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Prolong

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月明かりは幻想的な景色にこそ映える。
それは誰しもが納得できることだと思う。
神話に擬えた景色や自然の絶景は、あらゆる感情を置き去りにして私たちの目を奪って離さない。
それは我々が知らず奥底に眠らせている神への敬意や自然への回帰を願うものであるのかもしれない。
それはきっと本能に近い。
真に芸術たりえるものには知識は必要なく、ただそのままを見る目さえあれば他のものは不要。


そう、そして正にこの光景には他の何も必要無かったのだ。
それがおかしいと思う人の道徳すらも黙ってしまうほどにそれは美しかったのだ。


「・・・おい、アイツ、生きてんのか」

絞り出した、その言葉すら冒涜。

「・・・」

息を上げて、焦燥を引き連れてやってきた私たちのはずだったのに。
呼吸の音ですらその景色には不必要だった。

あぁ、そう、この矛盾。このどうしようもない美しさの前には全てが些事なのだ。

そこいら中に散らばる狂犬ウルフの死骸や無残に放り出された臓物の夥しい数も、
鼻が曲がるぐらいに強烈な腐臭が充満していたとしても、
それら全て装飾品。どう足掻いてもメインを彩る瑣末毎だった。

見据える先にはボロボロの体躯を曝け出す男の優美な姿と、そんな男を無感情に見上げる小さな狐人ルナール
何があったのかなんて知らないし、何が起こったのかなんてここにいる誰もが知っているけれど。

小さな狐人ルナールは微かに鳴き声を上げた。鈴が鳴るような、透き通るように耳朶を鳴らす声。
月明かりを受ける男は神秘的なその景色の中で、僅かに広角を上げて笑った。

そして私たちは見た。
汚れを知らぬ狐人ルナールが流した一粒の涙を。
感情など無いはずの容れ物が、確かに涙を流したのだ。そこに意味を感じたのかは分からないけれど、ただただ、薄く微笑む男に向けて。
その涙の意味が分かったのか、傷だらけの右腕が少女の頭に触れ、慈愛溢れるようにゆっくり撫でた。
狐人ルナールは人との接触を極端に避ける傾向にある。けれども少女はされるがままに拒まなかった。
死骸と腐臭が彩るこの神秘の地獄の檻の中で、その光景は正しく絵画を思わせるかのようだった。

誰も言葉を発しない。
誰もその光景を壊せない。
ギルドの不手際で一人の男が命を落としかねないその状況下で、私たちはそこで神話を見た。

これが、私がアイツを知った最初の出会い。
あの光景はあまりにも鮮烈に私の脳に刻みこまれた。
これから先の予兆なんて何も浮かばなかったけれど、どこかで何かを感じとっていたのかもしれない。

言うなれば、得体のしれない何かに触れたような、
道を外れた何かを知ったような。
ただ、何となく、ただ何となく。
この神話の光景は、いつかどこかで思い出すんだろうと、ぼんやりと考えていたのだった。


~セフィ・グランベラ~
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