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四章
決意
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羽を高速で翻し、空を切るけたたましい音や強靭な顎をガチガチと鳴らす声にも似たモノは、この世のモノとは思えない程に悍ましい。
闇に身を落としつつある世界で、彼等の真っ赤な目は絶望を彩っている。辰巳達は他の生物の介入を許さない、死で埋め尽くされた此処でひたすらに自分の命を耀かせていた。
「俺には魔術的何かは使えない。見た所、雅も物理特化で魔法の類は使用をしていないようだ」
シシリの先手で、地に落ちた虫たちは飛んでいた頃より勢いは衰えてはいる。いい証拠に戦いの素人である辰巳が今の所百発百中で攻撃を当てられているのだ。が、それでも空を我が庭の如く飛び舞い敵を駆逐していく彼女のようには事が進まない。硬い甲羅を貫くには、それ相応の握力を用いるのだ。引き抜く時もまた然り。普段使わない筋肉がビリビリと悲鳴を上げているのを痙攣した部位が教えている。
それでも、どーにかこうにかロンの槍を離さず握り今も尚、眼光と共に切っ先で敵を捉え続けているのは男としてのプライドだろう。
「──ッだぁぁあ!!」
水分が足りず、枯れ果てた喉は叫びに傷がつき口の中は少し血の味がする。それでも叫び吼えるのは相手を威嚇するためでも気合を入れるわけでもない。もっと、単純なものだった。
無力な自分を戒め、罵りの意を込めて──叫ぶ。
悔しくて、虚しくて、だとしても奇跡的に力に目覚めたりご都合主義には行かない世界。世界、だからこそ辰巳は不甲斐ない自分に叫びとして怒りをぶつけ続けた。
「ぜってぇーに、膝を折るわけにゃいかねぇ!!警備員の意地嘗めんなよ」
「にしても、数が減りませんね。いいえ、減るはずはないのでしょうが、それでも流石に疲れてきました」
横に並んだ雅は、横一閃に虫を両断し呼吸を正して言った。
「の、割には全然余裕っぽいけどな」
ステータスの開示等があれば是非観てみたいものだが、そんなものが実在するはずも無い。あれは、第三者に対して個人情報を詳らかにする羞恥の塊でしかないのだ。ましてや、能力社会でステータスの開示なんかされていれば社会から不適合者が何万と溢れてしまうかもしれない。人とは、知らないものを知りたがる欲の塊だが知ってしまえば妬み嫉妬、逆に白眼視や蔑視も厭わない筈だ。
「余裕じゃないですよ」
「そうか、そりゃそーだよな。だが──」
辰巳は待たなければいけない。アルトリアを信じている。きっと彼女自ら扉を開いてくれる事を。
「俺等は何としても耐えなくちゃならねぇ」
「はい。そーですね、耐えてもらわなくては困ります」
「ってもよ、あれじゃあ俺たちの出る幕……あるか?」
空に展開された金色に光る魔法陣。目を細めて、圧倒的な力を前に辰巳は生唾を飲み込んだ。
「出る幕はないかもしれませんが、辰巳さん余所見をしないで下さい!」
圧巻し、時が止まった辰巳の時間を動かしたのは凛々しく逞しい透き通った雅の声。と体を押し割って目の前に陣取った衝撃だった。
「す、すまない」
仰け反った辰巳の瞳には、雅の呆れた横顔が写った。
「こちらにも敵は居るんですよ?余所見してたら死にます。目の前に集中してください。じゃなきゃ──喰われますよ」
冷ややかな視線と交わり、身の毛がよだつ。
「え、ああ。本当にすまない」
降り注ぐ光の刃が敵を貫き地と縫い付ける中で、辰巳は再びロンの槍を構えた。
「地の敵は俺達が何とかするんだよな」
「ええ。その事を重々お忘れなきよう」
切り刻み、血飛沫を噴き出し返り血を浴びても何の変哲もない雅は剣先を鈍らせること無く地に居る虫を肉片へ変えていく。
遅れをとるまいと、槍を突き刺し破砕音と共に抉る辰巳の心臓は跳ね上がり息苦しい。間違いなくこの中で一番弱いと確信しながらも、ひたすらに武力を振るい続けた。
眉をしかめ、歯を食いしばり、泥に塗れ血に塗れ、白銀の鎧が本来の色を忘れても尚逃げる選択肢を捨て続ける。体力は限界を越し、力の入れ方すら忘れた腕を気力だけで振り回す。
どれぐらい時間が経ったか、数十分の気もするが数時間の気もする。一向に減る気配の無い敵は辰巳の体力や気持ち等お構い無しに、殺意をむき出し襲いかかってくる。
手を緩めれば狩られる命。死を身近に感じた時間は生きた心地を概念を辰巳から消し去っていた。
スピードを失った槍さばきでは、強靭な顎で挟まれ尚且つ気持ちが悪い腕で柄を掴まれる。その度に雅が、虫を両断し内蔵をぶちまける。
「まだ、まだなのか……」と、弱音を吐こうとした時。そして、シシリが上空で千を超える敵を殺し、雅が不甲斐ない辰巳の倍、敵の命を奪っていた時。一矢《いっし》の声が響いた。
「私は!!私は、皆を助けたい!!だから、タツミさん……いいえ、タツミ!私に力を貸して!」
闇に身を落としつつある世界で、彼等の真っ赤な目は絶望を彩っている。辰巳達は他の生物の介入を許さない、死で埋め尽くされた此処でひたすらに自分の命を耀かせていた。
「俺には魔術的何かは使えない。見た所、雅も物理特化で魔法の類は使用をしていないようだ」
シシリの先手で、地に落ちた虫たちは飛んでいた頃より勢いは衰えてはいる。いい証拠に戦いの素人である辰巳が今の所百発百中で攻撃を当てられているのだ。が、それでも空を我が庭の如く飛び舞い敵を駆逐していく彼女のようには事が進まない。硬い甲羅を貫くには、それ相応の握力を用いるのだ。引き抜く時もまた然り。普段使わない筋肉がビリビリと悲鳴を上げているのを痙攣した部位が教えている。
それでも、どーにかこうにかロンの槍を離さず握り今も尚、眼光と共に切っ先で敵を捉え続けているのは男としてのプライドだろう。
「──ッだぁぁあ!!」
水分が足りず、枯れ果てた喉は叫びに傷がつき口の中は少し血の味がする。それでも叫び吼えるのは相手を威嚇するためでも気合を入れるわけでもない。もっと、単純なものだった。
無力な自分を戒め、罵りの意を込めて──叫ぶ。
悔しくて、虚しくて、だとしても奇跡的に力に目覚めたりご都合主義には行かない世界。世界、だからこそ辰巳は不甲斐ない自分に叫びとして怒りをぶつけ続けた。
「ぜってぇーに、膝を折るわけにゃいかねぇ!!警備員の意地嘗めんなよ」
「にしても、数が減りませんね。いいえ、減るはずはないのでしょうが、それでも流石に疲れてきました」
横に並んだ雅は、横一閃に虫を両断し呼吸を正して言った。
「の、割には全然余裕っぽいけどな」
ステータスの開示等があれば是非観てみたいものだが、そんなものが実在するはずも無い。あれは、第三者に対して個人情報を詳らかにする羞恥の塊でしかないのだ。ましてや、能力社会でステータスの開示なんかされていれば社会から不適合者が何万と溢れてしまうかもしれない。人とは、知らないものを知りたがる欲の塊だが知ってしまえば妬み嫉妬、逆に白眼視や蔑視も厭わない筈だ。
「余裕じゃないですよ」
「そうか、そりゃそーだよな。だが──」
辰巳は待たなければいけない。アルトリアを信じている。きっと彼女自ら扉を開いてくれる事を。
「俺等は何としても耐えなくちゃならねぇ」
「はい。そーですね、耐えてもらわなくては困ります」
「ってもよ、あれじゃあ俺たちの出る幕……あるか?」
空に展開された金色に光る魔法陣。目を細めて、圧倒的な力を前に辰巳は生唾を飲み込んだ。
「出る幕はないかもしれませんが、辰巳さん余所見をしないで下さい!」
圧巻し、時が止まった辰巳の時間を動かしたのは凛々しく逞しい透き通った雅の声。と体を押し割って目の前に陣取った衝撃だった。
「す、すまない」
仰け反った辰巳の瞳には、雅の呆れた横顔が写った。
「こちらにも敵は居るんですよ?余所見してたら死にます。目の前に集中してください。じゃなきゃ──喰われますよ」
冷ややかな視線と交わり、身の毛がよだつ。
「え、ああ。本当にすまない」
降り注ぐ光の刃が敵を貫き地と縫い付ける中で、辰巳は再びロンの槍を構えた。
「地の敵は俺達が何とかするんだよな」
「ええ。その事を重々お忘れなきよう」
切り刻み、血飛沫を噴き出し返り血を浴びても何の変哲もない雅は剣先を鈍らせること無く地に居る虫を肉片へ変えていく。
遅れをとるまいと、槍を突き刺し破砕音と共に抉る辰巳の心臓は跳ね上がり息苦しい。間違いなくこの中で一番弱いと確信しながらも、ひたすらに武力を振るい続けた。
眉をしかめ、歯を食いしばり、泥に塗れ血に塗れ、白銀の鎧が本来の色を忘れても尚逃げる選択肢を捨て続ける。体力は限界を越し、力の入れ方すら忘れた腕を気力だけで振り回す。
どれぐらい時間が経ったか、数十分の気もするが数時間の気もする。一向に減る気配の無い敵は辰巳の体力や気持ち等お構い無しに、殺意をむき出し襲いかかってくる。
手を緩めれば狩られる命。死を身近に感じた時間は生きた心地を概念を辰巳から消し去っていた。
スピードを失った槍さばきでは、強靭な顎で挟まれ尚且つ気持ちが悪い腕で柄を掴まれる。その度に雅が、虫を両断し内蔵をぶちまける。
「まだ、まだなのか……」と、弱音を吐こうとした時。そして、シシリが上空で千を超える敵を殺し、雅が不甲斐ない辰巳の倍、敵の命を奪っていた時。一矢《いっし》の声が響いた。
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