京都のとあるアパート

永田

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第零話 京都のとあるアパート

第1話 何かいる。 怖さレベル2/5

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前話で話した通り、その日から俺は3万円のアパートで生活することになる。それがきっかけなのかは定かではないが、それ以来、俺は不思議で怖い経験をよくするようになった。
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暖色の明るくて少しオシャレなLEDライトを天井に設置したおかげで部屋の雰囲気はぐっと良くなったけど、相変わらず廊下は暗い。

それよりも1日、2日住んで気付くことがあったが、それらは決して嬉しくない気付きだった。玄関とリビング部屋を挟むところに通路兼キッチンがあるのだが、そこがやけに臭いし冷たい。このにおいを俺はなんとなく「幽霊の匂い」と呼んでいる。(多分ただのカビのにおいだろう。)

異常なのは冷たさの方。もう春になりつつあるというのにそこだけは冬の冷たさを残していた。リビングとその通路の体感温度の差は、入浴中の風呂場からヒーターのない脱衣所へ上がる時のそれと同じような感じだった。

だから俺は無意識にもそちら側は「何かある」。
でもリビングは安全、だと思い込んでいた。


一番初めに怖い思いをした場所はリビングだった。


そこでの生活にも慣れて大体2カ月経った頃だろう。その日の夜は、大学の明日までの課題を終わらせようとしていた。手を付けて2時間くらいたった頃だろう。ふと時計をみるといつのまにか11時を指していた。

課題もそろそろ終盤。あと30分で終わらせよう。

丁度30分後、課題が終わった。割と気に入っているピクサーのデスクランプみたいな照明を消すと、布団に包まった。なんだか体がだるく感じた。


ん、疲れてる?課題に没頭しすぎた?


机と布団は部屋の隅と隅で向かい合っている。さっき移動する際に額が急に熱を帯び、ふらついたのも気のせいじゃないのかもしれない。

とにかく、そろそろ寝よう。明日も一限からだ。

横になって数分後、部屋の照明を消してないことに気付いた。やはりどこか本調子ではないみたいだ。
ぼんやりした意識のまま立ち上がり、スイッチに手をかけた。

押した瞬間、部屋の光は消えると同時に俺の意識ははっきりと覚醒した。
それとまた同時に感じたことのない悪寒が頭の先からつま先まで襲ってきた。

俺しかいない部屋なのに何十人からも視られているような感覚。それだけじゃない俺の半歩以内に誰かいるような気配もあった。それも5人くらい。

思考より先に身体が動いて明かりをつけた。当たり前だが誰もいない。嫌な雰囲気も、もう無かった。

しかし数刻前、本能は確かに何かを察知していた。じゃないとほぼ自動的に体が動き明かりなどつけないだろう。
明かりが消えていたのはほんの2秒とコンマ何秒ほど。
その時間の各瞬間、部屋の空気は形容し難い不気味さで満ちていた。

何かいた。いてはいけない何かだ。

鼓動が通常の2倍くらい速く強くなっているのが手を当てずとも安易に分かった。
3分くらいその場で立ちすくんでいただろう。初めて経験する状況を理解しようとしていたのか、感情を整理したかったのか、怖くて動けなかったのか、理由は覚えていない。どの理由でさえ3分はそれに必要な時間だった。

その時間は鼓動を安定させるのにも役立ったが若干の胸騒ぎが残った。

「ああ、これが胸騒ぎなのか。」

今まで俺はどういうものか分からないまま「胸騒ぎ」って言葉を使っていたのだと、その時知った。

とにかく俺は先ほどより安定した頭で色々なことを考えた。

一度部屋を出て友達の家に行くか。とりあえず親に電話するか。

どちらにしても時間帯的に迷惑になってしまうことで気が引けた。近くのコンビニに避難することも考えたけど、なんとなく今はあの通路や廊下を通りたくなかった。

しばらく考えた結果、やはりこの部屋で寝て朝を待つことに決めた。気のせいだとか、疲れているだけだとかの言い訳を自分に言い聞かせた。そうすると自然と気が楽になった気もした。

よし寝よう。

もう一度、明かりを消そうとスイッチに手をかけたところで体は固まってしまった。

怖かった。

その時、やっぱり俺は気が楽になったのではなく、なろうと努めていただけだと悟った。

あの異常な悪寒を身体は覚えている。怖い。スイッチを押すと明かりが消える代わりに、「何か」の気配がまた現れるのではないか。

先ほど、そのスイッチは「明かり」「意識」「悪寒」、この3つのために働くのかと錯覚してしまうほどだった。

そして、その錯覚がスイッチを押す意志と勇気を邪魔してくる。そんなはずがないと頭ではわかっているのだけど、俺の指はスイッチに力を与えなった。
そうこうしているうちに時計は0時を回っている。普通なら眠っている時間だ。睡眠時間に重きを置く俺は葛藤の末にようやく決心をした。

俺は人差し指にいつもよりも冷たいスイッチの感触を覚えながら、手ではなく上半身全体に力を入れて体を傾けた。

明かりが消える。いつの間にか閉じていた目を開ける。

いつも通りの暗い部屋がそこにはあった。その暗闇の風景がなんだか懐かしくも感じる。ほぼ音になっていないため息をついたとき、上半身だけでなく身体中に力が抜ける感覚があった。

なんだ。やはり気のせいか。

と頭で独り言を呟いて、スイッチを押すことを躊躇った事に少し後悔する。と同時におかしくてにやけてきた。

何が悪寒だよ。霊能力者気取りか?そもそも霊とか信じてないだろ。

とやはり自分に語り掛けながら45分越しに布団に包まる。数分も経たないうちに今度は眠気が襲ってきた。

今回は悪寒じゃなくて良かったぁ。

また自分の冗談でにやける。とても眠い。なんとなく部屋の暗闇はいつもより温かく感じ、その温もりに自分は包み込まれた気がした。何かに守られている気がして安心して眠られた。

「ボトッ」

そんな少し重く鈍い音が聞こえたのは寝ているか寝ていないかの狭間だったから気にしなかった。


翌朝、頭上の違和感に気付きアラームよりも少し先に目が覚めた。とはいえ、いつもより遅く寝たせいで脳と視界は眠気が残り、昨夜の記憶は霞んでいた。違和感の正体を確認するべく起き上がり枕元に目を落とす。

眠い目をこすり凝視した瞬間、その正体が判明し昨夜の記憶が鮮明に蘇る。眠気は無くなり脳が完全に働いているはずなのに、その状況に少しも理解できなかった。

やはり昨夜の「悪寒」と「気配」は気のせいなんかではなかった。

そこには、「そこ」にあるはずのない、あるわけのないものが枕の横に落ちていた。
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