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五章
敗北の味
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「んだよ、その口ぶりからするにお前の部下達は負けたようだな?」
鎧は傷つき、頬等には切り傷が数箇所ある。それでも致命傷にならなかったのはロンの槍が持ちうる効果だと辰巳は考えていた。加えて、ベルフェゴールの発言が自分達との優劣を確信させるものであり心に出来た容から余裕を覗かせる。自然と表情は晴れ、過剰に分泌されていたアドレナリンが引いていくのを辰巳は実感していた。
「なあに、あいつらは自分の使命をまっとうしただけのことよ」
「使命? 負け惜しみか? 自分から死にに行く使命があるはずないだろ」
「果たしてそうか? お前の知りうる過去には無かったのか?」
戦闘中、いくら唆されても微動だとしなかった意志が動きベルフェゴールの問にいつの間にか耳を貸していた。これも余裕があるからこそなのか、それとも心当たりがあるからこそなのか。ロンの槍の切っ先を地に向けて黙考し後者だと辰巳は気がついた。
人間も同じ事をしてきている。だがそれは捧げるべきモノがある者がする行為だ。国、即ち王。だがどの話を思い出しても彼等に王が居る話は聴いたことがない。
王が居ない彼等が身命を賭す事を使命とする理由が辰巳には理解が出来ずにいた。
「じゃあ、逆に問おうか。めんどくせーけど」
ベルフェゴールは、気だるそうな表情を作り頭をポリポリと戦闘用に変化した長い爪でかいて口を開く。
「お前は、何しに此処に来た?」
「何を、ってアルトリアの力になる為に」
「それは途中経過だろ。お前がこの世界に来た理由だ」
次第に辰巳の表情は一変し曇ってゆく。
「それは──」
この事を話していいのか、自分が与えられた使命を易々と敵に話していいものなのか。もしこれが敵の策略ならまんまとハマった事にもなる。警戒心が本能的に喉を詰まらせ開きかかった口が再び閉じた。
「まあいい。じゃあ、一体真実って何なんだろーな?」
「真実?」
「自分が無垢の状態の時に知恵を与えてくれた者が真実なのか。はたまた、途中から説法を説いたものが真実なのか。残念ながら答えは他人の言葉や行動には無い。自分が真実だと思い込んだものが真実たるモノになってしまう。例えそれが偽りだとしてもな。だから、騙され争い無駄な命を浪費する」
(なら、あの神が俺に言った事が嘘だったら……。いいや、でも神が嘘をつく理由がない)
「こんな言葉を知っているか?神は自分に似せた人を創り、そして自分達には無いモノを与えた」
「自分に、無いもの?」
「ああ」と、ベルフェゴールは一度頷き笑みを浮かべた。
「果て無き、忠実なまでの欲望だよ。そして、俺達が得た希望でもある」
「欲望が、希望」
辰巳が眉頭に皺を寄せるのとほぼ時、同じくしてベルフェゴールの背後に人影を見た。
だが、影には翼がありシシリやアルトリア、雅ではないとすぐ様に理解し、ベルフェゴールがタダの時間稼ぎをしたのだと思いに至る。
柄を握る手には、力が入り後ずさりをした。
「なんだよ、警戒しすぎだ。俺達はそんな姑息な手を使わない。それに、お前なんか殺すのに協力なんか乞う事はねぇーさ」
「余裕? 嘘をつくなよ」
冷めた瞳に背筋が凍る。
「嘘? お前如きに嘘をつく理由なんかないだろ。──アルエル、予想より早かったな」
「まあーにぃ。と言っても相手がミヤビじゃ意味もなかったですけどねぇー」
腕を伸ばし気だるげな様子を見せる女性は、黒いスーツを着こなしている事もあり大人びていた。とは、真逆に欠伸をして覗かせた八重歯が幼げを演出している。
「まあ、そらそーだろーな。ミヤビはいったのか?」
「うん、いったよ。少し話した後にねえ」
(逝った……だと?)
涼しい表情で堕天使・アルエルはたった今仲間を殺したと表明した。辰巳とは違い、神に力を授かったであろう雅を。
「んで、彼がそーなの?」
アルエルはベルフェゴールの隣に並び、勝気な笑みを浮かべ、目を下から上へと動かし辰巳を吟味しているようだった。
雅が殺された結果からくる先入観か、辰巳にはその表情が物凄く恐ろしくあり切っ先を向ける。
「ああ、そうだ。お前を殺すなんか雑作もねぇからな」
足に力を入れ、声に覇気を込めた牽制。辰巳は今出来る最善に掛けた脅し。しかしアルエルは、それすらもおちゃらけて対応をした。
「ありゃりゃー。元気が良いねぇ。手や足の震えは隠せても唇の震えは隠せてない見たいだ・け・どッ」
「まあ、そーいうな。だが俺もコイツが選ばれた意味が分からない。それと一つ」
ギリッと、歯を鳴らし食いしばる辰巳を気に止めずベルフェゴールは腕を組みアルトリアと雑談をし始める。相手の余裕を見せる態度に、いつの間にか辰巳自身が心から余裕を無くしていた。
「なになーに」
「力の持ち主は、コイツじゃあない」
「えーッ!?ちょっとちょっとーどー言う事ー?」
アルエルが眉を開き驚いた表情を浮かべたが、逆に辰巳は焦っていた。ベルフェゴールの発言は真実。
此処は注意をコチラに促す為にも、行動に打って出ると決めた時、ベルフェゴールが鋭い双眸で睨み冷えきった声で矢を射る。
「動くな、雑魚が」
四肢を射抜かれ、動きが止まる。辰巳にはこれ以上、ベルフェゴールの発言を無視して鉾を狂れる勇気がなかった。先走る動悸を、早い呼吸で整える中で辰巳は気がつく。今まで自分が遊ばれていたに過ぎないと言う事を。
「ひょえー。ベルフェゴール様、こっわあーい」
「茶化すな茶化すな。確かに、コイツが纏う白銀の鎧と、二筋の槍には力がある。が、それ以上でも以下でもない」
「えへへー。でもなるほど。つまり、本体はタダの人でしかないってことだね」
「そーいう事だな。差し詰め、バルエルとルミエルを遣った奴だろーよ」
「そっかあー。じゃあーどおする? ソイツ来るまで待つー?」
アルエルが気さくな態度で問いかけると、ベルフェゴールはため息を長く吐いた。
「ンなわけねぇだろ。そろそろ帰る時間だし、疲れたし寝たいし呑みたいし食べたいからな」
「ひょえー。ベルフェゴール様、本当に日を追うことに自堕落になって行きますよねぇー。他の人は勤勉なのに、怠惰なんですからー」
「ほっとけっ! ──じゃ、まあ俺等は帰る。もしまだ戦う意思があるなら破滅の塔で待ってるさ」
ベルフェゴールは、平坦な声で辰巳に告げるとアルエル共に闇の彼方へと姿を消した。
鎧は傷つき、頬等には切り傷が数箇所ある。それでも致命傷にならなかったのはロンの槍が持ちうる効果だと辰巳は考えていた。加えて、ベルフェゴールの発言が自分達との優劣を確信させるものであり心に出来た容から余裕を覗かせる。自然と表情は晴れ、過剰に分泌されていたアドレナリンが引いていくのを辰巳は実感していた。
「なあに、あいつらは自分の使命をまっとうしただけのことよ」
「使命? 負け惜しみか? 自分から死にに行く使命があるはずないだろ」
「果たしてそうか? お前の知りうる過去には無かったのか?」
戦闘中、いくら唆されても微動だとしなかった意志が動きベルフェゴールの問にいつの間にか耳を貸していた。これも余裕があるからこそなのか、それとも心当たりがあるからこそなのか。ロンの槍の切っ先を地に向けて黙考し後者だと辰巳は気がついた。
人間も同じ事をしてきている。だがそれは捧げるべきモノがある者がする行為だ。国、即ち王。だがどの話を思い出しても彼等に王が居る話は聴いたことがない。
王が居ない彼等が身命を賭す事を使命とする理由が辰巳には理解が出来ずにいた。
「じゃあ、逆に問おうか。めんどくせーけど」
ベルフェゴールは、気だるそうな表情を作り頭をポリポリと戦闘用に変化した長い爪でかいて口を開く。
「お前は、何しに此処に来た?」
「何を、ってアルトリアの力になる為に」
「それは途中経過だろ。お前がこの世界に来た理由だ」
次第に辰巳の表情は一変し曇ってゆく。
「それは──」
この事を話していいのか、自分が与えられた使命を易々と敵に話していいものなのか。もしこれが敵の策略ならまんまとハマった事にもなる。警戒心が本能的に喉を詰まらせ開きかかった口が再び閉じた。
「まあいい。じゃあ、一体真実って何なんだろーな?」
「真実?」
「自分が無垢の状態の時に知恵を与えてくれた者が真実なのか。はたまた、途中から説法を説いたものが真実なのか。残念ながら答えは他人の言葉や行動には無い。自分が真実だと思い込んだものが真実たるモノになってしまう。例えそれが偽りだとしてもな。だから、騙され争い無駄な命を浪費する」
(なら、あの神が俺に言った事が嘘だったら……。いいや、でも神が嘘をつく理由がない)
「こんな言葉を知っているか?神は自分に似せた人を創り、そして自分達には無いモノを与えた」
「自分に、無いもの?」
「ああ」と、ベルフェゴールは一度頷き笑みを浮かべた。
「果て無き、忠実なまでの欲望だよ。そして、俺達が得た希望でもある」
「欲望が、希望」
辰巳が眉頭に皺を寄せるのとほぼ時、同じくしてベルフェゴールの背後に人影を見た。
だが、影には翼がありシシリやアルトリア、雅ではないとすぐ様に理解し、ベルフェゴールがタダの時間稼ぎをしたのだと思いに至る。
柄を握る手には、力が入り後ずさりをした。
「なんだよ、警戒しすぎだ。俺達はそんな姑息な手を使わない。それに、お前なんか殺すのに協力なんか乞う事はねぇーさ」
「余裕? 嘘をつくなよ」
冷めた瞳に背筋が凍る。
「嘘? お前如きに嘘をつく理由なんかないだろ。──アルエル、予想より早かったな」
「まあーにぃ。と言っても相手がミヤビじゃ意味もなかったですけどねぇー」
腕を伸ばし気だるげな様子を見せる女性は、黒いスーツを着こなしている事もあり大人びていた。とは、真逆に欠伸をして覗かせた八重歯が幼げを演出している。
「まあ、そらそーだろーな。ミヤビはいったのか?」
「うん、いったよ。少し話した後にねえ」
(逝った……だと?)
涼しい表情で堕天使・アルエルはたった今仲間を殺したと表明した。辰巳とは違い、神に力を授かったであろう雅を。
「んで、彼がそーなの?」
アルエルはベルフェゴールの隣に並び、勝気な笑みを浮かべ、目を下から上へと動かし辰巳を吟味しているようだった。
雅が殺された結果からくる先入観か、辰巳にはその表情が物凄く恐ろしくあり切っ先を向ける。
「ああ、そうだ。お前を殺すなんか雑作もねぇからな」
足に力を入れ、声に覇気を込めた牽制。辰巳は今出来る最善に掛けた脅し。しかしアルエルは、それすらもおちゃらけて対応をした。
「ありゃりゃー。元気が良いねぇ。手や足の震えは隠せても唇の震えは隠せてない見たいだ・け・どッ」
「まあ、そーいうな。だが俺もコイツが選ばれた意味が分からない。それと一つ」
ギリッと、歯を鳴らし食いしばる辰巳を気に止めずベルフェゴールは腕を組みアルトリアと雑談をし始める。相手の余裕を見せる態度に、いつの間にか辰巳自身が心から余裕を無くしていた。
「なになーに」
「力の持ち主は、コイツじゃあない」
「えーッ!?ちょっとちょっとーどー言う事ー?」
アルエルが眉を開き驚いた表情を浮かべたが、逆に辰巳は焦っていた。ベルフェゴールの発言は真実。
此処は注意をコチラに促す為にも、行動に打って出ると決めた時、ベルフェゴールが鋭い双眸で睨み冷えきった声で矢を射る。
「動くな、雑魚が」
四肢を射抜かれ、動きが止まる。辰巳にはこれ以上、ベルフェゴールの発言を無視して鉾を狂れる勇気がなかった。先走る動悸を、早い呼吸で整える中で辰巳は気がつく。今まで自分が遊ばれていたに過ぎないと言う事を。
「ひょえー。ベルフェゴール様、こっわあーい」
「茶化すな茶化すな。確かに、コイツが纏う白銀の鎧と、二筋の槍には力がある。が、それ以上でも以下でもない」
「えへへー。でもなるほど。つまり、本体はタダの人でしかないってことだね」
「そーいう事だな。差し詰め、バルエルとルミエルを遣った奴だろーよ」
「そっかあー。じゃあーどおする? ソイツ来るまで待つー?」
アルエルが気さくな態度で問いかけると、ベルフェゴールはため息を長く吐いた。
「ンなわけねぇだろ。そろそろ帰る時間だし、疲れたし寝たいし呑みたいし食べたいからな」
「ひょえー。ベルフェゴール様、本当に日を追うことに自堕落になって行きますよねぇー。他の人は勤勉なのに、怠惰なんですからー」
「ほっとけっ! ──じゃ、まあ俺等は帰る。もしまだ戦う意思があるなら破滅の塔で待ってるさ」
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