コードペンダントの愛玩

柊わたる

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第三幕 祝福の子

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 これは、祝福なのだろうか。幼いながらにして、そう思うことがしばしばあった。
「セオドアくんは凄いわね」
「神様に愛された子だな」
 銀色の髪をした幼い少年を、無数の大人たちが礼賛する。その少年、セオドアはその言葉を笑って受け取っていた。
「ありがとうございます」
「幼いのに、礼儀正しいのね」
 大人たちの望みに従っていたら、七歳にして本当の自分を隠すことを覚えてしまった。それは、奇跡の魔法使いである現在のセオドアが被る微笑みの仮面の始まり。
「全ての魔法が使えるなんて、きっとセオドアくんは世界を平和にするわね」
「みんなを幸せに導く、天使のような子だな」
 幼いセオドアには、彼らが何を言っているのかは半分ほどしか理解できなかった。でも、分かったふりをした。
「うちの子の将来が楽しみだわ」
 分からないなんて知られたら、世間体を優先する母親に叱られるからだ。魔法以外も優秀であるように、演じ続けた。
 セオドアの魔法は、五歳で発現した。突然、曇り空が晴れて煌びやかな白に照らされた。小さな村の大人たちは、これを祝福と呼んだ。それ以降、セオドアは神の子として丁寧に育てられた。

「お兄さん、遊ぼう」
 七歳の頃、セオドアは一つ年上の少年とよく遊んでいた。元々、村には子どもは数えるほどしかいなかったが、大人たちは優秀なその少年と会うことしか許容しなかった。
「いいよ、今日は何をするんだ?」
「えっとね、かくれんぼ!」
「セオドアくんが隠れるのか?」
「うん!」
 その少年は、艶やかな黒髪に真っ赤な目をした優しい少年だった。いつもお兄さんと呼んでいたから、名前は覚えていない。
「分かった。十数えるから、隠れてね」
 柔らかく微笑む少年は、近くにあった壁に向かって数を数え始める。セオドアは、慌てて近くにあった木の影に逃げ込んだ。
 だが、そこには座り込む子どもの先客がいて、また急いで隣の木の影に走った。
「もういいかい?」
「もーいーよー!」
 セオドアが元気にそう叫ぶと、居場所を察したのか少年は笑いながら木の方へと向かっていった。
「見つけた」
 少年は、頭を手で覆うセオドアに優しく声をかける。セオドアは、ポカンとした顔をして「見つかっちゃった」と溢した。
 そして、まだ縮こまっている隣の木にいる子どもの元へ歩き出す。しかし、それは少年によって阻止された。
「お兄さん?」
「あの子は別の子と隠れんぼをしてるから、話しかけちゃいけないよ」
「そっか、危ない危ない」 
 セオドアと少年は、村の広場に戻った。

 その日は、雪の降る寒い日だった。八歳になったセオドアは、一人村を散歩していた。様々なことを規制され、自由奔放に振る舞えないから散歩をするしかなかった。薄く広がる白を踏んで、大人に見つからないように村を歩き回る。時々、魔法の火を出して身体を温めた。
「……あれ?」
 ある家の裏に着いた時、黒い塊を見つけた。セオドアは、そっと近づくとそれを突いた。
 布の下に硬い感触がして、何だろうと中を見る。布はローブで、身体を縮めて座り込んでいる少年がそこにはいた。
「お兄さん?」
 セオドアと仲の良い少年と同じ頭をしているが、何か違和感がある。
「なんだお前……」
 語気が強くて、セオドアはすぐにお兄さんではないと理解した。それなら、この子は誰だろうか。身体の大きさからして、セオドアと同い年くらいだ。でも、同い年の子なんて今まで会った記憶はない。
「僕はセオドア。君は?寒くないの?」
 セオドアが名乗った途端、その少年は声を荒げた。
「っ、話しかけんな!お前なんて嫌いだ!」
 荒い息遣いで、身体は震えている。セオドアが驚いている間に、その少年は力なく倒れた。
「え、大丈夫……!?熱っ、ひどい熱だよ」
「触んなっ」
 セオドアは、混乱で泣き出しそうなのを我慢して魔法を使う。自分だけで病気も治せることを、セオドアはすでに知っていた。
「今良くなるよ、ちょっとだけ頑張って」
「やめ、ろ……早く、どっか行け」
「ダメだよ、君が死んじゃう」
 セオドアは、きゅっと目を閉じて少年の身体を癒す。鼻の先まで真っ赤になっていた少年は、少しずつ穏やかな表情に変わっていった。
「これで大丈夫」
「ざけんな……やめろっつったろ」
「でも僕は人を助けないと……」
「あのまま死んでた方が、ずっと助かってた。お前、最悪だ。お前の助けは、俺の不幸なんだよ」
 少年は、吐き捨てるようにそう言うと何処かへ走り出してしまった。セオドアは、追いかけようにも少年の言葉が引っかかって動けなかった。
「君の幸せは、なに?僕は、みんなを助けないといけないから、君も助けないといけないのに」
 大きな目に涙を浮かべたセオドアは、重い足取りで散歩を再開した。結局、顔も名前も分からなかった。

 
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