王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥

文字の大きさ
3 / 30
王子様との出会い

3.お姉様の変化

 わたくしが王子様と過ごすようになってから様々な変化があった。
 朝食を食べ終わってお姉様に手伝ってもらって身支度をすると、王子様のところに行って、午前中は家庭教師から勉強を教えてもらって、午後は剣術やダンスなどの運動をして、お茶の時間を過ごし、夕食までの間、本を読んだり、王子様とゲームをしたりして、夕食はお姉様とわたくしの部屋で食べるという生活が続いていた。
 わたくしが王子様のご学友となってから、待遇が変わって狭くて簡素な使用人の宿舎から、王宮の一室に住居を変えられた。

「わたくしは殿下の侍女ですし、王宮に住むなどとんでもありません」
「フィーネ嬢は殿下のご学友です。殿下はできるだけ近くでお過ごしになりたいと仰っています」

 コンラッド様から説明を受けて、お姉様は恐縮していたが、わたくしは広くてきれいな部屋に移れたことが嬉しくて、ふかふかのベッドの上で飛び跳ねてみたり、ソファに座って座り心地を試したり、上機嫌だった。

「フィーネ嬢の才能は素晴らしいものです。殿下のそばにいてくだされば、殿下の安全が確保できます」

 コンラッド様にそう説得されて、お姉様は納得せざるを得なかったようだった。
 食事も使用人の宿舎で出されているものよりもずっと美味しくなった。粗末な食事でも、お姉様と一緒ならば我慢できたが、美味しいものはやはり嬉しい。
 お姉様と一緒に朝食も夕食も食べられる幸せをわたくしは噛み締めていた。

 お姉様の変化に気付いたのは、王子様のところに通うようになって二か月が経とうとしていたころだった。王子様と出会ったのは春だったが、季節は初夏に移り変わっていた。
 その日の午後の運動はダンスだった。
 わたくしは王子様の相手役を務めていた。

「殿下が嫌がるので、小柄な大人の女性がお相手を務めていたのですが、やはり体格の合う相手がいるといいですね」
「わたくし、ダンス、じょうず?」
「とても上達していますよ。殿下の足を踏まなくなりましたね」
「わたしは踏まれても平気ですよ。フィーネ嬢は羽のように軽いので」

 ダンスの教師に褒められて、王子様からも心地のいい言葉をもらって、わたくしが嬉しくなっていると、王子様がわたくしの手を取る。

「もう一曲踊ってくれますか?」
「はい!」

 王子様はリードが上手で、踊るのはとても楽しい。ステップを踏むのはまだ完璧ではなかったけれど、わたくしがこけないように王子様が支えてくれる。五歳と六歳の年の差は大きく、王子様はわたくしよりも体が大きかった。
 それでも、わたくしには肉体強化の魔法がある。
 リフトがしてみたくて王子様の体を持ち上げると、ダンスの教師が悲鳴を上げた。

「お、落ち着いて。そっとそのまま殿下を降ろしてください」
「はーい!」

 何が悪かったのか分からないけれど、いけなかったようなので王子様を降ろすと、王子様はくすくすと笑っていた。

「フィーネ嬢は何をするか分からないところが素敵ですね」
「わたくし、すてき?」
「はい、素敵です」

 いつもは静かな王子様の緑の目が煌めいている気がして、わたくしはそれを純粋にきれいだと思った。
 一目見た瞬間から王子様は王子様だと分かる輝きを持っていた。
 それが笑うと更に強くなる気がする。

 ダンスの後で王子様と別の部屋に連れていかれて着替えていると、廊下から声が聞こえてきた。
 コンラッド様と若い女性の声のようだった。
 着替えを終えたわたくしが元気に廊下に出ようとしたところを、お姉様に止められてしまった。

 廊下ではコンラッド様が若い令嬢に声をかけられている。

「コンラッド様、お慕い申し上げています。どうか、わたくしの気持ちを受け取ってください」
「申し訳ありませんが、わたしは殿下の護衛騎士になったばかりで、恋愛など考えられません」
「コンラッド様は成人しておられます。それなのに、婚約者もおられない。わたくしをコンラッド様の婚約者にしてくださいませんか?」
「すみません、それはできません」

 コンラッド様は告白を受けていた。
 仕事中だからと令嬢に断りを入れたコンラッド様の姿をドアの隙間から見ているお姉様の様子がおかしい気がする。なんだか悲しそうな顔をしている。

「おねえさま、おなかがいたいの?」
「いいえ、お腹は痛くありません」
「かなしいおかおをしているわ」

 お姉様を心配するわたくしに、お姉様ははっとしたように表情を戻し、微笑んでみせる。
 コンラッド様と令嬢とのやり取りを見ていたお姉様はどうしたのだろう。
 もしかして、とわたくしは気付いた。

「おねえさま、おなかがすいているのね!」
「え!? お腹は空いていませんよ?」
「がまんしなくていいのよ! わたくしがおうじさまにいってあげる!」

 お姉様もコンラッド様も、仕事中なのでわたくしや王子様と食事を共にすることができない。休憩時間があって、その間に昼食を食べているのは知っているのだが、お姉様はわたくしのことがあるので、できるだけ早く戻ってくるためにあまり食べていないのかもしれない。

 元気よくドアを開けて廊下に出て、わたくしはコンラッド様に言ってみた。

「おねえさまがおなかがすいているみたいなの! おちゃのじかんは、わたくしとおうじさまとごいっしょできないかしら?」
「サラ嬢は空腹なのですか? 少し休憩されますか?」
「い、いえ、結構です! フィーネ、わたくしはお腹は空いていないので大丈夫です!」

 お姉様が顔を真っ赤にして焦っているが、わたくしは構わず廊下に出てきた王子様にお願いした。

「きょうはおねえさまといっしょにおちゃができないかしら?」
「そうでしたね。サラ嬢はフィーネ嬢の姉君です。一緒にお茶ができないのも寂しいでしょう。今日から同席してもらいましょうか」
「殿下、そのようなことはなさらなくても……」
「サラ嬢が気にされるなら、コンラッド殿も一緒に。これからは四人で食事もお茶もしましょう」
「それでは、護衛の仕事ができません」
「わたくしも、侍女の仕事ができません」
「護衛の仕事はフィーネ嬢も一緒にいるのだし、侍女の仕事は他の者でもできます。わたしの我が儘に付き合ってもらえませんか?」

 王子様の鶴の一声で、お姉様とコンラッド様もお茶や食事を一緒にできることになった。
 それだけではない。
 王子様はわたくしに言ったのだ。

「フィーネ嬢が来てから、わたしは寂しいと言っていいのだと学びました。わたしは、寂しい。朝食も、夕食も、どうか一緒に」

 この件に関して、お姉様もコンラッド様も一生懸命遠慮しようとしていたのだが、そばで聞いていた他の侍女たちが「殿下が初めて『寂しい』とご自分の気持ちを口にされた」「これは国王陛下と王妃殿下にお伝えせねば」と言い出して、国王陛下と王妃殿下の承認も得て、すぐに食事やお茶は王子様とわたくしとお姉様とコンラッド様の四人で、朝食も夕食も一緒にと決められた。

 国王陛下と王妃殿下は言っていたそうだ。

「レオンハルトは小さなころからとてもいい子で、頭がよくて、わたしたちを困らせたことがない」
「レオンハルトが寂しかっただなんて知りませんでした」
「レオンハルトの望みは叶えてあげたいものだ」

 王子様はまだ六歳の子どもだったし、国王陛下と王妃殿下はよき父親と母親だった。
 わたくしは王子様だけではなく、お姉様とコンラッド様と食事ができるようになって大喜びだった。

 お茶の時間、わたくしの隣に座って緊張しているお姉様と、王子様の隣に座って姿勢よくしているコンラッド様。
 最初は二人ともぎこちなかったが、わたくしはそんなことに全く気付かず、今日のケーキはなにか、キッシュの中身はなにかばかりを気にしていた。

「おねえさま、このケーキおいしいよ! おねえさまもたべて!」
「わ、わたくしは、お茶だけで……」
「遠慮なく食べてください。その方がフィーネ嬢も安心します」

 王子様の優しさに、わたくしは美味しいケーキを食べながら感激してしまう。
 もしかすると、自分が寂しかったという口実で、わたくしがお姉様やコンラッド様と同席できるようにしてくれたのではないかとまで考えてしまった。

 優しくて格好いい王子様。
 わたくしは王子様と一緒に過ごす時間が幸せでたまらなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ベルガー子爵領結婚騒動記

文月黒
恋愛
その日、王都より遠く離れたベルガー子爵領は、俄かに浮き足立っていた。 何せ、ついに領民一同が待ち望んでいたベルガー子爵の結婚相手がやって来るのだ。 ちょっとだけ(当領比)特殊な領地の強面領主に嫁いで来たのは、王都の男爵家の末娘・マリア。 だが、花嫁は領主であるベルンハルトの顔を見るなり泣き出してしまった。 最悪な顔合わせをしてしまったベルンハルトとマリア。 慌てるベルンハルトの腹心の部下ヴォルフとマリアの侍女ローザ。 果たしてベルガー子爵領で彼らは幸せを掴めるのか。 ハピエン確定のサクッと読めるギャグ寄り恋愛ものです。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?

紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります! 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

海に捨てられた王女と恋をしたい竜王

しましまにゃんこ
恋愛
神とも崇められる最強種である竜人族の竜王フィリクス。彼の悩みはただ一つ。いまだ運命の番が現れないこと。可愛いうさぎ獣人の番といちゃいちゃ過ごすかつての冷徹眼鏡宰相を、涙目でじっとりと羨む日々を送っていた。 雷鳴轟く嵐の夜、遂に彼の耳に長年探し求めていた番の声が届く。夢にまで待ち望んだ愛する番が呼ぶ声。だがそれは、今にも失われそうなほど弱々しい声だった。 そのころ、弱小国の宿命として大国ドラードの老王に召し上げられるはずだったアスタリアの王女アイリスは、美しすぎるゆえに老王の寵愛を受けることを恐れた者たちの手によって、豪華な花嫁衣装に身を包んだまま、頼りない小舟に乗せられ、海の上を彷徨っていた。 必死に抗うものの、力尽き、海底へと沈んでいくアイリス。 (お父様、お母様、役立たずの娘をお許し下さい。神様、我が魂を身許に捧げます……) 息が途切れる最後の瞬間、アイリスは神の姿を見た。キラキラと光る水面を蹴散らし、美しい黄金色の竜が、真っ直ぐにアイリス目指してやってくる。アイリスの国、アスタリアの神は竜だ。アスタリアを作り、恵みを与え守ってくれる、偉大で優しい竜神様。代々そう言い伝えられていた。 (神様……ああ、なんて、美しいの……) 竜と目があった瞬間、アイリスはにっこり微笑み、ゆっくり意識を手離した。 今にも失われそうな愛しい命。フィリクスは自らの命を分け与えるため、アイリスの意思を確認しないまま婚礼の儀式を行うことに。 運命の番としてようやく巡り合った二人。 しかしドラード国では、海に消えたアイリスを失ったことで老王の逆鱗に触れ捕らえられたラナード王子のため、『忘れられた王女』として虐げられていたミイナが、アイリスの行方を追って旅に出る。 醜さゆえに誰にも愛されなかったミイナ。彼女もまた、竜に纏わる数奇な運命を抱えていた。 竜の溺愛と自らの使命に翻弄される立場の違う二人の王女。果たして二人の運命は? 愛の強すぎる竜人族✕愛を知らない不憫系美少女の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 作品はすべて、小説家になろう、カクヨムに掲載中、または掲載予定です。 完結保証。完結まで予約投稿済み。毎日21時に1話更新。

陰キャな侯爵令嬢が恋愛結婚する方法

こじまき
恋愛
侯爵令嬢イベリスは家柄も容姿も悪くないが、極度の引っ込み思案(I、陰キャ)で、家族や使用人以外とはろくに会話できない。せっかく憧れの王太子や名だたる貴族の令息たちと同じクラスになれたのに、良縁を望む家族の期待には到底応えられそうになく、業を煮やした父親から「卒業までに自力で婚約者を決められなければ、政略結婚をさせる」と宣告されてしまう。困ったイベリスは、家族や使用人以外で唯一会話ができる王立図書館の司書に相談。「挨拶に一言添えるだけで会話が始まる」とアドバイスをもらい、その効果を見せつけられて一念発起。「自力で婚約者と結婚を掴むために、私、頑張ります!」【「靴屋の娘と三人のお兄様」の子ども世代のお話です】※小説家になろうに投稿した「侯爵令嬢の恋愛結婚 」を少し改稿しています。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。