桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第51話 消失

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「まったく、なんなのよ、あの女! さっぱり意味がわからない!」

 いつもの校舎裏へ移動した刀子朱利かたなご しゅりは、ぐったりとした氷潟夕真ひがた ゆうまをベンチの上に休ませ、ひたすらいら立ちをあらわにしていた。

 真田龍子さなだ りょうこのことが頭から離れない。

 なぜだ?

 なぜ夕真を助けた?

 それはひいては、自分の有利にもなることなのに……

 さすがにそれくらいはわかるだろう。

 なのに、なぜ?

 意味がわからない。

 いらいらする、真田龍子……

 そんな考えをぐるぐるとめぐらせていた。

「ん……」

 氷潟夕真がかすかにうめいた。

「ちょっと夕真、大丈夫なんでしょうね?」

「あ、ああ……」

 真田龍子のアルトラ「パルジファル」

 その治癒の能力を受けたことにより、徐々にではあるが、ウツロの攻撃によるダメージは回復していた。

 少しずつ苦痛が柔いでいく感覚。

 それを彼はかみしめた。

「ほんと、何を考えてるんだか、真田龍子。敵であるわたしたちを助けるなんてさ。頭おかしいのかな?」

 刀子朱利はそんなふうに毒づいた。

「わからない、俺にも……だが、なんとなくは、わかる気がする……」

「何それ? トンチ問答? あの女の肩を持とうって気なの?」

 氷潟夕真のつぶやきに彼女は不服だ。

 なんとなくわかる気がする。

 それは正直な気持ちだった。

 真田龍子というパーソナル、その慈悲の心。

 なんとなくわかりかけてきた。

 しかしいっぽうで、どこかそれを認めたくないところもある。

 複雑な心中だった。

「で、これからどうするんだ?」

 彼は刀子朱利に問いかけた。

「しれたこと。こうなったら何度でも真田さんを傷つけて、なんとしてもあのいまいましいウツロを――」

 言いかけた彼女は、奇妙なことに気がついた。

「何、このにおい……?」

「におい?」

「なんだか、甘くて、眠くなって、くる……」

「おい、朱利っ!」

 やにわに意識を失った刀子朱利を、氷潟夕真はあわてて支えた。

「くそっ、敵襲か……!?」

 あたりを見回すが、誰もいない。

「何者だ、でてこ……」

 彼の鼻にも届いた。

 その甘いにおいが。

 いや、ウツロから受けたダメージがあったため、感じ取るのが遅れただけだったのだ。

「う……」

 意識が遠くなる。

 最後に見た光景に、彼はゾッとした。

 そして刀子朱利をかかえたまま、いっしょに地面へと倒れこんだ。

「……」

 夕暮れの校舎裏から、二人の姿が消失した――
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