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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第18話 ウツロとディオティマ
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「ハロー、ウツロ・ボーイ。正確には初めましてではありませんが、お会いできて光栄ですよ?」
対峙したウツロたちに、魔女ディオティマはおそろしく軽いあいさつをした。
「あなたがディオティマなのですね?」
ウツロは魔女の一挙手一投足を探りながらたずねる。
「しかり。古代ギリシャの巫女で魔王桜の召喚に成功し、世界最古のアルトラ使いとなった魔女ディオティマとは、ふふっ、わたしのことですよ?」
このようにわかりきったことを、あえてわざとらしく紹介してみせた。
「ディオティマ、あなたにたずねたいことは山のようにある。しかし、素直に答えるような方にはとうてい見えません」
ウツロもあえて挑発するような態度を取る。
「ふふっ、やはりというか、やり手ですねウツロ・ボーイ。そうやってわたしの腹のうちを探るふりをして、この状況をどうするべきか考えているのでしょう?」
「それはあなたも同じでは? そちらのウサギ少年とあわせて二人、こちらは四人がかりですが?」
「ふはっ、交渉がお上手ですねえ。おっしゃるとおり数では負けておりますが、いやしくも最古のアルトラ使いであるわたしと、そのわたしが選んだ者なのですよ? それでも同じことが言えるとお思いでしょうか?」
丁々発止のかけあいは続く。
「ぎひひ、ウツロ、調子に乗ると、痛い目、見る」
バニーハートはかくかくと笑った。
「こちらはバニーハート、アルトラ名はエロトマニアです。見敵必殺および捕獲に特化した能力者で、汎用性もかなり高いのです」
ディオティマはわざわざ味方の紹介もしてみせた。
「やさしいのですね、そちらから情報を提供してくださって。それとも、長生きからの傲慢による見通しの甘さでしょうか?」
ウツロはクスっと笑った。
「ふうっ。さあ、どうでしょうねえ? しかしウツロ・ボーイ、あなたはやはり興味深い、実にね。このディオティマを相手に、初対面からこれだけ手玉に取ってのけるとは」
ディオティマは肩を揺らす。
「どうしますか? あなたがたをねじふせて、無理やり連行するという手もあるのですよ? もちろん、こちらが逆にされるというリスクもあるわけですが」
「ふふっ、ふはは! 面白い、とても。ウツロ・ボーイ、あなたのスキルは総合的にバランスが良く、しかもかなり高いようです。いやいや、やはり来日を決めたのは正解でした。あなたは必ずや、わたしの優秀な研究材料となってくれることでしょう」
「研究材料」という単語に、一同はゾッとした。
「なるほど、マッド・サイエンティストの考えそうなことです。しかし先ほども申し上げたように、しぼり取られるのはあなた方のほうかもしれませんよ?」
ウツロはこのように返してみせた。
「ふふっ、ひはっ! 最高です、ウツロ・ボーイ! 何千年と生きてまいりましたが、あなたほどの逸材は初めてお目にかかる! ぜひともわがモルモットになっていただきたい!」
「ぎひひ、改造、洗脳、オモチャ、オモチャ、ぎひっ、ぎひひひ」
二体の怪物はいまにも襲ってきそうな様相を呈している。
「悪趣味なのですね、老人の考えそうなことだ。なまじ長く生きすぎているから、そのように醜悪になるのでしょう。ディオティマさん、あなたの人生はもうじゅうぶん、そうではありませんか?」
ウツロはあえて好戦的な態度を取った。
気圧されたら負け、そう判断したからにほかならない。
「ふふっ、ふはは! ああ、楽しい! こんなに楽しいのは、何千年ぶりでしょう。ははっ、ウツロ・ボーイ、ますますあなたのことが気に入りましたよ?」
「で、どうしますか?」
「あはっ、そうですねえ。あなただけならすぐさまいただくところですが、そちらには回復に特化した真田龍子さん、防御に特化した真田虎太郎くん、そしてまだ能力の不明な姫神壱騎くんが控えています。これだけでも実にバランスの取れたメンバーと言えるでしょう。いま動くのは、いささか以上にクレバーではない、わたしはそう判断いたします」
「ほう、ではこの場はしりぞくと?」
「そういうことです、ウツロ・ボーイ。しかしわたしは宣言します。あなたは、いえ、あなたたちはまとめて、必ずこのわたしがいただくと」
「それは宣戦布告と捉えてよろしいのですか?」
「しかり。あなたがたチーム・ウツロと、このわたしを頂点とする組織・ディオプティコンによる全面戦争の開幕というわけです」
「ディオプティコン……いかにもあなたらしいネーミングセンスだ。お互いただでは済みませんが、それでもよろしいのですか?」
「それが良いのではありませんか、ウツロ・ボーイ?」
「なるほど、承りました。くれぐれも油断めさらぬよう」
「それはこちらのセリフですよ?」
両者、顔を突きつける。
「つくづく業の深い方だとお見受けします。この俺が、必ずや滅ぼしてさしあげましょう」
「ふふっ、吐いた唾は飲まないようにお気をつけなさい? ウツロ・ボーイ」
ディオティマは4人をスルーし、もと来た道を遠ざかっていく。
姿が見えなくなったところで、ウツロはガクッと姿勢を崩した。
「ウツロ、大丈夫!?」
真田龍子が駆けよる。
「ん、大丈夫だ。ありがとう、龍子。こんなに気を張ったのは久しぶりでね」
それほどに緊張を強いられていたのだ。
「ディオティマ、敵ながらおそろしい手合いだよ」
遅れて鼓動が早くなる。
動悸がし、冷や汗も垂れてきた。
真田虎太郎も心配そうにしている。
「ウツロ、あえて聞くまでもないけど、覚悟はいいんだね?」
姫神壱騎は神妙な面持ちだ。
「勢いとはいえ、ケンカを売ってしまいましたから。それ以上はやるしかないですよ。すみません、壱騎さんまで巻きこんでしまって」
「いや、いまの状況においては最適の判断だったと思うよ? 結果は結果にすぎないさ。ウツロ、君が気に病むことはない」
後悔するウツロを彼はサポートした。
このようにして、ウツロ一座とディオティマ一味による本格的な戦いの火ぶたは、ついに切って落とされたのだ。
対峙したウツロたちに、魔女ディオティマはおそろしく軽いあいさつをした。
「あなたがディオティマなのですね?」
ウツロは魔女の一挙手一投足を探りながらたずねる。
「しかり。古代ギリシャの巫女で魔王桜の召喚に成功し、世界最古のアルトラ使いとなった魔女ディオティマとは、ふふっ、わたしのことですよ?」
このようにわかりきったことを、あえてわざとらしく紹介してみせた。
「ディオティマ、あなたにたずねたいことは山のようにある。しかし、素直に答えるような方にはとうてい見えません」
ウツロもあえて挑発するような態度を取る。
「ふふっ、やはりというか、やり手ですねウツロ・ボーイ。そうやってわたしの腹のうちを探るふりをして、この状況をどうするべきか考えているのでしょう?」
「それはあなたも同じでは? そちらのウサギ少年とあわせて二人、こちらは四人がかりですが?」
「ふはっ、交渉がお上手ですねえ。おっしゃるとおり数では負けておりますが、いやしくも最古のアルトラ使いであるわたしと、そのわたしが選んだ者なのですよ? それでも同じことが言えるとお思いでしょうか?」
丁々発止のかけあいは続く。
「ぎひひ、ウツロ、調子に乗ると、痛い目、見る」
バニーハートはかくかくと笑った。
「こちらはバニーハート、アルトラ名はエロトマニアです。見敵必殺および捕獲に特化した能力者で、汎用性もかなり高いのです」
ディオティマはわざわざ味方の紹介もしてみせた。
「やさしいのですね、そちらから情報を提供してくださって。それとも、長生きからの傲慢による見通しの甘さでしょうか?」
ウツロはクスっと笑った。
「ふうっ。さあ、どうでしょうねえ? しかしウツロ・ボーイ、あなたはやはり興味深い、実にね。このディオティマを相手に、初対面からこれだけ手玉に取ってのけるとは」
ディオティマは肩を揺らす。
「どうしますか? あなたがたをねじふせて、無理やり連行するという手もあるのですよ? もちろん、こちらが逆にされるというリスクもあるわけですが」
「ふふっ、ふはは! 面白い、とても。ウツロ・ボーイ、あなたのスキルは総合的にバランスが良く、しかもかなり高いようです。いやいや、やはり来日を決めたのは正解でした。あなたは必ずや、わたしの優秀な研究材料となってくれることでしょう」
「研究材料」という単語に、一同はゾッとした。
「なるほど、マッド・サイエンティストの考えそうなことです。しかし先ほども申し上げたように、しぼり取られるのはあなた方のほうかもしれませんよ?」
ウツロはこのように返してみせた。
「ふふっ、ひはっ! 最高です、ウツロ・ボーイ! 何千年と生きてまいりましたが、あなたほどの逸材は初めてお目にかかる! ぜひともわがモルモットになっていただきたい!」
「ぎひひ、改造、洗脳、オモチャ、オモチャ、ぎひっ、ぎひひひ」
二体の怪物はいまにも襲ってきそうな様相を呈している。
「悪趣味なのですね、老人の考えそうなことだ。なまじ長く生きすぎているから、そのように醜悪になるのでしょう。ディオティマさん、あなたの人生はもうじゅうぶん、そうではありませんか?」
ウツロはあえて好戦的な態度を取った。
気圧されたら負け、そう判断したからにほかならない。
「ふふっ、ふはは! ああ、楽しい! こんなに楽しいのは、何千年ぶりでしょう。ははっ、ウツロ・ボーイ、ますますあなたのことが気に入りましたよ?」
「で、どうしますか?」
「あはっ、そうですねえ。あなただけならすぐさまいただくところですが、そちらには回復に特化した真田龍子さん、防御に特化した真田虎太郎くん、そしてまだ能力の不明な姫神壱騎くんが控えています。これだけでも実にバランスの取れたメンバーと言えるでしょう。いま動くのは、いささか以上にクレバーではない、わたしはそう判断いたします」
「ほう、ではこの場はしりぞくと?」
「そういうことです、ウツロ・ボーイ。しかしわたしは宣言します。あなたは、いえ、あなたたちはまとめて、必ずこのわたしがいただくと」
「それは宣戦布告と捉えてよろしいのですか?」
「しかり。あなたがたチーム・ウツロと、このわたしを頂点とする組織・ディオプティコンによる全面戦争の開幕というわけです」
「ディオプティコン……いかにもあなたらしいネーミングセンスだ。お互いただでは済みませんが、それでもよろしいのですか?」
「それが良いのではありませんか、ウツロ・ボーイ?」
「なるほど、承りました。くれぐれも油断めさらぬよう」
「それはこちらのセリフですよ?」
両者、顔を突きつける。
「つくづく業の深い方だとお見受けします。この俺が、必ずや滅ぼしてさしあげましょう」
「ふふっ、吐いた唾は飲まないようにお気をつけなさい? ウツロ・ボーイ」
ディオティマは4人をスルーし、もと来た道を遠ざかっていく。
姿が見えなくなったところで、ウツロはガクッと姿勢を崩した。
「ウツロ、大丈夫!?」
真田龍子が駆けよる。
「ん、大丈夫だ。ありがとう、龍子。こんなに気を張ったのは久しぶりでね」
それほどに緊張を強いられていたのだ。
「ディオティマ、敵ながらおそろしい手合いだよ」
遅れて鼓動が早くなる。
動悸がし、冷や汗も垂れてきた。
真田虎太郎も心配そうにしている。
「ウツロ、あえて聞くまでもないけど、覚悟はいいんだね?」
姫神壱騎は神妙な面持ちだ。
「勢いとはいえ、ケンカを売ってしまいましたから。それ以上はやるしかないですよ。すみません、壱騎さんまで巻きこんでしまって」
「いや、いまの状況においては最適の判断だったと思うよ? 結果は結果にすぎないさ。ウツロ、君が気に病むことはない」
後悔するウツロを彼はサポートした。
このようにして、ウツロ一座とディオティマ一味による本格的な戦いの火ぶたは、ついに切って落とされたのだ。
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