メートルで辿り着きます」

 シシリが、先導を仕切り草を掻き分けながら進む事数分。
 二人はやっと、悲鳴の元へと辿り着いたが安堵より先に辰巳は来たことを後悔した。

「これが……。この有り様が、現実……なのかよ」

 馬は、足の骨が折れているのか倒れ込み舌をだらしなく出している。間違いないのは、瀕死状態に陥っている事。
 そして、何の職かは分からないが、御者台に乗っていたであろう男性は返り血を浴び真っ赤に染まっていた。
 死んでたまるかと荷馬車の上に乗っかり死霊からの猛攻を掻い潜っている様子。辺りで無惨に散らばる死体は、武装をしている事を鑑みるに傭兵かもしくは冒険家。
 死霊アンデッドは、数体おり中には犬や熊も居る。

「アァア……ァア……ァ」

 彼等は多種多様でありながらも、一貫して低く薄気味悪い嗄れた呻き声を喉を鳴らし発している。離れていても漂ってくるのは、鼻をもぎたくなる死臭。耳を塞ぎたくなる不愉快な鳴き声は、戦意を削いでゆく。

「く、くるなっ」

 男性は、瞳孔を狭め乾いた涙で頬に跡を作りながらも口をパクパクと動かしていた。
 余りの恐怖で言葉を無くしたのだろうか。しかし、それ以上に死霊アンデッドの脅威を目の当たりにして辰巳は臆する。

「俺達が、何とか出来るレベルじゃあないだろ……」

 この時辰巳は自分を責めていた。自分は、勇気も無ければ勇猛果敢《ゆうもうかかん》になれる訳でもない。到底、物語の主人公みたいな正義に身をやつせる善も武勇もないと思い知った。
 確かにシシリの力強さは夢を見せてくれる。だが、もし、見た目だけで実際は効力が無かったら。
 間違いなく、微かな衝撃に死霊アンデッドは気が付き襲ってくるだろう。

「そしたら……あの死体みたいに」

 白目を向き、口からは泡と血が混合して見たことも無い赤色をしている。
 鎧は大破し、首は折れ曲がったりもしている。其れ等が瞳から離れずにまとわりついていた。

「──せーんぱい! 起きてくださいよー! せーんぱい寂しいですー!!」

「──ッ!?」

 ──アラームが鳴った。昼の終わりを知らせるアラームが。今の雰囲気には似つかわしいくない、元気よく明るく花のある可憐なアラームが。

 辰巳は近くで鳴った音に体を竦めたのと同時に意識が覚醒する。

 いっぱいいっぱいだった自分を、震えた手の平を瞳に写して理解した。

「あーあ、もうこれで逃げられねぇな。そーだろシシリ」

「申し訳ございません」

「設定したのは、俺だ。謝る事じゃないさ」

「ですが、弄られっぱなしで何もしなかった私にも責任があります」

「……たっく。お前も、ぶれねぇのなシシリ」

 無感情で語るシシリが、まったく畏れを抱いていない様子で緊迫感もない発言をしている。
 それを聞いて、辰巳は深呼吸をしながら肩を撫でた。

(とはいっても、今のシシリは携帯に備わった知識しかない。危険視が出来ないのも仕方が無い……が、助かったぞ)

「アァ……?」

 獣系の死霊アンデッドの耳がピクリと動き、連動して数体が二人へとユックリ振り返った。
 アラームが、辰巳の気持ちを落ち着かせたのば事実だ。けれど、死霊《アンデッド》を別の存在へと意識を向かせてしまう、つまり隠れていた場所がバレる形ともなってしまったのだ。

 辰巳は、未だに震える両膝を加減をせずに力いっぱい叩いた。

「クゥー! いってぇーな、こら!」

 隠れる事を止めて立ち上がり背伸びをする。
 拭えない緊張感は未だに心拍数を無駄にはね上げ呼吸は詰まったままだ。
 生きた心地がしない事を実感した辰巳は後ろで屈むシシリと目が合う。

「マスターの性癖をダウンロード」

「おい、勝手にダウンロードすな! ……それより、シシリ」

「はい、何ですか? マスター」

「お前は、装備を顕現出来るって事は再び戻す事も可能なんだよな」

 尋ねると、シシリは短く頷いた。
 しっかりと確認した辰巳の口は、此処に来て初めて緩む。

「よし、ならばお前に顕現してもらいたい武器がある」

(正直、魔法は威力が分からない今、生きている人が近くにいる限り使えない。となれば、俺が先頭に立ち戦闘するしかない)

「了解しましたマスター。検索名を言ってください」

「ああ。ギルド系のソシャゲ。名前は、レイドオブバビロニア。武器の名前は、ディーワ・マーテル」

「承諾しました。検索いたします」

「──検索完了。召喚サモン:ディーワ・マーテル」

 シシリが落ち着いた口調で、唱えるとあの時みた次元の裂け目みたいなものが発生した。

「これですか? マスター」

「ああ、間違いない。聖人が邪を穿つ破魔の銃、ディーワ・マーテルだよ」

 白銀のミスリルで出来た二丁の銃、ディーワ・マーテルは、太陽に反射し神々しさを増していた。
 グリップの部分には十字架が刻印されており、手に持つとズッシリと重い。
 辰巳は、ブレないように強く握ると銃口を死霊に向けた。

「シシリ、呪文だ。検索先はドラゴンオブナイツ。技名は、ヒットアップ。標的は、俺だ」

 ディーワ・マーテル・レア度は、大して高くはない。最高進化でもSRスーパーレア止まりだ。
 だが、アンデッド系には二倍のダメージを与える事が出来る特攻キラー持ち。
 白銀の弾薬は、再生を許さず罪と共に灰に帰する聖なる武器。

(だが、それだけじゃ心許ない。なにせ、相手に当たらなきゃいけないからな)

「検索完了。術を発動します。目標、マスター」

 淡く青い光が辰巳を覆い尽くし体に馴染み染み渡るのを全身で感じる。銃口はブレなくなり、一体をしっかり捉えている。

「これなら……ッ!!」

 トリガーを引き、反動に任せて体を動かす中で弾道は一直線に伸びそして──一体の脳天を迷いなく穿った。

「すげぇ、勝手に目標へと弾が飛んでくぞ」

 改めて強化魔法バフの大切さを身に感じつつバレットダンスを続ける。
 弾薬と薬莢が、地に落ち奏でる音は終わりを歌い続けた。

「逃がさねぇよ! オラオラオラッ!!」

 消耗する体力をも忘れ、ただひたすらに無我夢中で引き金を引く。
 勢い良く飛びかかる犬型の死霊ですら、辰巳の命中率の前では手も足も出ずに穿たれ灰になる。

 消える瞬間すらも、スローに流れる時の中に辰巳は居たのだ。全てが遅く感じ、それ故に照準を合わせやすい。これが術の効力か、はたまたアドレナリンかは分からないが辰巳は、身を預けつづけた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...