桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第55話 万城目日和の正体

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「やはりおまえだったのか、万城目日和まきめ ひよりの正体は……!」

 姿を現した影。

 それはウツロのよく知る人物だった。

柿崎・・、まさかおまえが万城目日和だったとはな……」

 柿崎景太かきざき けいた

 ウツロとは同じクラスのやんちゃ坊主だ。

 しかしその顔は、普段の彼とはむしろ真逆な、殺意に満たされたものだった。

 眼光はナイフのような鋭ささえ持っている。

「よう、佐伯さえき。どうしてわかった?」

「……」

 「彼」は腰に手を当ててウツロにたずねた。

「鼻のいいおまえをだまくらかすのに、相当気を使ったんだぜえ? 教えてくれよ、どうして俺が万城目日和だってわかったんだ?」

「これさ」

 ウツロはブレザーのふところから端末を取り出した。

聖川ひじりかわに確認を取ったんだ。なぜ彼が旧校舎に来たのか、ずっと気になっていた。聖川が言うには、古河ふるかわ先生から俺を探してくるように頼まれたとのこと。そして話の筋から、そう誘導したのが柿崎、つまりは万城目日和、おまえだということだ」

「ふん」

 柿崎景太、いや万城目日和は顔をゆがめて笑った。

刀子かたなご氷潟ひがたがいきなり真田を拉致らちったからな。俺もけっこう焦ってさ。で、ボロが出ちまったってわけだ。は~あ、俺もまだまだだぜ」

 手を振ってあきれるしぐさをする。

「なぜこんなことをした?」

 ウツロの問いかけに、万城目日和は目玉をギョロッとさせて向き直った。

「なぜ? おまえいま、なぜって言ったか? おまえが一番よくわかってるだろ、佐伯? いや、毒虫のウツロ? てめえの親父、似嵐鏡月にがらし きょうげつは俺の親父、万城目優作まきめ ゆうさくをぶっ殺した。親父はな、あのくそったれな黒彼岸くろひがんで、どたまをかち割られたんだぜ? まだ小学生だった、俺の目の前でな。どう思う? 目の前で肉親をザクロにされる気分が、てめえにわかるか? てめえみてえな悲劇のヒーロー気取りのクソ野郎に? あのとき以来、俺の人生はめちゃくちゃだ。俺は生きるために、必死であいつから技を盗んだ。てめえの親父をこの手で直々にぶち殺すためにな。どう思う? 親のかたきを取るために、親の仇から殺人術を習ったんだぜ? なあ、どう思う? どう思うよ? ウツロおおおおおっ――!」

「……」

 天を仰いでの咆哮ほうこう

 その叫びは倉庫のいたるところを震わせた。

 何も言えない、言えるわけがない。

 ウツロにはかける言葉など見つからなかった。

 ひとしきり吠えると、万城目日和は深呼吸をした。

「わりい、つい感情的になっちまった。まあ、正直言って、いまさらどうでもいいんだよ。過去が変えられるわけじゃねえしな」

「……」

 ウツロはもくして万城目日和を見つめていた。

「だがな、これだけは言いたいんだ、あえてな。ウツロよ、聞いてくれるか? 俺の話」

 静かな、しかし強いまなざしが彼に刺さった。

「言ってくれ、万城目日和。俺にはそれを聞く義務がある」

 そう返した。

「はっ、義務か。真面目なんだな、おまえ。損するぜ? そういう性格はよ」

「いいから、おまえが言いたいことを言ってくれないか?」

「ふん、じゃあ、言うぜ?」

 万城目日和は姿勢を正した。

 その双眸そうぼうにはどこか、りんとした風格がたたえられている。

「ウツロ、俺の人生を、返せ」
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