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七章
喧嘩
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辰巳とシシリが、ルシファーと対話をする四日も前の話。
アルトリアは、ゼクスと共にアルヴァアロンの正門に来ていた。
やはり、と言う意味を込めて、アルトリアは自分に落胆をしつつ深い溜息を吐く。辺りは、ごった返してはいるが、鬨の声を上げている者は誰一人としていない。
つまり、怪我をしたものや、損壊した建物の瓦礫を撤去する民ばかり。それでも、数人がいる事が何よりもの救いと思いたいが、聞こえてくる陰口は、どれもこれも優しさが微塵としてない。
側に居るのが、アルトリア本人と知ってか知らずか、間近で聞く悪口と言うのは、初めてぶつけられた黒い感情であり、眉頭を顰めたくもなる程に辛く険しい。しかし、弱さを見せてはイケナイと気丈に振る舞う。
「ま、仕方が無いわよね。ゼクス、貴方も無理に──」
「気にしないで下さい、アルトリア様。彼等もまた恐れているのです。然すればこそ、気を紛らわす話題が必要なのですよ」
アルトリアの気持ちを悟ったのか、ゼクスは些細な励ましを、微風の様に小声で伝えた。
「ありがとう、ゼクス」
アルトリアにとっては、些細な優しさであっても大切な糧となる。
自然と天を仰ぎ見たのは、仮だとしても感じた忠義に、バルハを重ねたからだ。バルハがここに居たのなら、一体どんな言葉を用いて励ましてくれるのか。
叶いもしない想いに、涙を滲ませつつも口の端を噛み締め、己に喝をいれた。
「今も、見守ってくれているのよね」
吐露した言葉に、ゼクスは不思議そうな表情を浮かべた。
「何でもないわ。独り言よ」と、アルトリアは心に生まれた、微かな容と共に微笑む。
──そして果実が入っていたであろう、木の箱の上に勢い良く飛び乗る。
当然、周りの視線は一直線にアルトリアを捉える。年端も行かぬ、少女が凛と立つ姿を見て、誰が歓喜し賞賛を贈るだろうか。
「おいおい、嘘だろ?」
「はははっ。なんだよ、俺等が最後に期待したのが、こんな小娘? ──終わったな」
容赦ない絶望の声音が、加減をされること無くアルトリアに殴りかかる。息も詰まる現実で、尚も当てられる冷ややかで怖い視線。
言葉に迷い、喉が詰まり、彼等を鼓舞する方法を迷走する中で、ゼクスは自分の胸当てを剣で叩き、甲高い音を鳴らした。銅鑼の音には劣るが、それでも辺りは多少なりと鎮まる。
ゼクスは、横目でアルトリアを見ると小さく頷いた。きっと、皆を震撼させる程の言葉があるのだろう。と、アルトリアは不甲斐ない自分を咎めながらも期待を乗せて相槌を打った。
「この中で、一番、力に自信のある者は居るか!? それとも、ここにいる奴は肉食動物に捕食されまいと知恵を働かせるだけの、臆病者の集まりなのか!?」
「おいおい、言ってくれるじゃねぇかよ!?」
「はっ!? 馬鹿にしやがって。こーして、最前線で生き抜いてんだぜ? 見くびってんじゃねぇーよ、カスが!」
辺りは、いきり立ち憤怒を撒き散らす。たった一人、置き去りにされたのは、呆然と立つアルトリア。
「冒険者や、騎士は血の気が多いいんですよ。それを利用させて頂きました」
微笑を浮かべ、ゼクスは言う。が、虚を衝かれたとは正にこの事だ。
「え、ええ。そうなのね? 勉強になったわ」
「それは、それは光栄です。では、アルトリア様には一仕事してもらいましょうか」
「──え?」
ゼクスの、大きく息を吸い込む音が、鮮明に嫌な予感と共にアルトリアの鼓膜を刺激する。
「アルトリア家には、奇跡の力があるとされている! もし、その力が俺達に及ばなければ従う必要も価値もない! だが、もし! 見るからに貧弱な小娘が、死地を掻い潜ってきた俺等に勝つことが出来たのなら、彼女に余生を賭けてみるってーのはどーだろうか!?」
「はは、言ってくれるぜ。賛成だ。加減はしなくていいんだろーな?」
「丁度いい。この歯痒さと苛立ちをぶつける場所を探していたんだ」
これに関して、全くの素人であるアルトリア。だが、素人だとしても士気が上がっていくのが分かるほどに熱を帯び始めていた。
たった、十人程度の人数で、この賑わいは流石と言うべきだろう。
(いいわ。やってやろうじゃない! 郷に入れば、郷に従え……よね)
アルトリアは、胸に手を当て深呼吸をしてから双眸に力を込める。
そして、周りを嘲笑し、馬鹿にするかのような態度を取り言った。
「いいわ、やってあげるわよ。一人ずつなんて、チンケな事は言わないわ。戦意のある奴は、纏めてかかってきなさい。地の味を教えてあげるわッ」
乗っかっていた木箱を飛び降り、アルトリアは勝気な態度で仁王立つ。今ここに、王女と民の喧嘩が勃発したのだった。
「それと、ゼクス。貴方も後で覚えておきなさいよ」
不敵に笑う、アルトリアを見てゼクスは鼻白む。
「──えっ!?」
高ぶるアドレナリンは、今まであった嫌な事を消し去り、目の前の事に没頭出来る。堅苦しくない、冒険者達の振る舞いも合わさって緊張もいつの間にか解れていた。
「さあ、かかってらっしゃい!!」
アルトリアは、ゼクスと共にアルヴァアロンの正門に来ていた。
やはり、と言う意味を込めて、アルトリアは自分に落胆をしつつ深い溜息を吐く。辺りは、ごった返してはいるが、鬨の声を上げている者は誰一人としていない。
つまり、怪我をしたものや、損壊した建物の瓦礫を撤去する民ばかり。それでも、数人がいる事が何よりもの救いと思いたいが、聞こえてくる陰口は、どれもこれも優しさが微塵としてない。
側に居るのが、アルトリア本人と知ってか知らずか、間近で聞く悪口と言うのは、初めてぶつけられた黒い感情であり、眉頭を顰めたくもなる程に辛く険しい。しかし、弱さを見せてはイケナイと気丈に振る舞う。
「ま、仕方が無いわよね。ゼクス、貴方も無理に──」
「気にしないで下さい、アルトリア様。彼等もまた恐れているのです。然すればこそ、気を紛らわす話題が必要なのですよ」
アルトリアの気持ちを悟ったのか、ゼクスは些細な励ましを、微風の様に小声で伝えた。
「ありがとう、ゼクス」
アルトリアにとっては、些細な優しさであっても大切な糧となる。
自然と天を仰ぎ見たのは、仮だとしても感じた忠義に、バルハを重ねたからだ。バルハがここに居たのなら、一体どんな言葉を用いて励ましてくれるのか。
叶いもしない想いに、涙を滲ませつつも口の端を噛み締め、己に喝をいれた。
「今も、見守ってくれているのよね」
吐露した言葉に、ゼクスは不思議そうな表情を浮かべた。
「何でもないわ。独り言よ」と、アルトリアは心に生まれた、微かな容と共に微笑む。
──そして果実が入っていたであろう、木の箱の上に勢い良く飛び乗る。
当然、周りの視線は一直線にアルトリアを捉える。年端も行かぬ、少女が凛と立つ姿を見て、誰が歓喜し賞賛を贈るだろうか。
「おいおい、嘘だろ?」
「はははっ。なんだよ、俺等が最後に期待したのが、こんな小娘? ──終わったな」
容赦ない絶望の声音が、加減をされること無くアルトリアに殴りかかる。息も詰まる現実で、尚も当てられる冷ややかで怖い視線。
言葉に迷い、喉が詰まり、彼等を鼓舞する方法を迷走する中で、ゼクスは自分の胸当てを剣で叩き、甲高い音を鳴らした。銅鑼の音には劣るが、それでも辺りは多少なりと鎮まる。
ゼクスは、横目でアルトリアを見ると小さく頷いた。きっと、皆を震撼させる程の言葉があるのだろう。と、アルトリアは不甲斐ない自分を咎めながらも期待を乗せて相槌を打った。
「この中で、一番、力に自信のある者は居るか!? それとも、ここにいる奴は肉食動物に捕食されまいと知恵を働かせるだけの、臆病者の集まりなのか!?」
「おいおい、言ってくれるじゃねぇかよ!?」
「はっ!? 馬鹿にしやがって。こーして、最前線で生き抜いてんだぜ? 見くびってんじゃねぇーよ、カスが!」
辺りは、いきり立ち憤怒を撒き散らす。たった一人、置き去りにされたのは、呆然と立つアルトリア。
「冒険者や、騎士は血の気が多いいんですよ。それを利用させて頂きました」
微笑を浮かべ、ゼクスは言う。が、虚を衝かれたとは正にこの事だ。
「え、ええ。そうなのね? 勉強になったわ」
「それは、それは光栄です。では、アルトリア様には一仕事してもらいましょうか」
「──え?」
ゼクスの、大きく息を吸い込む音が、鮮明に嫌な予感と共にアルトリアの鼓膜を刺激する。
「アルトリア家には、奇跡の力があるとされている! もし、その力が俺達に及ばなければ従う必要も価値もない! だが、もし! 見るからに貧弱な小娘が、死地を掻い潜ってきた俺等に勝つことが出来たのなら、彼女に余生を賭けてみるってーのはどーだろうか!?」
「はは、言ってくれるぜ。賛成だ。加減はしなくていいんだろーな?」
「丁度いい。この歯痒さと苛立ちをぶつける場所を探していたんだ」
これに関して、全くの素人であるアルトリア。だが、素人だとしても士気が上がっていくのが分かるほどに熱を帯び始めていた。
たった、十人程度の人数で、この賑わいは流石と言うべきだろう。
(いいわ。やってやろうじゃない! 郷に入れば、郷に従え……よね)
アルトリアは、胸に手を当て深呼吸をしてから双眸に力を込める。
そして、周りを嘲笑し、馬鹿にするかのような態度を取り言った。
「いいわ、やってあげるわよ。一人ずつなんて、チンケな事は言わないわ。戦意のある奴は、纏めてかかってきなさい。地の味を教えてあげるわッ」
乗っかっていた木箱を飛び降り、アルトリアは勝気な態度で仁王立つ。今ここに、王女と民の喧嘩が勃発したのだった。
「それと、ゼクス。貴方も後で覚えておきなさいよ」
不敵に笑う、アルトリアを見てゼクスは鼻白む。
「──えっ!?」
高ぶるアドレナリンは、今まであった嫌な事を消し去り、目の前の事に没頭出来る。堅苦しくない、冒険者達の振る舞いも合わさって緊張もいつの間にか解れていた。
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