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二章
堕天使
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静電気が、全身を這いずり回るかのような感覚と異様に上がる息が、吐き気と一緒に警鐘を辰巳に鳴らす。
これ以上は行ってはならない。と、止まりそうになる足を、それでも辰巳は無理矢理に持ち上げ、泥濘に足を運ばせ続けた。粘着質な音が響き鼓膜にまとわりつく。
森は深さを段々とゆっくりではあるが増し、木漏れ日すら許さない闇へと変貌を遂げていった。時折、木々の隙間を通り抜ける冷たい風が奏でる音すら悍ましい呻き声のよう。
足元も物凄く悪くなり、図太い根っこや蔦が地を這い、視界が悪い状況で何度も転びそうにすらなる。
枝や葉が、風で悪魔的に不快な音を鳴らす中でシシリは言った。
「マスター、近いです。注意してください」
いつもと変わらない抑制のきいた人形のような声音。だが、先を写すであろう、大きい瞳は警戒と警鐘を辰巳に色濃く報せる。
「ああ、分かってる。だが、俺にもコイツがあるからな」
走りながら、彫刻か施された聖柄に手を滑らせる。辰巳が背負っているのは、一筋の槍。真っ白い柄に、二又の矛。
──聖具・ロンの槍(GR)だ。
それに、シシリからは支援魔法・ヒットアップも掛けてもらった。
確かに、剣の振り方などぎこちは無いが、命中率さえ高ければ今まで問題がない。
「武器に備わっているスキルが、適用されるのはもう分かってる」
「ロンの槍には、有効なものがあるのですか?」
「ああ。ロンの槍には、義憤。つまり、正義の名の元に猛る怒りと共に生きている」
──アーサー王が、カムランの戦いで用いたとされる聖槍。甥である、モルドレッドと戦った物語が武器に込められている。
「と、言うと?」
「コイツは、聖遺物なんだよ。まあ、見てれば分かるさ」
次第に、蠢く何かを視認し柄に滑らせた手に力を入れた。
肺いっぱいに不穏漂う空気を一杯に吸い込み、──叫んだ。
「ゼクス! レルガルド!」
脅威を捩じ伏せ、大声を発し二人を取り囲む敵数体を切り伏せてやっと合流をする。
だが、状況は芳しくはない。膝をおり、屈むゼクスにもはや戦意は無いようだ。
ゼクスが抱えるレルガルドのフルプレイトは大破し隙間からは血が滴っている。
「俺が……俺が……レルガルドの忠告を……俺が」
事切れる寸前の虫の音が如く、ゼクスは頻りに自分を咎め続けている。
辰巳はゼクスの肩に手を添えて、シシリを見つめた。何を言いたいのか分かったのだろう、シシリは短く頷くとレルガルドに近寄る。
大破したフルプレイトから露わになった血だらけの腹に手を添えた。
あっという間にシシリの白い手が真っ赤に染まり、事の重大さを体感して辰巳はゼクスの肩を揺さぶる。
「おい、おい!!」
「おれが……」
「すまん、ゼクス」
腕を振り上げ、辰巳の手のひらは躊躇い無くゼクスの頬に衝撃と痛みを与えた。手のひらから感じる痛みは、同時に心すら痛める。嘗ての世界、日本でも他者に振るった事の無い暴力。理由はどうあれ、辰巳には罪悪感が宿るのは必然だった。
それでも、ゼクスの、いつも明るく元気を振りまくゼクスの落胆し絶望しきった姿を見続けるのは、それ以上の苦しみを伴う。
「本当に……ごめん」
申し訳ない気持ちと、与えなきゃいけない罰を自分で行使する辰巳は爪がくい込むまで叩いた手を力強く強く握り続けた。
「タツ──」
死んだ魚の目には生が戻り、涙で滲んだゼクスの瞳には辰巳が映っている。
「いいか? この事は、誰にも言わないでくれ。いいな?」
「タツミ……なにを?」
「シシリ!」
「はい、マスター。──ヒールリジェネレーション」
血に染まった手が青白く発光し、レルガルド全身に行き渡る。
「これは? 何をした……んだ? タツミ」
ゼクスの問に、辰巳は敵を警戒しつつ答えた。
「これは、治癒魔法の一つだよ。ヒットポイント……いや、離れかけた魂を取り留め、回復を促すとでも言えばいいか」
「マホウ?」
「ああ。まあ、後は俺とシシリに任せろ。ゼクスは、レルガルドの傍にいてやってくれ」
背負っていたロンの槍を抜き出し地に刺し、合掌をした。
横に並ぶシシリは、相変わらず落ち着いた様子で悠然としている。
辰巳はシシリの、有難味を横目で痛感しつつも声を荒らげた。
「我が名に答えよ、ロンの槍!!」
眼光は鋭さを増し、大声に驚いた鳥は木々を騒がせて飛び去る。それ程までの覇気を可能としたのは、恐れと怒り。
呼び声に答えるかのように、地に刺したロンの槍は燦然たる粒子に変わった。
「やはり、効力は発揮されるみたいだな」
粒子は、眩さを保ちながら辰巳の全身を覆い尽くす。
暖かく優しい光は、緊張を解し逆に構成されてゆく白銀の鎧が安堵と勇気を与える。
足のつま先から、頭の先までヒシヒシと感じる力強さを感じて辰巳は確信した。
「これなら、勝てる!!」
変貌を遂げた、辰巳の全身は神々しさを放つ白銀の鎧。そして、二筋の槍。
空を斬るたびに鳴る鋭い音は、ロンの槍の鋭さを物語っている。
「マスター」
「ああ、分かってる。おかしいと思ってたんだ。本当の敵はコイツらじゃない」
「──上か!? シシリ、リフレクトを展開!!」
「分かりました。リフレクトを展開します」
シシリが、天に手を翳すと緑色をしたバリアがドーム状に展開。
──刹那。空から放たれた業火により、生い茂った木々は燃え盛り大きな風穴が空いた。
「おや、おやおやおや。一撃で仕留めるつもりが……全然生き残ってますねぇ」
「お姉ぇちゃん、油断しすぎだよ。無駄な奴まで生きてるじゃん」
「何を言っているの?あれは、囮じゃないの」
「なら、殺してから操ればよかったじゃん」
太陽に視界を曇らせる中で眼前に捉えたのは、翼を翻し優雅に浮遊する二人の姿だった。
「コイツらが、堕天使」
辰巳は、堕天使が何を喋っているかは分からないが。凡その察しはついた。
襲ってこないホムンクルス。致命傷を与えられた、にも関わらず殺されることなく生きていた、生かされていた二人。
簡単に、ゼクスとレルガルドの元に辿り着くことが出来たこと等を踏まえると答えは自然と見えてくる。
「まんまと、誘き出されたって事か」
「きます」
これ以上は行ってはならない。と、止まりそうになる足を、それでも辰巳は無理矢理に持ち上げ、泥濘に足を運ばせ続けた。粘着質な音が響き鼓膜にまとわりつく。
森は深さを段々とゆっくりではあるが増し、木漏れ日すら許さない闇へと変貌を遂げていった。時折、木々の隙間を通り抜ける冷たい風が奏でる音すら悍ましい呻き声のよう。
足元も物凄く悪くなり、図太い根っこや蔦が地を這い、視界が悪い状況で何度も転びそうにすらなる。
枝や葉が、風で悪魔的に不快な音を鳴らす中でシシリは言った。
「マスター、近いです。注意してください」
いつもと変わらない抑制のきいた人形のような声音。だが、先を写すであろう、大きい瞳は警戒と警鐘を辰巳に色濃く報せる。
「ああ、分かってる。だが、俺にもコイツがあるからな」
走りながら、彫刻か施された聖柄に手を滑らせる。辰巳が背負っているのは、一筋の槍。真っ白い柄に、二又の矛。
──聖具・ロンの槍(GR)だ。
それに、シシリからは支援魔法・ヒットアップも掛けてもらった。
確かに、剣の振り方などぎこちは無いが、命中率さえ高ければ今まで問題がない。
「武器に備わっているスキルが、適用されるのはもう分かってる」
「ロンの槍には、有効なものがあるのですか?」
「ああ。ロンの槍には、義憤。つまり、正義の名の元に猛る怒りと共に生きている」
──アーサー王が、カムランの戦いで用いたとされる聖槍。甥である、モルドレッドと戦った物語が武器に込められている。
「と、言うと?」
「コイツは、聖遺物なんだよ。まあ、見てれば分かるさ」
次第に、蠢く何かを視認し柄に滑らせた手に力を入れた。
肺いっぱいに不穏漂う空気を一杯に吸い込み、──叫んだ。
「ゼクス! レルガルド!」
脅威を捩じ伏せ、大声を発し二人を取り囲む敵数体を切り伏せてやっと合流をする。
だが、状況は芳しくはない。膝をおり、屈むゼクスにもはや戦意は無いようだ。
ゼクスが抱えるレルガルドのフルプレイトは大破し隙間からは血が滴っている。
「俺が……俺が……レルガルドの忠告を……俺が」
事切れる寸前の虫の音が如く、ゼクスは頻りに自分を咎め続けている。
辰巳はゼクスの肩に手を添えて、シシリを見つめた。何を言いたいのか分かったのだろう、シシリは短く頷くとレルガルドに近寄る。
大破したフルプレイトから露わになった血だらけの腹に手を添えた。
あっという間にシシリの白い手が真っ赤に染まり、事の重大さを体感して辰巳はゼクスの肩を揺さぶる。
「おい、おい!!」
「おれが……」
「すまん、ゼクス」
腕を振り上げ、辰巳の手のひらは躊躇い無くゼクスの頬に衝撃と痛みを与えた。手のひらから感じる痛みは、同時に心すら痛める。嘗ての世界、日本でも他者に振るった事の無い暴力。理由はどうあれ、辰巳には罪悪感が宿るのは必然だった。
それでも、ゼクスの、いつも明るく元気を振りまくゼクスの落胆し絶望しきった姿を見続けるのは、それ以上の苦しみを伴う。
「本当に……ごめん」
申し訳ない気持ちと、与えなきゃいけない罰を自分で行使する辰巳は爪がくい込むまで叩いた手を力強く強く握り続けた。
「タツ──」
死んだ魚の目には生が戻り、涙で滲んだゼクスの瞳には辰巳が映っている。
「いいか? この事は、誰にも言わないでくれ。いいな?」
「タツミ……なにを?」
「シシリ!」
「はい、マスター。──ヒールリジェネレーション」
血に染まった手が青白く発光し、レルガルド全身に行き渡る。
「これは? 何をした……んだ? タツミ」
ゼクスの問に、辰巳は敵を警戒しつつ答えた。
「これは、治癒魔法の一つだよ。ヒットポイント……いや、離れかけた魂を取り留め、回復を促すとでも言えばいいか」
「マホウ?」
「ああ。まあ、後は俺とシシリに任せろ。ゼクスは、レルガルドの傍にいてやってくれ」
背負っていたロンの槍を抜き出し地に刺し、合掌をした。
横に並ぶシシリは、相変わらず落ち着いた様子で悠然としている。
辰巳はシシリの、有難味を横目で痛感しつつも声を荒らげた。
「我が名に答えよ、ロンの槍!!」
眼光は鋭さを増し、大声に驚いた鳥は木々を騒がせて飛び去る。それ程までの覇気を可能としたのは、恐れと怒り。
呼び声に答えるかのように、地に刺したロンの槍は燦然たる粒子に変わった。
「やはり、効力は発揮されるみたいだな」
粒子は、眩さを保ちながら辰巳の全身を覆い尽くす。
暖かく優しい光は、緊張を解し逆に構成されてゆく白銀の鎧が安堵と勇気を与える。
足のつま先から、頭の先までヒシヒシと感じる力強さを感じて辰巳は確信した。
「これなら、勝てる!!」
変貌を遂げた、辰巳の全身は神々しさを放つ白銀の鎧。そして、二筋の槍。
空を斬るたびに鳴る鋭い音は、ロンの槍の鋭さを物語っている。
「マスター」
「ああ、分かってる。おかしいと思ってたんだ。本当の敵はコイツらじゃない」
「──上か!? シシリ、リフレクトを展開!!」
「分かりました。リフレクトを展開します」
シシリが、天に手を翳すと緑色をしたバリアがドーム状に展開。
──刹那。空から放たれた業火により、生い茂った木々は燃え盛り大きな風穴が空いた。
「おや、おやおやおや。一撃で仕留めるつもりが……全然生き残ってますねぇ」
「お姉ぇちゃん、油断しすぎだよ。無駄な奴まで生きてるじゃん」
「何を言っているの?あれは、囮じゃないの」
「なら、殺してから操ればよかったじゃん」
太陽に視界を曇らせる中で眼前に捉えたのは、翼を翻し優雅に浮遊する二人の姿だった。
「コイツらが、堕天使」
辰巳は、堕天使が何を喋っているかは分からないが。凡その察しはついた。
襲ってこないホムンクルス。致命傷を与えられた、にも関わらず殺されることなく生きていた、生かされていた二人。
簡単に、ゼクスとレルガルドの元に辿り着くことが出来たこと等を踏まえると答えは自然と見えてくる。
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「きます」
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