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二章
畏怖
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焼け野原と化した森で、未だに空に浮遊する堕天使は行動に移そうとはしない。直径二十メートルほどが禿げる火力を一瞬にして叩き出す技は今までの奴らとは違う。それ故に魔法は必然的に出し惜しみなんか出来はしない。
それに真っ黒い煙が、さながら柱の如く立ち上がり酸素は枯渇の一途をたどる。
長期戦にも連れ込めば人である辰巳に勝機はない。もしくは、それが狙いなのか。
「そうは、させるかよ。シシリ、リフレクトをゼクスとレルガルドだけにかけてくれ。俺は、一帯に燃え盛る火を消す」
ロンの槍の穂先を地に向けて、力を込める。ロンの槍は、辰巳の思いに連動し脈打ちながら発光を続ける光の槍。
「可能なのですか?」
「ああ。このロンの槍で消し飛ば」
「マスター、流石にそれは無理ですよ。此処は、森です。いくら、強い風を用いたとしても僅かな火種は残る筈です」
シシリは、辰巳の命じた通りリフレクトを収縮してから言った。
流石はデータ量の多さと言うべきか。
確かに、酸素を消す事も燃料である森自体を消すことも出来ない。だが、此処には野生の動物だって生きている。見て見ぬ振りなんか出来はしない。
「何の為に私が居るのですか?マスター」
曇り無き眼は、『私に命じてくれ』と辰巳には伝わった。冷静な律動を感じ、上がった自分の肩を撫で深呼吸を辰巳は行う。
火を消すには、大量の水が必要だ。しかし、魔法のどれもが広範囲にばらまけるものではない。消去法で一個一個消してゆく。
「くそ、見当たらねぇ。支援でもなきゃ攻撃魔法も……」
咳き込み、器官を通る空気は熱く、嗅覚は焦げた臭いで鈍る。
「俺等なんか、もう直接手を下す必要なんかねぇってことか? ずる賢い奴が空で見下しやがって」
「──空……空……天候か!!シシリ!!あいつらをついでに叩き落とすぞ」
「はい、マスター。命を下さい」
辰巳は、ロンの槍を堕天使に向けて吠えた。
「レイド・オブ・バビロニアの天候魔法、レイン・フィールドを放て」
「検索完了。行きます、レイン……フィールド」
天にシシリが手を翳すと、青々とした雲一つない空には分厚い雲が集まり始める。
辰巳が、自分の選択が正しい方向に向いたと確信した頃、堕天使二人は嘲笑っていた。
漆黒の翼を翻し、白と黒を基調としたドレスを身に纏う堕天使達。目には慈悲を宿すことは無く、有るのは渦巻く欲望の虚ろんだ悍ましい青い瞳。口角を吊り上げ、下にいる辰巳達を下卑た者を見る瞳で冷たい視線を送り続けた。
「おやおやおや、天候も操れるのですね。このサナエルは感激ですわ」
パラパラと降り始めた雨が、腕を伝い指から零れる。サナエルは、態とらしく舌を出すと自分の指を淫に加え舐め取った。
「もう、お姉ちゃん! 余裕を見せすぎだよ。少しは警戒しなさいよ」
「もう、ナナエルは真面目なんだから。いくら、私達と似た力を用いようとも私達を殺せるはずが無いもの」
「確かに……そうだけどさ。神が作った子が親に適うはずないしねー。なら、兎も角お姉ちゃん、記帳してる??」
「してるわよ、心配性なんだから。って、あらあらこれは少しマズイかしら」と、サナエルが頭上に渦巻く雲を引き攣った顔で見上げる数分前。
地上では、辰巳とシシリの次なる行動が行われていた。
「これだけ、雨脚も増せば火は自然と鎮火されるはずだ。シシリ、組み合わせ技と行こうか」
「組み合わせ?」
シシリが、小首をかしげ辰巳を見つめると誇らしげに頷いた。
「ああ。元々、レイン・フィールドは属性攻撃のバフとデバフを行う天候魔法。火・光を軽減させ、水・闇・雷属性の値を大幅に向上させる。つまり、この状況で迸る灼熱の雷撃を穿てば倍以上の被ダメを相手に与える事が出来る。いけるか?」
雨が激しく地を叩く。体温は冷え、身震いしてしまう中で何一つ変わらずに立つシシリの姿はさながら女神。
美しくもあり、儚くもある。穢を知ってしまえば、闇にすぐ堕ちてしまいそうな無垢な表情を保ったままシシリは頷いた。
「ダウンロード済み。すぐ行ける」
手を再び天に翳し、シシリは唱える。
「──天に仇なす闇の理は天を制する祖への冒涜。故に、祖に代わり天誅を降そう。雲を割り、地を焼く灼熱の一閃……。迸る灼熱の雷撃」
──音を置き去りに煌めく閃光が、青白い縦一閃を描いた刹那──爆裂音が大地を揺らした。
「いたたたた……。流石に今のは答えたわよ、人間」
「もう、お姉ちゃん。何で障壁を展開しなかったのお?」
「だって、サナエルわあー記帳しなきゃでしょ? 身をもって体感しなきゃだし。もう、ナナエルそんな目で見ないでよねっ」
「まあ、でもこれなら苦もなく捕らえれそうだね」
迸る灼熱の雷撃を振り払い、依然として苦しむ素振り一つ見せず近づくサナエル。汚れ一つ付いてもない、綺麗なままナナエルもまた空から舞い降りてきた。
小説の中でもトップクラスの攻撃魔法を食らってもなお平然としている姿を見て、辰巳は畏怖を初めて体感する。
「でもー、あれよね。少し幻滅かしら。間近で、あの雷を見た時は切り傷ぐらいは覚悟していたのだけれどね」
(切り傷……だと? 本当に力は無いってことか? いや、だがそんなはずは無い)
サナエルが居た場所には、大きな穴がかなりの深さで空いている。破壊力は間違いなくあった、にも関わらず二人の姿はほぼ無傷だ。
ナナエルの、会話を聞くからにサナエルは避ける事無く自ら迸る灼熱の雷撃に当たったようだし、いよいよ辰巳は死を間近で感じ始めた。
「マスター、平気?」
鎧をコンコンと、叩いてシシリは恐れを抱かぬ声で辰巳を呼んだ。
「ああ、勝負はこれからだろ。大丈夫だ、嘗められっぱなしで終われるかよ」
強がりだとしても、辰巳は二筋の槍を構える。これが、異世界に来た理由だからこそ死ぬ訳にはいかないと。
この時、初めて死線を潜ることを覚悟した
それに真っ黒い煙が、さながら柱の如く立ち上がり酸素は枯渇の一途をたどる。
長期戦にも連れ込めば人である辰巳に勝機はない。もしくは、それが狙いなのか。
「そうは、させるかよ。シシリ、リフレクトをゼクスとレルガルドだけにかけてくれ。俺は、一帯に燃え盛る火を消す」
ロンの槍の穂先を地に向けて、力を込める。ロンの槍は、辰巳の思いに連動し脈打ちながら発光を続ける光の槍。
「可能なのですか?」
「ああ。このロンの槍で消し飛ば」
「マスター、流石にそれは無理ですよ。此処は、森です。いくら、強い風を用いたとしても僅かな火種は残る筈です」
シシリは、辰巳の命じた通りリフレクトを収縮してから言った。
流石はデータ量の多さと言うべきか。
確かに、酸素を消す事も燃料である森自体を消すことも出来ない。だが、此処には野生の動物だって生きている。見て見ぬ振りなんか出来はしない。
「何の為に私が居るのですか?マスター」
曇り無き眼は、『私に命じてくれ』と辰巳には伝わった。冷静な律動を感じ、上がった自分の肩を撫で深呼吸を辰巳は行う。
火を消すには、大量の水が必要だ。しかし、魔法のどれもが広範囲にばらまけるものではない。消去法で一個一個消してゆく。
「くそ、見当たらねぇ。支援でもなきゃ攻撃魔法も……」
咳き込み、器官を通る空気は熱く、嗅覚は焦げた臭いで鈍る。
「俺等なんか、もう直接手を下す必要なんかねぇってことか? ずる賢い奴が空で見下しやがって」
「──空……空……天候か!!シシリ!!あいつらをついでに叩き落とすぞ」
「はい、マスター。命を下さい」
辰巳は、ロンの槍を堕天使に向けて吠えた。
「レイド・オブ・バビロニアの天候魔法、レイン・フィールドを放て」
「検索完了。行きます、レイン……フィールド」
天にシシリが手を翳すと、青々とした雲一つない空には分厚い雲が集まり始める。
辰巳が、自分の選択が正しい方向に向いたと確信した頃、堕天使二人は嘲笑っていた。
漆黒の翼を翻し、白と黒を基調としたドレスを身に纏う堕天使達。目には慈悲を宿すことは無く、有るのは渦巻く欲望の虚ろんだ悍ましい青い瞳。口角を吊り上げ、下にいる辰巳達を下卑た者を見る瞳で冷たい視線を送り続けた。
「おやおやおや、天候も操れるのですね。このサナエルは感激ですわ」
パラパラと降り始めた雨が、腕を伝い指から零れる。サナエルは、態とらしく舌を出すと自分の指を淫に加え舐め取った。
「もう、お姉ちゃん! 余裕を見せすぎだよ。少しは警戒しなさいよ」
「もう、ナナエルは真面目なんだから。いくら、私達と似た力を用いようとも私達を殺せるはずが無いもの」
「確かに……そうだけどさ。神が作った子が親に適うはずないしねー。なら、兎も角お姉ちゃん、記帳してる??」
「してるわよ、心配性なんだから。って、あらあらこれは少しマズイかしら」と、サナエルが頭上に渦巻く雲を引き攣った顔で見上げる数分前。
地上では、辰巳とシシリの次なる行動が行われていた。
「これだけ、雨脚も増せば火は自然と鎮火されるはずだ。シシリ、組み合わせ技と行こうか」
「組み合わせ?」
シシリが、小首をかしげ辰巳を見つめると誇らしげに頷いた。
「ああ。元々、レイン・フィールドは属性攻撃のバフとデバフを行う天候魔法。火・光を軽減させ、水・闇・雷属性の値を大幅に向上させる。つまり、この状況で迸る灼熱の雷撃を穿てば倍以上の被ダメを相手に与える事が出来る。いけるか?」
雨が激しく地を叩く。体温は冷え、身震いしてしまう中で何一つ変わらずに立つシシリの姿はさながら女神。
美しくもあり、儚くもある。穢を知ってしまえば、闇にすぐ堕ちてしまいそうな無垢な表情を保ったままシシリは頷いた。
「ダウンロード済み。すぐ行ける」
手を再び天に翳し、シシリは唱える。
「──天に仇なす闇の理は天を制する祖への冒涜。故に、祖に代わり天誅を降そう。雲を割り、地を焼く灼熱の一閃……。迸る灼熱の雷撃」
──音を置き去りに煌めく閃光が、青白い縦一閃を描いた刹那──爆裂音が大地を揺らした。
「いたたたた……。流石に今のは答えたわよ、人間」
「もう、お姉ちゃん。何で障壁を展開しなかったのお?」
「だって、サナエルわあー記帳しなきゃでしょ? 身をもって体感しなきゃだし。もう、ナナエルそんな目で見ないでよねっ」
「まあ、でもこれなら苦もなく捕らえれそうだね」
迸る灼熱の雷撃を振り払い、依然として苦しむ素振り一つ見せず近づくサナエル。汚れ一つ付いてもない、綺麗なままナナエルもまた空から舞い降りてきた。
小説の中でもトップクラスの攻撃魔法を食らってもなお平然としている姿を見て、辰巳は畏怖を初めて体感する。
「でもー、あれよね。少し幻滅かしら。間近で、あの雷を見た時は切り傷ぐらいは覚悟していたのだけれどね」
(切り傷……だと? 本当に力は無いってことか? いや、だがそんなはずは無い)
サナエルが居た場所には、大きな穴がかなりの深さで空いている。破壊力は間違いなくあった、にも関わらず二人の姿はほぼ無傷だ。
ナナエルの、会話を聞くからにサナエルは避ける事無く自ら迸る灼熱の雷撃に当たったようだし、いよいよ辰巳は死を間近で感じ始めた。
「マスター、平気?」
鎧をコンコンと、叩いてシシリは恐れを抱かぬ声で辰巳を呼んだ。
「ああ、勝負はこれからだろ。大丈夫だ、嘗められっぱなしで終われるかよ」
強がりだとしても、辰巳は二筋の槍を構える。これが、異世界に来た理由だからこそ死ぬ訳にはいかないと。
この時、初めて死線を潜ることを覚悟した
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