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三章
その為なら
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「あっ! おはようございます! タツミさん」
麦藁で出来た帽子が似合う女性、アルトリアは朝日が照りつける農場で輝かしい笑顔を浮かべて出迎えた。
活発であり、気さくであり、とても優しい女性は同時に王女とは思えない振る舞いでもある。静止したであろう、バルハはクタクタに疲れた様子で家事をこなしていた。
「朝早くからご苦労なこったな、アルトリア」
「いえいえ、取り立てが一番美味しいですからねっ」
「そー言うもんなのか。と言うか、ココにほら」
近寄り、辰巳はアルトリアの頬を指さした。
無我夢中で、野菜をとっていたのか頬には泥がついた手で拭った跡が付いている。
「えっと、あ……お恥ずかしい、すいません今拭きます」と、慌てふためく様子を見て辰巳は、微笑を浮かべた。
「今ふくって、泥のついた野菜を持った手で拭いても意味が無いだろ」
「そ、それもそーですね。すいません、みっともない所見せてしまって。家に帰ったらあらいますね」
俯いて、頬を染めるアルトリアは恥ずかしそうだ。少し生まれた沈黙を、気を使った豊かな自然が様々な音を奏でて埋める。そんな中、辰巳は少し恥ずかしくもあった。が、恥を内にしまい込み袖の中へ手を埋め真正面にいるアルトリアの顔へ手を伸ばした。
「タツ、ミさん?」
「良いから。泥だって、目に入ったら痛いだろ」
「あの、ありがとう……ございます」
恥じらいは、アルトリアの女性としての魅了を惜
しむことなく撒き散らす。無意識に触れた頬には、微かな熱が帯び指から感じた体温に辰巳の動悸は、早まった。
「えっと、いや気にすること無いって」
つられて辰巳も、視線を外へ逃がすと膝を折り曲げて両手のひらで顔を支えるシシリの姿があった。
無表情で、二人を見ていたであろうシシリ。
「おまっ! いつからそこに」
頬の泥を拭くことなんか、別に悪い事ではないはずなのだが辰巳の反応は万引きがバレた童子が如く。いや、母親に隠していた本がバレた青年のように目をギョッとさせ驚いた。
耳には激しく叩く心臓の音が響く。
「なるほど、マスターは外でイチャコラしたい人なんですね」
当然と言えば当然か、シシリは辰巳の反応には触れること無く斜め上の発言を平坦な口調で伝えた。
「べ、別にイチャコラしてねぇだろ。や、やめろよアルトリアが困るだろ」
「べ、別に私は……あ、あの! 朝食の支度してきますね!!」
籠に入った野菜を両手で抱えて、顎を引き小走りにアルトリアは家へ向かった。おいてけぼりにされた辰巳。何故だか振られた気分にもなり切なくもあったが胸にそっとしまってシシリにデコピンをした。
「安心して、大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ」
「何とかするから、マスターが」
「お前な、倒置法で私は何もしないアピールするなよ」
辰巳は、溜息を吐くとシシリの横に座った。健やかな風が野菜や髪を優しく撫で、土と緑の匂いを運ぶ。ゆっくりと流れる時間の中で、辰巳は意を決して恥を承知でシシリにお願いをした。
「俺は、強くならなきゃ駄目なんだ。支援魔法に頼り、剣の型なんか気にもしてなかった。だが、それじゃダメだって身をもって知ったんだよ」
(もう二度と、仲間のあんな姿を見たくはない)
「だから、俺に稽古をつけてくれ。シシリ」
横に座るシシリに視点を合わせて頭を下げた。残念ながら、辰巳は自身に主人公の才覚が無いのを痛感していた。間違いなく、この場において少女であるシシリの方が格段に強い。
だが、強いからといって自分が何もしないわけにはいかないのだ。堕天使共が狙いを辰巳に定めてる以上は強くなくてはならない。
相手に、目的の素材が自分では無いと気取られてしまえばそれこそ事態は危うくなる。故に、自分が囮として出来ることを考えた時出た答えは、強き者に教えを乞う事。
シシリは、口答えをすることも理由を聞くこともせず頷いた。
「データを照合……。戦術における基礎鍛錬……照合完了。召喚」
「え? 召喚?」
何を言っているのか把握が出来ない辰巳は、立ち上がるシシリを目で追う事しか出来ずにいた。
「はい、マスター」
手に持っていたのは、木材で出来た一本の剣と一筋の槍。
辰巳は槍を手渡され、それを構えた。
「マスターは、ロンの槍を使う。だから、それを使って」
力強く柄を握る辰巳と違い、シシリはゆったりとした姿勢で剣を構えている。
「行くぞ!」
「はい、マスター」
───────────────
「ダメだぁ、全く歯が立たねぇ。シシリ、お前チート過ぎんだろ」と、音をあげ仰向けに倒れ込んだのは「覚悟しろよ、おっらああ!」と、息巻いて容赦なしに槍を振り上げてから三十分程が過ぎた頃だった。
上下する肩や、肺が痛くなり運動不足だった自分を痛感したのはさて置き、長さで有利な筈の槍が一度もシシリに届く事がなかったのだ。
それどころか、武器同士が交わった事も一、二回程度でしかない。全てひらりと交わし毎回毎回、辰巳の喉仏にシシリの剣が触れていた。
動きが俊敏であり、踏み込む一歩は力強く、構える姿は付入る隙が無い。いつもは、何を考えているか分からないシシリとのギャップが余計に辰巳の心に圧巻を感じさせた。
しかし、シシリは自分の強さを自慢する事も謙遜する事も無く寝転んだ辰巳を上から覗いて口を開く。
「マスターは、長所と短所が分かってない。それに……まずは体力と」
「それと?」
「アルトリアのご飯を食べなきゃダメ」
「お前、やっぱりそれか」
シシリが頷くと、辰巳は槍を地面に突き刺して起き上がる。
「ま、確かに腹はすいたな。そろそろ帰るか」
「賛成」
シシリも、突き刺した槍に剣を立てかけて辰巳の袖を掴んで引っ張った。
「はやく、いこ」
「あいよっ。そのあとまた訓練たのむよ」
「分かった、死なない程度に痛めつける」
「お前な、その発言は悪意でしかないぞ」
「そう、なら訂正。死なない程度によがらせる」
「それもダメだから!!」
「マスター、ワガママ」
「お前がいうな!」
麦藁で出来た帽子が似合う女性、アルトリアは朝日が照りつける農場で輝かしい笑顔を浮かべて出迎えた。
活発であり、気さくであり、とても優しい女性は同時に王女とは思えない振る舞いでもある。静止したであろう、バルハはクタクタに疲れた様子で家事をこなしていた。
「朝早くからご苦労なこったな、アルトリア」
「いえいえ、取り立てが一番美味しいですからねっ」
「そー言うもんなのか。と言うか、ココにほら」
近寄り、辰巳はアルトリアの頬を指さした。
無我夢中で、野菜をとっていたのか頬には泥がついた手で拭った跡が付いている。
「えっと、あ……お恥ずかしい、すいません今拭きます」と、慌てふためく様子を見て辰巳は、微笑を浮かべた。
「今ふくって、泥のついた野菜を持った手で拭いても意味が無いだろ」
「そ、それもそーですね。すいません、みっともない所見せてしまって。家に帰ったらあらいますね」
俯いて、頬を染めるアルトリアは恥ずかしそうだ。少し生まれた沈黙を、気を使った豊かな自然が様々な音を奏でて埋める。そんな中、辰巳は少し恥ずかしくもあった。が、恥を内にしまい込み袖の中へ手を埋め真正面にいるアルトリアの顔へ手を伸ばした。
「タツ、ミさん?」
「良いから。泥だって、目に入ったら痛いだろ」
「あの、ありがとう……ございます」
恥じらいは、アルトリアの女性としての魅了を惜
しむことなく撒き散らす。無意識に触れた頬には、微かな熱が帯び指から感じた体温に辰巳の動悸は、早まった。
「えっと、いや気にすること無いって」
つられて辰巳も、視線を外へ逃がすと膝を折り曲げて両手のひらで顔を支えるシシリの姿があった。
無表情で、二人を見ていたであろうシシリ。
「おまっ! いつからそこに」
頬の泥を拭くことなんか、別に悪い事ではないはずなのだが辰巳の反応は万引きがバレた童子が如く。いや、母親に隠していた本がバレた青年のように目をギョッとさせ驚いた。
耳には激しく叩く心臓の音が響く。
「なるほど、マスターは外でイチャコラしたい人なんですね」
当然と言えば当然か、シシリは辰巳の反応には触れること無く斜め上の発言を平坦な口調で伝えた。
「べ、別にイチャコラしてねぇだろ。や、やめろよアルトリアが困るだろ」
「べ、別に私は……あ、あの! 朝食の支度してきますね!!」
籠に入った野菜を両手で抱えて、顎を引き小走りにアルトリアは家へ向かった。おいてけぼりにされた辰巳。何故だか振られた気分にもなり切なくもあったが胸にそっとしまってシシリにデコピンをした。
「安心して、大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ」
「何とかするから、マスターが」
「お前な、倒置法で私は何もしないアピールするなよ」
辰巳は、溜息を吐くとシシリの横に座った。健やかな風が野菜や髪を優しく撫で、土と緑の匂いを運ぶ。ゆっくりと流れる時間の中で、辰巳は意を決して恥を承知でシシリにお願いをした。
「俺は、強くならなきゃ駄目なんだ。支援魔法に頼り、剣の型なんか気にもしてなかった。だが、それじゃダメだって身をもって知ったんだよ」
(もう二度と、仲間のあんな姿を見たくはない)
「だから、俺に稽古をつけてくれ。シシリ」
横に座るシシリに視点を合わせて頭を下げた。残念ながら、辰巳は自身に主人公の才覚が無いのを痛感していた。間違いなく、この場において少女であるシシリの方が格段に強い。
だが、強いからといって自分が何もしないわけにはいかないのだ。堕天使共が狙いを辰巳に定めてる以上は強くなくてはならない。
相手に、目的の素材が自分では無いと気取られてしまえばそれこそ事態は危うくなる。故に、自分が囮として出来ることを考えた時出た答えは、強き者に教えを乞う事。
シシリは、口答えをすることも理由を聞くこともせず頷いた。
「データを照合……。戦術における基礎鍛錬……照合完了。召喚」
「え? 召喚?」
何を言っているのか把握が出来ない辰巳は、立ち上がるシシリを目で追う事しか出来ずにいた。
「はい、マスター」
手に持っていたのは、木材で出来た一本の剣と一筋の槍。
辰巳は槍を手渡され、それを構えた。
「マスターは、ロンの槍を使う。だから、それを使って」
力強く柄を握る辰巳と違い、シシリはゆったりとした姿勢で剣を構えている。
「行くぞ!」
「はい、マスター」
───────────────
「ダメだぁ、全く歯が立たねぇ。シシリ、お前チート過ぎんだろ」と、音をあげ仰向けに倒れ込んだのは「覚悟しろよ、おっらああ!」と、息巻いて容赦なしに槍を振り上げてから三十分程が過ぎた頃だった。
上下する肩や、肺が痛くなり運動不足だった自分を痛感したのはさて置き、長さで有利な筈の槍が一度もシシリに届く事がなかったのだ。
それどころか、武器同士が交わった事も一、二回程度でしかない。全てひらりと交わし毎回毎回、辰巳の喉仏にシシリの剣が触れていた。
動きが俊敏であり、踏み込む一歩は力強く、構える姿は付入る隙が無い。いつもは、何を考えているか分からないシシリとのギャップが余計に辰巳の心に圧巻を感じさせた。
しかし、シシリは自分の強さを自慢する事も謙遜する事も無く寝転んだ辰巳を上から覗いて口を開く。
「マスターは、長所と短所が分かってない。それに……まずは体力と」
「それと?」
「アルトリアのご飯を食べなきゃダメ」
「お前、やっぱりそれか」
シシリが頷くと、辰巳は槍を地面に突き刺して起き上がる。
「ま、確かに腹はすいたな。そろそろ帰るか」
「賛成」
シシリも、突き刺した槍に剣を立てかけて辰巳の袖を掴んで引っ張った。
「はやく、いこ」
「あいよっ。そのあとまた訓練たのむよ」
「分かった、死なない程度に痛めつける」
「お前な、その発言は悪意でしかないぞ」
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「それもダメだから!!」
「マスター、ワガママ」
「お前がいうな!」
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