桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第21話 帰り道

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 学校をあとにしたウツロと真田龍子さなだ りょうこは、って朽木市くちきしの中心である朔良区さくらく町並まちなみを南下なんかしていた。

 中心街ちゅうしんがいとはいっても、朽木市自体が閑静かんせいな都市であり、高層ビルなどもとりたたて多いというわけではなかった。

 二人は秋の夕焼けの中を、やはり下校中の学生たちがすれ違いざまに発する声などをBGMに、会話をしながら歩いていた。

みやびの言ったことが本当なら……刀子かたなごさんや氷潟ひがたくんが、そのおそろしい『組織』の人間だとしたら……もしかしたらこれからも、わたしたちに何かしてくるかもしれない、ってことだよね……?」

「うん、たぶん……何か、よくないことが起こりそうな気がするんだ……万城目日和まきめ ひよりのことも気になるしね」

 真田龍子がこわごわと問いかけてくる。

 ウツロはそれに返答しながらも、『組織』や万城目日和のことが気がかりで、考えがまとまらない状態だった。

「万城目日和……いったい何者で、どこにひそんでるのか……あ、でもウツロ……変なことは考えちゃダメだよ? その、わたし……ウツロが何もかも背負せおって、苦しむところだけは、見たくないから……」

 真田龍子はウツロを心配していた。

 万城目日和の父である政治家・万城目優作まきめ ゆうさくは、ウツロの父・似嵐鏡月にがらし きょうげつが手にかけた――

 それを受け、ウツロは彼女ともし出合ったとき、しっかりと向き合いたい――

 そう答えていた。

 そのことでウツロが、思いつめているのではないかと、真田龍子は気が気でならなかった。

「ありがとう龍子、心配してくれて。でも、俺は大丈夫だから。たとえどんなことが起ころうとも、俺は父さんの言葉を忘れない……どんな状況におちいっても、自分を失ってはならないという言葉を……」

「ウツロ……」

 やっぱり苦しんでいる――

 真田龍子はそれを感じた。

 どうしてウツロが苦しまなければならないのか……?

 ウツロは何も、悪いことなんかしていないのに……

 そう考えると、彼女もまた、苦しかった。

 しかしこれ以上、言わないことにした。

 ウツロをさらにわずらわせることだけはしたくない。

 そんな気持ちからだった。

「俺よりも龍子、君のことが心配だ。またあいつが、刀子朱利かたなご しゅりが、龍子に何かをしてくるかもしれない……俺には、それが不安でならないんだ……」

「ウツロ、わたしは大丈夫だから……」

 お互いに「自分は大丈夫」と言い、気づかい合う。

 しかしそうすることによって、お互いに苦しめあう。

 わかりきってはいるのだが、二人の性格上、そういう態度を取るほかはないのだ。

 不器用だった、ウツロも真田龍子も――

 しかしながらその不器用さが、お互いの愛情に拍車はくしゃをかけていた。

 皮肉にも、であるが。

「ただ、一つだけ言えるのは……」

 ウツロは歩きながら、真田龍子の手をにぎった。

 やさしく、つつむように。

 顔をお互いに見合わせる。

 ウツロのそれは真剣そのものだ。

 その眼差まなざしに、愛する者の顔がうつむ。

「龍子、俺はどんなことがあっても、君を守る……!」

「ウツロ……」

 ウツロは静かに、だが決然と言った。

 握り合っている手からは、言葉以上のものが圧力となって伝わってくる。

「ありがとう、ウツロ……わたしも負けない、絶対に……!」

 つながる視線が、二人の少年少女のきずなを、さらに強く結びつけた。

 それはすでに、『絆』をはるかに越えたものになっていた。

 二人は手をにぎめながら、その時間をいつくしむように歩きつづけた。

 放課後の黄昏たそがれが少しずつ、だが確実に落ちてくる。

 まるで彼らを侵食しんしょくするように――

(『第22話 ウツロと龍子りょうこのもぐもぐタイム』へ続く)
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