138 / 244
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第56話 答えのない質問
しおりを挟む
「ウツロ、俺の人生を、返せ」
万城目日和はそう言った。
「……」
答えのない質問、ウツロはそう思った。
彼はゆっくりと体を下ろし、両ひざをコンクリートの床についた。
「へえ」
万城目日和は興味深そうに、その光景を見下ろしている。
「その問いに答えること、俺にはできない」
「……」
ウツロはうつむいたまま話しつづけた。
「しかるに万城目日和よ、おまえの好きなようにするがいい」
「それは、どういう意味だ?」
「俺を八つ裂きにして気が済むのなら、そうすればいいと言っている。ただ、みんなの命だけはどうか、助けてやってほしい」
ウツロは顔を上げた。
その凛としたまなざし、万城目日和は感じいたるところがあった。
近寄って自分も姿勢を落とし、顔をのぞきこむ。
「ふうん、命ごいするんだ?」
「そう言われれば、そうなのかもしれない。俺はおまえの質問に答えられるほど、できた人間じゃないからな」
目はそらさない。
ウツロの覚悟、それが伝わっていく。
「はっ、人間、人間ねえ。ほんと、好きだよなあ、おまえ」
万城目日和はくつくつと笑った。
「おまえのそういうとこ、吐き気がする。だがな、嫌いというわけでもねえ」
「……」
万城目日和はグッと顔を寄せた。
「ウツロ、俺と戦え」
「――っ」
「勘違いすんなよ? 俺はおまえを、直々に叩きのめしてみてえだけなんだ。どっちが強いのか、それも気になるしな。さあ、どうする?」
ウツロの気持ちは決まっていた。
「質問の答え、俺には出せないと確かにいま言った。だが万城目日和、もし、もしも、戦いの中で、それを見出せるというのなら……」
「はっ、それもおまえらしいよな。いいねえ、じゃあ、さっそくおっぱじめようじゃねえか。さ、立てよ」
二人はいっしょに立ち上がる。
「よし、まずは、だ……」
「――っ」
万城目日和は体を丸めて、自身を包みこむようなしぐさをした。
髪がざわざわとうごめき、体つきが変化してくる。
その度合いに比例して、あふれんばかりの闘気が膨れあがってくる。
「これは……」
「彼女」は正体を現した。
そこには獣のような蛮性をかもし出す「少女」が立っていた。
「化生の術っていうんだぜ? ホルモンのバランスを操作することで、他人に化けられるんだよ。親父からは教わってなかっただろ? 女しかこの技は使えねえそうだ。皐月ねえが気まぐれにやり方を話したんだとよ」
「……」
ウツロは生唾を飲んだ。
野獣のような殺意とは裏腹に、この女、なんと美しい。
そんなことを考えていた。
「へっ、俺に見とれてくれんのか? うれしいねえ。おまえをぶちのめして、そのあとはたっぷりと遊びてえところだな」
ペロリと舌なめずりをする。
ウツロは得体の知れない不気味さを覚えた。
「武器はどうする? 親父からもらった黒刀は? さすがに取りにいく暇はなかったか」
「見損なわないでもらおう」
「――っ」
ウツロの影がもぞもぞと動き出す。
そこからニョキニョキと一本の刀が顔を出した。
「へえ、お仲間の虫たちに運んでもらったのか。さすが、抜け目ないよな」
万城目日和は腹をかかえた。
「さあ、おまえも武器を出したらどうだ?」
「ふん」
空を切るように両腕を振る。
するとその拳には、鋼鉄製の鋭い「爪」が装着されていた。
「古代インドの暗器、バグナク。虎の爪って意味だな。俺はこれが気に入ってるんだ」
拳をグッと握ると、鋭い先端が飛び出した。
「さあ、行くぜ、ウツロっ――!」
「来い、万城目日和っ――!」
こうして宿命的な戦いの幕は、ついに切って落とされた――
万城目日和はそう言った。
「……」
答えのない質問、ウツロはそう思った。
彼はゆっくりと体を下ろし、両ひざをコンクリートの床についた。
「へえ」
万城目日和は興味深そうに、その光景を見下ろしている。
「その問いに答えること、俺にはできない」
「……」
ウツロはうつむいたまま話しつづけた。
「しかるに万城目日和よ、おまえの好きなようにするがいい」
「それは、どういう意味だ?」
「俺を八つ裂きにして気が済むのなら、そうすればいいと言っている。ただ、みんなの命だけはどうか、助けてやってほしい」
ウツロは顔を上げた。
その凛としたまなざし、万城目日和は感じいたるところがあった。
近寄って自分も姿勢を落とし、顔をのぞきこむ。
「ふうん、命ごいするんだ?」
「そう言われれば、そうなのかもしれない。俺はおまえの質問に答えられるほど、できた人間じゃないからな」
目はそらさない。
ウツロの覚悟、それが伝わっていく。
「はっ、人間、人間ねえ。ほんと、好きだよなあ、おまえ」
万城目日和はくつくつと笑った。
「おまえのそういうとこ、吐き気がする。だがな、嫌いというわけでもねえ」
「……」
万城目日和はグッと顔を寄せた。
「ウツロ、俺と戦え」
「――っ」
「勘違いすんなよ? 俺はおまえを、直々に叩きのめしてみてえだけなんだ。どっちが強いのか、それも気になるしな。さあ、どうする?」
ウツロの気持ちは決まっていた。
「質問の答え、俺には出せないと確かにいま言った。だが万城目日和、もし、もしも、戦いの中で、それを見出せるというのなら……」
「はっ、それもおまえらしいよな。いいねえ、じゃあ、さっそくおっぱじめようじゃねえか。さ、立てよ」
二人はいっしょに立ち上がる。
「よし、まずは、だ……」
「――っ」
万城目日和は体を丸めて、自身を包みこむようなしぐさをした。
髪がざわざわとうごめき、体つきが変化してくる。
その度合いに比例して、あふれんばかりの闘気が膨れあがってくる。
「これは……」
「彼女」は正体を現した。
そこには獣のような蛮性をかもし出す「少女」が立っていた。
「化生の術っていうんだぜ? ホルモンのバランスを操作することで、他人に化けられるんだよ。親父からは教わってなかっただろ? 女しかこの技は使えねえそうだ。皐月ねえが気まぐれにやり方を話したんだとよ」
「……」
ウツロは生唾を飲んだ。
野獣のような殺意とは裏腹に、この女、なんと美しい。
そんなことを考えていた。
「へっ、俺に見とれてくれんのか? うれしいねえ。おまえをぶちのめして、そのあとはたっぷりと遊びてえところだな」
ペロリと舌なめずりをする。
ウツロは得体の知れない不気味さを覚えた。
「武器はどうする? 親父からもらった黒刀は? さすがに取りにいく暇はなかったか」
「見損なわないでもらおう」
「――っ」
ウツロの影がもぞもぞと動き出す。
そこからニョキニョキと一本の刀が顔を出した。
「へえ、お仲間の虫たちに運んでもらったのか。さすが、抜け目ないよな」
万城目日和は腹をかかえた。
「さあ、おまえも武器を出したらどうだ?」
「ふん」
空を切るように両腕を振る。
するとその拳には、鋼鉄製の鋭い「爪」が装着されていた。
「古代インドの暗器、バグナク。虎の爪って意味だな。俺はこれが気に入ってるんだ」
拳をグッと握ると、鋭い先端が飛び出した。
「さあ、行くぜ、ウツロっ――!」
「来い、万城目日和っ――!」
こうして宿命的な戦いの幕は、ついに切って落とされた――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる