書物の森に憧れて 読んだ本の個人的感想

清水克行の『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』読みました

　

　面白い。
　教科書には載っていない室町時代のアレやコレらについて書かれております。
　当時の分量計測の基本は「枡」だが、これの大きさが荘園ごとに、それどころか同じ荘園内でも隣り合う田んぼ一枚一枚でもちいられる年貢枡が異なっていたという（！）
　おなじ田んぼ一反でも日当たりや土の質によって収穫量は異なりおなじ労働量を投下しても田んぼによって収穫量が異なるのだからたしかに理にかなっている。
　ひとつの寺の中で17種類もの容積の異なる枡が使用され、一番大きいものと一番小さいものでは三倍以上も容積の開きがあるとか驚き。
　度量衡の基準が統一されていなかった時代だから国ごとに差異があるよなぁ、とぼんやりと思っていたがここまでとは……。

　特に印象に残ったのはふたつ。
　徳川家康の掲げた「厭離穢土　欣求浄土」というスローガンには「戦乱の世を終わらせて平和な世を作る」という思想が込められていると思っていたが（2023年の大河ドラマ『どうする家康』でもそのように描かれていた）さにあらず。
　これは一向一揆が掲げる「進者往生極楽　退者無間地獄」進まば往生極楽、退かば無間地獄という思想、宣伝に対抗して作られた「穢れた現世に未練を残すな、みんなで戦って死んで極楽に行こうぜ！」という意味だったという。
「死んだら靖國で会おう」や「勝利か、ソブンガルデかだ」と似たようなもの。聖戦完遂のためには死を厭うなという、生を軽んじ死を良しとする凄まじいキャッチコピーだったというのだ。

　もうひとつは百文銭。
　時代劇などで銭の真ん中の穴に縄や紐を通してまとめた銭束が出てくるのを一度は目にした事があると思う。
　あれは「さし銭」と呼ばれるもので、中世では銭100文を銭縄でつないで束にするのが原則だったのだが、このさし銭がきっかり100文であることはほとんどなかったという。
　96枚や97枚など、だいたい数枚足りないのが一般的。それを承知の上で当時の人々は100枚に満たないさし銭を百文とみなして使用していた。
　こうした銭の通用ルールを省百法というそうだ。
　縄を通したさし銭状態ならば100文の物が買えるが、少しでも崩すと少額だが損をするとこになる。
　現代で考えると銀行で帯封された100万円の札束が実際に数えてみると2～3枚足りない事になる。
　これは大問題だが当時は銀行のようなものはなく（異世界転生して銀行を作る物語とかありか？）さし銭は誰でも作れるから、ここで浮いた利得は銭縄をこしらえた人のものになったと思える。
　なんで中世の日本ではこんな省百法がまかり通っていたのか？
　それについての著者の見解も興味深い、中世日本を舞台にした時代物を書きたい人は読んで損はしない一冊。
　おすすめです。