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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第20話 チーム・ウツロ
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「面目ない……」
ディオティマに対しなりゆきとはいえケンカをふっかけ、その結果宣戦布告を受けてしまったウツロは、さくら館へ戻るや状況を説明し、このように頭を下げた。
「いや、壱騎さんの言うとおり、結果は結果だ。おまえの判断は間違っちゃあいねえ。気にすんなって、ウツロ」
南柾樹はこんなふうにかばってみせた。
「ま、遅かれ早かれだし、いいんじゃない? わたしもまどろっこしいのは嫌いだしね」
星川雅もあきれる反面、ウツロの決断を称賛した。
「面白くなってきやがったぜ。血が騒ぐってもんよ」
万城目日和は目つきを鋭くしている。
「龍影会にディオティマか……敵は多いけれど、そのほうが燃えてくる。そうでしょ、みんな?」
星川雅のふりに、一同はニヤリとした。
「まったく、どいつもこいつも。これもウツロ病の一種なのかな?」
彼女は両手をひるがえしてため息をついた。
「で、これからどうするんだ? 待ってるだけってのもなんだかな~だし。いっそこっちからしかけるか?」
万城目日和は好戦的だ。
ウツロは少し考えて、
「いや、壱騎さんの御前試合の件もあるし、少なくともそれが済むまでは動かないほうがいいと思う。どうだろう、みんな?」
こう提案した。
「そうだな。あれもこれもじゃ収集がつかねえし。それが一番だと思う。壱騎さんはどうっすか?」
南柾樹はウツロの判断を合理的と見なし、姫神壱騎へ確認を取る。
「なんだか申し訳ないよ。みんな俺の都合につきあってくれて」
彼は顔をくもらせた。
「壱騎さん、どうか気に病まないでください。誤解はあるのかもしれないけど、俺たちはあなたの力になりたいんです」
「……」
あいかわらず晴れわたったまなざし。
嘘などついてはいない、大真面目だ。
姫神壱騎はまた打ちのめされた気がして、くすっと笑った。
「俺よりも若いのに、みんなお人よしだね。そして、強い」
一同は恐縮した。
「向き合っているって意味でね。それなら俺も、覚悟を決めなきゃ」
「壱騎さん……」
その眼光が凛としていく様を、全員が見た。
「この姫神壱騎、みんなという存在に出会えたこと、心から感謝する。そして、みんなの心意気と勇気に敬意を表し、チーム・ウツロへの入団を志願する」
「チーム・ウツロ……」
姫神壱騎は決然として申し出をした。
一同はびっくりしたが、解答など決まりきっていた。
ウツロもその思いに答える。
「壱騎さん、あなたという人間を、心の底から尊敬します。このウツロ、平伏してあなたを仲間に迎え入れたい。どうか、よろしくお願いします」
周囲はフッとほほえんだ。
「う~ん、なんだか堅いなあ」
「そ、そうでしょうか?」
姫神壱騎はウツロの顔をのぞきこむ。
「そこはさ、友達でいいんじゃない?」
「友達……」
みんなの顔がほころんだ。
「壱騎さん、改めてよろしくお願いします」
真田虎太郎は両手を広げてペコリとした。
「特生対本部に許可を取ってあります。壱騎さんのお部屋も用意してありますよ?」
星川雅が粋なはからいを提案する。
「マンションじゃあ、いろいろと経費がかかるっしょ? 壱騎さん、遠慮しねえでここへ住んだらいい」
南柾樹も乗り気だ。
「ふふふ、これで24時間、壱騎さんといられるんだね」
真田龍子は乙女になっている。
「龍子、どういう意味だい?」
「だってウツロ、最近なんだか冷たいしぃ? それに年上って、けっこう興味あるんだあ」
姫神壱騎の手を取って、ニコニコとする。
「うわあ、龍子! やっぱりてめぇビ〇チかよ! 男なら誰でも〇開くんだろ!?」
「なんだって、このトカゲ女? あんたは中指とでもよろしくやってればいいんだよ!」
「き、きい~っ! てめえ、言わせておけば!」
「や~いや~い、トカゲ女~」
「うるせえ、このジャージスパッツ女!」
あの清楚だった龍子はどこへ行ってしまったのか?
いや、それも俺のエゴなのか?
ウツロは悶々と、そんなことを考えていた。
「やっぱ素敵だね、君たちは」
姫神壱騎はその光景にほっこりし、後輩ながら頼れるメンバーをうれしく思った。
こうして彼は、正式にウツロたちとパーティを組むことになったのである。
*
その夜――
日付が変わるころ、自室で思索にふけっていたウツロは、かすかな気配を感じて窓の外を見た。
「日和……」
薄暗いが、確かに万城目日和だ。
彼女は南側の勝手口から周囲を確認して外へと出て行った。
建物の位置的に、その場所を目視できるのはウツロの部屋からのみである。
「まさか……」
彼は猛烈な不安に襲われ、急いで身支度をすると、ほかのメンバーに気づかれないように、そっと万城目日和を追った。
事件が起こったのは、そのすぐあとである。
ディオティマに対しなりゆきとはいえケンカをふっかけ、その結果宣戦布告を受けてしまったウツロは、さくら館へ戻るや状況を説明し、このように頭を下げた。
「いや、壱騎さんの言うとおり、結果は結果だ。おまえの判断は間違っちゃあいねえ。気にすんなって、ウツロ」
南柾樹はこんなふうにかばってみせた。
「ま、遅かれ早かれだし、いいんじゃない? わたしもまどろっこしいのは嫌いだしね」
星川雅もあきれる反面、ウツロの決断を称賛した。
「面白くなってきやがったぜ。血が騒ぐってもんよ」
万城目日和は目つきを鋭くしている。
「龍影会にディオティマか……敵は多いけれど、そのほうが燃えてくる。そうでしょ、みんな?」
星川雅のふりに、一同はニヤリとした。
「まったく、どいつもこいつも。これもウツロ病の一種なのかな?」
彼女は両手をひるがえしてため息をついた。
「で、これからどうするんだ? 待ってるだけってのもなんだかな~だし。いっそこっちからしかけるか?」
万城目日和は好戦的だ。
ウツロは少し考えて、
「いや、壱騎さんの御前試合の件もあるし、少なくともそれが済むまでは動かないほうがいいと思う。どうだろう、みんな?」
こう提案した。
「そうだな。あれもこれもじゃ収集がつかねえし。それが一番だと思う。壱騎さんはどうっすか?」
南柾樹はウツロの判断を合理的と見なし、姫神壱騎へ確認を取る。
「なんだか申し訳ないよ。みんな俺の都合につきあってくれて」
彼は顔をくもらせた。
「壱騎さん、どうか気に病まないでください。誤解はあるのかもしれないけど、俺たちはあなたの力になりたいんです」
「……」
あいかわらず晴れわたったまなざし。
嘘などついてはいない、大真面目だ。
姫神壱騎はまた打ちのめされた気がして、くすっと笑った。
「俺よりも若いのに、みんなお人よしだね。そして、強い」
一同は恐縮した。
「向き合っているって意味でね。それなら俺も、覚悟を決めなきゃ」
「壱騎さん……」
その眼光が凛としていく様を、全員が見た。
「この姫神壱騎、みんなという存在に出会えたこと、心から感謝する。そして、みんなの心意気と勇気に敬意を表し、チーム・ウツロへの入団を志願する」
「チーム・ウツロ……」
姫神壱騎は決然として申し出をした。
一同はびっくりしたが、解答など決まりきっていた。
ウツロもその思いに答える。
「壱騎さん、あなたという人間を、心の底から尊敬します。このウツロ、平伏してあなたを仲間に迎え入れたい。どうか、よろしくお願いします」
周囲はフッとほほえんだ。
「う~ん、なんだか堅いなあ」
「そ、そうでしょうか?」
姫神壱騎はウツロの顔をのぞきこむ。
「そこはさ、友達でいいんじゃない?」
「友達……」
みんなの顔がほころんだ。
「壱騎さん、改めてよろしくお願いします」
真田虎太郎は両手を広げてペコリとした。
「特生対本部に許可を取ってあります。壱騎さんのお部屋も用意してありますよ?」
星川雅が粋なはからいを提案する。
「マンションじゃあ、いろいろと経費がかかるっしょ? 壱騎さん、遠慮しねえでここへ住んだらいい」
南柾樹も乗り気だ。
「ふふふ、これで24時間、壱騎さんといられるんだね」
真田龍子は乙女になっている。
「龍子、どういう意味だい?」
「だってウツロ、最近なんだか冷たいしぃ? それに年上って、けっこう興味あるんだあ」
姫神壱騎の手を取って、ニコニコとする。
「うわあ、龍子! やっぱりてめぇビ〇チかよ! 男なら誰でも〇開くんだろ!?」
「なんだって、このトカゲ女? あんたは中指とでもよろしくやってればいいんだよ!」
「き、きい~っ! てめえ、言わせておけば!」
「や~いや~い、トカゲ女~」
「うるせえ、このジャージスパッツ女!」
あの清楚だった龍子はどこへ行ってしまったのか?
いや、それも俺のエゴなのか?
ウツロは悶々と、そんなことを考えていた。
「やっぱ素敵だね、君たちは」
姫神壱騎はその光景にほっこりし、後輩ながら頼れるメンバーをうれしく思った。
こうして彼は、正式にウツロたちとパーティを組むことになったのである。
*
その夜――
日付が変わるころ、自室で思索にふけっていたウツロは、かすかな気配を感じて窓の外を見た。
「日和……」
薄暗いが、確かに万城目日和だ。
彼女は南側の勝手口から周囲を確認して外へと出て行った。
建物の位置的に、その場所を目視できるのはウツロの部屋からのみである。
「まさか……」
彼は猛烈な不安に襲われ、急いで身支度をすると、ほかのメンバーに気づかれないように、そっと万城目日和を追った。
事件が起こったのは、そのすぐあとである。
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