桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎(くちき おうさい)

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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)

第22話 遊園地

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 日付が変わる時刻、朽木市くちきしの南、坊松区ぼうのまつく

 湾岸にある巨大テーマパーク、シリング・アイランド・ジャパン。

 アメリカのアニメーション作家、キース・シリングの世界観にもとづく遊戯施設で、ここはその日本版である。

 海水を引きこんだアトラクションが人気で、日中はいつも人でごった返している。

 しかしいまは閉園時間だけに、あたりはすっかりと静まり返っていた。

 ゾンビでも登場しそうな西部劇風のステージを通り抜け、万城目日和まきめ ひよりは敷地の中央にある大きなメリーゴーランドが見える位置までやってきた。

 春もたけなわとはいえ、今夜は少し肌寒い。

鬼堂きどう、約束どおり来てやったぜ」

 彼女がそう告げると、スポットライトが一斉に照射された。

「……」

 メリーゴーランドへの上がり場に、かの男・鬼堂龍門きどう りゅうもんが腰かけている。

 内閣総理大臣で秘密結社・龍影会りゅうえいかいの大幹部・征夷大将軍。

 そして万城目日和にとっては、父・万城目優作まきめ ゆうさくを間接的とはいえ死にいたらしめたにっくき仇である。

「ウェルカム・トゥ・へえええええる。久しぶりだな、日和ちゃん?」

 鬼堂龍門は挑発するように、パチパチと手をたたいてみせた。

「やっとあえたな、龍門のおじちゃんよ?」

「ああ、ずいぶんとワイルドな感じになったじゃねえか」

「おかげさまでな」

「ふん」

 彼は腕をひざに当てて見下げるような姿勢だ。

 万城目日和は必死で怒りを抑えた。

沙門しゃもんはどうした? 連れてきてねえのかよ?」

「ああ、遠慮してもらったよ。危険だからとがんばって引きとめていたがな」

「へえ、意外だな。ま、それが嘘じゃねえなんて保証もねえけどよ」

「ま、お好きなように考えな」

「……」

 全幅の信頼を置いているはずの実弟・沙門を連れてきていないだと?

 どうだか。

 しかし、鬼堂の周囲に彼以外の気配は感じられない。

 油断するな。

 油断すれば、負けだ。

 彼女はそう思考をめぐらせた。

「メールで送った暗号を解読してくれてうれしいぜ。おまえはIT系に強いみたいだな」

「俺がこっそりと解放してるポート番号は、さすがにつかまれてたみてえだがな」

「沙門がアルトラで探ってくれたんだよ。骨が折れたって言ってたぜ? 俺んとこのデジタル担当どもが、頭の古いポンコツジジイばっかなんだ。どうだ、助太刀に来ちゃあくれねえか?」

「バカか? てめえはもう、国会には出られねえんだぜ?」

「言うじゃねえか。いまがどういう状況か、判断できないおまえじゃないだろ?」

「暗視ゴーグルをつけた特殊部隊のことを言ってんのか?」

「ほう?」

「気づいてねえの? やっぱバカだな。まきちらしておいて良かったぜ」

におい・・・を使ったってわけか。風向きまで計算してたとはな。ふふっ、こいつはいよいよ、楽しくなってきやがったぜ」

「俺は最悪の気分なんだぜ? なにせ、この世で一番憎いやつが、目の前にいるんだからなあ」

「まあ、落ち着けや、日和」

「気安く名前を呼ぶんじゃあねえ!」

「おいおい、激高するなよ。不利になるぜ?」

「ぐ……」

 こんなふうに二人は丁々発止の駆け引きをした。

「なあ、日和。俺は組織から、おまえを生かして拉致ってくるように命令を受けてるんだ」

「へえ、殺すんじゃなくてか?」

「俺もしょせんはそんなポジションなんだよ。支配者なんてピエロといっしょなんだぜ?」

「トンチ問答かよ。ほかには? 言い残す言葉とか、ねえのか?」

「おまえのパパ、優作のことか?」

「……」

「泣きわめいて命乞いでもしてほしいか? それとも、土下座でもするか?」

「てめえ……!」

 万城目日和は強く拳を握ったが、鬼堂龍門は手をかざしてそれを制した。

「落ち着け、日和。大事なのはここからだ」

「なんだよ? 俺をどうやってたたきのめすとかか?」

「ちげえよ。俺の本意についてだ」

「はあ? 本意だあ? てめえ、ふざけるのもいいかげんに――」

「いや、ふざけてなんかいねえ、俺は大真面目だ」

「どういうことだよ?」

 彼はスッと真剣な表情になり、ささやくように口走った。

「日和、おまえを、助けたい」

「……」
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