桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第20話 保健室の狂気、再び

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「ええ、お母様。ウツロと龍子りょうこには、必要最低限の情報・・・・・・・・だけ与えておいたわ」

 ウツロと真田龍子さなだ りょうこが保健室をあとにしたのち、星川雅ほしかわ みやび雑務ざつむがあるという理由をつけてそこへ残り、朝と同じく携帯電話で、母・皐月さつきにことのあらましを報告していた。

―― うふふ、『与える』だなんて、まるで犬にエサでもあげてるみたいねえ。素敵だわ、雅ちゃん ――

「これでウツロたちは泳ぎ出す・・・・、ってわけだよね、お母様?」

―― ふふ、そうよ雅ちゃん。すべては閣下かっか掌中しょうちゅうというわけよ。さあ、ウツロ……果たしてどう動くかしらね…… ――

万城目日和まきめ ひよりのことはどうする? お母様」

―― それについてはまだよ。まだこちらは動いてはダメ。万城目日和については、まだわかっていないことが多い。顔も、居場所も……もし本当にアルトラ使いだったとして、その能力も。いまはウツロたちと同様、泳がせておくのよ。いいこと、雅ちゃん? ――

「はい、わかったわ、お母様」

―― ふふ、もしかしたら、ウツロが何か、マジックを起こしてくれるかもしれない。あわよくば、万城目日和の正体を、あぶり出してくれるかも。ふふっ、なんだか楽しくなってこない? 雅ちゃん ――

「そうだね、お母様……」

―― そうやってうまく『こま』を動かして、将棋のように『む』のよ。まあ、『駒』じゃなくて『人形にんぎょう』、だけれどね? ふっ、ふふふっ…… ――

「……」

―― ああ、なに? また急患きゅうかんですって? ずいぶん急患の多い日だわね。まあ、養分、おほん、患者かんじゃが多いのは、けっこうなことだけれどね。ほほっ、ほほほ…… ――

「……」

「ごめん、雅ちゃん、またかけるわ。ウツロたちのこと、よろしくね。仮にもわたしのおいだし。じゃあまたね、わたしの雅ちゃん・・・・・・・・

 そこでブツっと、電話は途切とぎれた。

「……わたしもその『人形』の一つ……だものね、お母様?」

 星川雅のロングヘアーが逆立さかだった。

 その顔には強烈きょうれつ怨念おんねんが宿されている。

「ふう……」

 落ち着け、雅。

 いつものこと、いつものことだ……

 彼女は自身にそういいきかせ、精神を冷静にした。

 端末の履歴に目をやる。

 『クソババア』の五文字に、殺意の視線を送った。

 そしてすぐに、その目をゆるませた。

 お母様は、わたしのことを愛してなんかいない……

 あの女が愛しているのは、人形としてのわたし・・・・・・・・・……

 そんなことを考えた。

「ふん……」

 まよう心をはらうかのごとく、彼女は制服をひるがえし、保健室をあとにした。

(『第21話 帰り道』へ続く)
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