上 下
31 / 41
五章

テオス・エテレイン

しおりを挟む
「ふむ。貴女が此処に居るという事は、バルエルは円環へと戻ったと言う事ですか。ですが、彼を相手に無傷──貴女は一体……」

「アルトリア、バルハは?」

 ルミエルの問い掛けに耳を傾けることは無かった。それどころか、背を向け、アルトリアを正面にして問をかける。が、アルトリアは口を固く閉ざし目を伏せた。

「──そう」

「うん……。ごめんなさい」

「アルトリアは、悪くない。コイツが──悪い」

 目にも留まらぬ速さで振り返り、ミストルテインを振り切る。無駄の無い動きに判断が遅れたルミエルは、腹を裂かれながらも後ろへと飛び跳ねた。
 血が、剣の軌道のあとを追い孤を描く。

「おやおや、これはこれは」

 表情は落ち着いており、裂かれた横っ腹に手を翳すと飛び散った血が集まり傷口は塞がってゆく。

「なるほど。貴女は人智を超えし生き物のようですね。筋肉の動きや呼吸法、それらが全く読めませんでした」

 平然と紳士的に話すルミエルにシシリは切っ先を向ける。

「御託はいいの。私はマスターの元へ行かなくてはならない」

「シシリちゃん、でもあの人は時間す──」

「大丈夫。私は負けない。私が死ぬ時はマスターが死ぬ時」

「……え?」

 アルトリアの気の抜けた声を横目に小さい口を開く。

「私の体はマスター無しじゃ生きれないから。マスターの色に染められているの」

「そう、なの?」

「──ダメね」

「え? ダメって何!? なんで、今、私は呆れられた感じに言われてるの!」

 シシリは、溜息を一つ吐いて耳を貸さずルミエルを無表情で穿つ。

「お話は良いのですか?」

「構わない。あのバルエルとか言うオジサンが死んだら此処に来た。つまり、貴方を殺せばマスターの場所に行ける」

 シシリの体は浅緑色に淡く輝く。

「これは、神法に似て……おやおや、なるほど」

 自らに多数の支援魔法をかける。

 ・ヒットアップ(命中率を向上)

 ・パワーアップ(物理攻撃向上)

 ・プロテクト(物理防御向上)

 ・ヘイスト(行動力向上)

「力が増しているようですが、私を嘗めないでいただきたい」

 ルミエルの体も浅青く光り始め、黒い服は徐々に隆起し始めた筋肉により張り始める。

「貴女が自らの能力を向上させるなら、私も同じ方法を行えばいいだけ。つまり、能力値で言うなら互角」

「──そして、敗因は気の緩みのみ!!」

 ルミエルは、土を抉り飛びかかりシシリのコメカミを掴んだまま地面に叩きつける。それでも尚、離すことは無く力の限り地中奥深くへとシシリの顔面をねじ込ませた。

 ミストルテインは宙をまい、アルトリアの真横で突き刺さる。遅れて反応したアルトリアが悲痛の叫びをバルハの時と同様に声を枯らしした時。既にシシリの体半分は大地に埋もれていた。

「他愛もない。私は仲間意識等はありません、がこんな者にバルエルが負けるとは到底おもえま──グハッ」

 体を起こそうとした時、ルミエルの口と鼻からは夥しい量の血が噴き出した。ボタボタと垂れる血は止まることを知らずに赤を知らない緑を染めてゆく。

「はぁはぁ……何を……した」

神は死を望むテオス・エテレインの効果よ」

 瞬間転移魔法を使いシシリは、アルトリアの真横に立ちミストルテインの柄を掴んだ。

 ──神は死を望むテオス・エテレインは、神族に特攻キラーを持つ呪法。体内部を蝕み、治癒不可のな呪いをかける宣告系の魔法である。

「貴方が私の攻撃を躱した時、既に種は植えていた」

「なら、何故……自分に神法を」

「私が使えば、貴方も使う。力を使えば使う程効果は向上する」

「なる、ほど……。出会した時に勝負は決まっていた……と。ハハハ、気の緩みが敗因とは良く言ったもの……ですね」

「別に、殺さなくてもいい。素直に行かせてくれれば解呪する」

 シシリは、恐れを抱くこと無く膝を付くルミエルに近づいた。

 肩を上下に揺らし、虫の息であるルミエルは首を左右に振るう。

「私達に死と言う概念は存在しません。全てが永遠であり、円環するのです。この世界が世界である限り……」

「そう」

「私は一足先に十字架の大樹ユグドラシル……では無く破滅の塔カタストロフィに還ります……後は任せました──よ」と、ルミエルが顔から倒れ、粒子となり消えた時。
 攻防を繰り広げていたベルフェゴールの腕が止まった。

「……バルエルに止まらず、ルミエルも還ったか」





しおりを挟む

処理中です...