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第0話 雛守凛袮①
しおりを挟む時刻は16時40分。その日の全ての授業を終えた凪は昇降口にある下駄箱から自分の靴を取り出した。部活動には所属していないので、これ以上学校にいても仕方ない。それに、あまり遅くなると妹の唯に心配をかけてしまうかもしれない。普段は友人の響と一緒に帰ることが多いのだが、今日は用事があるとかで先に帰ってしまった。
凪は靴を履き替えると、昇降口の扉から外の様子を伺った。神秘的な紅の夕空に、カァカァと鳴きながらカラスたちが飛び回っていた。最近、日が落ちる時間が随分と遅くってきた。夏が近づいている証拠だろう。ましろが転校してきて、今年の春は色々と忙しい日々が続いていた。しかし、決して悪い気はしない。むしろ、充実した日々に満足している自分がいた。これも全て、彼女のおかげなのだろうか。
――と、その時だった。
「そこ、邪魔なんだけど」
振り返ると、そこにいたのは見覚えのある女子生徒。頭の両側で垂らされたツインテールに幼さを残しながらも、豊満な胸が彼女が確かに女であることを強調していた。首筋と白いワイシャツの隙間からのぞく日焼けの跡が、甘酸っぱい色気を感じさせる。
彼女の名前は雛守凛袮。凪のクラスメイトであり、彼の幼馴染でもある少女だ。とはいえ、歳を重ねるごとに疎遠になっていった2人は、高校入学後はまともにはなしたことすらなかった。スポーツ万能で成績も優秀。学校中の人気者である彼女と凪が、かつてのように気軽に接することなどできるはずもなかった。
しかし、それも今年の4月までの話。
ましろがこの学校に来たことで、彼女との関係も再び変わりつつあった。凪と同じく、推薦でクラス委員となった凛袮と共にましろの世話をしているうちに、自然と話す機会も増えていった。
周りを見ると、自分がと昇降口の出入り口を塞いでしまっていることに気がつく。凪は慌ててその場から離れた。それをみた凛袮は、黙って彼の目の前を通り過ぎていった。
「凛袮」
凪が名前を呼ぶと、凛袮の足が止まった。だが、こちらを振り返る素振りは見せない。
「気安く名前で呼ばないで」
鋭い口調で言い放つ凛袮。しかし、その声はどこか恥ずかしがっているようにも聞こえた。
「雛守、よかったら一緒に帰らないか?たまには、昔みたいにさ」
彼女の家は凪の家の隣にある。昔はよく2人で一緒に登下校するほどの仲だった。今の彼らの姿からは想像もできないことだが。
「……勝手にすれば」
そんな彼女の応えは、凪にとって少し意外だった。2人の仲が4月までのような状態であったなら、絶対に断られていただろう。凪の顔からふと笑みが溢れる。
再び凛袮が歩き出したので、凪もその隣をゆっくりと歩き出した。彼女と歩くその道を、1歩1歩踏みしめるように。
*** *** ***
2人の家は、学校の最寄りの駅から2駅ほど離れたところにある。電車を降りた凪と凛袮は、家へ向かって歩みを進める。電車を降りてから10分ほど経ただろうか。ようやく2人の家が見えてきた。
結局、道中終始無能の状態だったが、凪にとっては一緒に帰宅できただけで十分だった、
「それじゃあ凛……雛守、また明日」
「……うん、それじゃ」
簡単な挨拶を交わし、凛袮の家の前で別れる。凪は家の扉の前に立つと、ドアノブを握って手前に引いた。しかし、扉が開く気配はない。
(唯のやつ、まだ帰ってないのか)
凪は鞄からキーケースを取り出すと、鍵を鍵穴に差し込んだ。鍵を捻ると、扉の奥からガチャリという音が聞こえてくる。抜いた鍵を鞄へしまおうとすると、自然と隣の凛袮の姿が目に入った。何やら家の前で困ったようにしている。凪は彼女の元へ近づき、塀越しに声をかけた。
「どうかしたか?」
凛袮は凪を見ると、一瞬躊躇いを見せたが、仕方ないと言わんばかりの表情で、
「今朝、鍵を忘れて登校しちゃったみたい」
「おじさんは?」
「帰るのは明日になるって」
「まじか……」
つまり彼女は、明日になるまで家に入れないということだ。幸い明日は土曜日。授業はないが、まさか一晩中外にいるわけにもいかないだろう。
「……うちにくるか?」
「はぁ!?」
凪の提案に驚く凛袮。男が女を家に誘っているのだ。気持ちもわからないではないが、そんなことを言っていられる状況ではない。
「その格好じゃネカフェに泊まることもできないだろ」
「そりゃそうだろうけど……別にあんたの家じゃなくても……」
「お前、泊めてくれなんて頼める友達がいるのか?」
「うっ、それは……」
彼女は確かに人気者だ。周りの人間は皆、彼女に親しく接してくる。しかし、彼女は自分から周りと親しくしようとはしない。昔から、誰に対してもそうだった。
「うちなら唯もいるし、間違いも起こらない」
「間違いって……」
警戒するように腕で胸を隠す凛袮。後ずさる彼女に、凪は慌てて弁解する。
「もしもの話だからな! それより、どうするんだ?」
「……」
凛袮らしばらく考えた後、やがて観念するように腕を下ろした。
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