桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

文字の大きさ
43 / 244
第1作 桜の朽木に虫の這うこと

第42話 躾

しおりを挟む
<作者より>

本回は星川雅の人格を表現するため、性描写が強めになっております。
閲覧に際しまして、じゅうぶんにご留意ください。

   *

「はじめましてアクタくん。ウツロくんは久しぶり。あらためまして、星川雅ほしかわ みやびです。あなたたちとは『いとこどうし』になるから、よろしくね」

 おそろしく場違ばちがいな自己紹介を、星川雅はウツロとアクタにしてみせた。

 二人はこの少女の意図がまったくわからず、ひたすらポカンとしている。

「なるほど、二卵性にらんせい双子ふたごか。確かに似てないよね」

 彼女はウツロとアクタの顔を、かわるがわる観察した。

「――!」

 アクタの頭に星川雅は左手を置いた。

 そのまますりすりとでる。

「筋肉質でかわいいね。ウツロくんとはまた違った魅力みりょくがあるよ」

 その指を下に移動し、あごをつまみ上げる。

「ん――!?」

 無防備になったのどに、彼女の口が吸いついた。

 くちびるでそこをなめ回す。

 虫がうような奇妙な感覚、だがアクタはその「虫」に、全神経をらえられた。

 体がほてってくる……

 なんて気持ちがいいんだ……

 「虫」はゆっくりと、アクタののどを登ってくる。

「あふ……」

 口と口がかさなる。

 たちどころに舌をからめ取られた。

「ん、んん……」

 口の中を侵食しんしょくされる。

 「虫」からのはずかしめに、俺は興奮こうふんしているのか……

 かまわない、ずっとこうしていたい……

 もっと、もっとほしい、「雅」……

「うふ、かわいいね、アクタ・・・?」

「あ……なん、で……?」

 蹂躙じゅうりんを中断され、アクタは物足りない顔だ。

「いい顔だねアクタ。あとでたっぷりしてあげるから、ちょっと待っててね?」

 彼はすっかり骨抜きにされた。

 我慢がまんできない。

 しかし待たなければ、「命令」なのだから。

「アクタ、なんてツラだ。雅、わしの『息子』をたらしこむなよ?」

だまってて叔父様おじさま。あなただって楽しんでるくせに」

「いや、その二人は女など知らぬからな。『戦士』をあっというに『犬』に変える。なかなかの手管てくだじゃないか、雅。いままでの鍛錬たんれんも、これですべてパーだな。やれやれ。おい、わしとの勝負しょうぶがあるのだから、ウツロのほうも・・・・・・・早くな」

「言われなくても」

 腑抜ふぬけになったアクタをほうって、今度はウツロへねらいをすます。

「ウツロくん、君は砂時計に似てると思うんだ」

 アクタ同様、頭を撫でながら、星川雅はウツロに語りかける。

「心の中にめられない穴がいていて、その穴を閉じようと必死に砂を送り込むんだけれど、その穴は永遠にふさがらない。そんな感じじゃない?」

 おぼろげな意識の中、ウツロは妙に納得するところがあった。

「苦しいでしょ? だからわたしが助けてあげる。その穴を一緒に埋めましょう」

 口づけ――

 意味がわからない。

 どうしてこの少女はこんなことを?

 俺を支配したいのか?

 こうすることで俺を、自分の人形に変えようとしているのか?

 正気じゃない。

 ただでさえこんな状況なのに。

 でも、この感覚は何なんだ?

 こうされていると落ち着く。

 心が安らぐ。

 こんな局所的きょくしょてきな肉体のいとなみが、俺の傷ついた心をやしていく。

 絡まってくる彼女の舌が、俺の精神のうみを洗い流すようだ。

 気持ちいい。

 ずっとこうしていたい。

 それは俺が、この女に支配されるということなのだろう。

 こうしているあいだにも、俺は彼女の隷属れいぞくとなりつつあるのだろう。

 すべてを、存在そのものさえもしゃぶりくされて、俺はこの女の人形に作り変えられるのだろう。

 しかし、それでもいい。

 全部奪われることで、俺は自由になれるんだ。

 うれしい。

 こんなに幸せでいいんだろうか?

 早く、一刻も早く俺に、かせを、くさりを。

 おまえのものになりたい。

 俺をおまえの人形にしてくれ、雅……

「あ……」

 快楽が消えた。

 ウツロの口への蹂躙を、星川雅がやめたのだ。

 唾液だえきねばった糸が、重力におかされて、だらしなくれ下がる。

「あ、なんで……?」

 呆然ぼうぜんとするしかない。

 どうしてだ、雅?

 もう少しでなれそうだったのに、お前の人形に――

「気持ちいいのは長いほどいいでしょ、ウツロ・・・? それにあなたはらしたほうがかわいいし。心配しなくても手なずけてあげるから。ゆっくり、時間をかけてね? 人間論にんげんろんなんて吹っ飛ぶくらい、気持ちよくしてあげるから」

「ん……」

 もう一度、今度はバードキス。

 極限きょくげんまで焦らして、しつけほどこすテクニックだ。

「続きはこれが終わったら、ね?」

 恍惚こうこつの表情でよだれを垂らすウツロとアクタに、調教みの「犬」を連想し、星川雅はまた舌をのぞかせた。

 もうこいつらはわたしの支配下しはいかだ。

 るなり焼くなり、かわいがってあげるからね?

 ウツロ、アクタ、わたしのかわいいペットたち――

 事を済ませ、彼女はおもむろに立ち上がると、叔父のほうへ向きなおった。

「いとこ同士は結婚できるんだよ? 民法734条、覚えておいてね」

 両腕りょううでを頭の上でクロスさせ、背中にくくりつけてある双刀そうとうを、じわりじわりと引き抜く。

 二本の巨大な柳葉刀りゅうようとうを、似嵐鏡月にがらし きょうげつのほうへかざすようにかまえた。

「叔父様、似嵐の家名かめいけがした罪で、処刑いたします」

(『第43話 処刑しょけい』へ続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...