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三章
思想
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綺麗な景色、日本じゃ間見れることも無かった様々な顔をした大自然は感動ものだ。しかしそれも十時間続くとなれば、誰一人景色を見るものは居なくなる。辰巳は、飽きてきた心を紛らわす為に鼻歌を奏でながらボケッとしていた。
平原を越え、川を越え、荒だった山脈の脇を走る。聳える山は、中枢から上が既に星が散りばめられた闇の中。
ただ見上げたのは、自然に興味も示さないシシリが頑なに袖を引っ張り「凄い」と、一言言ったからにほかならない。辰巳は既に、馬車の旅に飽き飽きしている。
「あと、一時間程です。すいませんね、トイレ休憩しか取らずに」
「いえ、気にしないでください」
勿論、社交辞令であり内心では結構な言いようではある。辰巳は、馬をひくバルハに見えずも愛想笑いを送ると再び天井を見上げた。
「でも、バルハさん?」
「はい? いかがなされましたかな」
「何故、服を着替える必要があるのですか」
バルハは、御者台に乗る前に古臭い服に着替えていた。見た目は一気に紳士から農民にジョブチェンジ。
以前のような傭兵集団も馬車には乗っていない。
「まあ、アレですよ。お迎えに上がる時は本分である正装で。しかし、外は非常に危険なので」
少し考えれば、死霊などに襲われた時にゆとりがある服の方が動きやすいかもしれない。考慮しての知恵なのだろうか。
辰巳は、飽きた気持ちを紛らわす為に会話を続ける。
「死霊とかですか?」
「ええ、それも間違いではありません。ですが、前回言いましたが襲われるのは珍しいっちゃ珍しいのです」
「なら何でですか、バルハさん」
「──『人』ですよ。一番、恐ろしく強欲であり狡猾なのです」
「アルヴァアロンは、豊かで貧困には見えなかったですがね」
陳列した屋台や、景気良く飛び交う酒。笑顔で活気ついた帝都からは悪巧みを考える輩が居るとは辰巳自身が思えない。
「人は汚いものを表に出さない生き物です。タツミ様、貴方様が気が付かなかったのではなく。貴方様も欺かれていたのですよ、酷い偽りに」
「なるほど。納得しました」
「……以前は──いえ、この話は置いておきましょう。タツミ様、もう暫く我慢してください、後数時間もすれば屋敷につきます故」
────────────────────────
「ふむ、異端者は帝都を抜けたようだね」
「はい、ルシファー様。どうやら、アルトリア家の代々仕える執事が彼等を連れていったみたいです」
大聖堂とも思える、薄暗い大広間にて女神を背にした椅子へ座るルシファーの声と若い女性の声のみが響く。
「いかがなさいますか?」
凛として、力強く芯のある声がルシファーに問う。
「いかがといってもね? これも、人が生きる進化の過程。面白いじゃないか」
「面白い……ですか」
「おや? なにやら、不服そうだね」
「人は、進化をしても弱者を踏み台にする汚い生き物です。皆、消えてなくなればいいんです」
女性は、恨みを宿し歯を食いしばる様子で声に出す。
ルシファーは、便乗することも無く「はははっ」と興味もない笑いを浮かべ、間髪入れずに口を開いた。
「それじゃあ、困るよ。人がいなくなれば、誰がボクに欲望や善を見せてくれると言うんだい? ボクにとっては君もその一人なんだけどね」
「私も、ですか?」
「ああ、そうだとも。進化をすることを止めた神よりもよっぽど美しいじゃないか。欲望の為に血を流し、善を守る為に血を流す。それ故に、この世は混沌でなければならない」
「こんな言葉を知ってるかい?」と、ルシファーは持っていた一冊の本をパラパラと捲った。
「何ですか?」
「君は、ヒトラーと言う偉人を知っているかね?」
「ええ。記憶にはあります」
「ある、人物が持っていた本なんだが実に興味深いんだよ『私は、戦争を望む。私にとっての手段は全て正解となる』」
「……?」
淡々と綴られた言葉についていけないのか、女性が沈黙を生むとルシファーはクスリと笑みを浮かべた。
「いいかい? 彼の選択も世界の選択も全ては正解なんだよ。ボクにとってはね。それをボクは望み、その先にある争いの先を見たい。進化の可能性を……ね?」
「つまり、この世界の中心にはボクが居る。そして、人々はボクを巡って争うのさ」
「そのきっかけが、アルトリアだと言うのですか?」
ルシファーは頷いて、
「そうだとも。そこで死ねば、第二第三の使者が訪れるはずさ。楽しもうじゃないかこの世界の有り様を──」
平原を越え、川を越え、荒だった山脈の脇を走る。聳える山は、中枢から上が既に星が散りばめられた闇の中。
ただ見上げたのは、自然に興味も示さないシシリが頑なに袖を引っ張り「凄い」と、一言言ったからにほかならない。辰巳は既に、馬車の旅に飽き飽きしている。
「あと、一時間程です。すいませんね、トイレ休憩しか取らずに」
「いえ、気にしないでください」
勿論、社交辞令であり内心では結構な言いようではある。辰巳は、馬をひくバルハに見えずも愛想笑いを送ると再び天井を見上げた。
「でも、バルハさん?」
「はい? いかがなされましたかな」
「何故、服を着替える必要があるのですか」
バルハは、御者台に乗る前に古臭い服に着替えていた。見た目は一気に紳士から農民にジョブチェンジ。
以前のような傭兵集団も馬車には乗っていない。
「まあ、アレですよ。お迎えに上がる時は本分である正装で。しかし、外は非常に危険なので」
少し考えれば、死霊などに襲われた時にゆとりがある服の方が動きやすいかもしれない。考慮しての知恵なのだろうか。
辰巳は、飽きた気持ちを紛らわす為に会話を続ける。
「死霊とかですか?」
「ええ、それも間違いではありません。ですが、前回言いましたが襲われるのは珍しいっちゃ珍しいのです」
「なら何でですか、バルハさん」
「──『人』ですよ。一番、恐ろしく強欲であり狡猾なのです」
「アルヴァアロンは、豊かで貧困には見えなかったですがね」
陳列した屋台や、景気良く飛び交う酒。笑顔で活気ついた帝都からは悪巧みを考える輩が居るとは辰巳自身が思えない。
「人は汚いものを表に出さない生き物です。タツミ様、貴方様が気が付かなかったのではなく。貴方様も欺かれていたのですよ、酷い偽りに」
「なるほど。納得しました」
「……以前は──いえ、この話は置いておきましょう。タツミ様、もう暫く我慢してください、後数時間もすれば屋敷につきます故」
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「ふむ、異端者は帝都を抜けたようだね」
「はい、ルシファー様。どうやら、アルトリア家の代々仕える執事が彼等を連れていったみたいです」
大聖堂とも思える、薄暗い大広間にて女神を背にした椅子へ座るルシファーの声と若い女性の声のみが響く。
「いかがなさいますか?」
凛として、力強く芯のある声がルシファーに問う。
「いかがといってもね? これも、人が生きる進化の過程。面白いじゃないか」
「面白い……ですか」
「おや? なにやら、不服そうだね」
「人は、進化をしても弱者を踏み台にする汚い生き物です。皆、消えてなくなればいいんです」
女性は、恨みを宿し歯を食いしばる様子で声に出す。
ルシファーは、便乗することも無く「はははっ」と興味もない笑いを浮かべ、間髪入れずに口を開いた。
「それじゃあ、困るよ。人がいなくなれば、誰がボクに欲望や善を見せてくれると言うんだい? ボクにとっては君もその一人なんだけどね」
「私も、ですか?」
「ああ、そうだとも。進化をすることを止めた神よりもよっぽど美しいじゃないか。欲望の為に血を流し、善を守る為に血を流す。それ故に、この世は混沌でなければならない」
「こんな言葉を知ってるかい?」と、ルシファーは持っていた一冊の本をパラパラと捲った。
「何ですか?」
「君は、ヒトラーと言う偉人を知っているかね?」
「ええ。記憶にはあります」
「ある、人物が持っていた本なんだが実に興味深いんだよ『私は、戦争を望む。私にとっての手段は全て正解となる』」
「……?」
淡々と綴られた言葉についていけないのか、女性が沈黙を生むとルシファーはクスリと笑みを浮かべた。
「いいかい? 彼の選択も世界の選択も全ては正解なんだよ。ボクにとってはね。それをボクは望み、その先にある争いの先を見たい。進化の可能性を……ね?」
「つまり、この世界の中心にはボクが居る。そして、人々はボクを巡って争うのさ」
「そのきっかけが、アルトリアだと言うのですか?」
ルシファーは頷いて、
「そうだとも。そこで死ねば、第二第三の使者が訪れるはずさ。楽しもうじゃないかこの世界の有り様を──」
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